【19】





俺の高校生活も後は卒業式を残すだけとなった



パリへ向かう準備は着々と進んでいたが仲間達にはまだ伝えていない





司はお袋さんからもらった一年間の猶予で大学もそのまま英徳に進む事になっていて


類と総二郎も同じ



滋も永林から英徳へ移ってくるらしい



当然、俺もそのまま英徳に進むものだと思われている





卒業式も無事に終わり


俺達はプロムに出席していた



何故か滋も永林のではなく英徳のプロムに出席している





そんな中、プロムで一騒動起こった



司はプロムに海を伴って現れた




そのこと自体は予想された事なので大して問題じゃなかったが、


海の首にかけられたネックレスを見た時



俺の中でここ1ヶ月ちょっと張り詰めていた糸がプッツリと切れたのが分かった





ネックレスに気付いた滋がすかさず海に話しかけている






「海ちゃん、そのネックレス素敵きだね。
 どうしたの?」






滋に素敵だと言われた海は余程嬉しかったのか


自分の首に掛かっているそのネックレスのチェーンを


指にかけ持ち上げると満面の笑みで答えている




「これね〜、すっごくキレイでしょ?
 司がね海のお誕生日のプレゼントに特注で作ってくれたの〜。」





猫なで声の上目遣いで司を見ながら話している


司もそんな海を愛おしそうに見つめている





無神経な女・・・・・ここまでいくと見事だ!







「・・その形って土星だよね?」




滋の声が震えているのが分かる・・・






「うん、つくしちゃんが同じようなのしてたでしょ?
 海ね、いいなぁ〜って思ってたの。
 それで司にそのこと話したらプレゼントしてくれたの〜。」





嬉しそうに司を見上げながら海が能天気に言い終えた瞬間、


目に一杯の涙を溜めた滋の手が海の頬を思いっきりはたいていた







『バシッ!!』







ものすごい音が会場中に響き渡る・・・・・







『キャッ!痛〜い!』





海が自分の頬を押さえながら司に助けを求めてた




「滋!てめぇ、何してるか分かってんだろうな!」





司が滋にキレて今にも殴りかかりそうな勢いで睨んでいる。





すかさず類は滋と司の間に入り



総二郎もいざという時のために体を移動させた





類も怒っていた・・


類だけじゃない総二郎も桜子も今まで


見せたことないぐらいの怒りのオーラを纏っていた



そして俺は・・



俺も怒ってはいたが、それ以上に悲しかった櫻の顔が浮かんできた



俺は一瞬、あいつの記憶が無くてよかったと思ってしまった







司とにらみ合っていた類が





「司?お前たち最低の2人で良くお似合いだよ。
 まぁ〜、せいぜいお幸せに。」




そう言うと滋をかばうようにして会場から出て行ってしまった






滋と類の後を追って桜子と総二郎も



「私も同意見です。」


「俺も」



と言って会場を出て行ってしまった







最悪の状況の中俺は一人取り残された形になってしまったが司の


「あきら、お前も同じか?」


の問いかけには





「俺か・・・?俺は少し違うな・・・なぁ、司?
 お前全部思い出したらきっと死ぬほど後悔するんだろうな?
 だったらこのままの方がいいのかもしれないな・・」






「なんだソレ!お前まであの牧野とかいう女の方が大事だって言うのかよ!」





「俺にとってはどちらも大事だよ。」





そう言い残して俺もプロムの会場を後にした





記憶のない司を責めても仕方が無いのは分かっている


だけど、もういい。


俺はこの時、櫻がすべて忘れてしまいたいと思った気持ちを


はじめて少しだけ理解出来たような気がしていた





こんな辛い気持ちを櫻が経験しなくてよかった





俺もしばらくは忘れる事にするよ・・・・それでいいだろう?なぁ、牧野・・







会場を出ると類達が待ってた


全員このまま飲みに行くと言ったが俺はそんな気分にはなれず



疲れからたと言って一人プロムの会場を後にした





俺は一刻も早く家に帰りたかった


あいつの顔を見たかった




櫻の笑顔をみたかった




俺だけに見せてくれるあいつの笑顔・・



その笑顔を見ると安心できるから・・




【20】





屋敷に戻った俺は自分の部屋ではなく櫻の部屋へと直行した


俺がプロムに行っているのを知っていた櫻は、


こんなに早く帰ってくるとは思っていなかったらしく驚いている





窓辺に置かれているカウチに座り本を読んでいた櫻は俺が部屋へと


入って行くと驚いたように顔を上げたがすぐに



「お帰りなさい。早かったんだね。」





その笑顔にドキッとしてしまう・・


それを悟られないように




「ああ、つまらないから帰ってきた。」




わざと軽い口調でそう言いながら櫻の横に腰を下ろす




「いいの?そんな事言って?
 パリに行っちゃったらしばらくはお友達とも会えないんだよ?」






「いいんだよ。」





「ねぇ、あきら?その格好いいね!
 すごく似合ってる!」




いきなり立ち上がり俺の前に立つとスーツ姿の俺をまじまじと見つめている




少しづつ明るさを取り戻してきた櫻は以前のような笑顔を見せるようになっていた


キラキラしたその笑顔に思わず見とれてしまう・・・




「そうか、ありがとう。」





俺は少し俯いてそう言うのが精一杯だった・・




ヤバイ・・・これ以上この顔されたら・・



俺・・冷静でいられる自信がない・・・って、何考えてんだよ!俺は・・





俺のそんな様子には一向に気付く様子はなく



俯く俺の顔を覗きこむように首をかしげながら話を続けている





「ねぇ あきら?一つ聞いていい?」




「・・な、なんだ?」





ダメだ・・・冷静にしようと思えば思うほど声が上ずってしまう・・





「あきらってもしかしてお友達がいないとか?」





「なんで、そう思うんだ?」





何だいきなり?





「だって、あきらって学校の事とか
 お友達の事とかって全然話さないから。」





話せるわけないだろ!



そう言えるはずもなく・・・・




「あ〜そうだな。でも、友達ならちゃんといるよ。
 現にお前とも友達だったって言ったろ。」




「そういえば、そうだね。
 じゃぁ、あきらは私以外にもちゃんとお友達いるんだね?」




早くこの話題を終わらせたい…





「ああ、だから心配しなくていいよ。
 ところでお前は何を読んでるんだ?」







「あっ!これね今日、お母様に頂いたの!
 パリの本ですって。ねぇ、あきらはパリって行ったことあるわよね?」





「ああ、あるよ。」




「パリってどんな所?」





「キレイな所だよ。古い建物も沢山残ってるしな。
 それにパリの屋敷にはここよりも大きな庭があって
 お前の好きなバラが沢山咲いてるよ。」





「本当?私ねパリに行くのすっごく楽しみなの。」





「そっか、よかったな。でも出発は一週間後だからな
 それまであんまりムリするなよ。体調管理には気を付けろよ。」





嬉しそうに話す櫻の頭を撫でながら俺の心もすでにパリでの新しい生活に思いを馳せていた




「うん、分かった。」






俺は一週間後、櫻を連れてパリへと旅立った


誰も見送る人のいない二人っきりの出発・・・








【21】





俺は出発直前に空港から総二郎の携帯に連絡を入れた




「もしもし、総二郎か?」




『おう!あきらか?どうしたんだ?』





「俺、今からパリに行ってくるわ。」




『あん?何しに行くんだ?』





「留学だよ。あっちの大学に通うことになったから。」




『はぁ〜?何言ってんだよお前!そんな事、一言も言ってなかったじゃねぇーか?
 どういうことだよ?』





「急に決まったから、連絡する暇もなくて悪かったな。
 しばらくは忙しくて戻れないと思うけど元気でな。類達にもよろしく言っといてくれな。」





『えっ・・・って、お前今どこに居るんだ?』






「空港だよ。もう時間だから切るな。」





『あっ、おい、あきら・・・・!!』





切れてるよ・・・・





あきらからの電話の後、総二郎はあわてて類に電話をしていた




「もしもし、類か?」





『ダレ?』




「俺だよ!総二郎だよ。
 おい!類、寝ぼけてんのか?」




『ちゃんと起きてるよ。慌てて何かあったの?』





「今、あきらから電話があったんだ!
 あいつ今からパリに行くって!」





『どうして?』





「留学するって、しばらく帰ってこれないからって。」





『ふ〜ん、そうなんだ。』




緊迫感の全く感じられない類の声に総二郎は自分が慌てているのが馬鹿らしく思えてくる





「ふ〜んって、お前、やけに落ち着いてんな?知ってたのかよ?」





『知らないよ。でも俺たちっていつまでもこのままじゃいられないでしょ?
 たまたまあきらが最初だったってだけじゃないの?』







「まぁ・・そうだけど、何かおかしくねぇーか?
 俺達に何にも言わないで行くなんてあいつらしくねぇーし。」







『そうだけど、休みの日には帰ってくるんでしょ?
 それにパリだったらこっちから遊びに行けばいいじゃない。』





「ああ、そうだな・・」





『それより、司には知らせたの?』





「いいや、まだだ。お前にしか連絡してない。」






『そっ!じゃ教えてあげれば?俺は眠いからまたね。』





「あっ、おい!類・・・・」





切れてるよ・・・ったくどいつもこいつも・・・・






やっぱ司にも伝えなきゃいけねぇよなぁ〜・・・・



でもなぁープロム以来会ってないっちゅうか話もしてねぇーしな〜・・・・・



あーでも何で俺なんだよ!?




気が重い・・・けど・・・電話するか・・・・




あぁ〜・・・







【22】






総二郎への電話を終えると櫻が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた





「あきら、どうしたの?大丈夫?電話、もういいの?」




「・・えっ・・ああ?」





「なんか、すっごい顔してるよ?」




「そうか?何でもないよ。」





そう言って櫻に微笑んでみせると安心したよう櫻も微笑を返してくれる。






「そう、よかった。
 ねぇ、私って飛行機乗ったことあるのかな?」





「あるよ。」





「ふ〜ん、でも、憶えてないんだから初めてと同じだよね?」





「そうだな。」




「フフフッ・・・」





「なんだよ?何、急に笑ってるんだ?」





「えっーとね、記憶が無いのもこんな時は楽しいかなぁ〜って思って。
 だって、初体験な事がいっぱいあるんだもの。」






「ハハハハ…お前らしいなぁ。その考え方。」





「私らしい…?
 そっか、やっぱ記憶が無くても性格までは変わらないのかな?」





頬を薄っすらと赤く染めて少し俯き加減で私らしいと言う言葉を喜んでいる


記憶を失くしてしまい自分が17年間使ってきた牧野つくしと言う名前さえも


分らなくなってしまった彼女は自分の言動、行動、全てにおいて自信が持てず


懐疑的になっている




確かに明るさを取り戻し少しづつだが笑顔を見せてくれるようにはなった




だけど今、俺の目の前にいる彼女はあの頃の牧野つくしとは別人だ





「そうかもな。」





「ほら、そろそろ時間だぞ。行くか?」





俺は櫻の手を取り歩きはじめる


これから先、パリでどんな未来が待っているかは分からない



でもこの手を離さずに行ける所まで行ってみよう



大丈夫だ、櫻と一緒ならなんとかなる・・・












「うん。」






あきらが差し出した手を取り歩きはじめる





バイバイ、牧野つくし・・・・・・・また、いつか。









私は私にさよならを告げ、搭乗口へと向う・・・・








今、私の手を取り少し先を歩いている彼を信じて







行ける所まで行ってみよう大丈夫、あきらが一緒なら不安は無い・・・













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