そんな俺と司の不毛な言い合いを中断させたのは猛獣妻の猛獣を呼ぶ声だった



「司〜!司の番が来たよ〜!」



牧野の声には敏感で従順な猛獣は



さっさと俺との会話を中断し




抽選のブースへと戻っていく




ご機嫌の牧野に促され興味なさそうにスタートボタンとストップボタンを押した猛獣




猛獣の目の前の画面にはパソコンの画面が大写しになっている




左側から一つずつ順番に止まっていく絵柄は






"KISS"と書かれていて






このマークが横一列で揃うと類とのキスが景品の1等が当選した事になる





左側から一つ目は"KISS"







二つ目も"KISS"






そして・・



三つ目も"KISS"




"KISS・KISS・KISS"





見事に類とのキスを引き当てた司・・・




ありえねぇ〜!!!





出る確率が0に近い設定になっていたはずの1等を引き当ててしまった猛獣




「きゃ〜!司〜!1等賞だって!凄い〜!!」





「・・な、なんだ?!何がすげぇーんだ?」




どよめく周囲の状況と牧野の歓声に戸惑いの声をあげている猛獣




「だから!そこに書いてあるでしょ!
 1等賞の宿木の下で類とのキスが当たったの!」





「類とのキスだぁー?!なんで俺様が類とキスしなきゃなんねぇーんだよ!?
 そんなもん1等でもなんでもなくて罰ゲームじゃねぇーかよ!」




「それは俺のセリフでしょ?!
 俺だって司とキスなんて嫌だ!」





もっともな言い争いを始める猛獣と類




大丈夫だ・・




俺もお前ら二人のキスシーンなんて見たくねぇから・・・




だけど物は考えようで



これはある意味チャンスなんじゃないのか?




万が一の可能性だとしても




現実に1等賞が出てしまった抽選会




もしこれが出たのが他の人間の時だったら




全くのその気のない類が素直に引き当てた相手に





例え頬だとしてもキスするはずないから




今よりもっと大変な事態になっていただろうから




引き当てたのが猛獣で良かったのかも・・?





「ねぇ、ねぇ美作さん?じゃあ!私が司の代わりじゃダメ?」






何気に恐ろしいセリフを吐く猛獣妻・・




お、俺に聞いてんのか?







「俺も牧野とだったらいいよ。」






類君・・






頼むからちょっと黙っててくれ!




「いいわけねぇーだろ!!」






猛獣のもっともなセリフが会場に木霊する・・・・





だけど目の前にいるのは猛獣の怒りなんて全く気にしない地球上で唯一の二人で




怒りで顔を真っ赤にする猛獣なんて軽くスルーして




さっさと二人で宿木の下へと移動している




ニッコリと微笑む類





その微笑に少し頬を赤らめ恥ずかしそうに見上げる猛獣妻・・





猛獣妻の肩に手を置きゆっくりと顔を近づける類




・・って





マ、マジですんのかよ?!





見ているこっちが恥ずかしくなるような甘い空気を醸し出している類の口唇が



猛獣妻のそれにゆっくりと向かっていく




そして怒りの沸点を超えてしまって




フリーズしたままだった猛獣が




自分の目の前で最愛の妻が最大のライバルにキスされそうになっている現実に





弾かれたように宿木の下の二人の間へと乱入し




最愛の妻の口唇に最大のライバルの口唇がぶつかる直前に





猛獣の口唇が最大のライバルの口唇がぶつかった・・・・





全てがスローモーションで・・・






俺の目の前で展開された現実・・・




ありえねぇーー!




類と牧野の間に割って入り



挙句に男同士でキスしてしまった猛獣



あまりの衝撃にシーンと静まり返ったままの抽選会場




キスしてしまった類と猛獣も大きく目を見開き




見詰め合ったまま固まってしまっている



そんな中で何故か一人余裕だったのが猛獣妻





一瞬びっくりして固まってはいたがすぐに回復してニヤリと




なにやら悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべると







こちらも男同士のキスの衝撃で固まったままの抽選の係員に




残りの一枚の抽選券を差し出した




で・・・



結果は・・・




こっちも



ありえねぇ〜〜!!!



猛獣妻の目の前の画面が映し出したのは特賞の文字・・・



こ、今度は俺かよ?




お、俺が猛獣妻とデート・・?




勘弁してくれよ!!




そんな事出来るわけねぇーだろ!!




"これってあそこに書いてある特賞って事?"




猛獣妻の声に我に返った係員が鐘を鳴らし特賞が当選した事を告げている




鐘の音と共にハッと我に返ったような抽選会場は






先ほどのキスと猛獣妻が引き当てた特賞とで



どよめきが沸き起こっている中で




そんな周りの空気なんて全く気にしてなくて




何故かちょっと膨れっ面の猛獣妻は




自分の隣のブースで抽選を終えたばかりのおばさんに声を掛けた



"あの・・すみません!この特賞とお姉さんのクマちゃんと交換していただけませんか?"




抽選を終え残念賞の掌サイズの小さなクマのぬいぐるみを受け取っていたおばさんに声を掛けた猛獣妻・・・





"・・えっ?!い、いいんですか?!"




声を掛けられたおばさんの方は猛獣妻の言葉に驚いてちょっと仰け反り気味になっている


そんな相手の様子は気にせず笑顔で話しを続ける猛獣妻




"もちろん!実は私、そのクマちゃんが欲しかったんです!
 それに美作さんって年上の人妻の方が好みだから私とデートするより
 お姉さんとの方が楽しくて張り切っちゃうと思いますよ!"





公衆の面前で俺の好みを大声で




しかも歪曲して暴露してんじゃねぇーよ!!





確かに年上の人妻は好みだけど・・





年上すぎんだよ!!




人妻だったらなんだってOKじゃねぇーんだよ!!






猛獣妻の言葉を聞いたおばさんは猛獣妻と交換した特賞の目録を手に



熱〜い視線をこちらへと向けてきている・・・





そんなおばさんの熱〜い視線には気が付いていないフリで




猛獣妻の腕を掴み引き寄せ耳打ちする






「どういうつもりだよ!?」





「どういうつもりって・・そのまんまだけど?
 特賞のデートはあのお姉さんと楽しんでね!美作さん!」




楽しんでねって・・・





楽しめるわけねぇーだろ?!






「じゃあ、後はよろしくね〜!」






よろしくねって・・





これをどうすればいいんだよ?!






「お、おい!どこ行くんだよ?!」





今から




"クリスマスにダンナ様が同性とキスしたところを目撃しちゃったって!"




重いテーマで滋さんと桜子の女三人でクリスマスパーティーしないといけないから!




しなくていい・・


しなくていいから・・・




そんな後付けのテーマでパーティーなんてしなくていいから





オ、オイ!猛獣を置いていくな!





ちゃんと持って帰れ!!






「あっ!そうだ!美作さんには私からクリスマスプレゼントあげるね!」





そう言って俺の口唇に軽く重ねられた牧野の口唇





信じらんねぇー!





このバカ女!





猛獣の目の前で何してくれてんだよ!!





な、なんで類まで睨むんだよ?!




お、俺がしたわけじゃねぇーぞ!!




牧野の方からしてきたんだぞ!





お、俺は被害者なんだぞ!








イタズラが成功した子供のように嬉しそうな表情で






なんの躊躇もなく俺を地獄へと突き落とした牧野が






口唇が離れる瞬間、俺の耳元で囁いたセリフは・・





”ヤキモチ妬いた司ってすっごく激しいの”






お、俺に幸あれ!








          〜Fin〜









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