【55】









メープルホテルのロビーにあるティーラウンジでは



朝から総二郎と類が滋と桜子を待っていた








呼び出したのは滋・・


だけど・・


呼び出した張本人がまだ来ない・・






一体どんな用件でこんな朝早くから呼び出されたのかは聞いていなけど



どうせロクな用じゃないだろう・・








それにしても遅い!!






約束の時間はもうとっくに過ぎている、




俺は待たされるのは大嫌いなんだよ!







総二郎は時計を睨み付けながら苛立っていた




類は滋達が遅れていることを気にしている様子はなく優雅にお茶を飲んでいる








「・・ったく、遅い!何やってんだよ!」








「総二郎、さっきからうるさいよ。
 もうすぐ着くって電話あったんでしょ?
 じゃぁいいじゃん。そんな怒んなくても。」






類は涼しい顔でティーカップを口に運んでいる






「お前も少し怒れよな!」








「どうして?怒る理由も無いのに怒れないよ。」








ったく・・・・!





イライラしながら総二郎はティーサロンから見えるロビーに目をやった








総二郎はロビーの一角に見覚えのある後ろ姿を見つけた






一瞬自分の目に移っている光景が錯覚に思えたが・・・・








親父・・・・だよな?









見間違うはずなど無いのだが何故自分の父親が






こんな時間にこんな場所に居るのかさっぱり検討つかなかった











そして、さらに親父の横にいる人物に目がテンになる・・・・








あれは確か・・・・?



類の親父だよな・・?













総二郎は今自分の見ている光景が夢じゃない事を確かめる為に類に話し掛ける








「類!あそこに居るのってお前の親父さんだよな?」









「父さん?」







俺の問いかけに一瞬だけ怪訝な表情を浮かべて



類は俺の視線の先を追いかけた









ロビーからは類達のいるラウンジの中は見えにくくなっているが、




逆にラウンジの中からはロビーの様子がはっきりと見えていた









「本当だ。父さんだね。
 でもその隣に居るのって総二郎のお父さんだよね?」








「ああ、そうだけど。あの二人、こんな所で何してんだ?」









「知らないよ。けど、変わった組み合わせだね?
 俺、父さんと総二郎のお父さんの仲が良かったなんて初めて知ったよ。」









「ああ、俺も今初めて知った。でも誰かを待ってるみたいだな?」









親父達はロビーにあるソファーに二人仲良く並んで座って楽しそうに話をしている









「なぁ類!親父達、なんだか楽しそうじゃないか?
 俺、親父のあんな顔見たの初めてだ。」










「そうだね。俺も父さんのあんな顔見たことない・・・・・」








しばらく信じられない思いで親父達を見ていた






二人で話をしていた親父達がふいにソファーから立ち上がった






つられて親父達の視線の先にいる人物を目で追って俺も類も固まってしまった












類なんてカップを持ったままだ・・・・








俺達の見た光景・・・






驚くなって言うほうが無理だ・・・・









「あきら・・?」










そうあきらだ・・



あきらが女の子と手をつないでこちらに歩いてくる






その少し後ろには・・・・





ま、牧野だよな・・・・?!








呆然としたままその光景を見ているとあきらと手を繋いでいた少女が親父達を見つけ



笑顔で駆け寄り抱きついている・・







抱きつかれた方はというと・・





息子である俺たちが見たことも無い様な満面の笑みで






少女を抱きしめている・・・・・






なんだこれは・・・・・・俺は夢でも見てんのか?




夢だとしたら間違いなく悪夢だよな・・?





少女のかん高い声がここまで響いてきている








おじいちゃま〜♪









・・・・って言ったぞ!








ど、どういう事だよ・・・・?









もう何が何だか全然わからない







何であきらが牧野と一緒なんだ?






あの女の子は誰なんだ?







【56】









ロビーに到着するとお父様方がソファーに座っていらっしゃるのが見えた





お父様方の姿を見つけた雛があきらと繋いでいた手を離し駆け寄って行く








「おじぃちゃま〜」








また・・




大きな声で・・・







雛の声に気付いたお父様方がソファーから立ち上がり手招きされている








「雛、元気だったか?」







「うん。」








「そうか、そうか、雛はいい子だな。」








お父様方は雛と目線を合わせるように少しかがみ込んで頭を撫でられている





先にたどり着いたあきらがお父様方に挨拶をしている






「おはようございます。」








「あきら君、おはよう。
 君も来てくれたのかね。」








「はい。今日は雛をよろしくお願いします。」








「大丈夫だよ。仲良くやるから。」







少し遅れて私もたどり着いた








「おはようございます。
 今日は雛のためにありがとうございます。」







「櫻、おはよう。
 私達も雛に会えるのを楽しみにしていたんだから気にしなくていいよ。」







「よろしくお願いします。」







「ねぇ〜おじぃちゃま〜、早く行こうよ〜」







雛が花沢のお父様の袖口を引っ張っている








「おお、分かってるよ。
 じゃぁそろそろ行くとしましょうか。」








「行こう〜」








雛は今にも走り出しそうな勢い・・











そんな雛の前にしゃがみ込んで目線を合わせる





「雛、おじい様方のおっしゃる事ちゃんと聞いてね。
 いい?我がまま言っちゃダメよ。」







お父様方は雛の我がままを我がままだと思っていないのだから、



こんな事言ったって無駄だと分かっているが



一応言っておかないと気がすまなかった








「は〜い!パパ〜、ママ〜行ってきま〜す!」











いつも返事だけはいいのよね・・





あ〜あ、また大きな声でパパって呼んで・・







パパと呼ばれたあきらは満足そうな顔して軽く手を上げて応えている・・









「いってらっしゃい。
 気をつけてね。」









お父様方と手を繋いで・・



というか・・・




引っ張っている彼女はまるで飛んでいるよう







楽しそうな雛の後姿をしばらく見送っていた






だけど・・






「ハァ〜」







私の口から零れ落ちたため息が一つ・・





すっかりパパの顔で横に立っている彼を睨む・・








「なんだよ!?」









「なんだよじゃないわよ!もう!またあの子大きな声でパパなんて呼んじゃって!
 あなたも嬉しそうな顔して!ここは日本なのよ誰が見てるか分からないのに!!」









「俺はいいって言ってんだからいいだろ!
 それより雛は何処に行ったんだ?」









「雛の行きたい所って言ったら一つしかないでしょ!」








「ああ、そうか。さっそく行ったのか。」








「そうよ!」







「で、ママはまだ怒ってんの?」








「怒ってるわよ!それにママなんて呼ばないで!
 私にはあなたみたいな大きな息子はいないの!」








「そんなに怒んなくてもいいだろ?
 ブスになるぞ!」









まだ睨んでいる櫻の腰に手を回しこちらに引き寄せる








「もうブスブス言わないで!」









「分かったからいい加減機嫌直せよ。
 お昼までまだ少し時間あるけどママはどこ行きたい?」








「ディズニーランド以外なら何処だっていいわよ。」







「じゃぁ、俺がいいとこ連れてってやるよ。」







「いいとこって何処?」








腰に手を回していた為俺の言葉に怪訝な顔を向けた櫻と至近距離で視線がぶつかった








ぶつかった視線に一瞬言葉を忘れた




目の前にある大きな黒い瞳と柔らかそうな頬とぷっくりとしたおいしそうな唇





血液が沸騰しているんじゃないかと思うくらいあっという間に体中が熱くなる






繋ぐべき言葉を見失い咄嗟に俺の口からついて出たのは今朝、雛が言った言葉








「ナイショ!行けば分かるよ!」









心の動揺を誤魔化すために俺は櫻の鼻頭に軽くキスをした









とたんに櫻の顔が真っ赤になる






顔だけじゃない・・




耳も首筋も・・




真っ赤だ










「ちょ、ちょっとこんな人前で何やってんのよ!バカ!
 それに内緒って・・雛と同じじゃない!?」







「ぷっくっくっくっ・・・・何、慌ててんだよ!バ〜カ!
 ほら、そろそろ行くぞ!」









真っ赤なまま俺を睨んでいる櫻の腰から手を離し




そっと差し出すと頬を膨らませたまま柔らかい手の感触・・






俺の手の中にすっぽりと納まってしまう櫻の小さな手







細くて白い指先を自分の指先でしっかりと絡めとるように手を繋ぐ・・











腰に回されたあきらの手の感触が洋服を通してリアルに肌に感じる






至近距離でぶつかった彼から視線が離せないまま次の言葉を待つ・・・






一瞬の間を置いて返ってきた答えは雛と同じ・・・







内緒って・・・





何よ!







それに・・なんでキスなのよ・・!?











もう!




バカにして!




私で遊ばないでよね!!







一言言い返してやんないと気がすまない・・








だから・・・









真正面から文句を言ったところで通用しないのはわかってるから



からかうつもりで・・





ほんの軽い気持ちだったんだけど・・



彼の反応は予想外だった







「は〜い、パパ〜!」








「ゲッ!・・お前・・な、なに言ってんだよ!?」








あきらの顔が真っ赤・・・・






予想外の反応・・・・








「えっ!?やだ!何、赤くなってんのよ!?
 もしかして、照れてるの?」








真っ赤なあきらの顔が可笑しくて少し俯き加減の彼の顔を覗き込む







「照れてなんかねぇよ!どうして俺が照れなきゃいけないんだよ!」







真っ赤なままで慌てて怒鳴り返してくるあきらを見ていると





可笑しさがこみ上げて来て止められない







「じゃぁ、どうして顔が赤いの?」







「あ、赤くなんかねぇよ!」








「真っ赤だよ。」








「そんなんじゃねぇって言ってんだろ!
 ほら、行くぞ!!」






話をしていても相変わらずあきらの顔は赤いまんま




妙に焦っている彼がかわいい・・









「やっぱり照れてるじゃん!」







「照れてねぇーよ!」








「クスクスクスクス・・・・」







「今度は何だよ!」







「だってあきらのこんな顔見るのって初めてなんだもん!
 カメラ持って来ればよかったって思って。」








「性格わるっ!」









地下の駐車場につくまでずっとこんな調子で言い合いを続けていた







助手席のドアを開けてまだ笑っている櫻の背中を押して中へと促し




俺も運転席側へと回り込んだ










エンジンを掛け櫻の勝ち誇ったような軽く優越感を含んだ視線を横目で感じながら




俺は英徳へと向けて車を発進させた







6年ぶりに俺達が出逢ったあの場所へ・・・・・














【57】









少女を見送った後、暫く立ち止まって話しをしていたあきらと牧野だったが



やがて手を繋いで行ってしまった





俺と類は呆然としたまま・・・





今、自分達が見たものが信じられなかった







類なんてまだカップを持ち上げたままあきら達が居たあたりに




厳しい視線を漂わせている







一体どうなってんだ・・?











ずっと探していた牧野があきらと一緒で・・





子供まで居た・・?







少女は二人の事をパパママと呼んでいた







あの子はあいつらの子供なのか・・?







そこに何で親父達が一緒なんだ?









わからない・・




わからない事が多すぎる・・







思わぬ光景に我を忘れて二人を追いかける事が出来なかった










「オ、オイ!類!今の夢じゃねぇーよな?」







「・・・多分・・・」








「あ、あれって・・牧野とあきらだよな・・?」









「そうだと思うけど、どうしてあきらが牧野と一緒なの?
 それにあの子供、なに?」







類の口調は少し怒気を含んでいる









「そんな事、俺に聞くなよ!
 とにかく牧野は見つかったけど・・どうするよ?
 この状況・・」











「俺に聞かないで。」











ぶっきらぼうに答えた類に一瞬言葉が詰まる・・



今、この状況で頼りになるのはお前だけなんだから



頼むからへそを曲げないでほしい・・






「と、とにかくあきらに聞くしかねぇよな?」








「それが一番だと思うけど、司はどうするの?
 話すの?」








「言えるわけねぇーだろ!第一、なんて言えばいいんだ?
 それに誰があいつに話すんだよ?俺はヤダかんな!!」








「俺だってヤダよ」








「ハァ〜どうなってんだよ〜あきら〜」










大きなため息と共に口をついて出てきた言葉




頭を抱え込んで考えたところで湧き上がってくるのは疑問ばかり







頭の中が?マークだらけになっているところへやっと遅れていた滋と桜子が姿を現した







滋には俺と類の間に漂う空気の重たさなんて機敏に感じる事なんて出来るはずもなく・・







脳天から突き抜けるようなテンションの高さに疲労感が増す・・









「おっ待たせ〜ごめんね〜
 すっごい渋滞にハマっちゃって、遅くなっちゃった!」








「・・・・・・」







返事する気力が沸いてこない・・・








俺が黙ったままなのを遅刻してきた事を怒っていると




勘違いしたのだろう・・




滋は






「ほんとっ、ごめんね〜〜」







「・・・・・・」







「もう!総二郎!何とか言ってよ!!」







「・・あっ・・ああ・・」








そうだ!俺、怒ってたんだ・・っけ・・?







「お、遅せーよ!」







「だから、謝ってるじゃない!!」








滋の態度はおおよそ謝っているようには見えないのだが・・






この際どうでもいい・・





それよりもたった今、見たものの方が問題なんだよ!








「西門さん、何かあったんですか?
 お二人共なんか変ですよ?」







到着してから滋の後ろでずっと様子を伺っていた桜子だった






声に反応して顔を上げると桜子の冷静な視線とぶつかった






「ああ・・今、牧野を見た・・」







「えっ!・・つくし?
 本当につくしだったの?」






「・・多分・・」







言い終えた瞬間、滋に思い切り胸倉を掴まれバカ力で揺さぶられた・・








「多分って・・どういう事よ!!
 確かめなかったの?!」










グェッ!



息が詰まる・・




前後にぶんぶん振られて返事が出来ない・・







両手で滋の両手を掴んでなんとか動きを止める・・






何とか搾り出した言葉は・・・






「忘れてた・・・」







本当だった・・





あまりにも突然すぎて俺も類も動けなかった・・・








「どういう事なのよ!!
 つくしだったんでしょ?!二人してボーっと見てただけだったの?!」









再び滋に振り回される・・・




今度は桜子に助けられた・・・








「ちょっと滋さん、興奮しないでください。
 それに声でかすぎですよ!」







「うるさいわね!
 桜子、あんたはなんでそんな冷静なのよ!?」








「冷静じゃないですよ。ものすごく驚いてますけど、
 とにかくお話しを聞きませんか?」








興奮しまくる滋にそう言った後、桜子は射抜くような瞳で俺を見た







「で、どういう事なんですか?二人して声を掛けるの忘れてたって。」








「ああ・・実は・・・・」









俺は見たものをそのまま滋と桜子に話した







あきらと牧野が一緒だった事、



あきらの事をパパと呼んでいる女の子がいた事、




俺と類の親父と待ち合わせしていた事、




そして女の子がおじぃちゃまって呼んでいた事、



女の子が親父達と出かけて行った事・・・・・・・











俺の話しを聞き終える頃には滋もさすがにテンションダウンしている・・








「・・・・・どういう事?一体どうなってるの?」








「分からない、ただあきらは俺たちに嘘ついてたって事だろうな・・」








「・・・そんな・・・・どうして?」








「西門さん、その女の子って先輩と美作さんの子供なんですかね?
 もしかして・・結婚してるっとかって・・・・ないですよね?」









「まさか・・・・だよな・・・?」









俺はずっと黙り込んでいる類に助けを求めた・・





だけど類から返って来たのは回答ではなく疑問だった・・





類との噛み合わない会話に疲労感が募るけど





今はそんな事を問題にしている時じゃない







「ねぇ、あの二人って一体いつから一緒にいるんだろう?」







「さあな・・・でもあの感じじゃ結構長いんじゃないか?」









「そうだね。普通に手繋いでたし、仲良さそうに話してたしね。」








「手、繋いでたの・・・・・?」









本当はそれ以上の事をしてたけど、



今は黙っておいたほうがいいかも・・・・







「ああ・・繋いでた。あきらが女と手繋ぐのなんてどうってことねぇだろうけど、
 照れ屋の牧野が男と手繋いで歩くなんて相当時間がかかるだろうからな。」









「そうだね。」








「もしかして先輩と美作さんってずっと一緒にいたんじゃないですか?」






「それってあきらがパリに行った時からって事か?」







「違いますよ。もっと前です。先輩が消えた頃からですよ!
 私、思い出したんですけど、先輩の行方が分からなくなった頃の美作さんて
 ちょっとおかしくなかったですか?」







「い、いや・・・あの頃は牧野の事でみんな焦ってたからあきらの様子を
 特に気にしてなかったけど・・・・」







「そうですよ。みんな先輩に気を取られてて気付きませんでしたけど、
 今、思うとやっぱり変でしたよ。」








「ねぇ、桜子?どんなところが?」










「だって美作さん先輩を探すのあんまり乗り気じゃなかったみたいですし、
 それに今まで毎晩のように夜遊びしてたのにあんまりしなくなってまし。」








「そう言われれば、そうだな。
 確かに俺が誘っても来ない事が多かったような気もするな・・」








「それにプロムの夜ですよ。」







「プロム・・・・何かあったっけ?」









「何言ってるんですか!滋さん、海ちゃん殴ってたじゃないですか!?」








「あっ!?そういえば・・・・!」







プロムの会場であれだけ派手にやっといて




滋の記憶の中には全く存在していなかったらしい・・・








「ねぇ、海ちゃんってダレ?」







もうこいつは問題外・・・








「はぁ〜類、お前は・・・・記憶が無かった時に司が付き合ってた女だよ!」






「あ〜 あの子、海って言ったんだ。」










「はぁ〜桜子続き話せ。」









「その殴ったのはどうでもいいんですけど。
 その後ですよ。私達はそのまま飲みに行きましたけど、
 美作さんだけ帰ったでしょ?」










「・・そう言われれば、そうだったな。
 でもデートの約束があったのかもしれないし、俺は特に気にしてなかったけどな・・」









「そうですね。でもプロムの日にデートの約束するのって考えにくいですし、
 花沢さんが帰るって言うんだったら納得出来るんですけど、
 美作さんが帰っちゃったのが変だなって思ってたんです。」








「そうだな・・・・じゃぁ、その頃からあきらは牧野と一緒だったって事か・・?」










「推測ですけど・・・多分、間違いないと思います。」








「でも、そう考えると辻褄が合うかもな。」








「ねぇ、総二郎?どんな辻褄が合うのよ?」









「あきらがパリに留学する事を俺たち黙ってたって事と
 行ったきり一度も日本に帰ってこなかったことだよ。」






「そうだね。それにもう一つ、俺たちがいくら探しても見つからなかった事も。」








「ああ それには恐らく俺達の親父も一枚かんでるな。
 もちろんあきらの親父さんもだ。」








「それから、これは多分だけど司のお父さんもかんでると思うよ。
 だって、いくら俺の父さんや総二朗のお父さんが隠してても道明寺家には隠しきれないよ。
 それなのに司どころか司のお母さんが探しても見つからなかった。
 あの二人から隠しきれるのは司のお父さんしかいないでしょ?」









「そうだな・・・だとしてもだ、どうして?
 そこまでして隠す必要があったんだ?」









「それはあきらに聞くしかないね。」











何となく今起こった事が消化されはじめ少し気を抜きかけた絶妙のタイミングで



桜子が最大の難問をあっさりと口にした・・・







「ところで道明寺さんには言うんですか?」









「はぁ〜そこなんだよ。今、言ったらあいつ絶対あきらんとこ乗り込んで行くだろーし、
 だからって黙ってるわけにもいかねぇーしな・・
 とにかく、俺たちが先にあきらに会って事情を聞いてからだな。」











「だったら、早くあきら君に電話してよ!!」







って電話するのはやっぱり俺なわけね・・・・









「ああ・・そうするしかないな。
 でもよ、何か気が重い・・・・」













【58】








地下の駐車場に止めてあった車に乗り込むと車を英徳へと走らせた








俺達が出逢った場所へ・・




櫻がここへ来なくなってもう7年が経つ




英徳に着くと学園の許可を貰い校舎へと入る







「ねぇ、ここ何処?」






「ここは英徳の高等部の校舎。
 俺とお前はここで出会ったんだ。」







俺が櫻を連れて行ったのは牧野つくしが類とよく一緒に居た非常階段







非常階段に腰を下ろし自分の横をポンポンと叩きながら



櫻も座るように促すと櫻は戸惑ったような表情を浮かべている・・







「ほら、お前もここに座ってみろよ。」






「洋服が汚れるからヤダよ・・・」






「ハハハハ・・お前、よく授業さぼってここで昼寝してたんだぜ。」






「私が・・ここで・・?」






本当に信じられないという顔でそう広くもない非常階段を見渡している






「そうだよ、だから座ってみろよ。」





俺の隣にしぶしぶ腰を下ろした櫻としばらくぼんやりとしていた





「どうだ?何か感じたか?」





「う〜ん・・特には・・だけど、此処でこうしてるのって
 嫌じゃない気がする・・」







「そっか。じゃあ、次行くぞ。」







俺は立ち上がりズボンに付いた埃を払うと隣でまだ座ったままの櫻に手を差し出した



櫻は俺の手に掴まり立ち上がると自分もスカートに付いた埃を払っている




俺はそのまま櫻と手を繋いだまま次は大学のカフェへと足を向けた





「此処は?」







「大学部のカフェだ。俺達は高等部の頃からよくここに来てた。
 ここで待ってろ。コーヒー取ってくる。」







カフェは今、講義中なのか人影はまばらだった



空いている席に櫻を座らせるコーヒーを取り行く







「ほら、コーヒー。」







そう言って昔よく飲んでいたコーヒーを手渡したが一口飲んだ櫻が








「う〜まずい・・」








「ハハハハ・・お前、だいぶ味覚が変わったな?
 昔は俺達がまずいって言ったら贅沢だって怒ってたのに。」








「そうなの?
 でも本当にまずいわよ、このコーヒー。」







カップをソーサーに置きながら俺を見ている








「そうだな・・確かにまずいな・・」






そう言いながら俺も少し顔を顰める







「ねぇ、私ってそんなに変わった?」








「ああ、変わったよ。でもそれは悪い意味じゃなくて成長したって事だ。
 中身もそうだけど外見だってすっげぇ綺麗になったしな、それに俺だって昔とは違うだろ?」







「////なっ・・い、いきなり何言ってんのよ!?」








綺麗になったと言われて途端に真っ赤になってうつむいている櫻に






「お前、もっと自分に自信持ったほうがいいぞ。」






「・・・そ、そんな事、言われても・・」






「まぁ、そんな所がお前のいいところなんだけどな。
 で、俺の変わったところ教えてくれよ?」








テーブルに頬杖つきながら真っ直ぐに俺を見つめている櫻に問い掛けると



彼女は少し微笑みながら俺の髪に手を伸ばした






「う〜ん、そうね・・髪が短くなった・・かな」









反則だ・・



その顔・・



今言ったとこだろ・・



自覚しろよな!




お前今、自分がどんな顔してるか分かってんのかよ!






ドギマギしている俺に気付く様子もなく櫻はすぐに手を引っ込めてしまった






少し触れられただけで中学生のガキみたいにドキドキしている自分に苦笑してしまう






「お前なぁ・・それだけかよ?
 俺が変わったところって?」









心のドキドキを誤魔化すように少し怒った口調で言葉を返すと



笑ってやがる!







「クスクスクス・・そんなに怒んないでよ、冗談よ!
 でもね、あきらにはそのままでいて欲しいの。
 ずっとそのままでいいの。」





「それは昔っからいい男だって事だな?」





「そうよ、私はあなたのその前向きな考え方が好きなの。」









好きなの・・と言われて息が止まる・・





俺、どうしたんだ?






別に愛の告白されたわけじゃないのに・・



たったその一言に即座に反応して




もう誰か止めてくれ!!







「・・・お前、俺をからかってるだろ?」







「からかってないわよ。
 褒めてるの。」







妙に余裕の櫻と一杯一杯の俺・・







「褒められてるようには聞こえないけどな。」






「それはあなたがひねくれてるからじゃない?」







「俺がひねくれてる?俺ほど素直な奴はいないだろ?
 ひねくれてるのはお前の方だろ?」








「違うわよ。私が素直なのよ。クスクスクス・・・」







突然笑い出した櫻につられて俺も笑い出してしまった







「ハハハハ・・」








互いに顔を見合わせて笑っていると







「ねぇ、さっきからすごーく視線を感じるんだけど、気のせい?」







「いいや、気のせいじゃないよ。
 でも鈍感なお前がよく気付いたな?」









「鈍感は余計でしょ!
 で、どうして見られてるの?」








「それは俺が有名だからだよ。」







「何?また始まったの?」







「違うよ。本当に俺はここで有名なんだよ。」







「どうして?何かしたの?」







「何もしてないよ。俺がF4の一員だからだよ。」







「F4・・何それ?」









「F4っていうのは俺と他の三人の事をまとめてF4って呼んでたんだよ。
 雛の父親もF4の一人だよ。」







俺の口から雛の父親の話が出てきて櫻の表情が一瞬、険しくなったが・・







「で、そのF4がどうして有名なの?何かしたの?」







「何もしてねぇよ。だけど俺たちってホラ完璧だから。
 やっぱり注目されるんだよ。」







「ふ〜ん完璧ねぇ〜、とにかくあきら達はF4って呼ばれてて、
 学校ですっごく目立ってて、私はその人達とも友達だったって事ね・・?」









「そうだよ。」










それにしても俺がここに来なくなってもう6年以上も経つのに




相変わらずF4の名前は健在らしい







さっきから小さな声で





ねぇ、あの人ってF4よね?





などと言っている話し声が聞こえてくる。







何となく居心地が悪い・・・・・










時計を見ると11:30を少し回ったところだった









「そろそろ行くか?
 仕事の前に昼飯食って行かないとな。お前は何食べたい?」








「う〜ん、ひさしぶりの日本だから和食がいいな。」







「そっか、じゃぁ行くぞ!」








いつもの様に手を櫻に差し出すと、



ゆっくりと握り返される手の感触が今日はやけにリアルに感じた











【59】








ため息と共に携帯を取り出しあきらの携帯にダイヤルしてみるが電源が切られていて繋がらない








「ダメだ、繋がんねぇ!」










そう言って携帯を閉じると俺が電話しているのを息を呑んで見つめていた滋に即答される







「じゃあ、オフィスに電話してみてよ!」










・・ってやっぱ俺かよ!?



いつから俺が電話するって決まりになったんだ?









疑問は感じつつも仲間達の視線を受けて今度はオフィスへとダイヤルしてみる






「今日は昼から仕事らしいけど外回りで夕方にならないと戻らねぇーって!」







「そっか・・じゅあ、どうする?」






「どうするって・・いきなりオフィスに押しかけるのはマズイだろ・・?」






「そうだね・・じゃぁ、また後で電話してみてよ!
 夜にでも会えればいいし」








「ハァ〜、わかったよ・・」








やっぱ電話するのって俺なんだよなぁ・・?








ため息と重苦しい空気に支配され沈んだまま




誰も口を聞かない俺達の背後から女性が声をかけてきた








「滋?」








名前を呼ばれ驚いた表情で顔を上げた滋だったが、



相手の女性を確認するとすぐに笑顔に変わった







「歩美〜」







椅子から立ち上がり女性に抱きついている








「久しぶり〜どうしたの?こんなところで偶然だね〜、
 ねぇねぇ、いつこっちに帰って来たの?」









滋の質問攻めに歩美と呼ばれた女性は少し押され気味ながらも



表情は笑顔で興奮している滋の様子を楽しそうに見ている







「久しぶりだね〜?
 滋、変わってないね〜?!」







「本当だね〜、ねぇ歩美、ここ座って!」






手招きして自分の横の席を叩いている・・






「えっ・・いいの?」






「うん、平気、平気!!」








滋は俺達の存在など全く無視で



勝手に答えている・・



まぁいいけど・・・







座ってと言われた方は少し戸惑っているようで俺達の方に視線を向けてきたので



OKのしるしに軽く微笑むと軽く会釈をして滋の隣に腰を下ろした






「それじゃぁ、少しだけ、失礼します。」







「紹介するね!彼女は私の永林の同級生で橘歩美さん!」






「こんにちは。橘です。」






「「「こんにちは。」」」







「歩美、紹介するね。私の隣が三条桜子でその前が花沢類、
 そしてその隣が私の彼で西門総二郎、みんな英徳の友達なの!」







「英徳の・・?」







「そうだよ!で、歩美はどしたの?いつ帰ってきたの?
 こっちに居るんだったら連絡してくれればいいのに!」







「ごめんね、先週帰ってきたんだけど、忙しくてなかなか連絡出来なかったんだ。
 今日は久しぶりに両親とランチの約束してるんだけど少し時間が出来たからお茶でもしようと思って。」








「へぇ〜でも、こんな所で偶然会えるなんてすっごく嬉しい〜!!」







「私も!」







再び俺達そっちのけ・・・




ムカついてきたので強引に二人の会話に参加してみる・・







「ねぇ、橘さんはどこか旅行にでも行ってたの?」






「えっ・・?」









「だって今、滋がいつ帰って来たの?って言ってたから。」








「あっ・・私、今パリに留学してるんです。
 パリの芸大の2年生なんです。」







「2年生・・?俺達と同い年だよね?」







「はい、私、日本で大学を卒業してから留学したんです。」






「そうだったんだ、で、芸大って専攻は何?」






「カメラです。一応カメラマン志望なんです。」








「ねぇ、すごいでしょ!彼女、永林の時から美術の成績すっごく良かったし。
 よく写真撮ってたしね。」







「そんなにすごくないわよ。みなさんは英徳出身なんですよね?」







「そうだよ。」








「私も最近パリで知り合った人が英徳出身なので
 みなさんも知ってるんじゃないかなと思って?」







「知り合い・・・?」








「ええ、正確には大学の同級生のお兄さんなんですけど。」







「なんて名前なの?」







「美作あきらさんって言うんですけど・・
 ご存知ですか?」








「ハハハハ・・・ご存知もなにもあきらは俺達の幼馴染だよ。」








「え〜〜そうだったんですか!!」









そう言って大げさなリアクションで驚いている・・・・



さすが滋の友達だけある・・・









「あの・・」








桜子だった・・・



みんなの視線が桜子に集中する








「あの・・今、同級生のお兄さんが美作さんっておっしゃいましたよね?
 美作さんの妹って双子ちゃん達ですよね?
 双子ちゃんってまだ小学生じゃありませんでしたか?」








桜子に言われて気付いた!








「あ・・!そうだ・・・あいつに大学生の妹なんていねぇ・・・・」









「えっ・・!でも櫻ちゃんは兄妹だって言ってましたよ。」








「その同級生って櫻って言うの?」








「はい。美作櫻って名前で年は一つ下です。」








歩美がにこやかにそう言い終えた瞬間、総二郎がいきなり立ち上がった





立ち上がった拍子に椅子が後ろへと倒れ大きな音が上がった






『ガタッ!!』








「ちょ、ちょっとどうしたの、急に?!」







滋の驚いた声は無視して





「オイ!類!」






「そんな大きな声出さなくても聞こえてるよ。」







「なぁ・・・・その櫻って一つ下で・・・って、ま、まさか・・だよなぁ?」







「多分ね。そうだと思うよ。」








「恐らく・・・」






桜子も俺達のこの会話で理解出来たようだ







ただ、滋だけが理解出来ていない・・・・









「えっ・・!?な、何がそうなの?」







「もう、滋さんも先輩と一緒で鈍いですよね。
 西門さん達はその櫻ちゃんって言うのが先輩じゃないかって
 言ってるんですよ。」








「えーーーーーー!!」







遅い・・・・








「橘さんその櫻ちゃんって女性の事、詳しく教えてくれない?」








いきなり俺達が身を乗り出し始めたので彼女は驚いて少し体を後ろに引き気味になっている









「えっ・・!?いいですけど・・」










俺達の方に困惑したような表情を浮かべながらも



彼女は美作櫻と言う女性の事を話してくれた








「彼女も私と同じカメラ専攻で、それに今はデザイナーの仕事もしてますよ。」







「もしかしてそのデザイナーって『sakura』の事ですか?」







「ええ、その『sakura』って彼女がデザイナーなの。」







「何・・?その『sakura』って?桜子、知ってるの?」









「ええ、この前雑誌で見ましたよ。
 結構、評判になってるみたいですけど・・
 『sakura』ってメインは子供服じゃないかったですか?」







「・・つくしって子供服のデザイナーしてるの?」







「ええ、でも滋、さっきから先輩とかつくしとか言ってるけどそれって櫻ちゃんの事?」







「う・・・ん・・後でちゃんと説明するから・・」








「分かった・・彼女の洋服が来月から日本のデパートでも販売が始まるから、
 今、あきらさんと一緒に日本に帰ってきてるわよ。」
「ねぇ、櫻ちゃんとあきらさんって本当の兄妹じゃないの?」







「う〜ん・・私達が考えてる事が当たってたら多分ね・・・兄妹じゃナイ。」







「それって本当?」







「う・・ん。」








「やっぱりね〜。」







歩美がため息をついている







「どうしたの?ため息ついて。」









「だって櫻ちゃんがライバルじゃ私、勝ち目ないもの。
 まぁ、最初っからあきらさんは私なんて相手にしてないけどね。」








「歩美、もしかしてあきら君の事が好きなの?」








「う〜ん、いいな〜って思ってたけどね。やさしいし、よく気がつくし、
 いい人だな〜ってね。でもやさしくしてくれてたのは私が櫻ちゃんの友達だからなのよね。
 でも、兄妹じゃないんならあの仲のよさは納得できるかな。
 彼って櫻ちゃん以外の女性って全然眼中に無いって感じだし。」









「二人ってそんなに仲いいの?」








「うん、あきらさんはしょっちゅう櫻ちゃんを迎えに大学に来てるし、
 いつも何処に行くのも一緒って感じだしね。」









「ふ〜ん、そんなに仲がいいんだあの二人って。」








ずっと黙って話しを聞いていた類が少し怒った口調でぶっきらぼうに言った







類・・お前やっぱりまだ・・・



牧野の事・・・・








「あっ・・!そうだ忘れてた。私、彼女の写真持ってるわよ。
 こないだあきらさんに写真のモデルをお願いした時に撮った物なんだけど、
 今日、彼女に会うから渡そうと思って持ってきたの。」








「見せて!歩美!早く見せて、お願い!」








滋にせかされて歩美は慌ててバッグからアルバムを取り出した









「櫻ちゃんってカメラ専攻なのに自分が写真撮られるのってイヤがるのよね。
 だからこれは貴重な1枚なの。」








そう言って俺達の前に出した写真に写っている女性は間違いなく






牧野つくし








だった












「つくし!」





「先輩!」








滋と桜子が同時に声を上げた









牧野だった・・・・





やっぱり俺達の考えは間違っていなかった






だとしたら何故・・・?











牧野があきらと一緒なんだ・・・・?





あの二人は仲間だったからよく一緒にいたが







特に仲が良かったといわけじゃない・・・







単なる友達だ・・・・







二人の接点が分からない・・・







あの頃・・





一体何があったんだ?








それにあの子はあきらの子供なのか・・・





だとしたら司はどうなる・・・?








牧野はいつ子供を産んだんだ・・・?





あの子・・・






見た感じ年齢は5〜6歳ぐらいだよな・・・・?









・・・・・・・!!






もしかして・・・・・・!?







自分の行き着いた答えに息が詰まる・・







だとしたらどうして牧野はあきらと一緒にいるんだよ?!









ダメだ!!






頭の中?マークだらけで考えがまとまらない








「ねぇ滋、さっきから言ってるつくしって誰の事?
 写真に写ってるのは櫻ちゃんだよ。」








「あっ・・・うん・・・彼女がどうしてあきらと兄妹になったのかは
 わからないんだけど彼女の本当の名前は牧野つくしって言って私たちの仲間だったの。
 彼女、7年程前から行方不明で私達みんな彼女の事を探してたの。」









「・・牧野つくし・・?彼女を探してた・・の?」









「うん・・。」








「ねぇ歩美ちゃん、牧野に子供がいるのって知ってる?」




「・・会った事はないですけど・・・。」








「その子の父親の事って聞いた事ある?」







「ううん、聞いた事ない。向こうでは結婚しないまま子供を産むシングルマザーなんて
 めずらしくないし、それに櫻ちゃんはあまり自分の事は話してくれないし。」







「そっか・・・」








「なぁ、類・・・・・あの子供の父親って誰だと思う?
 まさか・・・だよな・・・?」








「そうだね、でもそれは本人に直接確かめたほうがいいと思うけど。
 ねぇ、さっき今日、彼女と会う約束してるって言ったよね?」








「はい。彼女の仕事が終わったら連絡が来る事になってますけど。」







「僕たちも一緒に行っていい?」







「えっ・・!?いいと思いますけど・・一応、彼女に聞いてみないと・・・」








「そう、じゃぁ彼女に聞いてみてくれる?」









「は、はい・・分かりました。じゃぁ、私そろそろ時間なんで行きますね。
 彼女から連絡があったら電話します。」







「お願いね、歩美。」











「うん、じゃぁまた後で!」


















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