【70】







「ところで子供の名前って何?」





「雛だ。」







「ふ〜ん、あの子、雛ちゃんって言うんだ。
 かわいい名前だね。」







「そうだな・・櫻が自分で名付けたんだ。
 それに『sakura』の洋服だって元は櫻が雛の為にデザインしたもんだからな。」
「なぁ、司、雛はお前にそっくりだぞ!外見も性格もな。
 誰が見てもお前の子供だってすぐに分かるよ。我がままだし気も強いから
 櫻も手を妬いてるよ。」








「あきら・・あいつの事もっと詳しく教えてくれないか・・」







今の司はどんな気持ちなのだろうか?





自分の愛している女と子供の近況を親友に尋ねなければならないなんて・・





辛すぎる・・・





そこには俺たちの知らない二人だけの長い時間が存在している






俺はその現実と向き合わなければならない司が心配だった



だけどそれをクリアしなければ俺たちは前には進めない事も分かっている






「櫻は今、芸大の2年生で雛はもうすぐ小学生になる。」






「ねぇ、つくしはどうしてカメラを専攻してるの?
 つくしって写真に興味あったっけ?」






「それは、パリに行った当初は言葉も分からなくて環境の違いから体調を崩した時もあったんだけど
 3ヶ月ぐらいで少しづつ落ち着いてきて、その頃からだな休みのたびに俺はあいつに連れ回される
 ようになったんだ。最初はありきたりな観光地ばっかりだったけどあいつは行く先々で俺が持ってた
 デジカメで写真を撮り始めたんだ。それからは屋敷の中でも庭のバラだとか俺や親父達にメイドまで
 目に付くものを片っ端から写真に納めてた。」






「先輩ってそんなに写真好きでしたっけ?」






「さぁ?あいつが写真好きだなんて話し聞いたことねぇけどな?」





「俺も知らない。」






「俺もあいつに聞いたことがあるんだ。なんでそんなに写真ばっか撮ってんだって?
 そしたらあいつ・・なんて言ったと思う・・?」







「つくしは何て答えたの?」





「あいつは・・写真に撮っておけばもしまた忘れてしまっても
 思い出せるかもしれないって言ったんだ・・」








その言葉を聞いて滋だけじゃなく桜子も歩美も泣き出してしまった



男達は何も言えずただ俯くことしか出来なかった





静かな部屋で女達の泣き声だけが響いている・・・







牧野は一体どんな気持ちで過ごしてきたのだろうか?





牧野は一体どれだけの涙を流してきたのだろうか?




牧野は一体どれだけの眠れぬ夜を過ごしてきたのだろうか?




それを考えると胸が張り裂けそうになる・・





そしてあきらは片時も牧野の傍から離れることなく彼女を支えてきた






なぁ・・あきら・・?




お前、どんな気持ちだったんだ・・?







「櫻も思い出したいと思ってんるんだ、だけど怖いって言ってた。
 自分の事を知ってる人に会うのが怖いって。」






「私達に会うのが・・怖い・・の・・?」






「ああ・・だからあいつと会っても焦らないでやって欲しいんだ。
 櫻の性格は照れ屋なところも一人で抱え込むところも鈍感なところも
 本質的には変わってない、けど今のあいつは人と深く関わろうとしない
 どこか他人と距離を置いて接してる。自分の事だってあまり人に話さないし
 パリでの生活で櫻が友達だって俺に紹介したのは歩美ちゃんぐらいだ。」







「なぁ・・あいつ・・付き合ってた男とかっていないよな?」







「・・お前・・俺の話し聞いてたか?
 安心しろ、そりゃ大学で話しぐらいはするだろうけどデートした事もないよ。」






「・・そうか・・」






「だからお前らが櫻に会っても打ち解けるのに時間が掛かるかもしれない、
 気長に付き合ってやって欲しい。
 司、辛いだろうけど焦らないでやってくれ、頼む。」






まっすぐに司の目を見て話すあきらと


そんなあきらとは対照的に苦しそうな表情で


目を逸らしたままの司が搾り出すような声で答えた




「・・分かった。」







「大丈夫だよ、あきら。
 俺たちもう一度、牧野と友達になるからさ。」






「そうだよ!類君の言うとおり。
 私もつくしと何度だって友達になる!」






「滋さんだけじゃないですよ、私だって先輩と何度だって友達になります。」







「そーだな、俺も一緒だ!
 司!お前もだろ?」





「・・ああ・・そーだな」






「お前なぁ〜そんな暗い顔ばっかしてんじゃねぇーよ!
 思い出してみろ!牧野は最初、類に惚れてたんだぞ、お前の事は
 大嫌いって言って逃げ回ってたのに結局はお前を選んだんだぜ!
 大丈夫だよ、あいつなら記憶がなくても又、お前を選ぶよ。」






「ねぇ、やっぱりつくしって呼ぶのってよくないよね?」






「そうだな、出来れば櫻って呼んでやってくれないか?
 それから昔の事はあまり詳しく教えないで欲しい。
 あいつが自分で思い出さない限り前には進めないから。」






「うん、分かったよ。」







【71】







「ねぇ、牧野は俺達の事どれぐらい知ってるの?」







「日本に帰る前に友達が居て探してるって事は話してある。
 それに今日、英徳に連れて行ってきたし、F4とお前達の名前は教えておいたよ。
 それぐらいだな。」






「雛ちゃんの父親の事は?」






「F4の中にいることは知ってるけど、誰なのかは教えてない。
 なぁ、司、お前今一人か?」






「どういう意味だよ!」






「そのまんまの意味だよ。
 お前、今付き合ってる女とかいないんだな?」





「そんなもんこの6年間一人もいねぇよ!」





「そうか。」





「お前はさっきから何が言いたいんだよ!?」





「司、櫻はお前が雛の事を迷惑に思うんじゃないかって心配している。」





「そんな事思うわけねぇだろうがー!」






「分かってるよ。だからそう言ってあるけど、
 もし記憶が戻ったら櫻の意志を尊重してやって欲しい。」






「それはあいつが俺の所にはもう戻って来ないって事なのか?」






「分からないよ。それは櫻が決める事だから。
 でも前にあいつが言ってたんだ≪記憶が戻っても好きって気持ちまで戻ってくるかは分からない≫って」






「何だよそれ!何であいつそんな事言うんだよ!」
「もう俺の事なんてどうでもいいって事なのかよ!なぁ、あきら!どうなんだよ!」






司が再び立ち上がり興奮し始めた。






「司!落ち着けよ!あきらはそんな事言ってねぇだろう。」






「そうだよ。とにかく座ったら?
 それにね6年たってるんだからいくら子供が居るからってやり直せるとは限らないよ。」







「類、お前はしゃべんな!
 話しがややこしくなる!」






「何なんだよ!
 俺はこの6年間ずっとあいつの事だけを考えてきたのに・・・・
 なのにやっと見つかったと思ったら、もう俺の事は必要ないのか・・?」







司が額に手をやりながら俯いたままつぶやいている



そんな司に滋が明るい声で励ます






「もう!司、まだ決まったわけじゃないんだからそんなに落ち込まないでよ!
 本当にバカなんだから!それにさっき類君も言ったでしょ?
 もう一度、友達になるって。だから司ももう一度最初っからやり直せばいいじゃない!
 またつくしに愛してもらえるようにがんばってよ!」






「・・・・・そうだな・・・」







「司?自信ないの?
 だったら俺が貰うよ。司の子供だったら俺、大丈夫だから。
 ちゃんとかわいがるから、心配しないでいいよ。だから諦めるなら早く言ってね。
 俺、がんばるから。」








ハァ〜頼むから、類、もうやめてくれー!









「何だと!類!誰がお前なんかに渡すかよ!
 あいつは俺のもんだ!諦めるわけねぇだろーが!」







「そう!じゃぁ、がんばって。」







あっさりと言った類に拍子抜けしたのか、


がんばれと応援されて少しどもってしまっている。







「お、おう・・・がんばるよ!
 だから類、お前は手出すなよ!」








「それは分かんない。だって牧野が今度は俺を選んでくれるかもしれないし。
 なんて言ったって俺は牧野の初恋の相手だからね。」





涼しい顔でそう言い放った類・・・







「もう、いい!お前ら二人だけでやってくれ・・・俺達を巻き込むな!
 もう勘弁してくれ!」








類の挑発に司が反応する・・



ある意味これも懐かしい光景ではあるな・・









【72】







やっと場が落ち着きを見せ始めた・・・








「美作さん、先輩の写真とか持ってますか?
 持ってたら見せてください。」







「ああ、持ってきたけど、
 日本に置いてあった物だから少し古いけどいいか?」







「いいですよ。」







あきらが上着の内ポケットから数枚の写真を取り出し司に手渡した






久しぶりに見る牧野の姿だった




写真の中の彼女は赤ん坊を抱いてやさしく微笑んでいる








総二郎は写真の中の牧野を純粋に綺麗だと思った






渡された数枚の写真の中に雛が一人で映っているものがあった




裏には雛3歳と記されていた






滋と桜子が写真の中の雛に歓声を上げている





「キャ〜かわいい〜」


「本当に雛ちゃんて司にそっくり!」


「すご〜い!!」








司は初めて見る写真の中の自分の娘に目を奪われている




写真を持つ手がかすかに震えているのが分かる






「雛ちゃんって本当にかわいいですね!お人形さんみたい。
 それに道明寺さんそっくりですよ。」







「真っ黒な髪と大きな瞳はつくしに似たんだね?
 でもくせっ毛だとか顔の輪郭なんかは司似だね!」







「これが、俺の子供・・・・」







久しぶりに見たつくしだった



写真の中のあいつは幸せそうな笑顔を赤ん坊に向けている







「司、その写真持ってっていいぞ。」






「・・あ、ああ・・・」







「オイ!司、雛ちゃんって誰が見てもお前の子供だぜ。
 本当にお前、そっくりだ。」







「本当だね。でもこれで性格まで似てたら女版司だね。
 牧野、大変そう。」







牧野の写真を見たとたんいつものポーカーフェイスが崩れて


本当に同情しているかのような表情を浮かべて話す類





良くも悪くもお前がいろんな表情を見せるのは牧野がらみなんだな・・類・・







「な、なにが大変なんだよ!?
 俺に似てて、すっげぇーかわいいじゃねぇか!」





「かわいい・・って・・・確かに雛ちゃんはかわいいけど・・・・お前はなぁー」






「性格も司にそっくりだよ。わがままだし、人の話は聞かないし・・・
 まぁ・・・女の子だから凶暴とまではいかないけどとにかく頑固だから
 一度言い出したら誰の言う事も聞かないな。」






「ハハハハ・・それじゃ司そっくりじゃねぇか!」








「何だと!総二郎!俺様のどこがわがままで凶暴なんだよ!」







そう言いながら総二郎の首を絞めている・・・







その場にいる全員が



そういうところがだよ!




と思ったが誰も口は出さなかった・・・・・







場の雰囲気も少し和んできたので





「なぁ、腹へらねぇか?
 なんか食べようぜ!」








「そうだね、ホッとしたらお腹すいてきちゃった!
 よし!何か食べよう!あきらも食べるでしょ?」






「・・・あっ・・俺はいいよ。」






「どうして?お腹すいてないの?」






「・・いいや・・・」





「何か予定でもあるのか?」





「・・あ、ああ・・・」






「なんだよ!はっきり言えよ!」






あきらの煮え切らない態度に司が苛ついている





煮え切らない態度のあきらにピンと来たのは類だった





「牧野が待ってるんでしょ?早く帰ってあげなよ。」






俺の横で司の体がビクンと反応したのが分かった


だけど、いくら辛くてもこれが今の現実だ・・・・





今、牧野の側にいるのはあきら・・・・



なのだから・・







「そうだよな。牧野はお前が今、俺達に会ってるって知ってるんだろ?
 心配してるだろうから早く帰ってやれよ。」






「・・・ああ・・・悪いな・・・」






「いいよ。牧野によろしくね。」





「ねぇあきら君、驚かせちゃってごめんねって、つくしに謝っておいてね。」






「分かった。
 それじゃぁ、また連絡する。」







そう言うとあきらは足早に部屋を出て行った。









あの時、俺があいつの事を忘れなければ今では子供と三人で幸せに過ごせていただろう



でも、今は俺の代わりにあきらがあいつと子供の隣にいる・・・・・






今日、分かった事・・・




つくしがあきらと一緒にいた事




そしてあきらもつくしの事を愛しているという事・・・・





つくしはどうなんだ?記憶の無いあいつは・・




もしかしてあきらの事をそんな風に見ているのか?






もう俺の入り込む余地は無いのか?





つくしが見つかった喜びと同時に言いようの無い不安が心に広がっていく・・・・






今すぐにでもあいつに会いたい・・




会って確かめたい・・・









【73】







あきらが帰った後の総二郎達・・




部屋には滋が勝手に注文した食べ物が続々と運ばれてきていた






気分を変えるために食事にしようとは言ったが、



本心は食事なんて気分じゃない・・・・・





そんな俺達の事などお構いなしに能天気に滋と桜子は料理を口に運んでいる






司は先ほどからずっと黙ったまま酒を飲んでいる





「司、大丈夫か?」









「・・・・ああ・・・あんま大丈夫じゃねぇけどな・・・
 頭じゃ分かってるんだけど気持ちが追い付いてこねぇ・・」







「そうか・・けど、あんま考え込むなよ。
 大丈夫だって、たとえ記憶が無くてもあいつはまたお前を選ぶよ。」





「そうだといいけどな。
 なんか俺、自信ねぇ・・・・」







「も〜う〜何、暗い顔してんのよ!今日はつくしが見つかったうれしい日でしょ!
 さぁ!飲むよ!お祝いしよ!」









「そうだな、お祝いだな!久しぶりにみんなで飲むか。」







類は気が抜けたのか少し眠そうだったが、



さすがに帰るとは言い出さなかった









そんな中、滋が






「ねぇ歩美?大学でのつくしの事教えてよ!?」







「えっ!?・・いいけど・・」






歩美はチラッと司の方を見たが表情に変化は無かったので話し始めた







「う〜ん、何から話したらいいのか分からないけど。
 とにかく成績はいいわよ。彼女の撮る写真ってすっごく
 やさしい雰囲気で、見ていてホッとするのよね。」






「へぇ〜、つくしってすごいんだね!」






「そうだね、私なんか絶対に真似できない・・・・
 何だか彼女そのものって感じかな。」





「じゃぁ、つくしって大学でモテてるんじゃない?」







「うん、モテてるわよ。美人だしそれを鼻にかけてるようなところも無いしね。
 性格もいいからみんないろいろアプローチしてるけど、当の櫻ちゃんは気付いてるんだか、
  どうなんだか?いまいち分からないのよね・・多分、気付いてないんだろうけど?」







「やっぱり先輩って鈍感なところは変わらないんですね。」







「そうだね。つくしらしい・・・」








「鈍感・・?確かにそうかもね!でも、櫻ちゃんを狙ってる男の子達にしても、
 あんなにガッチリとあきらさんがガードしてるんじゃなかなか近づけないしね!」






「あきらってそんなにつくしの大学に来てるの?」






「ええ、よく迎えに来てるわよ。いつも近くのカフェで待ち合わせしてる。
 一度だけ、彼女にくっついて行った事があるけど、話してても何だか二人の世界って感じで・・・
 なかなかあの二人の中に割って入る事って出来ないのよね・・・・」







「そんなに仲いいの?」






「いいわよ。
 だから私、聞いた事があるのよね・・」






「何を・・?」






「二人は本当に兄弟なのか?って・・・そしたらあきらさんは違うって・・・
 実は俺達夫婦なんだって・・・・言ってた・・・・」






「・・へっ・・?!」





「あっ!?でもその後すぐ、否定してたけどね。櫻ちゃんも又、同じ事言って・・って
 あきらさんに怒ってたから、私はあの二人は兄妹なんだなって思ってたけど。
 今みたいな事よく聞かれるみたいよ。本当に兄妹なのかって。」






まるで俺達の存在を忘れているかのように女三人で牧野の話で盛り上がってる。




分かってんのか?


こいつら・・・・


今の状況を・・・?







俺はワインの入ったグラスを口に運びながら



隣で相変わらず黙ったままの司を盗み見た・・・・・




案の定・・・・




額に青筋が立っている・・・・・




そろそろ限界だな・・・・





俺は滋に出来るだけ小声で






「・・滋!・・もうそれぐらいにしとけよ!・・・」





「えっ・・・何?聞こえない、もっと大きな声で言ってよ!」






・・・ったく!


・・・勘弁してくれよ〜!





再度、俺は出来るだけ小さな声で






「だから、それぐらいにしとけって!」






「・・なにが?」







全然、分かってねー!





だけど桜子は気付いてくれたようだ・・・









「滋さん、道明寺さん青筋立ってますよ。」







桜子・・・



お前もそんなストレートに言わなくても・・・



桜子にそう言われてやっと気付いた様子の滋が司を見ると・・・



不機嫌極まりない表情の司がいた・・・・







「あっ・・・・ごめん・・・」






その様子に歩美もあわてて司にあやまっている






結局その日は微妙な空気のまま時間だけが過ぎていき



そのままお開きとなった







予想外の展開だったが、とにかく牧野が見つかった事だけでも大きな進歩だった




今までまったく消息不明だったのだから・・・・・







まだこれからクリアすべき問題は山積みだけど、



やっと長い第一歩が踏み出せる・・・・







出来れば司には牧野と幸せになってもらいたと思っている




だが、今日のあらきの態度から一つ分かった事がある・・・








あきらも牧野を愛している・・・・






恐らく司も類も気付いただろう・・・






あきらはいつから牧野の事を愛しているのだろうか?







一緒に過ごしてきた6年間の間に少しづつ惹かれ始めたのだろうか?





それとも・・


もしかして・・・?



まだ牧野が記憶を失くす前からなのだろうか?




まさか・・・だよなぁ〜・・・?






だとしたら・・


あきらは美作櫻を愛しているのではなく、



牧野つくしを愛しているという事になる・・・



まぁ、どちらも同じ一人の人間なのだが・・・






ハァ〜・・ったく!


・・めんどくせー!




なぁ〜、あきら?



・・お前どうするつもりなんだ?





ったく、俺は類が言うとおり心配性だったんだな・・










【74】








翌日からは俺も櫻も仕事で忙しい日々が続き、



雛は相変わらず親父達やお袋が毎日どこかへ連れ出していた







福岡に住む櫻の家族とは阿蘇の近くの温泉で落ち合い6年半ぶりの対面を果たした





思っていたより櫻の動揺は少なく、





たった一晩だったが家族で楽しく過ごしていた






いよいよあいつらに会わせる時が来たな




あれ以来、総二郎や類からは何度か連絡はあったが司からは一度も無かった






明日、道明寺家で開かれるパーティに俺達は招待されている





パーティ自体はごく内輪な物で俺の両親と双子達も招待されていた





パーティーの主催者は司の親父さんで椿姉ちゃん達も帰ってくるらしい





そのパーティーで櫻は6年半ぶりに司と再会する






部屋で仕事を片付けているとノックの音がして櫻が入ってきた


時計を見ると12時を少し回ってる






「まだ起きてる?」





「ああ、仕事してた。どうしたんだ?」







「う・・ん、なんだか眠れなくて・・
 ねぇ、少し飲まない?」






櫻は自分の手に持っていたワインを俺に見せた






「ああ、いいよ。」








ワインのボトルを受け取りコルクを抜き、



二人分のグラスにワインを注ぎ一つを彼女に手渡した





「ありがとう。」







俺からグラスを受け取り微笑んでいる櫻のグラスに自分のグラスを軽く当てた






少しだけ開いていた窓から入ってきた風にレースのカーテンが踊る





庭に咲くバラの香りが風と共に部屋に入ってくる





俺はソファーに座る櫻の横に移動し腰をおろした





俺が座るのはいつも櫻の左側・・・






グラスを持ったままゆっくりと櫻の肩に腕を回すと櫻が体を預けてくる






互いのぬくもりを感じながらしばらくそのままで過ごす





いつもならこのままで終わるのに今夜は違った・・・・






前を向いたまま櫻が突然話始めた







「ねぇ、明日・・・・」







俺は驚いて櫻から少し体をはずし彼女の顔を覗き込むが



櫻の表情に変化はない・・・






「・・・・・明日・・・・どうしたんだ・・・?」






少し驚いている俺の声に櫻は軽く微笑んでいる





「クスッ・・・そんなに驚かないでよ。話にくいでしょ。」






「ああ・・悪い・・・」





「ねぇ、明日のパーティーって雛の父親も来るのよね?」






「・・あ、ああ・・・」






「雛の父親って道明寺さんよね?」






あまりに突然の事で何と答えていいのか分からない







「・・・・どうしてそう思ったんだ・・・・?」







櫻はまだ俺の方を見て笑っている・・・







「だってあきらはこの前、F4の中に雛の父親がいるって言ってたじゃない。」






「・・ああ、そうだったな・・」







そうだ、確かに俺は英徳のカフェでそう言った






「4人の内、まずあきらは違うでしょ。
 それにこの前会った、西門さんと花沢さんは全然雛に似てなかったもの、
 だとしたら残りの一人、まだ会っていない道明寺さんしかいない・・・・でしょ?」





「・・お前にしては上出来だな。」





「あきらはこの前、道明寺さんに会ったの?」






「会ったよ。」





「じゃぁ、道明寺さんは私の記憶が無い事も雛が居る事ももう知ってるのね?」







「ああ、知ってるよ。
 司はお前が見つかって喜んでたぜ。
 それに自分に雛って子供が居る事も喜んでた。会いたがってたぞ。」






「・・そ、そう・・・」







「嬉しくないのか?」








「う・・ん・・雛の事はホッとしたけど、実感がないの。
 私、彼の事知らないから。会っても彼の事傷つけるだけなんじゃないかって。」







「あいつ、言ってたぞ。お前が忘れてるんだったら、
 もう一度お前に愛してもらえるようにがんばるって。
 だから、お前も記憶が有るとか無いとかじゃなくてもう一度
 あいつとちゃんと向き合ってみたらどうだ?」








「ちゃんと向き合っても私が彼の事を愛せなかったら?
 どうなるの?」







「それなら仕方ないよ。
 あいつもお前の事諦められるだろ?」






「私、彼と付き合ってたのよね?」






「ああ。」






「ねぇ、教えて・・・・」









短い言葉・・・





櫻が何を言いたいのかすぐに分かった





「・・・・・・・・・・」






俺がどうしようか迷っていると・・・・






「あきら、大丈夫だから。」






「本当に、大丈夫なのか?」






「うん。だから教えて。」








「・・・・分かったよ。
 けど、どうしたんだ急に・・・?」







「急じゃないよ。ずっと考えてたの。」






「何を・・・・・?」






「記憶を失くした理由・・・・」






「理由・・・・?」






「そう。理由・・・前にあきらが言ってたでしょ?
 あの頃の私って精神的に辛い状況だったって。」







「ああ・・・言ったけど・・・」







「私、この6年間ずっと思い出す事だけを考えてきたでしょ?
 ずっと思い出さなきゃって・・・・そればっかり考えてきた・・・
 でもね、実際は何一つ思い出せてない。それどころか私はどんどん
 美作櫻になっていくの、私の中にかすかに残っていた牧野つくしが
 消えていくような気がして・・最初の頃はそれじゃダメだって思ってたんだけど
 最近じゃそれでもいいかなっーて思い始めてる・・」






「お、お前・・・ちょっと待て・・・」






「最後まで話聞いて。」






そう言って穏やかに微笑む櫻を見ていると次の言葉がつなげなかった







「私、どうして思い出せないんだろうって考えたの。
 どうして牧野つくしに戻れないんだろうって・・・
 私、きっと自分でも気付かないうちに思い出す事を拒否してるんじゃないかって・・・」






「思い出したくないのか・・・・?」







「そう思っただけよ。私、今幸せだよ。だから≪牧野つくし≫だった頃の
 つらい気持ちを思い出すのが怖いんじゃないかって・・・思ったの。
 それに・・明日、みんなと会うでしょ?彼らから聞きたくないの。
 明日、その場で聞いちゃうと、きっとパニックになっちゃうと思うし。
 だからあなたから聞きたいの・・・牧野つくしの事。」







「それはお前が自分で思い出さないと意味が無いって言っただろ。」







「それは分かってるんだけど。いい加減嫌になるのよ。
 私は何も分からないのに、相手は知ってるのよ。
 明日、他の人に聞かされるのは嫌なの。
 他の人からじゃなくてあなたから聞きたいの。
 だからお願い。教えて。」









「それからもう一つ・・・・」






「まだあるのか・・・・」






「私の記憶が無くてもクリアしなきゃいけない問題ってあるでしょ?」





「もしも・・・・」





「もしも・・・?」






「もし、明日、道明寺さんと会ったら全部思い出すかもしれない・・・・
 多分、そんな事はないと思ってるけどね・・・・
 思い出せない私は道明寺さんの事、雛の父親だって認められないかもしれないの・・・・
 ねぇ、怒らないで聞いてくれる?」







「・・・なんだ?」






「あのね・・今の私は雛の父親って言ったら思い浮かぶのはあなたなの・・・」







「ハハハハ・・・なんだ、そんな事か・・・・」






「ちょっと・・何がおかしいのよ!
 人が真剣に話してるのに!」







「だって・・・お前・・・ハハハハ・・そんな事当たり前だろうが・・・
 俺は雛が産まれる前からずっと一緒にいるんだぞ!
 今頃何言ってんだ?バカだな!それに俺はずっと雛の父親のつもりなんだけどな、
 大丈夫だよ、そんな事気にしなくても。それに司とはゆっくりやっていけばいいんだから。」








「・・だからね、知りたいの私と彼の間に何があったのか。
 そうじゃなきゃ、私は前に進めないの。」







「・・・・分かったよ、でも、俺も全てを知ってるわけじゃないんだぜ。
 それでもいいのか?」






「構わない。」






「そうか・・まず俺がはっきりと言えるのは雛は司の子供だって事と
 司は今でもお前を愛してる。もう一度やり直したいと思ってるよ。」







俺は櫻になるべく感情を排除した事実だけを話した







牧野つくしと俺たちの出会いから別れまでを・・・・・



















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