俺、なにやってんだ?とも思うけど





とにかく妻の顔を見ねぇーことには始まんねぇ・・





別荘を出てすぐに目的の山小屋が見えてきた







妻もきっと近付いてくるスノーモービルのエンジン音に



気がついているだろう






スノーモービルを山小屋の前に止めエンジンを切り





山小屋のドアを開けると





中に広がっていたのはあの頃と変わりない殺風景な部屋






その中央の暖炉の前にラグを広げ妻が座っていた・・





そして俺の顔を見た途端、







前回と同じ様に笑顔で"遅い!"と一言・・







ふざけんな!






これでも大急ぎで来たんだよ!!






「こんなとこで何やってんだよ!?」





「司を待ってたの」






「お前なぁ・・俺が連続で休み取れた度に毎回毎回止めろよな〜!」





「どうして?楽しいでしょ?」






だから・・楽しくねぇんだって・・





お前、知らねぇーだろうけど





毎回、俺様がどんだけドキドキしてるか・・





もしも間違ってみろよ






お前の事だから又、なに言い出すか分かんねぇーだろ!?





この道明寺司様がすんげぇ気使ってんだぞ!






有り得ねぇーだろ?!







「楽しくねぇーよ!それにここすんげぇ寒みぃ〜んだよ!」






「そんな所に突っ立てるから寒いんだよ!
 こっちくれば?暖かいよ」









取りあえず冷え切った身体を温めるために



暖炉の前に陣取っている妻の横に腰を下ろし




手袋を外しスキーウェアを脱いだ






「司も飲む?」







そう言って妻が俺に差し出したのは半分程しか残っていないワイン・・






「お前・・一人で飲んでたのかよ?」





「うん・・だって・・一人で暇だったんだもん〜!」






妻の頬がほんのりと赤いのは寒さのせいではなくワインのせいだった・・




嫌な予感がするぞ!






「暇って・・お前が勝手にこんなとこ来たんじゃねぇーかよ!?
 なぁ、いつまでここに居るつもりなんだ?
 そろそろ別荘に帰らねぇーと本格的に吹雪になるぞ!」







「今夜は別荘には帰らない!
 ここに泊まるの!」






やっぱり・・







「なんでこんな寒みぃ〜とこ泊まらなきゃなんねぇーんだよ!?
 別荘に泊まれればいいだろ?」







「ヤダ!だってあっちには何も無いんだもん!」






「こっちの方が何もねぇーじゃねぇーかよ?!
 なぁ俺は夕べちゃんと寝てねぇーんだよ!
 あっちのベッドで一緒に寝てくれよ!」







「ヤーダ!ベッドで寝たいんだったら司だけ帰ればいいでしょ!
 司のバカ!」






なんで俺は逆切れされてんだ?






「バカはおめぇーだろーが!
 こんな寒みぃー所で一晩過ごすなんて頭おかしいんじゃねぇーか?」







「頭おかしくてもいいもん!
 司には分かんないんだよ!カブト虫!!」







マジでムカつくな・・この女!






「泣くなよ!卑怯だぞ!!」






「泣きたくて泣いてるんじゃないでしょ!
 涙が勝手に出てくんのよ!バカ!」






都合のいいその涙・・


早く引っ込めてくれよ!



俺が凹むだろ・・







「司には分かんないのよ!バカ!」






「じゃあ分かるようにちゃんと説明しろよ!」







睨むなよ!





カナダの人里離れた山小屋でそんなに責められるほど俺悪い事したか?







「だって・・あっちには何も無いんだもん!バカ!」







今のでバカが4回目だ・・





「なんもねぇーのはこっちの方だろ?」





「違うわよ!何も無いのはあっちよ!バカ!」






「いちいちバカは余計だろ!?」






「だって・・バカなんだもん!バカ!バカ!バカ!」






「あ〜あ〜!!もう分かったよ!こっちにいりゃいいんだろ!?
 お前はそれで満足なんだろ?!だったらこっちでいいよ!
 俺様も一晩ここに泊まってやるよ!」






「無理に泊まっていかなくてもいいよ!
 私一人でここに泊まるから司は別荘で待っててよ!」






なんでそうなんだよ!




マジでムカつくなこの女!






「こんな所にお前を一人にしとけるかよ!
 ウダウダ言ってねぇーで寒みぃーんだからこっち来いよ!」






まだ泣き顔のまま俺を睨んでいる妻を強引に抱き寄せ腕の中に納めてしまう




怒っているくせに抵抗しない妻




大人しく俺の腕の中に納まっている・・




しばらくそのままで・・






妻を抱きしめたまま少しずつ強くなってきた風が小屋に当たる音と



暖炉で薪が燃えるパチパチという音を聞いていた






黙ったまま互いの身体を抱きしめ合って





俺の背中に回されている妻の腕の感触が心地いい





俺の前ではぶっ飛んだ発言と行動が多いけど





やっぱりまだ人目のある場所で抱きしめたりキスしたりすると



真っ赤になって怒ったりするから





部屋で二人っきりの時しか素直に身体を預けてくれない妻だから






この時間を堪能する

















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