あきらとの沈黙に耐えかねて店を出たが、そのまま部屋へ戻る気分になれず、
ホテルの敷地内をあても無く歩きまわっていた



プールサイドからビーチへと続くスロープを降りきると

浜辺に座る人影が目に入った




その光景に目が離せない・・



胸が苦しい・・





何故だ?


遠い昔・・

同じ様な光景を目にした事があるような気がする・・

俺の中の心の奥、深いところを刺激する・・

しばらく後ろ姿を見つめたまま動けなかった・・



何なんだよ!あの女・・・




俺はあんな女知らない・・

あんな女どうでもいいはずなのに・・


足が地面に張り付いたみたいで動けない・・



話し声までは聞こえてこなかった

ただ二人仲良さそうに肩を並べて浜辺に座っている




どれぐらいそうしていたのだろうか?

あの二人が立ち上がりこちらへ向かって歩いてくるのが見えた




俺はどうしたいのだろうか?



このまま気付かれないようにホテルへと引き返す事だって出来たのに・・

何故かその場から動けなかった



ただあの女から目が離せない・・・



砂浜を歩く二人・・


砂に足をとられて上手く歩けない女に男が手を差し伸べた

そっと・・女が男の手を取った

重なる手と手・・


その瞬間、訳の分からない激しい怒りがこみ上げてきた・・




怒りの正体が分からない・・

ただ体中の血液が逆流するような感覚に襲われる・・・




前を歩いていた男は俺に気付くと一瞬立ち止まり

繋いでいる手を自分の後ろへと引き寄せ女を俺から隠した



足元を気にしていた女が引き寄せられて顔をあげた時、俺と目が合った

一瞬だけ合った視線

女はすぐに俺から目を逸らした


それだけだった・・



目を逸らされた・・


その仕草が癇に障る




二人が無言のまま俺の横をすり抜けようとした時、

俺は無意識の内に女の腕を掴んでいた




驚いて振り返る女・・

思いっきり見開いた大きな瞳と至近距離で視線がぶつかる



だが、それも一瞬だけ・・


男がすぐに俺と女の間に立ちはだかりもの凄い形相で睨みつけてきやがる




「何か用か?」




「お前にじゃねぇーよ!
その女に聞きてぇ事があんだよ!」



「お前と話す事なんてなんもねぇーよ!」



「お前に言ってんじゃねぇ!
俺はその女に言ってんだ!!」




互いにけんか腰で一食触発の雰囲気




「マット、止めて。」



俺と男の間に割って入った女がまず男を制すると俺に向かって


「道明寺さん、聞きたい事って何ですか?」




「ちょっと二人だけで話したい。」




男を睨んだまま静かに言うと




「マット、先に行っててくれる?」



「・・けど・・」



「大丈夫だから。」





「・・分かったよ!けど俺もここにいるからな!」




男も俺を睨んだまま


そう言うと男は繋いでいた女の手を離し少し後ろに下がった






「逃げないから、とりあえず腕離してください。」



「・あ・・ああ・・」



言われて気付いた、かなりの力を入れて女の腕を掴んでいた事に・・



ゆっくりと女から手を離し




「お前、俺の何なんだ?」



「・・えっ・・?」





「昼間、レストランであきらはお前が俺達の大切な仲間だって
言ってたし、あの頃、お前は俺と付き合ってるって言ってたけど、
俺はお前の事知らねぇーし、ましてや付き合ってた覚えなんてない。
俺がお前みたいな女好きになるはずがない。」


「どうなんだ?」




道明寺の言葉に呆然としてしまう
悲しいとかどうしてって感情はもうない・・

ただ今の彼の言葉が寂しかった・・

彼の中には私の影さえも存在しないのだろうか?



もうこれ以上、彼の事で傷つくのは嫌だ。
今、私の目の前にいるのは道明寺だけど道明寺じゃない・・



私が好きだった彼はもう何処にも居ない・・





「深刻そうな顔して何聞きたいのかって思ったらそんな事なの・・
確かに学校が一緒で総二郎達とは仲が良かったけど、
私とあなたってロクに口聞いた事もなかったわよ。
ましてや私とあなたが付き合ってたなんて冗談でしょ?」



「だけど、お前・・あの時言ってたじゃないか?」




「あの時ってどの時の事を言ってるの?
あなた、誰かと勘違いしてるんじゃない?
私、そんな事言った覚えないわよ。」



「ねぇ、話しってそれだけ?」




「・・あ・・ああ・・」




「じゃぁ私、明日早いから。
おやすみなさい。」






早口でそういい終えると私は逃げるようにその場を立ち去った










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