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【138】



マンハッタンを抜けて車が少しスピードを上げた



小一時間ほど走った所で段々と周りの景色が変わり始めいる


なんだか家一軒の大きさが段々と大きくなってきているような気がする・・



それに目に入る緑も多くなってきている



前に来た時ってこんな所だっけ・・?


違うような気がするんだけど・・


記憶が曖昧でよく分からない・・



そんな思いと戦いながら車窓に流れる景色に目をやっていると


車が止まり大きな門を潜り抜けた



着いたのかな?



だけど・・



さっき門を潜ってからもう5分程が経つんだけど・・


まだ建物に辿り着いていない・・



綺麗に整えられた木々の間をゆっくりと抜けると広大な草原が現れた・・


あれ?


前の時と全然印象が違う・・


第一、門を潜ってこんなに時間は掛からなかったはず



広大な草原の向こうにやっと建物が見えてきた



す、すごい・・


何ここ?


こいつ、こんなとこ住んでるの?




豪邸なのは当然なんだろうけど・・・


日本の道明寺のお屋敷よりはるかに大きな建物で

少し見えただけでも部屋数が一体幾つあるのってぐらいの窓の数・・



車寄せに止まったリムジンから一歩降りて

建物を見上げてみると天高く聳え立つお屋敷に圧倒される


当然、扉だってデカイ・・


その扉が目の前でゆっくりと開いた



道明寺は車から降りて呆然としている私の手を引っ張り

私を引き摺るようにお屋敷の中へと入っていく


ゲッ・・!



一歩中へ入ると大勢の使用人さんが一列に並んでお出迎え・・・

思わず道明寺の後ろに隠れた・・


「司様、お帰りなさいませ。」


一斉に下げられる頭・頭・頭・・


その前を彼の後ろ隠れるに引き摺られていく



ハァ〜・・こういうのって苦手だなぁ〜・・


溜息をつき俯きながら歩いていた私の足元に棒の先のような物が目に入った


ん?

杖?

驚いて顔を上げると・・

そこには・・

タマさん・・


「タマ先輩!」

「つくし!」


私は彼と繋いでいた手を振りほどきタマさんに駆け寄り抱きついた・・











【139】



「まったく・・この子は・・
 ほら!つくし!ちゃんと顔を見せておくれ。」




「ごめんなさい・・心配かけて・・」




「全くだよ・・どれだけ心配したと思ってるんだい。」




「ごめんなさい・・」





「でも、よかったよ・・つくしが無事で居てくれて本当に良かった・・
 こうやって生きてるうちに会えて嬉しいよ。
 つくし、よく戻ってきてくれたね。これからは坊ちゃんの事は頼んだよ!
 もうこの年寄りには坊ちゃんの相手は無理だからね。」




「・・はい・・」





タマさんの言葉を聞きながら涙が止まらない・・



ここにも私の事を心配し待っていてくれた人が居た・・




タマさんと二人、涙でぐちゃぐちゃになっていると

すっかり存在を忘れられ不機嫌になってしまった

道明寺の怒鳴り声が聞こえてきた




「タマ!余計な事言うなよ!
 俺は着替えてくるからその間、こいつの相手しててくれ!」




道明寺はそういい残すと自分の部屋へと行ってしまった



私はタマさんに手を引っ張られリビングへと移動しソファーへ腰を下ろした



いろいろ話したい事があるのに上手く纏まらない・・



ただ思いがけずタマさんと再会できた事が嬉しくてずっとタマさんの手を握っていた・・




「椿様からつくしが美作家に引き取られてたって聞いたときは
 本当に驚いたよ。・・ったく旦那様まで噛んでたなんてね・・
 人が悪いよ・・」





「ごめんなさい・・」





「いいんだよ。つくしが謝る事じゃないからね。
 ところで坊ちゃんの娘がいるんだってね?
 坊ちゃんが嬉しそうに話してくれたよ。」






「はい。雛って名前で6歳になりました。
 今は小学校に通ってます。」





バッグの中から雛の写真を取り出しタマさんに手渡すと

タマさんは写真の中の雛を愛おしそうに眺め





「本当に坊ちゃんの幼い頃にそっくりだね。」





「外見だけじゃなくて性格も彼にそっくりなんです。」





「本当かい・・それじゃあつくしも大変だね。」





「はい、毎日振り回されてます。」




「誰が大変なんだ?」





後ろから急に道明寺の声が聞こえてきて驚いて振り返ると

着替えを済ませいつの間にかリビングに入ってきていた

彼が不機嫌そうに立っていた




そんな彼の様子を全く気にする事なくタマさんは平然とした顔で






「つくしに決まってるじゃないですか。」






タマさんの言葉に道明寺の額に青筋が立ち始める・・






「どうしてこいつが大変なんだよ?!」






「おや?坊ちゃんの頭ではお分かりになりませんか?
 あまり我が儘ばかりおっしゃっているとつくしに愛想をつかされてしまいますよ。
 気をつけてくださいね。タマにはもう坊ちゃんのお相手は無理ですから。」






「う、うるせぇー!」





タマさんの嫌味に怒鳴り返しながらソファーの後ろから


私の腕を引っ張り上げた




「櫻!行くぞ!!」





「ちょ、ちょっと!何処行くのよ!?」






「屋敷の中を案内してやる!
 まぁ全部は無理だけどな。」





一体ここってどれぐらいの部屋数があるんだろう・・?






「ねぇ、ここって前のお屋敷と違うわよね?」






「ああ、半年程前にここに移った。
 今、ここに住んでるのは俺だけだ。」




「そ、そう・・」





半年前って言ったら私と再会した後よね・・






「・・もしかして・・私と雛のためにここに移ったの?」




「ああ。」





「どうして?」





「あの屋敷・・お前、いい思い出ないだろ?
 俺だってあそこにはいい思い出はねぇーし。
 ここにしたのは緑も多くて環境もいいし、近くには雛が通うのに
 ちょうどいい小学校があるからな。子供を育てるのにはいいと思ったからな。」






「そ、そう・・ありがとう・・」




私の言葉に彼は笑顔になり大きな手が私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた・・・









【140】




俺の使っている部屋だと言って通された部屋に入ると


開け放たれていた窓から微かにバラの香りが入ってきていた


ゆっくりと部屋を横切り窓に近づくと段々と強くなっていくバラの香り



風に揺れているレースのカーテンをくぐりテラスへと足を踏み出すと

眼下に広がっていたのはローズガーデン





凄い!






綺麗に手入れされたバラが色とりどりの花を咲かせている





しばらく見惚れていると私の横で同じ様にバラを眺めていた道明寺が

穏やかな笑顔を向けていた





「どうだ?気に入ったか?」




「凄い!・・これも作ってくれたの?」




「ああ、パリに似てるだろ?」




「うん・・ありがとう・・」




そう言うとふわりと後ろから抱きしめられた・・



彼はここで私と雛のために出来る限りの事を


実行に移してくれている・・


私は彼のためになにが出来るのだろうか・・?




しばらくその体勢のままでバラを眺めていたんだけど・・



視線を前に向けると目の前に広がっているのは広大な草原・・



ん・・?



なんて表現すればいいんだろう・・?




ずーっとずーっと向こうまで



見渡す限り青空と芝生のコントラストで



それに手入れの行き届いた木々が生い茂っている





「ねぇ?何処までがここの敷地なの?」





「あ〜日本の屋敷の3つ分ぐらいじゃねぇーか?」




興味なさそうに日本の3つ分ぐらいと言った彼の言葉に唖然としてしまう・・



思わず彼の腕を外し振り向いて彼の顔を見上げた



日本の3倍って・・



ダメだ・・眩暈してきた・・



唖然としたまま目の前の景色と彼の顔を見比べていると



彼は私の頭をポンポンと軽く叩くと





「これ全部、お前と雛のもんだよ。」





「・・あ、ありがとう・・」




ん・・?



今日、私ってこればっかりじゃない?


けど・・この場合、ありがとうでいいのよね?



いや・・とりあえずお礼は言ったけど・・



ん・・?



なんか混乱しちゃっててよく分かんない・・



そんな私の様子にきがついていない彼は



「よし、じゃあ次行くぞ!」




私はお屋敷の中を彼に手を引かれて歩いている



大人しく彼に手を引かれて歩いてるなんて私らしくないけど



今、ここで彼とはぐれたら私は確実にお屋敷の中で迷子になってしまう



そう思って大人しくしてるんだけど・・




もう!ここって一体どれだけ部屋数があるのよ!?



上機嫌の道明寺に案内されたのは屋内の温水プール


25メートルプールで7レーンもあって・・



水深も自動で調整出来るようになっているらしい



その他には何で3箇所もジムがあるわけ?



それに映画館かって思うくらいの広さのシアタールームに




それとは別にオーディオルームって言うのもあるし



全天候型のテニスコートが5面あって



その横にはバスケットコートまで・・



そして止めは私専用の撮影スタジオまで用意されていた




「どうだ?」





どうだ?って言われたって何て答えていいのか分かんないわよ!





「・・あ・・うん・・とにかく凄い・・と言うか・・
 何て言ったらいいのかよく分かんないんだけど・・
 あ、ありがとう・・」





再び彼の大きな手で頭を撫でられた・・



何だか子供扱いされてない?!





「よし!じゃあそろそろ出かけるか!」





へっ・・?



今度は何?





「どこ行くの?」




「デート!デートすんだよ!
 お前とNYでいい思い出作るんだよ!」



それだけ言うと彼は私の手を掴んで部屋を出た





私がこのお屋敷の本当の凄さに気がつくのはまだまだずーっと先の事となる・・










【141】





エントランスへと出て再び驚いた・・


てっきりまたあのバカでかいリムジンが止まっているものだとばっかり


思っていたのに・・




車寄せに止まっていたのは真っ黒なスポーツカー




思わず足を止めてしまった





「どうした?乗れよ!」





彼は助手席のドアを開けて私に乗るように促してるけど




「・・あっ・・う、うん・・てっきりリムジンだと思ったから・・
 ねぇ、あんたが運転するの?」





「ああ。」





「運転できるの?免許持ってる?」





「お前、俺の事をなんだと思ってるんだ?
 車なんて中坊の時から運転してるしお前だって乗った事あるだろーが!」





だから聞いてんのよ!!





「あんた免許っていつ取ったの?」





「こっち来てすぐにだよ!」





「どうやって免許取ったの?
 ちゃんと試験受けたわよね?」




「お前、さっきから何訳の分かんねぇー事ばっか言ってんだよ!?
 それに試験ってなんだ?免許取んのに試験なんて受けんのか?」





「あ、あんた一体どうやって免許取ったのよ!!
 世間一般では免許は試験を受けて合格したら貰えるものなのよ!!」




「だからさっき言っただろーが!
 こっちに来てすぐに貰ったんだよ!
 分かったか!ほら!さっさと乗れよ!行くぞ!!」





「ヤダ!!」





「どうしてだよ!?
 うだうだ言ってると無理矢理放り込むぞ!!」




「ヤ、ヤダ!!」




「だったら理由を言えよ!
 俺の車に乗れない理由をな!!」





「・・こ、怖いからに決まってんでしょ!!」






「んだとー?!なんで俺の運転する車が怖いんだよ!?」





「免許取ったんじゃなくて貰った人の運転する車なんて怖いに決まってんでしょ!
 どうしてもその車で行くって言うんだったら私が運転する!!」





「私がって・・お前こそ免許持ってんのかよ!?」





「持ってるわよ!私はちゃんと試験を受けて合格したの!
 ・・あ、あんまり運転はしたこと無いけど・・」





「バカか?お前の方こそ怖くて乗れるかよ!
 いいからウダウダ言ってねぇーで早く乗れ!!」





「ヤダ!どうしてもって言うんだったらジャンケンで決めよう!」






車の前でギャンギャンと言い合いを繰り返していると


後ろからタマさんの声が聞こえてきた






「いつまでそこで言い争いをしてるつもりですか?
 さっさと出掛けないと日が暮れてしまいますよ。
 つくし!さっさと助手席にお乗り。
 坊ちゃんもつくしが隣に乗ってるんだから無茶な運転はしないよ。
 安心して楽しんでおいで。」




タマさん知らないのよね・・私が昔、彼の運転する車に乗った事があるって事・・



だけどタマさんには逆らえない・・




私は渋々ながら助手席に身体を滑り込ませた




道明寺は私がタマさんの言葉に従ったのが不服そうだったけど


私が乗り込むのを確認すると自分も運転席に回り込んできた




道明寺の運転は自分で言うだけあってさすがに上手かった・・


まぁ・・私が運転するより安全かも・・


これは口が裂けても言わないけど・・






再び門へと向かって敷地内を走っていると車と併走している馬が見えた・・



馬?と思い振り返って確認してみるけど




やっぱり馬は馬で・・




それもサラブレッドで1頭だけじゃない




それにぜん〜ぶ白馬なのは何故?



どうして馬がいるわけ?




道明寺って乗馬の趣味なんてあったっけ・・?






「ねぇ?あんたって乗馬なんてしたっけ?」





「いいや。ガキん時に乗った事あるけどそれっきりだ。」





ハンドルを握ったままあっさりと否定した彼に益々疑問が膨らむ





「じゃあ、どうして馬がいるわけ?
 それも白馬ばっかり。」





私の問いかけに彼に少しバツの悪そうな顔をしながらも

何故か嬉しそうに馬がいる理由を話し始めた



その理由を聞いて私は呆れて開いた口がふさがらない・・






「こないだ雛から馬車が欲しいって電話が掛かってきたんだよ。」






はぁぁぁぁ?



もう!あの子は・・




確かに雛は最近、シンデレラの馬車に嵌っている・・


パリのお屋敷でも危うく庭に馬車が置かれそうになったけど

寸でのところで回避していた・・




だって馬車よ!



いくら広いお屋敷だって言ったってあんなので走り回るスペースなんて無いし


何より馬車なんて一体幾らすると思ってんのよ!!



子供のおもちゃに本物の馬車なんて冗談じゃない!


そう思って彼女には馬車のレプリカで我慢させていた・・


でもこれにしたって部屋に置くには十分大きくて

小さな雛一人ぐらいだったら十分乗れるし何より内装が本物そっくりなんだから!




それで納得してくれてると思ってたのに・・



お父様方には馬車は止めてくれるようにきつくお願いしておいたけど



こんな所にもう一人居たのね・・




もう・・




あ〜あ〜頭が痛い・・







「ねぇ、馬って何頭ぐらいいるの?」




「今はまだ10頭ぐらいじゃねぇーか?」




今は・・?





唖然と運転している彼の横顔を眺めてしまう・・




あ〜そうだ・・こいつってこういう奴だったんだ・・




加減を知らない・・





「雛のためだとしても10頭も必要ないでしょ!?」




「バカだな!馬には相性ってもんがあんだよ。」




「そんな事分かってるわよ!!」





そんな事でバカだって言われたくない!!



ハァ〜でも彼に言っても無駄なんだろうなぁ〜・・



馬でよかったって思うべきなんだろうか?



きっと彼なら雛がライオンが飼いたいと言ったら・・



いやライオンに関わらずトラだろうが鯨だろうがきっとお金に物を言わせて

何とかしてしまうんだろうなぁ・・

そう思ったら馬が10頭ぐらいでよかったのかも・・?




だけどそういう問題じゃない!!





「甘やかさないでって言ったでしょ!
 雛の言った事いちいち真に受けないで!」





「いいじゃねぇーかよ!
 雛が俺になにか言ってくるのってそうそうねぇーんだから!
 雛が言った事はなるべく叶えてやりてぇーんだよ!」




私は雛が最近、よく彼に電話を掛けているのは知っていた


彼女は何か欲しい物があるとまず母親である私に言ってくるが


ダメだと言われると次はあきらに行く



あきらは最近は私がしつこく言うからだろうけど・・


多分、道明寺にも気を使ってかあまり雛の我が儘を受け入れなくなっている




私もダメ、あきらもダメとなると彼女はおじい様方に連絡をしようとする


だけどお忙しいおじい様方に簡単に連絡がつかない時は


NYの道明寺に連絡をしているらしい




但し、彼女の場合、思い立ったらなので時間も時差も関係ない




まぁ、道明寺の場合はどんな時間だろうと何処に居ようと

雛からの電話には喜んで応えるんだろうけど・・





雛も道明寺が自分に甘いのは十分承知した上で


彼に電話をしている確信犯だ・・





「とにかく雛を甘やかさないでね。
 それから生き物もこれ以上増やさないでね。」




とりあえずこれ以上、馬が増えないように釘を刺しておく




「分かってるよ!」





不機嫌な声で前を向いたまま返事が返ってきた




多分、彼は分かっていない



とりあえずこの話を終わらせるために返事しただけだと思う・・





私の溜息と共に車はマンハッタンへと戻って行く・・・















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