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【1】



滋さん達に拉致された島から戻って道明寺が刺された


生死の境を彷徨いながら人並みはずれた生命力と回復力で


生還してからから2ヶ月、私の記憶を封印してしまった道明寺はまだ戻らない


退院して現在は自宅療養中だが、相変わらず私には冷たい



今は同じ病院に入院していた中島 海という女の子が私に代わって側に居る




私は・・・・?





そろそろ限界なのかもしれないな〜・・・





雑草つくしのパワーも最近ではかなり落ちてきている・・・・・




私はまた歩き出せるのだろうか…?




たった一人で彼のいない未来へと




今の道明寺は私の知っている彼じゃない




もう、道明寺の事を考えるのはやめにしよう




明日からはお見舞いにも



非常階段にももう行かないって決めた




もう、二度と道明寺には会わない・・・



そう決めた





私は私の人生を歩いて行くんだ







【2】






英徳学園 大学のカフェテリア




春先の穏やかな日の光が差し込むガラス戸を開けて



総二郎がカフェに入って来たのが見えた




「よぉ!遅かったな、今ごろ来たのかよ。」






現在、3時限目



授業中にカフェにいる自分達の事は棚に上げて



不機嫌そうな表情の総二郎に声を掛ける




総二郎はイスの背もたれに手をかけながら頬杖ついて自分を少し見上げている




あきらと類に怒鳴り声を上げ





「ったく、どうかしてるぜ!司の野郎!」





現れた途端に声を荒げるた総二郎に目の前の二人は目を丸くしている


彼らは一応毎日 ちゃんと学校には来ている。





ただ登校してくる時間も毎日、違うし授業に出ることなんて滅多にない


珍しく朝から学校にきていた類が眠そうな瞳のままで総二郎の怒りの原因を尋ねた



「で、司がどうしたの




「さっき、司のところに寄って来たんだよ。あいつずっと家に居て退屈
 してるだろうなって思ったから。でも退屈してないみたいだった。」




「どういことだ?」




「あのバカ、朝っぱらからあの海とか言う女とラブシーンの
 真っ最中だったんだよ。ったくよくやるよ。」




「何だソレ?」





「知るかよ!なぁ、類?牧野は最近どうしてる?
 司のとこ行ってないみたいだけど。お前、何か聞いてるか?」





「何も聞いてないよ。俺も牧野としばらく会ってないし。」




類は毎日つくしに会うため非常階段に来ていたが、



つくしはここ2週間程非常階段には来ていなかった



ねぇ、牧野・・?



あんたは今、何考えてるの?



司の事・・本当にもういいの?




「あいつ、大丈夫なのか?」





日頃から兄貴肌で何かと面倒見のいいあきらはつくしの事を


総二郎と二人でからかいながらも妹のように気にかけていた



特に司の記憶が無くなってからは何かと理由を付けては




わざわざ牧野の元まで足を運んでいた





「さぁな!でも大丈夫なわけないだろう?
 自分の彼氏が他の女といちゃついてて大丈夫な女がいたら見てみてーよ!」




総二郎の大声にカフェ中の視線がこちらに集まっている



それでいなくても目立つのに…




「総二郎!声でけぇーよ!」



「おい、類?牧野はこのこと知ってんのか?」




「何で俺に聞くわけ?
 俺は何も聞いてないよ。」




類は不機嫌そうにそう言うと立ち上がり、カフェを出て行ってしまった




類の向かった先はいつもの場所


二人だけの指定席



牧野と二人っきりになれる場所





あきら達には何も知らないと言ったが思い当たることはあった




牧野が非常階段に来なくなる数日前、



いつものようにフラッと現れた牧野と特に何かを話すわけでもなく


ゆっくりと時間が流れて行くのを楽しんでいたお昼休み




「ねぇ、牧野?」


「何?花沢類?」




「司のとこ行ってる?」




「う、う〜ん、最近は行ってないかな・・」




「どうして




「え・・っと、バイトとか忙しいし、ほら家、貧乏だしさ・・
 それに最近、いろんな事があってずーっと休んでたから
 いい加減働かなきゃね。来月、生活していけないし・・」




牧野…



あんた、相変わらずウソつくのが下手だよね…






「ふ〜ん」




会話はそこで終わった



その日以来、俺は牧野に会っていない



今日は牧野 来てるだろうか?


多分 来てない



もうここへは来ない気がする


牧野 本当にそれでいいの?



後悔しないの・・?








【3】





つくしのバイト先の団子屋さん




「ハァ〜」




無意識の内にタメ息ばかりが零れ落ちているつくし



本人は意識していないのだが横で一緒に仕事をしている優紀は



先程からタメ息ばかりのつくしの様子が気になってしかたがない





「どうしたの?つくし?さっきからため息ばっかりついてるよ。」





「えっ…?私、ため息なんてついてた?」





「ついてたよ。今日は今ので8回目。」





「…やだ…数えてたの?」





「ねぇ、つくし?本当に大丈夫なの?なんか顔色も悪いし。
 ちゃんとご飯食べてる?」





「大丈夫だよ。ちゃんと食べてるし。
 ちょっと疲れが溜まってるだけだから。」






「分かった。でもね、つくし?話せるようになったらちゃんと言ってね。
 私、待ってるから。」



「ありがとう、優紀。」




優紀には笑顔で答えたものの、話せるようになったら……か、


本当にそんな日が来るのだろうか?




どれぐらいの時間がたてばこの想いを断ち切り事ができるんだろう?




おつかれさまでした




あ〜疲れた〜。



でも、がんばらなきゃね!




もう一人じゃないんだし





バイトの団子屋を出ると、そこには海が待っていた


今はまだ彼女には会いたくなかった




だけどそんな私の気持ちには全く気づく様子もなくいつもの



変わりない屈託のない笑顔で彼女が私に近づいてくる





「つくしちゃん!おつかれさま〜」





「う、海ちゃん…どうしたの・・?」




「あのね、私、つくしちゃんにはちゃんと報告しとこうと思って。」




報告?



彼女が私に何を報告したいのかは分からないが、


道明寺の事なら何も聞きたくない…



これ以上、自分が嫌な女になっていくのを自覚したくないから…



彼女に対して沸いてくるのは嫉妬だとか苛立ちばかりで



私の中に黒くてドロドロとした塊が湧き出してくる




そんな感情ばかりに支配されて上手く笑えなくなる






「別に私はもう関係ないから・・」






彼女を振り切って歩き出そうとしたけど、諦めてくれない



後ろから彼女が着いて来る足音が聞こえる





何なの?



今さら私に何の報告があるっていうのよ!




無神経な女!



大嫌い!



だけど・・・・






彼女の事そんな風にしか見れない自分がもっと嫌い・・・




背中から聞こえた彼女の言葉に息が止まる






「私ね 今日、司に告白したの。そしたら司OKしてくれたんだ。
 だから私達付き合うことになったから。ごめんね。それだけ言っておこうと思って。」





嬉しそうな彼女の声が頭の中でリフレインしている




何なの?そんな事を言うために待ってたの…?





もういい加減やめてよ・・






絶望って、こんな感じなのかな……?




もう何も考えられないや…



何も感じないし……



全てがどうでもいい……



忘れよう……




忘れてしまおう……





彼女の言葉にもう振り返る事なく歩き始めた





いつのまにか涙が零れ落ちてきていた




どこをどう歩いたんだろう・・・・・・?




ここって何処なんだろう・・・?





いつから雨…降ってるんだろう……?





体が重い…






さっきからお腹の辺りに刺すような痛みを感じる…






足も痺れてきたみたい…?




もう歩け…な・いよ……




助け…て…誰か…




…お…願い…花・沢…類……!






つくしはそのまま道の真ん中でうずくまってしまった



道行く人々は怪訝な顔を彼女にむけるだけで



誰も声をかける人はいなかった




誰かに呼ばれた気がした…






「………誰?」










【4】





美作家のリムジンの中



あ〜あ〜今日はついてない




せっかくマダムとのデートだったのに。




急にダンナが帰ってきたとかでドタキャンされるし、


おまけに雨は降ってくるし




このまま帰んのもなぁ〜クラブでも行くか?総二郎来てるかな?





そんな事を考えながら頬杖ついて窓の外に流れる景色に目を向けていた




今朝の天気予報では雨が降るなんて言っていなかったせいか、



傘をささずに雨を避けながら



小走りで駅の方へと走って行く人々が見える




夜になるとかなり冷える




その上雨まで降ってきたので一気に気温が下がってきている



道行く人の中には寒そうに歩く姿が見える




そんな中で道端でうずくまってる変な女が目に飛び込んできた





なんだ?何やってんだ?あの女・・・って、あの制服って…オイ!






「おい 車止めろ!」






雨のために少し渋滞していたので車はそれ程スピードは出ていなかった



それでもすれ違いざまに一瞬だけだけどはっきりと顔が見えた




いきなりのあきらの怒鳴り声にびっくりした運転手が



あわてて車を止める為路肩に寄せた





まだ完全に止まっていない車から飛び出し、



うずくまっている女性にあわてて駆け寄った






「おい!牧野!どうしたんだ?大丈夫か!?」






今、あきらが見つけた女性は牧野つくし





呼びかけにつくしは少しだけ反応した





よかった、意識はある・・





「おい!しっかりしろ!」








「おな・か・・イ・タ・・の・・赤・ちゃ・・が・・」





そう言うとつくしは意識を失った





「おい!牧野!」






慌ててぐったりするつくしを抱きかかえ車に飛び乗った






ちくしょー!!なんなんだよー!?






あきらはつくしを膝の上に抱きかかえたまま、意識を失う直前に



つくしが言った言葉を思い出していた




こいつ確かに≪赤ちゃん≫がって言ったよな?




どういうことだ??




まさかこいつ妊娠してるのか?




ハァ〜〜??






あきらは急いで携帯を取り出し、自宅へ掛けた






つくしを抱きかかえたままで屋敷へ駆け込み



ゲストルームのベッドへと寝かせる





連絡してあったのですでに美作家の主治医である今野が到着していた








診察の間、あきらはリビングで考え込んでいた





もしもの場合を考えて、今野には牧野が妊娠している




可能性がある事は伝えておいた







どうする?





この状況をどうすればいい?




類たちにも知らせるべきか?




でも・・もしも、牧野が本当に妊娠しているなら?





今はまだ知らせないほうがいいだろう









父親は・・司・・以外に考えられない・・・よな…?








本当なのか?あいつら何時の間に・・




ったくあのバカ!避妊ぐらいちゃんとしとけよなー!





その時、診察を終えた今野がリビングに入ってきた







彼はあきらが産まれる前から美作家の主治医をしていて信頼できる人物だ






もしもの場合を考えて病院には連れて行かず、




自宅に連れ帰り彼に診察をお願いしていた













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