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【124】



牧野の記憶が戻ってから1週間後、少し早いが彼女の退院が決まり


退院して3日後にはパリに帰る事が決まった



この迅速な決定はあきらの親父さんの命令によるものだ




当初、3週間だけの帰国の予定が事故の為、

大幅に伸びてしまっている


パリでも彼女が帰ってこないことで業務に支障をきたし始めて

いるようだし、何より彼女を落ち着いた環境で過ごさせるための

配慮だった




当然、司は大反対でかなり抵抗していたが


司自身もそろそろNYへ戻らないとまずい





彼女達がパリへと帰る日の前日、美作邸では

退院祝いのパーティーが開かれていた




その日は司もさすがにもう怒り出す事もなく

懐かしいメンバー勢ぞろいして

久しぶりの穏やかな時間が流れていた



そんな中でパーティも終盤に差し掛かってきた頃


椿姉ちゃんから提案が出された



その提案が櫻のデザイナーとしての今後を大きく決定付ける事となる




その提案とは・・・




「ねぇ、櫻ちゃん?カメリアにお店出してみない?」



「・・えっ?」




「まず最初に言っておくけどこの話しは司とは何の関係もないのよ。
 実はカメリアではsakuraのデザイナーが櫻ちゃんだって分かる前から
 美作のおじ様に『sakura』の出店を打診してたんだけどいい返事を
 貰えてなかったの。それで今回、デザイナーが櫻ちゃんだって分かって
 もう一度お願いしたいって私の主人から連絡があったんだけど。
 どうかしら?」



椿お姉さんのカメリアへの出店の話しは事業拡大の願っても無い

チャンスだけどお父様が一度、断られている話しを私が簡単に

返事出来ないと思った

そんな私に代わってあきらが答えてくれた



「カメリアにって話しは願ってもないことだけど
 返事は少し待って欲しい。『sakura』は日本でも
 出店したばかりだしヨーロッパでも現在、3店舗の新規出店が
 控えていてこれ以上は手が回らない状態なんだ。
 いずれはアメリカへの進出を考えてはいるけど、今すぐには
 人手も足らないし何よりこれ以上、忙しくなると櫻が大学に
 行く時間が取れなくなってしまうんだ。櫻はまだ学生だから
 出来ればそちらを優先させたいんだ。」



以前からあきらは私が大学に通える時間を

無理して作ってくれているのは分かっていた



彼は私をデザイナーにした事に責任を感じているのだろうか?






「分かってるわ。でも検討してみる価値はあるでしょ?
 人手が足りないんだったらこちらから出してもいいし、
 道明寺からでも構わないのよ、だから考えてみてくれない?」



「・・・分かった、で、店を出すのは何処になるんだ?」




「まずはロスからって思ってるけど。」




「分かった。」




「ねぇ〜ママ〜?ロスに行くの〜?」

じっと話しを聞いてた雛だった・・


雛が何故、ロスという地名に反応したのかは分かっている・・



「まだ分からないわよ。」




「ママがロスに行くんだったら雛も行く〜!」



「ママがもしロスに行くとしても遊びに行くんじゃないのよ。」



「いいよ〜ママがお仕事してる間、
 雛はディズニーランドに行ってるから〜!」



「一人では行けないでしょ?」




「大丈夫だよ!雛は英語だって話せるしもう一年生なんだから!!」




雛は大丈夫だと自信満々で言い切ったが・・


英語が話せて一年生だからってどうして大丈夫なのだろうか・・?



でも目をランランと輝かせて行く気満々の彼女に

仕事だからダメだと言ったところで通用しないだろうから・・


「そっか、じゃあ今度から歯医者さんも一人で大丈夫ね?」


雛の顔を覗き込むようにそう言うと



「・・うっ・・だ、だいじょうぶ・・じゃない・・けど・・
 だいじょうぶ・・」


「じゃあ、来月の歯医者さんは我が儘言わないでちゃんと行けたら
 ママも考えるわね。」



「・・わかった・・よ・・」



しぶしぶながら分かったといい終えた雛は隣に座っていた

あきらの膝の上に登り始めた・・


そしてあきらの膝に座りながらお得意の上目遣いで彼を凋落しに

かかっている・・


今、一人で大丈夫だと言ったばかりなのに・・・



「ねぇ〜パパ〜?歯医者さんに一人で行かないとダメ〜?」



「今、一人で大丈夫だってママに言ったんじゃないのか?」



「言ったけど、それはママが雛に意地悪するからだよ!」



イジワルって・・・



雛は自分が言った事は棚に上げてあきらに訴えかけている



「ねぇ〜パパは雛が一人で歯医者さんに行けると思う?
 パパは雛が一人で行って心配じゃないの?」



ハァ〜何なのよ〜この子は・・・




それにしても普段なら簡単に陥落してしまうあきらも

さすがにみんなの前だとがんばっている




「心配だけどママが怒ってるぞ。
 ママが怒ったら怖いの知ってるだろ?」



私が怒っていることを雛に知らせようと私を引き合いに出しているが

雛には全く通用していない・・



「ハァ〜 やっぱりパパもママが一番なのね。」




深々と溜息をつきながら本当に悲しそうな顔をした雛は

唖然としたままのあきらの膝から降りて今度は花沢類の膝に

登り始めている・・・




全員が雛の行動を見守っていると彼女は花沢類に向かって

あきらにした事を同じ事をやり始めた・・・






膝の上に座られた花沢類は一瞬、驚いた表情をしていたが

雛の言葉はどうやら彼のツボにはまったらしく笑い始めてしまった






雛は笑い始めた花沢類も無理だと判断したのか彼の膝から降りると

今度は西門さんの膝に座った・・・






何?



順番にするつもりなの・・?





でもどうしてあきらの次が花沢類なの・・?






普通、道明寺じゃないの?








恐る恐る道明寺の顔色を窺い見ると額に幾つもの青筋を浮かべながら

西門さんを睨んでいる








西門さんも道明寺の様子には気付いているようだったが

思いがけず雛に膝に座られ上目遣いで"そうちゃん"なんて呼ばれて

英徳一のプレイボーイが赤くなって固まってしまっている






笑いがおさまりかけていた花沢類がそんな西門さんを見て

再び火が付いてしまったようだ・・・






自分が笑われている事に気付いた西門さんは咳払いを一つすると




「雛、俺も無理だけど、雛の言う事なら何でも聞いてくれる奴を
 知ってるぞ。」





「本当?それってダ〜レ〜?」







「知りたいか?」







「うん。知りたい!」







「あいつだよ。」





そう言って西門さんが視線を動かした先には青筋を立てたままの道明寺




確かに彼なら雛の言う事を何だって聞いてしまうだろう






みんながそう思ったが、雛から返ってきた答えは予想外の物だった






雛は道明寺の方をチラッと見ただけでまた大きくため息をついた







「そうちゃん、あの人はダメよ。」






ダメと言われた道明寺はもちろんだけど

その場に居た全員が雛の言葉に固まってしまった






西門さんは気を利かせて道明寺にふったのだろうけど

この展開に慌てている






「ど、どうして司はダメなんだ?」






「そうちゃん、分からないの?」




「あ、ああ・・」




「知りたい?」



「ああ・・・教えてくれないか?」





「本当に分からないの?」


そう言うと雛は又ため息を一つ・・・





もう何なのよ!


早く教えなさいよ!!




「だってあの人もママが一番なんだもん。」




誰もが驚きで固まってしまっている中で

花沢類だけがまた笑いだしてしまった




「プッ、クックックッ・・・雛は自分が一番じゃないとダメなんだね・・
 クックックッ・・」





雛は当たり前じゃないという顔で花沢類を見ているけど・・・




そんな雛に西門さんが


「雛、司はきっと違うぞ。
 司は雛が一番だと思うけどな。」





「ほんと?」




「本当だよ。確かめてきたらどうだ?」




そう言われて雛はやっと西門さんの膝から降りて道明寺の前へと立った



すぐには膝には座らずに下から覗き込むように見上げている




見上げられた彼は真っ赤になって固まってしまっている




そんな彼の前で雛は覗き込むのを止めると

両手を腰につけて仁王立ちになり、


さもどっち?


と言わんばかりに答えを促している




「お、俺はひ、雛もママもどっちも一番だ。」






どっちも一番・・?

恐らく彼の本心だろうけど・・

そんな答えで雛が納得するはずがない・・




だけどおどおどした様子で答える道明寺に

思わず笑いが込み上げてくる・・・




彼の答えを聞いた雛はまた大きくため息をついている・・






そのため息に彼は慌てて私の方を窺いながらもやっと

雛が満足する答えを口にした





何?

どうして私を見たわけ?


別に雛が一番だって言っても私は怒ったりしないわよ!





やっと自分が一番だと聞いた彼女は今までの

不機嫌さがウソのように満面の笑みを浮かべて

道明寺の膝に座った




単純なところは道明寺にソックリだ・・!




雛は道明寺の顔を触りながら早速、

歯医者さんに連れて行く予定を立てている・・・





雛は膝の上に座り顔を触るのはいつものクセだが、

絶対に嫌いな人にはしない・・


って事は・・

雛も道明寺の事をちゃんとパパだって分かっているのだろう・・



道明寺は本当について行く気なのだろうか・・?




それにしてもこの子・・


一体誰に似たんだろう・・?




私の考えている事が分かったのだろうか?

前に座っていた桜子が



「先輩じゃないですよ。」




「・・えっ?」




「先輩はこんなに器用じゃないですから。」





桜子の器用じゃないと言う言葉に反応したのは西門さん




「そ〜だな。」
「司もガキん時から歯医者は大嫌いだったし、
 何でも自分が一番じゃないと気に入らなかったもんな。」





「だけど司とも違うような気もするけど・・・」





「確かに司はこんなに口は上手くなかったし、
 口じゃ負けるから力技だったもんな。」





「じゃぁ、誰に似たんだ?」




「誰でしょうね?」





みんなが口々に好きな事を話しているのに道明寺は

こちらに構う余裕はないようだった



雛を膝に抱きながら崩れきった表情でどんどん予定を入れられている




雛は彼を歯医者だけでは飽き足らず

自分の行きたい所全て連れて行ってもらうつもりのようで・・



話しはどんどん進んでいく・・・


歯医者の次はロスのディズニーランドで

その次がマイアミのディズニーワールド、

ここら辺は私でも大体想像はついていたが・・その後は全く予想外だった



雛が行きたい所・・

アメリカのサンディエゴにある有名な動物園に

パンダを見るためにだけに中国と

コアラとカンガルーのためにオーストラリア・・

果てにはアフリカのナイロビ国立自然保護区・・・?




これってこの前、全部TVでやってた所じゃない・・・



道明寺はその全てに連れて行くと約束してしまっている・・・

サンディエゴもオーストラリアも中国もいいけど・・アフリカまで・・?





それからしばらくはご機嫌で話しをしていた雛だったが

道明寺に抱かれたまま眠ってしまった



雛が眠ってしまったのをきっかけにその場はお開きとなった




あの日から私と彼の新しい関係が始まった



時間が少しスピードをあげたよう・・・・

















【125】









パリに戻って3ヶ月、私の足もすっかり良くなり


日常生活を取り戻していた




そしてパリに戻って1ヶ月後には椿お姉さんの強力なプッシュのお陰で

『sakura』のカメリア出店が決まりその翌週には担当者だと言う3名の

カメリアの社員さんがパリへ出向してきていた







最近の私は必要最低限の単位を取得する為に大学へ出席するほかは

オフィスとお屋敷を往復するだけであきらに至ってはもう大学どころ

ないようで1ヶ月の間に日本とパリを2往復なんて事もあった






道明寺とは連絡は取っていたがお互い忙しい為メールでの

やり取りがほとんどだった






忙しい毎日の中でも私の中では少しずつ牧野つくしと美作櫻が

一人の人間として繋がり始めている・・・







ただパリに戻ってからあきらとの関係が以前とは微妙に変化してきている

ような気がしている






取り立ててどうと言う事はないのだが・・



どこか彼と距離を感じているというか・・




彼は以前ほど私にべったりと干渉してくるという事が

減ったような気がしていた・・・





パリに戻ってからあきらは道明寺の事は何も言わない・・




道明寺もあきらの事は何も言わない・・




二人とも私が答えを出すのを待ってくれているのだろう





私は何の答えを出せないまま時間だけが物凄いスピードで

過ぎていく・・









パリに戻って半年、季節は夏に変わっていた







セーヌ河沿いは即席のビーチに変わり老いも若きもそれぞれが

思い思いのスタイルで夏のひと時を楽しんでいる





私はそんな光景を横目に休みなしの日々を過ごしていた





そんな中、カメリアへの出店が本格的に動き出した





いつまでもこのままじゃいけない・・・






そろそろ答えを出さなきゃいけない・・・






自分の為にも・・・





雛の為にも・・・





道明寺の為にも・・・





そしてあきらの為にも・・・





だから私は明日から一人でNYへ行く






私がアメリカに行くのは仕事の為





カメリアに出店の最終的な打ち合わせの為、



一週間の予定でロスへと向かう




仕事でロスへ入る前にNYへ立ち寄る事にした







NYでは完全にプライベート






そして道明寺にはNYへ行く事は伝えていない


一人でNYへ行ってみたかった・・・





あの時・・突然NYへ行ってしまった道明寺を追いかけて


一人で足を踏み入れた右も左も分からない異国の地を


もう一度、一人で訪れてみたかったから・・・






とは言ってもやっぱり不安だったのでホテルだけは予約してある




何処にしようか散々迷った末にカメリアホテルに予約を入れた






NYに2泊してロスへ向かう予定になっている


ロスでは空港で雛と落ち合う約束になっている


彼女はパリからSPに伴われて一人で飛行機でやって来る






私は一人で来る事に心配なのだが・・




当の本人は初めての一人旅・・正確にはSPが同行しているのだが




事実上の一人旅でその上ディズニーランドへ行ける事で



ここ数日すこぶる機嫌がいい















【126】





NYの空港に降り立つとそこはパリとは全く違う空気を感じさせる






パリは何処となく落ち着いたイメージがあるけれど

ここは一歩足を踏み入れた途端、圧倒されるような熱気に包まれている






あらゆる人種の人々が忙しそうに先を争ってゲートへと歩いて行く






同じ飛行機から降り立った人の波に少し遅れてついて行く



のんびりとした入国審査を通過し人影もまばらになったターンテーブルから

回り続けていた自分のトランクを降ろしゲートを出ると出迎えの人々の間を

抜けてタクシー乗り場を探して歩き始めた







案内板を見ようと視線を上げたその時、私の視界の端に微かに見覚えのある

シルエットが飛び込んできた







遠くから行きかう大勢の人々を押しのけるようにしてこちらに突進してくるのは・・・






"ん・・?道明寺・・・?"






そう思った瞬間、私の元まで辿り着いた彼に渾身の力で抱きしめられた・・・






ぐぇ・・・





自分の喉元からカエルがつぶれたような声が聞こえた・・・






ぐ、ぐるじぃ・・・






抱きしめられている腕の力と懐かしいコロンの香りとで意識が遠のきそうになるのを

なんとか堪え、彼のわき腹に思いっきりパンチを打ち込んだ







『ドスッ!!』






鈍い音と共に見事にヒットした私のパンチに彼は身体をくの字に曲げ

苦しそうな表情で微かにうめき声を上げた・・・





私は彼の腕の力が少しだけ緩んだ瞬間、彼の腕の中から逃げ出した






「イテェーだろーが!何すんだよ!!」






「あんたこそ何すんのよ!手加減しなさいよね!
 死ぬかと思ったじゃないのよ!もうバカなんだから!!」






「ああぁ!何だと!?」







額に幾つもの青筋を浮かべて私を睨みつけていた彼だったが

すぐに表情は少し切ないものに変わり今度はゆっくりと優しく抱き寄せられた・・







私の髪に顔を埋めた彼の声が私の耳をくすぐる・・






「お前なぁ〜久しぶりに会ったんだぞ!
 もうちょっと何かねぇのかよ!?」






・・って・・どうして此処に道明寺が居るわけ・・?





偶然・・?



んなわけないわよね・・?







「ねぇどうしてあんたが此処に居るわけ?」






そう思って素直に疑問を口にしただけなのに・・


途端に彼の額には青筋が浮かぶ・・・






「お前を迎えに来たんだよ!!」






「だからどうして?」







ん・・?



私、なんか変なこと言ってる・・?






「どうしてって・・お前は何でNYに来んのに俺に連絡してこねぇーんだよ!?」








あっ・・・?!






「・・だ、だって・・それは・・アレだよ!アレ!!」







「アレって何だよ!?」







「アレってほら・・ギリギリまでNYへ来れるかどうか分かんなかったから・・ねっ!
 道明寺も忙しそうだったし・・」






道明寺の言葉と態度にしどろもどろになりながら

苦しい言い訳をしてみるが・・

そんなもの彼には通用するはずもなく

ますます険しい顔で私を睨みつけている・・







「ほぉ〜お前は来れるかどうかも分かんねぇーとこに
 2週間も前から予約を入れとくのか?」






「・・そ、それは念のためだよ!」






「念のためねぇ〜!?
 で、それが俺に黙ってこっちに来た言い訳なのか?」





・・・うっ!?








「言い訳ってねぇ・・べ、別に言い訳なんかしてないわよ!!」






言い訳していると言われてなんだか腹が立って

否定してみたんだけど・・・






「してんじゃねぇーかよ!言い訳!!
 それになんで俺に何も連絡してこねぇーんだよ!?
 お前、まさか・・本気で俺に会わないでロスに行くつもりだったんじゃ
 ねぇーよな?!」







「ハッハハハハ・・・」






相変わらず睨みつけている道明寺から視線を逸らし

笑って誤魔化そうとしたんだけど・・無理なようだ・・







「笑ってごまかそうとすんじゃねぇーよ!!」






「もう!いいでしょ!?今、こうして一緒に居るんだから!!
 それよりあんたはどうして私がNYに来る事知ってたのよ!?」







「姉貴だよ!」







「椿お姉さん?」







「そーだよ!姉ちゃんから連絡があったんだよ!
 お前、姉ちゃんにも何にも言わないでカメリアに予約入れてただろ?!
 姉ちゃんも3日前にお前の名前で予約が入ってるのを見つけて俺に何か
 聞いてるかって連絡してきたんだよ!!そんで航空会社の予約名簿を
 調べて今日の便にお前の名前を見つけたんだよ!!」







「そう・・でもわざわざ調べなくてもあんたこそ私に聞けばよかったのに。」







自分が内緒にしておいて酷い言い草だと思うけど・・

さっきから何だか押され気味で・・

私ってどうしてこんなに負けず嫌いなのだろう・・?






私の言葉を聞いて道明寺の額にはさらに青筋が浮かび上がっている・・





「お前だって連絡してこなかったじゃねぇーかよ!!
 俺はこの3日間ほとんど眠れなかったんだぞ!!」








「どうして?」







「お前・・本気でソレ言ってんのか?
 俺は少しでもお前と一緒に居たいんだよ!
 その為にスケジュール調整したし・・なによりこうして実際にお前の顔
 見るまで不安だったんだよ!!」






「・・だから言わなかったのに・・私が来るって言ったら
 絶対に無理すると思ったから・・私のために仕事で無理してほしくないから・・」









「無理なんかしてねぇーよ!いつも言ってんだろ!
 俺はいつだって手を伸ばせばお前に触れられる距離に
 居たいんだよ!だから早く雛連れてNYに来てくれよ。」







話しているうちに段々と声が小さくなり照れたように少し顔を

そむけている彼がなんだか可愛い・・







「ねぇ、道明寺?私、ちゃんと考えてるから・・・
 ちゃんとあんたとの事考えてるからもう少しだけ時間を
 ちょうだい・・だから私の為に無理しないで・・お願い。」








「・・分かってるよ!とにかく車待たせてあるから行こうぜ!!」








そう言うと彼は私の手からトランクを奪い取ると自分の左手に

持ち替え右手で私の手を掴み出口へと向かって歩き始めた









待っていたのは当たり前だけどリムジン・・・


やっぱり何処に行ってもコレなのね・・・



どうしてこんなにデカイ車が必要なのだろうか・・?







背の高い彼が足を伸ばせる程ゆったりとしたスペースと

高そうなレザーのシートと心地よい振動とが重なって

車が動き始めて5分としないうちに睡魔が襲ってきた・・







車に乗り込んでも俺は彼女の手を握ったままだった・・・





横にあいつの温もりを感じながらも何だか照れくさくて

視線はずっと窓の外へと向けていた






動き出してすぐに右肩に重みを感じ

俯いていたあいつの顔を覗き込むと・・・




ハァ〜・・寝てやがる・・




ったく・・やっぱりと言うかなんと言うか・・・





こんなとこも変わんねぇーんだな・・・





呆れながらも変わっていないのが嬉しくて




握り締めていた手をそっと外し彼女の肩に腕を

回して抱え込んだ頭にそっとキスを落とした・・・













【127】






いつの間にか眠ってしまっていたらしい

道明寺に揺り動かされて目が覚めた・・・






「おい!起きろ!もう着くぞ!!」








ぼんやりとする頭のままで顔を上げると至近距離で

道明寺と目が合った・・・






一瞬で自分の顔が真っ赤になるのが分かった・・・


そんな私を見て道明寺の顔も・・・








「な、なに照れてんだよ!今さら!!」







「ああああんただって真っ赤じゃん!!」







「うるせぇーよ!お前のが移ったんだよ!!」







くだらない言い合いをしているとリムジンがビルの前で止まった







「降りるぞ!」






運転手さんが開けてくれたドアから彼に手を引かれて車から降りる





行き交う人々の間を縫ってビルの中に入ると

面白いように目の前の空間が開いて行く






ここ何処・・?






みんな道明寺を避けて歩いているようだけど・・






そんな中、私は彼に引き摺られるように歩いている・・






どうしてだろう・・・?






さっきからもの凄〜く視線を感じるんだけど・・・





みんな私達を見てるの・・・?






道明寺はそんな視線などお構いなしにどんどん進んで行ってしまう・・・




私は視線から目を背けるように俯いてついて行くしかない・・・






引き摺られて歩いていると自分のペースじゃないので

息があがる・・・





エレベーターに乗り込んでやっと一息つけた





横を見上げるとそんな私の様子などお構いなしに道明寺はニヤニヤしている






気持ち悪い・・・





なんなのよ・・・!?






なんか腹立ってきた!!






ケリ入れてやる!!







『ドカッ!!』







「イテー!なにすんだよ!?」






「何すんだよ!じゃないわよ!!もっとゆっくり歩いてよね!
 あんたとはコンパスの長さが違うんだから!それにさっきから
 ずっとニヤニヤしてて気持ち悪いのよ!!」







「き、気持ち悪いとか言うな!
 お前こそそのすぐに手や足が出るそのクセなんとかしろよ!!」








「大きなお世話よ!
 それよりここ何処なの?」







「今頃かよ・・お前はいつも遅せぇーんだよ!!」







「男のクセにいちいちうるさいわね!!
 いいから聞かれた事に答えなさいよ!!」









「俺のオフィスだよ!!」








道明寺がそう言い終えた瞬間、エレベーターが止まりゆっくりと扉が開いた


彼に続いて一歩足を踏み入れるとそこはシーンと静まったフロアーだった







誰も居ないみたい・・・







そう思っていると向こうから

男性が一人もの凄い勢いで走ってきた・・・






その男性は道明寺の前で立ち止まると

床に頭が付きそうな勢いでお辞儀をしている








どうやら彼は道明寺の秘書さんらしい・・・








「司様、お帰りなさいませ。
 お迎えにあがれませんで申し訳ございません。」








額の汗を拭いながら話している秘書さんを道明寺は全く無視してどんどん歩いて行ってしまう・・・






私は秘書さんに向き直り挨拶をする





「初めまして、美作櫻です。
 よろしくお願いします。」







私に声を掛けられた秘書さんは一瞬驚いて私の顔を凝視した後すぐに






「は、初めまして、わたくし司様の秘書を勤めさせていただいております
 三ツ谷と申します。こちらこそ宜しくお願い致します。」










秘書さんと挨拶をしていると少し先で道明寺がこちらを睨みつけながら

怒鳴り声を上げた




その大声に秘書さんの身体がビクンと反応する・・・








なに・・?







どうしてそんなに怖がってるの・・・?







「櫻!さっさと来い!!」







「そんな大きな声出さなくったって聞こえてるわよ!
 いちいち怒鳴らないで!!」






道明寺に負けず劣らず大きな声で怒鳴り返した私に秘書さんが

驚いてその場で固まってしまっている・・・






恐らくここで彼に怒鳴り返せる人なんて居ないのだろう・・・







ねぇ、道明寺?






あんたここでどんな生活してきたの・・?


















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