【50】









「ねぇ、あきら?
 さっきみんな私の事探してるって言ったわよね?」






「ああ、探してるよ」







「どうして?」







「それは・・・」






「それは、何?」








「・・・6年前、お前が急にみんなの前から居なくなったからだよ。
 お前、目覚ました時の事覚えてるだろ?
 お前は倒れる当日までちゃんと学校に通ってて、俺も同じ学校に通ってたんだよ」








「同じ学校って・・英徳?
 私も英徳に通ってたの?」







「そうだよ」







私も英徳に通ってた・・




初めて知らされた事実・・




あきらは今まで一度も私の記憶に関する事は教えてはくれなかった




むしろその話題を避けているような気がしていたのに・・




なのに・・




どうして急にいろいろと話してくれる気になったのだろう?






「どうして急にいろいろと教えてくれるの?」






「日本に帰って他のやつから聞くより
 俺から聞いたほうがいいと思うからだよ」








「そう・・じゃぁ、もう一ついい?」






「何だ?」







「私を探してくれている人たちって・・
 私があきらと一緒に居るって事知らないのよね?
 だからずっと私を探してる・・」








「ああ、誰にも言ってない。
 しいて言えば静だけだ。静もお前を探してる一人だったんだ。
 偶然、街中でお前を見かけて日本に連絡したらしい。
 そして俺に日本から静がこっちでお前を見かけたらしいから
 調べてくれって連絡がきたんだ」









「それじゃぁ・・静さん・・日本にいる人たちに嘘ついたって事・・?」







「ああ、俺が頼んだ」






「どうして?どうして私の事を隠す必要があるの?」






「いろいろとな・・」






「雛の事・・?それとも記憶の事・・?」







「だからいろいろだよ!
 ・・お前の事も雛の事も隠すって決めたのは親父達だ。
 俺は・・それに従っただけだ・・」






「お父様方が・・どうして?」






「それは・・記憶が戻ればわかるよ・・」






「結局・・それなのね・・」





「すまない」







「謝らないでよ・・あきらが悪いわけじゃないでしょ・・
 悪いのは私なんだから・・
 あきらがこっちに来てから一度も日本に戻らなかったのはそういう理由だったのね・・
 ごめんね・・私のために・・6年間もずっと嘘つかせたままで・・
 それなのに私・・なにも思い出せなくて・・」







「櫻・・俺が日本に帰らなかったのもお前と雛の事で親父達の言いなりになって
 嘘ついたのも全部自分で決めた事だからお前が気にすることじゃない。
 俺は6年前のあの日に決めたんだ、何があってもお前と雛の事は守るって
 だけどちゃんと守れてるのか自信はない。結局は親父達の言いなりになって
 問題を先延ばしにしてきただけなんじゃないかって・・俺はちゃんとお前たちを守れてるか?」





怖いくらいの真剣な目とはうらはらなやさしい声が響いてくる・・・







「うん・・守ってもらってる・・前にも言った事があるでしょ?
 感謝してるって。私はこの6年間ずっと幸せだった。
 今、この瞬間だって同じ気持ちだよ。ありがとう。」







うつむいていた顔を上げ涙目で彼を見つめ返すと



彼のくしゃりとした笑顔とぶつかった






「あ〜もうヤダ!そんな顔で見つめないでよ!」






「そんな顔って・・どんな顔だよ!?」








「こ〜んな顔」







櫻は自分の手を目じりに持って行くと思いっきり下へと引っ張っている








「ブッ・・お前こそ変な顔じゃねぇかよ!
 俺はそんな変な顔してないね!」







「してるわよ、こ〜んな顔」







櫻はまだやっている・・








「ハハハハッ・・もうやめとけよ!
 余計ブスになるぞ!」







「ブスってなによ!
 そりゃ美人じゃないけどそんなストレートに言わなくってもいいでしょ!?」







「俺は正直者だから」






「もう!」







櫻は横を向いてすねてしまった




俺たちの会話はたいていこの調子だ




最後にはいつも櫻が拗ねてお終い



今日もこれでいい・・






櫻が考え始めるとまた抜け出せない堂々巡りの迷路に迷い込んでしまうだけだから




これからは日本に帰る日が近づいてくればだんだんとナーバスになってくるだろうし・・






だけど・・





そろそろタイムリミットなんだな・・






俺も自分の気持ちにも答えを出さなければいけない時が近づいてきている・・







こんな毎日も・・





もうすぐ終わってしまうんだな・・







【51】








日本に帰る日が近付いてきている







ここ数日、俺は櫻の様子が気になっていた




表面上は普段と変わりなく過ごしているが、



時折考え込んむような仕草を見せる事が多くなった






雛は初めての日本に今から興奮しているようで、一日中、日本の事ばかり話ている。








今、俺の目の前に座っている櫻はまた自分の世界を漂っている…





「どうしたんだ?大丈夫か?」








「えっ・・何?」







「お前、最近そうやってボーッとしてる事が多いな。」








「そ、そう…?」








俺は櫻の隣に移動しそっと肩を抱き寄せる。







記憶を無くしてから幾度となく考え込み、




時には落ち込んでいる櫻にそうやって接してきた。







「何か心配事か?」






「ん…心配っていうより不安かなぁ…?」







「日本に帰る事か?」







「ん…やっぱりちょっとね、緊張もあるかも…」








「そうだな、なんせ6年ぶりだからな。
 でも俺も一緒なんだからあんまり考え込むなよ。」









「うん。分かってるよ。ありがとう。」






そう言ってやわらかく微笑んだあいつの顔と



腕に感じている感触が俺の感覚を麻痺させる。







思わず櫻を抱き寄せ頬にキスをした。






櫻は驚いた顔をしていたが、




俺自身自分のその行動にもっと驚いている




胸のドキドキを櫻に悟られないように平然とした顔で




本当に出来ていたかわ分からないが・・




櫻の方も俺のそんな様子に気付くほどの余裕は無かったみたいで助かった・・





今のキスが軽い挨拶である事を強調するように






「どういたしまして。」








真っ赤になっている櫻の顔を見ているとこのまま押し倒してしまいたい衝動に駆られる






どうやら俺は相当イカれてるらしい…








夕食の後、雛を寝かしつけて自分の部屋のソファーから窓の外を見ていた














静かな夜・・・パリの郊外






庭にはローズガーデンが広がり





バラの花の甘い香りが開け放たれた窓から入ってくる








最近こうしてボーッとしている時間が多くなっていた





今だってそうあきらが部屋に入ってきたのだって気付かなかった








彼が私の隣に腰を降ろして初めて彼の存在に気づいた・・








心配そうに私の肩をそっと抱き寄せられる






彼がこうして私を抱き寄せるときは本気で心配しているサイン・・








抱き寄せられた腕のぬくもりを感じながら








頭を彼の肩へと乗せると不思議と心が落ち着いてくる・・








いつからだろうこの腕をこんなにも大切だと思い始めたのは







記憶の無い私をここまで支えてくれたのはこの腕の持ち主








以前、彼に言った言葉







記憶が戻っても、好きって気持ちまで戻ってくるかわからないから・・






この言葉は私の本心






もし、私が記憶を取り戻したら彼はどうするのだろうか?






全てを思い出したいと思っている…私と





思い出さなくてもいいと思っている…私






…どちらも私の本心







日本に帰るというだけで心が落ち着かない。






あれから6年、





母親となり23歳になった私にこれから先、日本で何が待ち受けているのだろうか?












【52】









総二朗には日本に帰る事を連絡しておいた






今ごろは総二朗が類達に電話している頃だろう








いよいよ明日、日本に帰る








俺にとっても櫻にとっても6年ぶりの日本





雛にとっては生まれて初めての日本








櫻の様子が気になっていたが、ここ数日は落ち着いてきている













東京 成田空港









「フゥー やっと着いたな。お前大丈夫か?」








「うん、大丈夫。それより、あなたの方が重いでしょ?大丈夫?」








「ああ、たしかに重い・・こいつ重たくなったな。
 それにしてもよく寝てる。」







「昨日からずっとはしゃいでて、飛行機の中でも興奮しちゃって全然寝なかったんだもん。
 でも、さすがに疲れちゃったのね。本当によく寝てる。」








眠ってしまった雛をあきらが抱いている




雛はあきらの腕の中で気持ちよさそうに寝息を立てている





あきらの肩に頬を乗せている雛の顔を覗き込むと顔に垂れている一筋の髪をそっとかき上げた






眠っている顔は本当に天使みたいだけど・・・・・







「ねぇ、雛、幸せそうな顔してるね。
 どんな夢見てるんだろう?」








「そうだな。
 きっと、ミッキーマウスやらドナルドダックなんかとダンスパーティーでもしてんじゃねぇか。」









「そうだね・・」








雛の現在のお気に入りはディズニー





パリの家の雛の部屋は壁紙からカーテン、



家具に至るまですべてがディズニーのキャラクターで統一されている









これは雛の







おじいちゃま〜おねが〜い♪






の攻撃にお父様達が競い合って特注で作らせた品々だった







現在、雛は毎日ミッキーやらドナルドやらに囲まれて生活している








「本当によく飽きないわよね?
 私なんか雛の部屋にはいるだけで眩暈がしそうになるのに。」








「まぁ、そのうち飽きるだろ。それにディズニーも捨てたもんじゃないだろ?
 こいついつのまにか英語が話せるようになってるし、今じゃお前より上手いんじゃないか?」







「たしかに、私より発音はいいわよね。」








到着ロビーに出ると迎えがきていた










「あきら様、櫻様、お帰りなさいませ。」








出迎えに来ていたのは美作家の運転手の篠田さんだった








「篠田さん、ご無沙汰してます。」








「こちらこそ、ご無沙汰しておりました。
 櫻様、お元気そうで何よりでございます。」









「ありがとうございます。
 篠田さんも元気そうで、ご家族のみなさんもお変わりありませんか。」











「はい、みな元気にしております。
 ありがとうございます。」









「おい、挨拶はそれぐらいでいいだろう。
 重いんだよ。」








「あっ、申し訳ございません。
 お車までご案内いたします。」








そう言って私たちの前を歩き出した篠田さんにあきらが声をかけた








「篠田、紹介しておくよ、櫻の娘の雛だ。
 こっちにいる間はよろしく頼む。」







「かしこまりました。」








雛は相変わらずあきらの腕の中で気持ちよさそうに眠っている







雛も私と同じどんな状況でもよく眠る、




そして一度眠ってしまうとなかなか目を覚まさない・・・・







6年ぶりの日本の家





屋敷に着くとお母様が待ち構えていた





エントランスで両手を広げてバックにバラの花を背負って登場した



お母様はいつ見てもかわいい・・





私なんかよりよっぽど若く見えるし・・お人形みたい・・









「さくらちゃ〜ん、あきらく〜ん、おかえりなさ〜い。」








「ただいま戻りました。」








お母様の大げさなお出迎えにすでにあきらの額には縦ジワが浮かんでいる・・








「ああ、ただいま。」








「あら、雛ちゃん寝むちゃってるのね。
 それじゃぁ、お部屋用意出来てるから、あきらくんお部屋まで連れてってくれる?」








「分かった。」










「お部屋は以前のままにしてあるから。
 荷物届いてたからそれぞれのお部屋に運んであるわよ。」









「ありがとうございます。」









雛を抱いているあきらに着いて行こうとすると







「お前も疲れてるだろう。
 雛は俺が寝かせてくるから部屋で着替えてこいよ。」










「じゃぁ、お願いね。
 私、着替えてくる。」









雛をアキラにまかせて私は自分の部屋に向かった








6年ぶりの部屋、ここで過ごしたのはほんの3ヶ月ほどだけど、




なんだか懐かしい・・・・・










あの頃の私はただただ不安であきらにずいぶん心配をかけていた







今でも大して変わらないかもしれないけれど、そ




れでも雛の分だけ少し強くなれたような気もする・・・・・








サッ!ぼやぼやしてられないわね、明日からさっそく仕事が入ってるし




とにかくがんばらなくちゃ!







とりあえずシャワーでも浴びよっかな〜











軽くシャワーを浴びて着替えを済ませリビングに降りて行くと




あきらとお母様がお茶を飲んでいた。









「お前も飲むか?」










「うん。ねぇ、雛は?」








「何しても全然起きないよ。
 あの分だと朝まで起きないだろう。」








「そう。でもお腹空かないのかしら?」







「機内食ちゃんと食ってたから大丈夫じゃないか。」








「そうね。」








「フフフフッ・・なんだかあきら君と櫻ちゃんって仲のいい夫婦みたいね。」






「へっ・・お母様、何言ってるんですか!・・そんな夫婦だなんて・・」







「お前、何そんなに焦ってるんだよ。
 夫婦みたいだって言っただけだろうが!反応しすぎ!」








「////わ、分かってるわよ!バカ!」








「クククク・・・・」







「あきら君、そんな事ばっかりしてると櫻ちゃんに嫌われちゃうわよ。」








「あ〜そりゃぁー大変だな。」








「何それ!全然大変そうに聞こえないんだけど!」








「クスクス・・・櫻ちゃんが元気そうでママも安心したわ。」








「ごめんなさい、心配ばっかりかけちゃって。」









「いいのよ、あなたと雛ちゃんがあきら君と一緒に居てくれて
 ママすっごく嬉しいんだから。櫻ちゃんこれからもあきら君の事よろしくね。」








「えっ・・あっ、ハイ!任せといてください。」









「それじゃぁ、ママはそろそろ休むわね。
 二人とも明日からお仕事でしょ。今日はゆっくり休んでね。」









「ああ、分かってるよ。」






「おやすみなさい。」









お袋が部屋を出て行き、俺と櫻だけの時間が始まる








「お前、大丈夫か?」









「うん、大丈夫よ。少し、時差ぼけみたいだけど。
 寝たらよくなると思う。」










「そうか。でも無理するなよ。
 辛かったらすぐに俺に言えよ。」








「分かってるよ。もう、そんなに心配しないで。
 あきらって本当心配性だよね?」








「お前のせいだ。」







「私のせい?」








「そうだよ。お前は何か問題があるといつも一人で抱え込むだろ。
 そんで勝手に答えを出す。いいか、俺はいつもお前の側にいるんだぞ。
 なのにお前はしょっちゅう俺の事を忘れて一人で考え込む。
 俺ってそんなに頼りないか?」









「そんな事ないわよ。でも・・・・」







「でも?何だよ?」







「これ以上、あきらの負担になりたくないの。」








「俺はお前や雛の事を負担になんて思った事一度も無いよ。
 そんな風に考えるな。」









「分かってるわよ・・分かってるけど・・いつまでもこのままじゃいけないでしょ?
 だから、あんまり頼っちゃいけないと思って。
 この6年間、ずっとあきらに守ってもらってたから
 いつの間にか私、一人じゃ何も出来なくなってるから・・・・・」








それはずっと俺と一緒に居たいって事か?






俺はうぬぼれていいのか?








「お前が望むなら俺はいつまでもお前と雛の側に居てやるよ。」







「また、そんな事・・言ってる。ダメだよ・・・・」







「どうして、ダメなんだ?」







「だって・・・・そんな事、不可能でしょ。」







「不可能じゃないよ。」






「どういう事?」








「そのうち分かるよ。
 でもな、大切なのはお前がどうしたいかだろ?」









「そうだけど・・・・・私に何か隠してる?」








「時期が来たらちゃんと話すから。」








「そう・・・」










日本に帰る前、俺は心に決めたことがある





それは親父たちに言われた言葉








猶予はあと一年・・








一年後、もしこのままだったら・・・





記憶が無いままの櫻に結婚を申し込む・・・・





櫻はOKしないだろう




でも親父達の命令だと言えばどうだろう?






親父達を利用して俺は櫻と雛を手に入れようとしている・・








だけど、誰に何と言われようとも構わない




そう思えるほど俺は・・・




俺は櫻を手放したくないんだ・・・・





一生、この腕の中で守り続けて行きたいんだ












「俺はそろそろ寝るけど、お前どうする?」






「私も寝るわよ。ねぇ、明日の予定ってどうなってるの?」








「仕事は午後からブースを出す百貨店の担当者と打ち合わせが
 入ってるだけだから夕方には終わるよ。」







「そう、じゃぁ少しゆっくり出来るのね。」







「ああ、打ち合わせが終わったらメシでも食いに行くか?」







「そうだね、明日は雛もいないし。」









雛は明日、さっそく親父達とデートの予定が入っている




日本にいる間、恐らく一番忙しいのは雛だろう









「明日、何時に何処で待ち合わせなんだ?」








「えーっとね、朝10時にメープルホテルのロビーでっておっしゃってたけど?」









「メープル・・・そうか・・・」








まったくあの親父達は・・・・・・何考えてんだ?








「明日、俺もついて行くよ。」







「いいの?」







「ああ。」








「分かったわ。じゃぁ、おやすみなさい。」







「おやすみ。」










【53】





道明寺邸







あきら達が帰国した同じ日に司もNYから帰国していた









「よう!やっと帰ってきたか。」








「おう、総二郎!お前一人か?」










「いや、後で類も来るってよ。」










「そうか。あきらはどうしてる?」








「あいつも今日、日本に帰ってきてる。」








「来ないのか?」








「ああ、連絡したけど明日早いからやめとくってよ。」









「なんだよ?!
 久しぶりに帰ってきたんだからちょっとぐらい顔見せろってんだ!」









「まぁ〜あいつも3週間程こっちに居るって言ってたから
 その内会えるだろ?それまで俺と類で我慢しとけよ。」









「なんだそれ?」










類が少し遅れてやって来た





司がNYへ行ってしまってから日本でこうやって揃うのは久しぶりだった










「よお!遅かったな!」








「そう?これでも急いで仕事終わらせて来たんだけど。
 あきらは?」








「今日は無理だってよ。」










「ふ〜ん。で、司はいつまで日本にいるの?」









「今月一杯の予定だけど。長引くかもな。」








「じゃぁ、滋達も呼んで食事にでも行くか?」







「ああ。俺もあいつらに会いたいしな。」








「じゃぁ総二郎、連絡しといてね。」







「俺は連絡係か?」








「いいじゃん、総二郎、司の元婚約者と付き合ってるんでしょ?」









「えっ!お前らいつの間に?」








「あっ・・・おぅ、まだ言ってなかったな。
 半年程前からなんかそんな事になってんだ・・」







「マジなのか?」







「ああ、今回はマジだ。」









「へぇ〜お前がねぇ。」







「そう言うお前こそどうなんだよ?
 向こうでいい女いたか?」







「はぁ〜?!そんなもんいるわけねぇだろうが!
 俺はあいつ以外の女なんて興味ねえんだよ!」









「そうか。でも、一体いつまで探し続けるつもりだ?」







「そんなもん決まってるだろうが、見つかるまでだよ!」








「なぁ、司、見つかるまでってもう6年になるんだぜ。
 牧野が居なくなってから6年も経つのに未だに手掛かりすら見つかんねぇ。
 これからどうするつもりだよ?
 それに、もし見つかったとしてもあいつ一人じゃないかもしれねぇんだぞ?
 俺達の知らない誰かと幸せにやってるかもしれない。そうなった時、お前どうするんだ?」











「分かんねぇよ!そんな事・・考えたくねぇんだよ!!」








「だけどな可能性としては充分考えられる事だぞ。
 だから牧野が見つかって、あいつが幸せならもう手を出すなよ。」







「・・・・・・・」








黙り込んでしまった司に変わって類が口を開いた







「ねぇ、総二郎?
 なんで急にそんな事言い出すの?」








「急じゃねぇよ!桜子に言われてずっと考えてたんだよ。」








「三条が?
 何て言ってたの?」









「あいつ≪先輩 名前変ってるってことないですかね?≫って言ったんだよ。
 その時は滋が≪何言ってんのよ!≫って怒って終わったんだけど
 よく考えてみるとそれも有り得るなって思ったんだよ。」










「俺はそうは思わないよ。もし牧野が何らかの理由で名前が変わってても、
 そんなのちょっと調べれば分かることじゃない。」










「そんな事どうでもいいんだよ!」










怒鳴り声を上げたのは司だった





額に青筋を立てながら総二郎を睨らみつけている








「・・・司」









「たとえ、名前が変わってたとしても俺はもう一度
 あいつに会いたいんだよ!会って謝りたいんだよ!
 それに今、どこにいるかも分かんねぇのにあいつが幸せかどうかも分かんねぇだろうが!?」
「さっきから仮定の話ばっかしやがって。
 俺はそんな話聞くために帰ってきたんじゃねぇんだよ!」










「分かってるよ。」










「ねぇ、この話もう終わりにしない?
 司だってちゃんと分かってるよ。それに、もし司が牧野の幸せを考えずに行動したら、
 今度こそ俺が許さないから。分かってるよね?司?」









「ああ・・・・」













なぁ・・牧野・・・・今何処にいるんだ?






なぁ・・牧野・・・・今誰かと一緒なのか?






なぁ・・牧野・・・・もう俺のことなんて忘れたのか?






なぁ・・牧野・・・・俺はどうすればいい?






なぁ・・牧野・・・・教えてくれよ・・・・・









【54】








翌日、美作邸










目が覚めた時、一瞬自分が何処にいるのか分からなかった





アレ・・?





ここ・・どこだっけ・・・?







ゆっくりと目が慣れてくると同時に意識も覚醒してくる・・・







あっ・・・そうか・・昨日日本に帰ってきたんだ・・



今、何時だろ?


ベッドサイドにある時計を見ると時計の針は7時を指していた





少し胃のあたりが痛い気がする・・・




シャワーでも浴びてすっきりしよう








シャワーを浴び着替えをすませてダイニングへと降りて行くと




あきらと雛はすで朝食を食べはじめていた












「おはよう。あきら、雛。」







「ママ〜、おはよう〜」






「おはよう。」







あきらは読んでいた新聞から視線だけを上げて答えている










「雛、今日はおじい様達とお約束してるんでしょ?
早く朝ごはん済ませてお出かけする用意しなさい。」







「は〜い。」







「ところで、雛は今日どこへ行くんだ?」






「う〜ん、ナイショ!」






「ナイショ・・・なのか?」







「そう、ナイショだよ!」








「ハハハハ・・そうか。」







私も軽く食事を済ませ、まだ新聞を読んでいるあきらに






「あなたも新聞読んでないで早く済ませちゃってね。」







「分かってるよ。」






「雛、早くお着替えしてらっしゃい。」









「は〜い。」










相変わらず騒々しい・・・





パリでも日本でも櫻の朝は変わらないらしい







時計を見るとそろそろ9時になる




読んでいた新聞を折りたたみ、








「そろそろ行こうか。」








「そうね。じゃぁ、私バッグ取ってくる。」








「ああ、玄関で待ってるよ。」










雛を連れて玄関に出るとあきらのスポーツカーが止まっていた








「あなたが運転するの?」







「ああ、そうだよ。早く乗れ。」











そう言って助手席と後部座席のドアを開けると、





後部座席にはスポーツカーには似つかわしくない雛の為にキッズシートが備え付けてあった





キッズシートに雛を乗せ私は助手席に乗り込むとあきらはゆっくりと車を発進させた










雛を乗せている時の彼の運転はものすごく慎重だ







彼が運転する車がゆっくりと東京の街に走り出す





雛は初めての東京の街並みを歓声を上げながら眺めているが、




私は・・・・




私も久しぶりに見る東京の街並みに目をやりながらぼんやりとしていた




赤信号で止まったあきらがカーオーディオのスイッチを入れた






FMラジオから流れてきた音楽に聞き覚えがあった






何の曲だろう・・?






聞いた事があるような気がする・・・





いつ聞いたのかそれすらも思い出せないまましばらくその曲に耳を傾けていた








街中の渋滞もそれほどではなく40分程でメープルホテルに着いた




車を地下の駐車場に止めエレベーターでロビーのある1階へあがる






私の少し前を歩いているあきらと雛は手を繋いで歩いている







後から見ているとまるで本当の親子のようだ





無邪気に手を繋いで話しながら歩いている二人を見ていると





なんだかうらやましくなってくる




















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