美作さんと別れて一人、ホテルへと戻ったんだけど

すぐに部屋には戻らず少し酔いを醒まそうと

足をビーチへと向けた



月明かりに照らされて白く浮かび上がる砂の上を一人、

波打ち際をゆっくり歩いていると、砂浜に座って海を眺めているマットの姿

が目に入った


近づき声を掛け隣に腰を下ろす



「どうしたの?こんな所で一人なの?」



「お前こそどうしたんだよ?」



マットの声は意外にも明るいものだった

その様子に少し笑みが零れる


「ちょっと酔いを醒まそうと思ってね。
 で、あんたは?」



「俺は・・俺はちょっと・・考え事だよ・・」



「ふ〜ん・・で、なに考えてるの?」



「・・なぁ、俺ってやっぱりヒドイ男か?
 今日、俺が彼女に取った態度ってやっぱ冷たかったよな・・・
 わざわざこんな所まで俺に会いに来てくれたのに・・」





「フッフフフ・・・そうね、確かにヒドイ・・けど、
 あんたいつも女の人に対してヒドイわよ。
 今まで自覚してなかったの?」





「笑うな!俺は真剣に話してんだぞ!」




「分かってるわよ。
 じゃぁ、私も真剣に答えてあげる。」




私の声のトーンがそれまでと変わったのに気付いたマットが、

いつもは見せない真剣な顔をこちらに向けた





「プッ!!そんな顔こっちに向けないでよ!」


手でマットの顔を押しのけながら言うと




「こっち向けるなって・・じゃぁ、何処見てりゃぁいいんだよ?!」



「前よ!前、向いてなさい!」




「分かったよ。で、真剣に答えてくれるんだろ?」






俺の言葉に横でケイトが少し笑ったのが分かった


笑われた事にムッとして声を出そうとしたその時、

あいつの言った言葉に咽喉まで出掛かっていた声を飲み込んだ



「・・私ね彼女の気持ち分かるんだ・・」




「彼女って、マーガレットの事か?」





「私もね・・昔、好きな人を追いかけてアメリカまで
 行った事があるから。」




「・・・・・」



驚いて声が出せずにただケイトの顔を見ていた俺に


「もう、そんなに驚く事ないでしょ。」


「・・ああ・・って、お前、それいつの話だ?」




「う〜ん、10年ぐらい前かな〜。」




「10年って・・お前が17歳の時か?」




「10年前って言ったらあんたも17歳でしょ。」




「そ、そうだけど、17って高校生だろ?」




「あんたもでしょ。」





「お前なぁ〜本当に真剣に話す気あんのか?」





「あるわよ。」
「私ね、17歳の時付き合ってた人がいたの。
 同じ学校で一年先輩だったんだけど、
 その人の家ってすっごいお金持ちで、
 私達が付き合うのも彼のお母様に反対されてて
 いろいろ妨害されたけど、彼の事が本当に大好きだったから、
 諦めたくなかったの。ある日ね、デートして“また明日ね”って
 言って別れた彼が何にも言わないで急にNYに行っちゃったのよ。」




「で、お前はその男追いかけて一人でNYに行ったのか?」





「そう。ビンボーだったのに生活費はたいて、格安航空券買って、
 英語だって話せないし、NYって言ったって詳しい住所だって
 分かんないのに・・行っちゃったのよ。」





「会えたのか?」




「うん、いろんな人に助けられて会う事は出来た。
 でもね、会ってすぐに玉砕しちゃった・・
 “何しに来たんだよ”って“お前は日本に帰れ”って言われたの。」




「わざわざNYまで追いかけて来てくれた自分の女を追い返したのか?
 ヒデー奴だな、そいつ!!」




「・・あんた・・人の事言えないでしょーが!」






「俺はあの女と付き合ってるわけじゃない。
 けど、お前は付き合ってたんだろ?」




「そうよ。けどね、彼はお母様と取引したらしいの。
 自分がNYに残るから私や友達に手を出すなって。」






「だからって追い返したのか?」





「そう。」





「信じらんねぇーその男!自分追いかけて来た女追い返して、
 その理由が親と取引したってか?
 お前、そんなバカな男と付き合ってたのか?」






「・・あのね〜。あの時はどうしようもなかったのよ。
 お互いに好きって気持ちだけじゃどうしようも無い事が
 世の中には沢山存在するんだって事が分かったのよ。」






「そんな事ぐらい俺だって分かってるぜ。」






「でもね・・悪い事ばっかりじゃなかったわよ。
 お父様と初めて会ったのもその時だし、類が迎えに来てくれたし。
 NY観光にだって連れて行ってくれたしね。」






「・・・追い返されて・・観光して帰ったのか・・?」




「うん。」





「・・お前って本当にバカだよな。」




「バカにバカって言われたくない・・」





「なぁ〜それがお前が昔言ってた“完璧な失恋”なのか?」




「う〜ん・・そうだけど・・そうじゃない・・」






「どっちなんだよ?」




「だから・・“完璧な失恋”って言ったのはその後の話なの。
 でも、よく覚えてたわよね?一度、言っただけなのに。」





「ああ、ずっと気になってた。お前が恋愛話すんのも珍しいし、
 失恋に完璧ってどういう意味なのか分かんなかったからな。」





「そう・・・」





「なぁ、どういう意味なんだよ?」




「知りたいの?」





「・・えっ!?ああ・・いや、話たくなければ別にいい・・」





「フフフフ・・そんな顔しなくてもいいわよ。
 もう何年も前の話なんだから・・いいわよ、話してあげる。」





軽く目を閉じ、ゆっくりと息を吐き出したケイトが



昔話・・



と言って俺に話してくれた・・



切なくて心が張り裂けそうな恋の話・・












   ←BACK/NEXT→




inserted by FC2 system