【23】









パリ 美作邸






櫻はパリ来てから5ヶ月目、予定日より一週間早く女の子を出産した




櫻は産まれたその子に






雛≪ひな≫







と名付けた








パリに来た当初は慣れない環境から体調をくずした事もあったが


8ヶ月目を越えた頃からは安定していた






パリに来た頃から親父四人組みは何かと理由をつけては櫻の元へとやってくる




櫻の方もそんな親父達になついていて訪ねてきてくれるのを楽しみにしているようだったが



それは雛が産まれてからはさらに加速している




と言うか・・あきらかに暴走し始めている・・・・




特に司の親父さんは毎週末になると孫に会うため大量のお土産を持ってロンドンから飛んでくる



・・・はたから見ているほうが大丈夫なのか心配になるほどだ






雛が産まれる少し前は、お天気のいい日には



≪妊婦だって少しは運動したほうがいいのよ≫




とか言って俺はパリ中を連れまわされていた










行った場所は最初はありきたりな観光地ばかりで


凱旋門にエッフェル塔、自由の女神にオペラ座、ルーブル美術館etc.







櫻は行く先々でよく写真を撮っていた



俺が持っていたデジカメが今や櫻のお気に入りになっている





屋敷の中でも庭のバラや親父達やメイドなどをよく撮影していた



もちろん俺のことも・・・・・





そんな櫻に一度、聞いた事がある・・・





その日も櫻は庭で咲いたばかりのバラの花を写真に納めていた






「お前、最近写真ばっか撮ってるけどそんなに撮ってどうするんだ?」







「う〜ん、これね・・・行った所や出会った人たちを写真に撮っておけば、
 もしまた忘れちゃっても今度は思い出せるかなって思って・・・・」







「そうか・・・・」







そう言うのが精一杯だった


普段は俺たちに心配かけないように明るく振舞っているが


やっぱり不安なんだよな・・・・





「どうしたの、あきら?」






「えっ…?」







「だって、怖い顔してるもん。
 あっ、もしかしてデジカメ使っちゃだめだった?」






「そんなことないよ。
 それにそのデジカメはもうお前のもんだよ。」






「本当?貰っていいの?」





「ああ、いいよ。だからお前の好きなだけ写真撮れよ。」








「ありがとう、あきら!」








嬉しそうに俺に向って微笑んでいる・・・


そんな顔を見ていたらこっちまで嬉くなってしまう







「なぁ、お前の写真も撮ってやるよ。」







「えっ・・私の・・?ん〜じゃぁ、あきらも一緒がいいな!」






「いいよ。」







俺は三脚を取り出し




デジカメをセットしセルフタイマーをかけた




庭に咲くバラをバックに最初で最後の1枚・・・・





たった1枚だけのふたりの写真・・・









【24】





そんな頃、日本でも一つ変化がおきていた






総二郎から司が倒れたとの連絡が入った




司はその日、総二郎達と大学のカフェでコーヒーを飲んでいたらしいが



数日前から体調が悪かったらしく



頭が痛いので帰ると言ってイスから立ち上がった所で倒れたらしく



翌日に目を覚ました司は櫻の事を思い出していた・・・






ただし・・・今度は記憶が無かった時のことをあまりよく憶えていないようだった






ややこしい奴・・・









目を覚ました司は俺と櫻が見舞いに来ない事を怒りはじめたらしく



総二郎と類に今までの事を説明されかなり落ち込んでいる







司が落ち込む気持ちは分かるが今はまだ櫻のことを教えるわけにはいかない





せめて出産が無事に済むまでは・・・・・




やっと落ち着いてきた櫻を動揺させたくない












東京 司の病室






司の意識が戻ったと知らせを受けた総二郎と類が病室を訪ねと




「よお!司、目覚めたのか?よかったな!」





「ああ、総二郎か・・・俺、どうしたんだ?」






「ハァ〜覚えてないのかよ?
 お前、昨日大学のカフェで倒れたんだよ。
 ったくびっくりさせんなよなー!」







「大学のカフェ?どういうことだ?
 で、お前ら二人だけか、あきらはどうしたんだ?
 それにつくしも何で見舞いに来ないんだ?」
「あいつらどうしたんだよ?俺が倒れたのに心配じゃないのか?」







あん?



お前・・まさかだよな・・?







「・・お前、今なんて言った・・・?
 まさか・・・・だよな?それに牧野の事、つくしって・・・」





「ハァー!?総二郎、さっきから何わけのわかんねぇ事を一人でぶつぶつ言ってんだよ!?
 とにかくつくしはどうしたんだよ!」






それまで黙って司と俺のやり取りを聞いていた類が口を開いた






「司、覚えてないの?」





「何をだよ!?」





のんびりとした類の言葉に司の額には青筋が立ち始める





その時、タイミングよく病室のドアが勢いよく開いて海が入ってきた






「つ〜か〜さ〜、目覚めたの?よかったね!
 突然、倒れたって聞いたから、海、心配しちゃったよぉ〜」






海は司の首に巻きつきながらお得意の甘ったるい声でしな垂れかかっている・・・





いつもの司ならそんな海に笑顔を見せながら愛おしそうに頭を撫でているのだが・・




今日は違った・・





「はぁ〜?!誰だお前!なんで、俺のこと呼び捨てにしてんだよ!?
 おい、総二郎!誰だよこの女?!ムナクソ悪ぃ、さっさと追い出せ!!」







今の反応で類も総二郎も司が何も覚えていないことを確信していた






いきなり司に怒鳴られた海はびっくりして泣きそうになっているが



そんな事どうでもいい、どうせこの女では司の相手はムリなのだから







「どうしたの?司、海だよ。分かんないの?
 ねぇ?これ見て?このネックレス、司がくれたんだよ?!」







そう言って、自分の首に掛かっている土星のネックレスを司に見せている






「なんでこれをお前がもってんだよ!」






ネックレスを見た司の顔色が変わり海の首からそれを引きちぎった






「ひど〜いぃ、つかさ〜。ねぇ・・・」








「うるせー、わけ分かんねぇ事ばっか言ってんじゃねぇよ!とっとと出て行け!」






「そんな〜 司〜」







まだ、司にすがろうとしている海を総二郎が引き離し



背中を押して無理矢理ドアの外へと押し出した








「まっ、そういう事だから、残念だったね!もう二度と俺達の前に顔を見せるなよ。
 今度、現れたら女だからって容赦しないよ。」






総二郎は笑顔のままで思いっきり冷たい言葉を海に投げかけるとドアを閉めた






どうせこの女では司の相手は無理なのだし


どさくさに紛れて牧野から司を取った女に同情などしない



むしろせいせいしている






さてと、次はこっちをどうするかだな・・?






海が部屋を出たのを確認すると類が再び司に聞いた






「司、本当に何も覚えてないんだね?」





「だから、何をだよ!」






類に向けられている司の苛立ちの中に微かに不安が見え隠れしているのが分る






「司、刺されたのって憶えてる?」




「当たりめぇだろうが!死にかけたんだぞ!俺は!」




「そう、じゃぁその後のことは?」






「・・・その後の事・・・って・・なんだよ?俺・・どうしたんだ・・・?
 くそー 頭が痛くて・・よく思い出せねぇーんだよ!!」
「それにさっきの女なんなんだ!?どうしてあの女がコレ持ってんだよ?
 俺がやったって・・どういう事なんだ?」





たった今、自分が海から取り上げたネックレスを顔の前まで持ち上げて睨んでいる





ったく・・・・ネックレス睨んだって仕方がねぇだろーが!






そんな司の様子を気にする事無く類は真実を告げ始めた







「司、あきらは今パリに留学してあっちの大学に通ってるよ
 それから牧野だけど半年程前から行方不明になってる。
 俺達で探してるけどまだ見つかってない。牧野の家族もどこにいるか分かんない。」






「何だよソレ!あきらがパリで牧野は行方不明ってどういうことだよ?
 何であいつが行方不明になんだよ!あっ!もしかしてババァがまた何かしたのか!?」





「違うよ、牧野が行方をくらませたのは司のせいだよ。」





事実だが容赦のない冷たい類の言葉だった






類の言葉の意味を上手く理解出来ていない司が



怪訝な表情で言葉を続けようとするが・・・・・







「・・・俺のせいだ・・・!?んな訳ねぇだろ!何で俺が・・・・?
 俺はもう何があっても絶対に離れねぇって決めたんだよ!
 あいつもそう言ってくれて・・・だから俺たちやっと一つになれたのに・・・
 なのにどうして・・居なくなんだよ!」





一つ・・になれた?


・・ってそう言うことだよな?


・・こいつらいつの間に・・



はぁ〜それなら牧野、なおさらショックだっただろうな・・



っとにもう・・そんな大事な女なら、忘れるなよな〜・・




はぁぁ〜このバカ、ほんとにもう勘弁してくれよ〜・・






「司、もしかしてお前らってそういう関係だったのか・・?」




念の為、恐る恐る確認してみる





「そうだよ。悪いのかよ!」






ゲッ!・・やっぱり・・






「いいや、誰もそんな事言ってねぇだろうが。
 ちょっと落ち着けよ!
 司、興奮するな。ムリに思い出そうとしなくていいから。
 俺たちが説明してやるから。」





ゆっくりとなるべく冷静に司が理解しやすいように今までの経緯を説明する





「司、お前刺された後、牧野の事だけ忘れてたんだ。
 牧野の事を類の女かとか言ってたし、見舞いに来たあいつにさんざん悪態ついて追い返してた。
 お前は同じ病院に入院してたさっきの女と付き合い始めて、あいつすっげぇー傷ついてたぞ。」






俺の話を聞いていた司の顔から血の気が引いていくのが分かった


それでも信じられないという顔で






「・・なぁ・・類、今の話って・・本当なのか?」







「本当だよ。牧野の事みんなで探してるけど全然手がかりも無い。
 牧野の家族も引っ越しててどこにいるか分かんないよ。」







「司、あいつ、がんばってたんだぜ。
 お前に思い出してもらおうとしてバイトで忙しいのに毎日見舞いに来てた。」
「まぁ、その度にお前に追い返されてたんだけどな・・」






「俺・・何も覚えてねぇ・・
 俺なのか・・あいつの手を離したのは・・俺の方なのか・・・?
 信じらんねぇ・・何でだよ!・・やっとこれからだって思ってたのに・・
 俺があいつを傷つけたのか・・?」





俯いて頭を抱えこんでしまった司に類が言葉を続ける






「司は手を離しただけじゃないよ、牧野が必死で伸ばしてた手を振り払ったんだ。
 もう、あいつには届かないかもね。
 でも、牧野にとってはこれでよかったんじゃない、司に人生めちゃくちゃにされなくて。
 あいつならきっと大丈夫だよ。案外、元気でやってるんじゃない?」


「ねぇ司、俺許さないからね。
 もし牧野が見つかってももう司には渡さないから。今度こそ俺が守るよ。」







類が牧野の事を好きなのは分かってけど



これほどハッキリと自分の気持ちを口にしたことは今まで無かった・・・・


類の冷たい言葉だけが病室に響き渡る・・・・



類が牧野の事で司に腹を立てているのは分かっていたが今の司にはちょっと酷だ




「司、大丈夫か?」






血の気の引いた司の様子が気になり声を掛けるが・・






「・・・一人にしてくれねぇか・・・」






「ああ、分かった。」






類が先に病室から出て行った、一人残った総二郎は







「司、類の言った事、気にすんな。あいつの本心じゃないよ。
 それに今みんなで探してるからきっとすぐに見つかるよ。そしたら会いに行って
 もう一度やり直せばいいだろ。だから今はゆっくり休め。また明日来るから。」






司は無反応のままだったが





「じゃぁな、また来る。ちゃんと休めよ。」






類と総二郎が出ていた後の病室で司は一人呆然と窓の外を見ていた




つくしはもう居ない・・・その原因は自分自身・・・現実が理解出来ない








俺があいつを突き放した・・・?



そんな事あるはずない・・


そう思いたかった・・・




だけど自分でもはっきりとしない記憶と類と総二郎の今の言葉・・



あいつらがウソを付く必要などない・・・


俺は・・どうすればいい・・?




どこに行けばいい?




・・会いたい・・今すぐ抱きしめたい・・・



つくし・・・・・・






言いようの無い不安が胸を過ぎる・・





咽喉の奥から悲鳴に近い声が沸きあがってくる・・・




つくし・・・助けてくれ・・・・









お前が俺の元へ帰ってきてくれるのなら俺はもう何もいらないから・・・



お前の為に俺は全て捨てても惜しくないから・・・







頼む!




誰でもいい・・彼女の居所を教えてくれ・・












司がNYへと旅立っていったのはそれからまもなくだった





あきらは司が記憶を取り戻した時


日本には帰らなかった



いや・・帰れなかった・・




司の様子は総二郎に聞いて知っていた






だからこそ帰れなかったんだ・・



苦しんでいる司の姿を見るのは耐えられないと思ったから







今はまだダメなんだ



司に伝えることは出来ないんだ




せめて子供が無事に生まれるまでは・・・



誰にも知られちゃいけないんだ・・・






これ以降、誰も予想していなかった司と櫻の長い長いすれ違いの生活が続いていく・・・















【25】








雛が産まれて2年が過ぎようとしている





子供の成長は早い







今、俺の目の前にいる雛はますます司に似てきている



漆黒の髪には軽くウェーブがかかっていて


肌の色は透き通るように白く




長いまつげに鼻筋の通った顔立ちに大きな瞳には母親譲りの強い光を宿している







はっきりいって美人だ・・・・








小さいくせにとにかく自我が強く



一旦火が点くと櫻でも手に負えないうえに




親父四人組の猫かわいがりのおかげで今や怖いものなしの無敵のお嬢様に成長している






櫻も最近ではそんな雛にかなり手を焼いていてよくぼやいている






「ねぇ、雛って絶対父親似よね?」





「どうしたんだ急に?まさか、お前何か思い出したのか?」






「残念ながら何も思い出せてない・・
 でもね、雛のこの性格って私じゃないような感じがするの?
 気は強いしなんでも自分が一番じゃないと気がすまないし。」






「そうだな、似てるかもな?でも似てるのは性格だけじゃないぜ。
 外見もそっくりだ。誰が見ても親子だって分かるくらいにな。」







「そうなの?雛ってそんなに似てるの?」






「ああ、似てるよ。」







「私っていったいどんな人と付き合ってたの?雛って母親の私が言うのもなんだけど結構美人よね?
 私には全然似てないし・・それに短気ですぐに手が出るタイプみたいだし。」







「雛見てたら分かるだろ?あのまんまだよ。」







「そう・・・ねぇ、私の好みって変わってたの?」





「変わってたって・・・・ああ、確かに変わってたかもな・・・」








変わってる・・・か・・


ハハハ・・そうだな最初に好きになったのが類でその後が司だもんな



司が聞いたら怒るだろうけど、やっぱり変わってるよ







「あきら、一つだけ教えて?」





「何を?」

「私は雛の父親の事、本当に愛してたのよね?」





「ああ、愛してたよ。
 それに、愛されてた。それは間違いないよ。」







愛してた・・・



愛されてた・・・


過去形で交わされる会話・・






なぁ、櫻・・お前は知らないけど・・



司の中では決してお前の事は過去なんかじゃなくて今でもお前を愛してる・・・




だけど・・それは伝えることが出来ない・・






お前は今でも愛していると聞かされたらどう思うのだろうか?







「そう、ありがとう・・」









だったらどうして?


そんなに愛してた人を私は忘れてしまったのだろう・・?



雛の父親は今、どうしているんだろう・・?





顔も思い出せないあなたは今、何を思っているんだろう・・?






最近、櫻の様子が何となくおかしい


表面上はいつもとかわりなくしているが何か考え事をしているようだった




段々と司に似てくる雛も来月で2歳になる




今度の週末にはお誕生日パーティーが開かれるらしいが俺は今から頭がイタイ・・・・





それは雛の1歳の誕生日のパーティーのこと



場所は俺が最初に親父達と会ったシャトー



そこは司の親父が所有しているシャトーで年に何回かパーティーが開かれるだけの場所だった





そこに親父達は≪サーカス≫を呼んでいた





広大な敷地に本物のサーカスのテントが建てられていて



一日だけの雛の為だけのサーカスが催された





さすがに俺も櫻も驚いていたが、当の雛と双子の妹たちは大喜びだった







雛が大喜びしていたのを見て親父たちは



早くも来年の誕生日パーティーの計画を立てだしたようだったが・・・・




去年はサーカス・・・・今年は一体何が出てくるのだろうか・・・・・?









【26】







大学から戻って部屋でレポートを片付けていると櫻がお茶を持って入ってきた







「あきら〜 お茶にしない?」





「ああ、いいよ。」





櫻がハーブティーを入れたカップを俺に手渡し自分もカップを持って



デスクの横のイスに腰を下ろした






櫻はデスクの上に広げられている大学のテキストやレポートを興味深げに眺めていたが




ふいに顔を上げて俺の方を見ると






「ねぇ、あきらの学校って楽しい?」







「ああ、大変だけどな。めずらしいなお前が学校の事聞くなんて?
 どうしたんだ?」






「う〜ん、何となくね。
 私も日本にいる時は学校に通ってたんだよね?」






「通ってたよ。お前も学校に行きたいのか?」






「そういうわけじゃないんだけどね・・・・やっぱ無理だよね・・・」





カップを持ち上げたままで最後は独り言のようにつぶやいている・・・





「どうしてそう思うんだ?」




「だって、高校だって卒業してないし、雛だってまだ小さいし・・記憶だってないし・・」






牧野のクセの一つだった独り言・・



記憶を失って2年以上経つがこのクセは変わらない・・



まだ一人でぶつぶつと言っている櫻を会話に引き戻す






「お前、何かやりたい事があるのか?」





「う・・・・・ん・・・・・」






うつむいたまま顔をあげない・・・





「やりたい事があるんならはっきり言ってみろよ。」





「笑わない?」





「笑わないよ、だからなんだ?」





「ん…とね…カメラ…やりたいなぁ〜って…思って…」





「・・・・・・」





あまりに予想外だったので、思わず黙ってしまった




そんな俺の表情を見て誤解した櫻は






「あっ!やっぱ、ムリだよね!いいの今の忘れて・・」







俺は櫻の誤解をとくように慌てて言葉を繋ぐ






「どうして?・・・・いいじゃん、俺はいいと思うよ。
 お前写真好きだし、俺はお前が本気でやりたい事だったらどんな事でも応援するよ。」
「それに雛の事だって心配ないと思うけどな。」







「本当!?あきら、本当にそう思う?」





余程嬉しかったのか




櫻の表情は輝いていた





「ああ、思うよ。
 いい事じゃないか?お前が何かやりたいって思うのって。」







「でも、お父様たちは反対なさらないかしら?」







「逆に喜ぶんじゃないか。」






「う〜ん、だといいんだけど・・
 でも、高校は卒業してなきゃダメよね?」






「そうだな。じゃぁ高校からやり直すか?
 お前なら一年通えばOKだろうしな。」






「うん!じゃぁ、さっそく今夜、お父様にお願いしてみる!」






「俺も協力してやるよ。」






「ありがとう。」




そう言った櫻の顔はまぶしいぐらいの笑顔だった








こいつは雛が全然自分と似ていないって思ってるようだけどそれは間違いだ

今の櫻ははっきり言って美人だ


あの頃とは比べ物にならないぐらい美しい女性に成長している



鈍感なのは変わらないらしいな





だけど、もし櫻が表に出るようになったら、きっと男がほっておかないだろうな・・




活動的になるのはいいけれど、俺の気が休まるヒマがない・・





櫻の記憶は相変わらず戻らないままだったが、


彼女が自分自身の人生について考えだした事は大きな進歩だった



この先、櫻がどんな人生を選択するかは分からないし記憶が戻るという保証もない




だが今は少しでも櫻が彼女らしく生きていけることを願っている。



















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