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【152】






ハァ〜・・




どうしてタメ息なんてついてるかって?






原因は今私の目の前にあるコレ・・





さっき椿お姉さんから届けられた





椿お姉さんが今夜のパーティの為に用意してくれたドレスなんだけどね・・・





"櫻ちゃんの為に選んだドレスなのよ。
 是非、今夜のパーティはこれを着て出席してちょうだいね"





と満面の笑みで手渡されたドレスは




有名デザイナーさんの一点物ですごく素敵なんだけど・・





真っ黒なシルク素材でデザイン自体はシンプルなんだけど



お尻が見えそうなぐらい背中が開いてるし肩紐は細くて心細いし



前だって胸元が強調されちゃってて・・




そりゃ・・雛を出産直後だったら胸だってそれなりにあったけど



今はすっかり元通りの大きさに戻っちゃってるんだもの・・




似合わない・・




絶対に私には似合わない・・




きっと椿お姉さんや静さんが着ればすっごくセクシーで素敵なんだろうけど





私じゃ無理だ・・!





だけどいつまでもタメ息をつきながらドレスを眺めているわけにもいかない





さっきから私の着替えを手伝うために部屋に入って来たメイドさんの視線が痛い・・




それにそろそろ時間切れ



本当に仕度始めなきゃ!





着替えを済ませメイクをしてもらっているとノックの音と共に道明寺が入って来た




長い足で私の半分ぐらいの歩数で私の座る鏡の前まで辿りついた彼は



私の後ろに立ち鏡越しに私を睨んでいる・・



どうして睨まれなきゃいけなんだろう・・?





「お、おまえ・・」





「なによ?似合わないのは私が一番自覚してるんだから
 それ以上言わないでよ!」





「・・逆だよバーカ!」





「へっ・・?」





そう言って少しだけ顔を赤く染めた道明寺は



少し前屈みになると私の首筋にキスを零し始めた・・




耳のすぐ後ろから彼の声が聞こえる・・



鼓膜に直接響いてくる彼の声





「すんげぇ・・似合ってる・・押し倒してぇ・・」





その言葉に思わず座っていた椅子から飛び退いた私・・





「バーカ!本気にすんな!」





「もう!バカバカ言わないでよ!」





咄嗟に手元にあったクッションを掴み彼へと投げつけたけど



あっさりとかわされ逆に腕を掴まれ彼へと引き寄せられる





トンと彼の胸に軽く私の頬がぶつかった




あっさりと彼の腕の中に閉じ込められて動けない・・






「ちょ、ちょっと離してよ・・」





「ヤダね」






「・・ね、ねぇ・・何か用があって来たんじゃないの・・?」





「ああ・・お前、手出してみろ」




「じゃあ・・離してよ」






離してよの言葉に彼は少しだけ身体の位置を変えただけで



自由になった私の左手を掴むとジャケットのポケットから取り出した



指輪を薬指にはめてしまった・・





へっ・・・?





思わず見比べてしまう自分の左手と彼の顔・・






「それパーティの間は絶対に外すなよ!」





「どうして・・?」





「いいから付けてろ!」





「ねぇ・・指変えちゃダメ?」






「ダメだ!パーティの間中、俺がずっと側にいる事はできねぇーから他の男が寄ってこねぇーよう男除けだ!
 ぜってぇ外すなよ!それから他の男に色目使うんじゃねぇーぞ!分かったな!」





「何よそれ・・?」





「本当は正式に結婚するまでお前を何処に出したくねぇーけど
 そういうわけにもいかねぇーだろ?だからせめて婚約者として紹介してぇーけど・・
 まだ親父やババァに報告してねぇーし・・とにかく変な男が寄ってこねぇーようにそれ付けてろ!」






言いたい事だけ言うと私が反論する前にさっさと部屋を出て行ってしまった彼・・




彼の言いたい事は分かったんだけど・・




う〜ん・・





きっと昔の彼だったら私の意見も立場も考えないで行動してたと思うんだけど



これでも彼は彼なりに私の立場だとか考えてくれてるって事よね・・・?




指輪の位置が少し気になるけど



今夜だけはこのままで・・










【153】









いよいよパーティが始まった




まず感想は・・





凄い





この一言に尽きる





右を見ても左を見ても前も後ろも知ってる人ばっかり





知ってるって言っても私がTVやスクリーンなんかで





見た事があるってだけで一方通行なんだけど





あまりにも凄すぎて逆に冷静になっちゃう




現実離れしすぎてておとぎの世界に迷い込んだみたい・・




椿お姉さんも道明寺も次々と挨拶に来る人達に囲まれちゃってて




彼らの周りには何重にも人の輪が出来ている




道明寺なんて凄い数の綺麗な女の人達に取り囲まれちゃってて




さすがにこんな場所では顔には出てないけど





きっと内心ではうんざりしてるんだろうなぁ〜




なんて私は全く他人事のように考えていたけど・・





今夜はうかうかしてられない





さっきから私もいろんな人に声を掛けられちゃってて





ムリヤリの笑顔を顔に貼り付けたまま固定されちゃってる





パーティが始まる前に椿お姉さんからいい機会だから




これからの事も考えて顔を売っておく事も大切よ




なんて言われてたからなんとか持ちこたえてるけど




そうじゃなかったらとっく昔に逃げ出してるところ





だけど椿お姉さんに言われた通り




こっちでもお店を出すんだからちゃんと挨拶だけはしとかないとね





それにしてもいい男ってF4でいい加減免疫が出来てるつもりだったんだけど






世界って広いのね・・





今、私の目の前で微笑んでる人もすっごいハンサム





さすが俳優さんだけあるわよね・・





思わず見惚れちゃって





会話なんて全然頭に入ってこない











【154】







クソッー!あの男!





さっきからずーっと櫻の側にいやがる!!




オイ!それ以上、櫻に近付くなよ!





オイ!櫻!お前も楽しそうに笑ってんじゃねぇーよ!





いいか!それ以上、近付いたらぶっ殺すからな!






おっ!やっと離れたな!





んっ!!また違う野郎が声掛けてきやがった!





あの野郎!!





馴れ馴れしく櫻の肩に手なんて置いてんじゃねぇーよ!




クソッ!



どこ行くんだよ!?




あ〜うぜぇーー!






なんなんだよ!



さっきからハエみたいに香水の匂いをプンプンさせた女共が群がってきやがって!



腕絡ませてくんじゃねぇーよ!



アカプルコ?




なんで俺様がお前みてぇーな女とそんなとこ行かなきゃいぇねぇーんだよ!?




胸押し付けてくんじゃねぇーよ!




そんな作りもんの胸見たくもねぇーんだよ!




俺様が見てぇーのはあいつの胸だけなんだよ!!





おっと!・・こんな事考えてる場合じゃねぇ!





心の中で散々悪態を付きながら人ごみに紛れて



見えなくなってしまった櫻の姿を探す




クソッ!




どこへ消えやがった!




おっ!やっと姉ちゃんがウザイ女共から引き離してくれたラッキー!





「姉ちゃん!あいつはどこ行ったんだ?」





「えっ?私は見てないけど?」





チッ!





「ちょっと!司!どこ行くのよ?!」





「あいつを探すんだよ!」





「待ちなさい!紹介したい人が居るのよ!
 それが終わったら解放してあげるから!」





「本当だろうな?!」





「本当よ。だから先にこっちを済ませてしまってちょうだい!」





「分かったよ!」





渋々、姉ちゃんの後に付いて行って紹介されたのは50過ぎた親父で


なんでも姉ちゃんとこのホテルの取引先の社長らしいが


その社長の横にはやけに体のラインを強調したドレス姿の若い女





娘だと紹介され年が近いから話しも合うんじゃねぇーかって


さりげなく俺の方へ娘を押し出してきやがる!




冗談じゃねぇーぞ!




年が近いってだけで頭ん中空っぽの女と話しするぐらいなら



犬と話してた方がマシだってんだ!




やんわりとそれでも有無を言わせぬ口調で


その娘の相手を断るとすぐにその場を離れた





背中から姉ちゃんの小さなタメ息が聞こえてきたが関係ねぇ!




俺の目は・・





いや五感の全てがあいつだけを求めている





俺は何故こんなにも焦っているのだろう?





パーティ会場で姿が見えなくなってしまっただけなのに




あいつが俺の視界から消えた途端に言いようの無い不安に襲われる




このまま・・





また何処かに行ってしまうんじゃねぇーかって・・



すんげぇ不安になる





俺はまた一人になってしまうんじゃねぇーかって考えてしまう



馬鹿げてるって事は十分分かっている



だけど怖いんだ・・





またあいつを見失いそうで怖いんだ・・










居た!




会場の隅の方で壁に凭れるようにして一人で立っている


あいつの姿をやっと見つけた





一歩踏み出すごとに声を掛けられるが俺の足は止まることは無かった





視線はあいつに固定したままで人垣を掻き分けるようにして前へと進む

















【155】




やっとさっきまでの人垣が離れて行き




挨拶地獄から解放され近くを通りかかったボーイさんから



グラスを受け取り会場の隅っこに逃げ込んだ




知り合いの居ない場所で心細かったのだろうか?




私の視線はずーっと道明寺を追いかけていた




どんな場所でもやっぱり彼は目立つ




大して苦もなく見つけられたその姿・・






普段の彼からは想像出来ないけど何重にも仮面を被り





一応愛想よく相手の人と会話を交わしているのが見える




こんな大勢の人の中でも堂々としていて




女の人たちの視線を一身に受けている彼が




なんだか遠い存在に思えてくる




彼はどうして私なんだろう?



私はどうして彼だったんだろう?



家柄だってルックスだってスタイルだって






それこそ世界中の美女を選び放題の彼が



どうして私なんかに固執するのだろうか・・・?




きっとあきらなら司が選んだのはお前なんだから



お前はそのままで堂々としてればいいんだよ



って言ってくれるんだろうけど・・




だけど・・





こんな時はどうしても私なんかって考えてしまう



悪いクセなのかな?




とにかく自信がなくて何もかもが中途半端な気がする





彼の横に立って共に歩くという事の大変さを


今夜のパーティで改めて実感してしまった









人並みを縫うようにして彼が私の方へと向かってくる




私の視線は彼に向けられたままで外せない・・




しっかりと絡み合ったままの視線が段々と距離を詰めて行く






私の目の前で立ちどまった彼はボーイからグラスを一つ受け取ると



私の手にしていたグラスに軽く傾けてから口をつけた






「大丈夫か?」




私の顔を覗き込むような仕草を見せながら



低く通る声で優しく語り掛けてくる彼






「うん、なんとかね。
 ねぇ?挨拶はもう済んだの?」





「ああ、後少し残ってるけど後でいいよ。」





「じゃあ、先に済ませてきてよ。」





「なんでだよ?後でいいって言ってんだろ?
 今はお前と一緒に居たいんだよ!」





「私は居たくないの!」





「んだと!?なんで俺と一緒じゃ嫌なんだよ?!」





「もう!おっきな声出さないでよ!
 あんたと一緒にいると目立つから嫌なのよ!」





「はぁ?お前、そんな事気にしてんのか?!」







気にするわよ!


だってね・・




さっきから・・




正確には彼が私の方へと向かって来ている時から





それまでず〜っと彼に向けられていた多くの視線が



今は私に向けられてるんだもん




なんだか値踏みされてるみたいで居心地が悪い





もともと他人の視線だとか世間の一般常識だとか



あらゆる物を無視出来てしまう俺様の彼には



そんな視線など気にならないのだろうけど




私はすっごく気になる!






「だから離れて!」





「ヤダね!そんなもん気にすんな!
 お前は俺だけを見てればいいんだよ!」






あ〜何を言っても通じないのね・・?






そんな事言ってるんじゃないわよ!って大声出したくなっちゃうじゃない!




もう!





離れてくれないんだったら私から離れるしかないわね・・




だけど





どうやってこの場から抜け出そう?
















【156】






離れてと言ったことが余程気に入らなかったのだろうか・・?




彼は私の進路を塞ぐようにして立ち私を睨んでいる






「な、なによ?!」





「ハァ〜、いっその事ここでお前と雛の事紹介しちまおうか?」






"ブッ!"






彼がタメ息と共に吐き出した言葉に思わず飲んでいたワインを噴出しそうになる・・




冗談じゃないわよ!





「ちょ、ちょっと!なに言ってるのよ?!
 今日はお義兄さんのお誕生日パーティーなのよ!
 そんな事したらブチ壊しじゃない!余計な事考えないで大人しくしてて!」







「お前にとって俺との事は余計な事なのか?」





「そ、そんな事言ってないでしょ!?
 変な風に取らないでよ!とにかく今夜は大人しくしててお願いだから!」





「いいじゃねぇーかよ!ちゃんと紹介したら視線なんてもん気にしなくてすむだろ!」




バカ!



そんな事されたら余計に目立っちゃうじゃないのよ!






「ヤダ!私にも心の準備ってもんがあんのよ!
 勝手に話しを進めないで!もうこの話しはお終いね。
 あなたはさっさと残りの挨拶済ませてきて!
 私は雛の様子を見てくるから。」





私の言葉に納得いかないのだろう・・



彼は私の前に立ちはだかり睨んでいる





「ほら!早く行ってよ!」





軽く彼の胸元を押しのけて横からすり抜けた





会場となっているホールから脱出して一息つき



雛の部屋へと向かう




そっと雛が眠っているベッドへ近付くと





彼女は大好きなミッキーのぬいぐるみを羽交い絞めにしながら眠っていた






肩まで毛布を掛け直し彼女の頬に軽くキスをしてからそっとパーティー会場へと戻った















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