【147】 【148】 【149】 【150】 【151】






【147】




誰かに揺り動かされる感覚に目が覚めた



『・・くし・・つく・・し・・』



「ん〜・・?」



ゆっくりと目を開けるとベッドサイドにタマさんの姿・・



「つくし!起きるんだよ!
 まったく何時まで寝てるつもりだい?」


「えっ・・?」


「ほら、早く起きて仕度しないと飛行機に乗り遅れるよ!」


「タマさん?」



「そうだよ!寝ぼけてないでさっさと仕度をおし。
 坊ちゃんはとっくにお出かけになったよ!」


「・・い、今、何時ですか?」



「9時を少し過ぎたところだよ。ほらシャワー浴びてすっきりしておいで。
 仕度してダイニングに来るんだよ、朝食の準備をしておくからね。」


「は、はい。」



大急ぎでシャワーを浴び着替えを済ませダイニングへと行くと


朝食とは思えない豪華な食事が準備されていた



焼きたてのクロワッサンを食べながら考えていた事は


道明寺はどうして寝ている私を起こさずに仕事に行ってしまったのだろうか?


という事・・


起こしてくれればよかったのに・・


こんな広いダイニングで一人で食事するのは寂しいのに・・


だけど彼は毎日、ここで一人で食事をしてるのよね・・?


彼も寂しいはず・・・


人一倍、寂しがりやなのに・・


彼に寂しい思いをさせてるのは私・・・?



私はいつかこのお屋敷で生活する日が来るのだろうか・・?



それはまだ分からないけど


この先にどんな未来が待っていようとその前にやらなければいけない事がある









今日はいよいよロスへと向かう



ロスの空港で雛と待ち合わせている

彼女は私の乗る飛行機の30分ほど後に到着するエールフランスでSPさんに私の秘書さんと共にやってくる



午前11時前、そろそろ空港へと向かわなければならない


荷物はすでに車へと運び込まれていて、後は私が乗り込むだけ



エントランスへと出るとタマさんが待っていてくれた



「つくし、遅いよ!
 さっさとおし!」


「すみません。
 タマさん、お世話になりました。会えて嬉しかったです。」



「何言ってんだい!あたしもあんたと一緒にロスへ行くんだよ。」


「えっ?」



「心配性の坊ちゃんが向こうで雛お嬢様の面倒を見てくれっておっしゃったんだよ。」



「道明寺が?雛の?」



「そうだよ。全く坊ちゃんも年寄りをこき使うったらないよ。」



「ご、ごめんなさい。」


「いいんだよ。つくしが謝ることじゃないからね。
 つくしも向こうでは仕事が入っているんだから、あたしが雛お嬢様の面倒はちゃんと見るから
 安心して仕事に専念しとくれ。大丈夫だよ、子守なら坊ちゃんで慣れてるからね。」



「よ、よろしくお願いします。」



「任せときな。ほら、行くよ!」



う〜ん・・予想外の展開だけどタマさんが雛の面倒を見てくれるんだったら安心かも


きっと道明寺もそう思ってタマさんに任せてくれたんだよね


でも大丈夫だろうか?


雛は心配ないと思うんだけど・・


タマさんがちょっと心配かも・・・











【148】










夜には予定通りロスの空港に到着した





雛の乗った飛行機もたった今、到着したとアナウンスが流れている





後20分ほどで雛に会える






たった3日だったけどやっぱり離れていると淋しい







普段は我が儘ばっかりで振り回される事が多いけど






一緒じゃないとなんだか落ち着かないのよね







目の前の到着ゲートからは次々と人が吐き出されてくる







その中にSPさんに手を引かれてご機嫌の雛の姿が見えた








「雛!」






「ママ〜!」






SPさんと繋いでいた手を振りほどき駆け寄ってきた雛を





抱きしめると雛から微かにバラの香りがした







雛にタマさんを紹介し迎えに来ていた車に乗り込んだんだけど・・






この車・・・







椿お姉さんが用意してくれた物・・・






やっぱり道明寺のお姉さん・・・








バカでかいリムジンだし泊まるところだって是非、私の屋敷に泊まって!






となかば強制的にお姉さんのお屋敷に決定してしまった









空港から30分ほどでお屋敷に到着すると当然、派手なお出迎えつきで





名前を呼ばれたと同時に渾身の力で抱き締められる・・・






それにしても・・・






ここも凄い・・・







東京にしてもNYにしても道明寺家のお屋敷ってどこも豪華だけど






ここだって負けてない・・・





一目で高価だって分かる壷や絵画が飾られてる・・・




思わず繋いでいた雛の手を強く握りしめた






いつもパリのお屋敷で走り回っている彼女だから





ここも同じ調子で暴れ回らたりしたら大変だわ







SPさんには雛から絶対に目を離さないように言っておかなくっちゃ!










エントランスまで出迎えに出てくれていたお姉さんに案内されてリビングへと移動する




椿お姉さんの旦那様はまだお仕事から戻られていなかったけど




椿お姉さんと明日からの仕事の予定を軽く打ち合わせをしていた





その打ち合わせも終わりかけた頃、椿お姉さんの発した言葉に絶句してしまった・・





"4日後に開かれる修平さんのパーティーに櫻ちゃんも是非、参加してね。"


"司もNYからパーティーに出席するためにこっちに来る予定になってるのよ。"





だって・・





あいつ・・NYでそんな事、一言も言ってなかったじゃない!





そして止めは





"櫻ちゃんのドレスはこっちで用意してあるからね。"




なんて笑顔を言われたら拒否なんて出来ない・・






思いがけずパーティーという大仕事が入ってしまった





どうしよう?





苦手だなぁ〜




あ〜あ〜!




ウダウダ考えてたって仕方がない!





なるようにしか成らないんだから!!






そう思ってその日はさっさとベッドへと入ってしまった






雛も初めての一人旅で疲れたのかベッドに入ると





絵本も読まずにすぐに眠りに落ちてしまった








翌日からは一日中、びっしりと仕事が詰まっていて忙しかったけど





大したトラブルもなく順調に進みあっという間に3日が過ぎてしまった







雛は私が仕事に出かけている間はずっと椿お姉さんのお屋敷で






タマさんに相手をしてもらっていてすっかりタマさんに懐いている







タマさんのお陰で私は仕事に専念する事が出来き








カメリアホテルへの出店準備も整い後は3ヶ月後のOPENを目指すだけとなった










【149】











ロスに来て4日、残すは私にとって最大の難関である


今夜のパーティーを無事に乗り越えれば




明日は雛を連れてディズニーランドへ行くだけ




何度も言うようだけどパーティーは苦手





いい思い出はない・・





まず思い出すのが道明寺の誕生日パーティー





あれはサイアクだった




あの頃の私って・・




道明寺のお母様に溝鼠って言われたんだっけ・・・?




人間扱いされてなかったのよね・・




まぁ〜そう考えると今は晴れて人間に昇格して・・




表情は相変わらず無表情だけど




事故で入院していた時だってわざわざ病院にお花を届けてくれたり





道明寺にお休みをくれたり・・・





う〜ん・・変われば変わるものね・・






あ〜でも・・そんな事よりも・・どうしよう・・?





今夜のパーティー・・






パーティーはお姉さんのご主人の修平さんのお誕生日パーティーで


このお屋敷で開かれる事になっている





さっきタマさんにチラッと聞いただけなんだけど





招待客の顔ぶれが半端じゃないの!!







大企業のトップはもちろんだけど各国の大使や政治家




それにハリウッドの俳優さん達




その他スクリーンやメディアでよく見かける名前がズラーっと並んでいる




それだけで足がすくんじゃってるのに椿お姉さんは





"いい機会だから皆さんに紹介するわね♪"





なんて満面の笑みで宣言されて・・



もうここから逃げ出したい心境よ・・・







時計は午後2時、ランチの後、椿お姉さんに捕まって(?)しまい



強引にエステを受けさせられている





隣では何故か?






"私もママと一緒にエステする〜"





と言い張った雛があまりの気持ち良さに口を開けて眠っている





ハァ〜・・この子は・・




誰に似たんだろう・・??





私・・?





道明寺似の完璧な容姿で似なくてもいい所だけ私に似ている




そう言う私もエステのあまりの気持ち良さに夢の中に漂い始めていた所へ





ノックも無しにいきなりドアが開いて・・・






バカが飛び込んできた!?
















【150】










ロスへ行くために徹夜で仕事を片付け、朝一番でジェットに飛び乗った




逸る気持ちを抑えつけ空港から迎えの車に乗り込む




空港からは30分ほどで姉ちゃんの屋敷へと着いた





慌てて出迎えに出てきたメイドを無視してタマを呼ぶ





タマの野郎!






俺の大声にも全く動じることなくゆったりとした動作で出てきやがる!!






「タマ!!」






「あら、坊ちゃん、お早いご到着で。」







そんな事どうでもいいだろうが!






「櫻と雛は何処だ?!」






「騒々しいですね。
 そんなに大きな声を出していただかなくても十分、聞こえておりますよ。」








「うるせぇー!!さっさと質問に答えろ!!」







「お二人は南側の一番奥のゲストルームにいらっしゃいますよ。」







何処の部屋かだけを聞くと自然と足が動いていた



タマがまだ後ろから何か言っていたが耳には入っていなかった







このドアの向こうに二人が居ると思ったら


やっぱり逸る気持ちを抑えることなんて出来い





思わずノックもせずにドアを開けて部屋へと飛び込み・・





視界に入ってきた物にその場で固まってしまった









部屋に飛び込んでまず目に入ってきたのは櫻の真っ白な背中で・・






櫻の方は突然、出現した俺に大きな瞳をこれでもかってぐらい見開いたまま






驚きで声も出せずに固まっている





櫻は上半身は何も身につけてなくて






髪もアップにしているから





首筋から背中、腰の低い位置まで素肌が見えている







真っ白で柔らかそうな素肌でうつ伏せに寝転がって腕を枕代わりに




顔の下にしているため押しつぶされた胸のふくらみが


脇のすぐ下からはみ出している





妙に艶かしいその姿に理性がぶっ飛びそうになる・・





いや・・すでにぶっ飛んでしまっている・・





櫻の元へと歩み寄ろうと一歩踏み出しかけたその時




足に何かが引っ掛かり思わず前につんのめりそうになった








「ウォッ!!」







すんでの所で無様に転ぶのだけは回避出来たのが





足にはまだ何か引っ掛かったまま





下を見ると俺の足には杖の先が引っ掛かっていた






「坊ちゃん、何時から女性の部屋にノックもせずに入るような
 礼儀知らずになったんですか。」






そうだった・・・





「あ、ああ・・わりぃ・・」





俺はバツの悪さを隠すために素っ気無く返事を返しただけで


視線は目の前の櫻の背中に置いたまま





綺麗な背中の誘惑には勝てなかった





櫻の元までゆっくりと歩み寄りむき出しになったままの背中に口唇を寄せた






途端に櫻の身体が真っ赤に染まる




変わんねぇーな・・




こんなところも・・・







「・・ちょ、ちょっと何してんのよ!?バカ!!」






慌てて抗議の声を上げている櫻は無視して隣へと視線を移すと・・





ハァ〜・・・






気持ち良さそうな顔で雛が眠ってやがる






「お前、まだ終わんねぇーのか?」





「えっ?・・あっ、もうすぐ終わると思うけど・・?」






「じゃあ先に雛連れて行くぞ!
 俺は昼めし喰ってねぇーから腹減ってんだ、軽くでいいから何か用意してくれよ。」






「あっ・・うん、分かった。」






雛を抱き上げて部屋を出て行こうとした時、櫻の声が追いかけてきた






「ねぇ、雛の洋服着替えさせてね。
 それからそろそろ起こして、このままだと夜寝なくて大変だから。
 あっ!その子、無理やり起こすと機嫌が悪くて大変だから気をつけてね。」







「俺がすんのかよ?」






「当たり前でしょ。あなたがパパなんだから。
 頑張ってねぇ〜。」






頑張ってねぇ〜なんてヒラヒラと手だけを俺に向かって振ってやがる・・






「な、何かねぇーのかよ?こいつの機嫌が悪くなんねぇ方法?」




「う〜ん、おやつだって言ったら少しはマシかも?」





「・・食いもんかよ・・」






「何でもいいからお願いね。」




櫻の声に追い立てられるように部屋を出たけど・・・





「坊ちゃん、お顔が緩んでますよ。」





「うるせぇーぞ!タマ!
 俺の事より雛の着替え持って来い!」






「はい、はい。」





タマは最近ではいちいち俺をからかいやがる!




まぁ・・顔が緩んでんのは認めっけどよ・・






何度か眠ってしまった雛を抱いた事があるけど


その度に思うことは起きている時の元気の良さからは


想像もつかない程軽く小さな身体




今はしっかりと閉じられている瞼の下にある母親譲りの大きな瞳も


俺の事をパパと呼んでくれる小さな口も


俺に似てクセのある髪も・・





雛の全てが愛おしく感じる






櫻を好きだと自覚した時とは違う心の熱さが


雛を見ていると湧き上がってくる





その熱さは妙な安心感を伴って俺の心だけじゃなく


身体全体を暖めてくれる








櫻に言われたとおり雛を着替えさせようとするのだが・・



なかなか上手くいかない・・






結局はタマに手伝ってもらい・・






・・って最後にはほとんどタマ任せで俺は見ていただけだったが・・





なんとか着替えさせることは出来た




着替えさせている途中で目を覚ました雛は予想以上に機嫌が悪く手ごわい・・





なんとか宥めようとするのだが何を言ってもダメで




"ヤダ!!"の一点張りで抱き上げている俺の腕の中から逃れようともがいている






仕方なく床に降ろすと今度は何で降ろしたと言わんばかりの表情で


床に座り込み泣きながら俺の足を蹴っている







ハァ〜・・こんな時はどうすりゃいいんだ・・?





雛、お前はどうして欲しいんだよ・・?





・・って、きっとこいつも分かんねぇーんだろうな・・






オロオロしている俺を見てタマが笑ってやがるのがムカつくけど



とりあえず雛の機嫌を何とかしねぇーとな・・






もう一度、雛を抱き上げソファーに座り


自分と向き合いように膝に座らせ腕の中に納めてしまい


まだ泣いている雛の背中をゆっくりと撫でる






背中を撫でていると泣いていた雛も落ち着いてきたのか



泣き止み俺の顔を見上げている





雛が泣き止んだのを見届けるとタマがそっと部屋を出て行った






「パパ?」





「ん?どうした?もう大丈夫か?」





「ママは?」






「ママはまだエステしてもらってる。
 おやつ食べてもいいって言ってたぞ。」





「ほんと?」






「ああ、食べるか?」






「うん、食べる!」






「そっか、じゃあママも呼びに行くか?」






「うん。」














【151】






エステが終わり道明寺と雛の元へと向かう途中の廊下でタマさんに会った




タマさんは私の顔を見るなり立ちどまり






「つくし、あんたのお陰でいいもんが見れたよ」






何のことを言われているのか分からずにキョトンとしていると






「坊ちゃんだよ!坊ちゃんのあんな姿を生きてるうちに見れるなんて
 思ってもみなかったからね。いい冥途の土産になったよ、ありがとう。」






思いがけずタマさんに"ありがとう"と言われて



不意に熱いものが込み上げてきた・・






どうしてだろう?





きっと私は心のどこかでずっと不安だったんだ・・





記憶を取り戻す事は出来たけど





7年前に置き忘れてきた感情に呑み込まれそうで




上手くコントロール出来なくて・・





そんな私と雛の存在が道成寺の負担になるんじゃないかって・・




彼は私と雛の為だったら何を犠牲にしても惜しくないと思うだろう・・




だけど・・




いきなり6歳の女の子の父親になる事に




戸惑いを感じてるんじゃないかって・・





その事が彼の負担になってるんじゃないかって・・




ずっと考えていた





だけど今のタマさんの言葉でその不安が少しだけ解消された気がした





心が少しだけ晴れた気がする





泣き出してしまった私にタマさんは






「泣くんじゃないよ!私が泣かせたみたいじゃないかい!」






そう言ってハンカチを差し出してくれた






ハンカチを受け取り涙を拭いていると雛を抱いた道明寺がこちらに向かって歩いてくるのが見えた





彼は私が泣いているのを見て驚いている




そうよね・・




私自身驚いてるんだもん・・






「お、お前、なに泣いてんだよ?!
 タマになんか言われたのか?」






泣いてるところを見られたのが恥ずかしくって




返す言葉も態度もついついぶっきらぼうになってしまう






「そんなわけないでしょ!
 いいからほっといてよ!それよりお腹すいてるんでしょ?
 中庭のテラスに準備してもらったから早く行こ!」






泣いている理由を誤魔化すように早口で捲くし立てる私に



道明寺はまだなにか言いたそうだったけど




小さくタメ息を吐き出すとそれ以上はなにも言わずに




雛を抱いていた片手を私の肩へと回して歩き始めた





テラスでは道明寺は軽めの食事を摂り雛はおやつに用意してもらったチョコレートケーキを




口いっぱいに頬張っている



私はそんな二人を眺めていた






食事を終えた道明寺が何処からかバスケットボールを持ち出してきて雛と遊び始めた





中庭に置かれていたゴールポストへ次々とフリースローを決めていく彼に雛が歓声を上げている





雛もボールをポストへ向けて投げているけど




雛にはバスケットボールもゴールポストも大きすぎて




何度やっても上手くいかない






雛は彼に肩車をしてもらってやっとゴールを決めることが出来た




庭には雛の歓声と道明寺の笑い声が響いていた
























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