全てが順調だった・・




驚くほど全てが上手く行っていた





まず7時にメープルのラウンジで待ち合わせをして

軽く一杯飲んだ後、レストランへと向かう



レストランへ向かう車中も鴨が話題にのぼること無くつくしは終始ご機嫌で



セントラルパークで見かけたバックでしか歩かない変な犬だとか



亀を散歩させてるじいさんの話しだとか



どこそこに美味しいアイスクリーム屋を見つけただとか・・




俺にしたらどうでもいい事ばっかりだけど



今までの俺にはどれも縁の無いものばかり



彼女を思い出さなければ




彼女がNYへ来てくれなければ


知ることの無かったNY



つくしが教えてくれる新しいNYに心の中では突っ込みをいれながらも



楽しそうに話す彼女の表情に俺も笑顔になる



レストランについて食事の間も美味しい料理とワインで益々ご機嫌になる彼女



自分でも驚くほど全てが順調だったのに・・



やっぱり俺は呪われてるんじゃねぇーかって思う・・





料理も進み



いよいよメイン料理が運ばれてきた



目の前に置かれたのは綺麗に盛り付けされた皿



"こちらはメインの鴨のオレンジ×■○△×・・・"




鴨・・??



鴨と聞いた瞬間、一気に嫌〜な汗が背中を伝い



それ以上、料理を運んできたボーイの説明は耳に入ってこなかった




慌てて前に座るつくしを見たが彼女にはボーイの言葉が耳に届いてなかったようで



"美味しそう"なんて云いながらフォークを手にしている・・



彼女のフォークが鴨に刺さる・・・



フォークがゆっくりと口へと運ばれる・・・



だ、大丈夫か・・?




「ん?どうしたの?司?
 食べないの?」



「あっ・・いいや・・食べるよ。
 それより・・美味いか?」



「うん、美味しいよ!
 このオレンジのソースって結構美味しいね。」



「ああ・・そうだな・・」



まぁ・・彼女がこの肉がなんの肉なのか気がついてないのなら



わざわざ教える必要はねぇか・・


なんて思い俺もメインの皿にフォークをつけたのに・・



ちょうどタイミングよくボーイが彼女のグラスにワインを注ぎに来てしまった・・・




「あの、このお肉は何のお肉ですか?」



「鴨肉でございます。」




あっさりと彼女にバレてしまった・・




鴨肉だと聞いた途端、動きが止まった彼女・・



目を思いっきり見開いて俺を見ている




「つ、つつつ、つつ、つつつ、つ、つつ・・・」




俺はモールス信号か?!





「オイ!落ち着け!」



「つ、つつつつかさ?!これって鴨なの?」



「あ、ああ・・」



「し、知ってたの・・?」



「あ、ああ・・・」



「わ、わわたし・・鴨食べちゃったの・・?」



「あ、ああ・・・」




答えた途端、大きく見開かれていた彼女の瞳から



ボロボロと大粒の涙が零れ落ちた・・



ハァ〜・・・




泣くほどの事かよ・・?




「オイ!泣くなよ!鴨って言ってもうちにいる奴とは種類が違うし、
 これは食用に飼育されてた奴だから・・」




「そんな問題じゃない!!私・・花沢類の仲間達を食べちゃったのね・・」




なんだよ・・類の仲間達って・・??




「ウゥゥ・・ヒック・・ごめんねぇ〜〜花沢類の仲間達〜〜ヒック・・」




勘弁してくれよ・・




「泣くなっていってんだろ!」



「司は悲しくないの?薄情者!!」



ハァ〜・・・




薄情者って言いながらも喰ってんじゃねぇーかよ!?



その後は一口食べるごとに"ごめんね〜花沢類の仲間達ぃ〜"と



言いながらも完食してしまった彼女・・



結局、全部喰ってんじゃねぇーかよ!





泣くなよな・・恥ずかしいんだから!!



俺が泣かしてるみたいじゃねぇーかよ!?



勘弁してくれよ・・



いつまで泣いてんだよ!?




食事を終えレストランを後にした車の中でもまだ涙が止まらない彼女・・




オイ!俺のスーツで拭くな!!





ごめんね・・美作さんの仲間達〜



おっ!変わったぞ?!



なぁ?やっぱ俺って呪われてるだろ・・?







つくし鴨を食う事件(?)から一週間


なんとか彼女の機嫌も直り



相変わらずカモ・カモ・カモには変わりないが



俺は日常を取り戻していた






仕事から戻りつくしと夕食を共にし

俺は持ち帰った急ぎの仕事を片付けるため書斎に篭った







仕事も1時間ほどでメドがつきすっかり冷めてしまったコーヒーを持って

リビングへと入っていくとつくしの姿が見えない





寝室を覗いてみると寝室の奥にあるバスルームから



微かに水音が聞こえてきたので風呂にでも入っているのだろう




しょーがねぇーから自分でコーヒーを淹れかえるべくリビングを横切り

キッチンへと移動する




ん・・?





リビングを真ん中辺りまで来た時




目の端に入る光景に違和感を感じ立ちどまった




なにかが何時もと違う・・



ぐるりとリビングを見回すけど違和感の原因が分からない・・




だけど絶対なにかが違う・・




変だ!



この部屋は元々、床は大理石だったところへ芝生を敷き詰めていたが

現在はつくしが毛足の長いカーペットを敷いていて土足厳禁にしている



まったく足音のしないリビングで微かにだけど確実に変化が起きている





手にしていたカップをテーブルに置き神経を集中させて



もう一度、部屋中をぐるりと見回すとやっと異変に気がついた・・・




カモだ!



普段カモはバルコニーにあるつくしお手製のカモ小屋で寝ているが



類カモが卵を産んでからは類カモだけが卵ごと



リビングに引っ越してきていた





バルコニーへ続くガラス張りのドアのそばに底の浅いバスケットを置き




中に藁を敷いてその中に鎮座している類カモ卵が2個



その卵がおかしいんだ!!





いつもは卵を大事そうに抱いている類カモの姿が見えない




ゆっくりと類カモ卵に近付いて行くと卵が動いている・・・?




いや!違う!!



すでに卵が割れていて中からヒナが



自分に纏わりつく殻を外そうともがいている




それも2個とも・・




すでに身体の半分以上は外へと出てしまっていて濡れた羽が見えている・・




う、産まれてんぞ!!





卵からヒナが孵る・・




文字通りの光景だけど初めて見るそのちょっとグロテスクで



神秘的な光景に思わず魅入ってしまっていた




そしていつの間にか頑張れとヒナを応援している俺・・



おっ!殻が全部外れた!!




まだ濡れていて頭が大きく目だけが盛り上がっていて


すんげぇグロテスクだけど目一杯身体を動かしているヒナ



ほぼ同時に殻を外した2匹はバランスの取れない身体を必死で動かし

泣き声をあげ親鳥を呼んでいる




俺も同じように類カモを探して部屋を見回すけど姿は見えない




再びヒナに視線を戻した瞬間・・・





オッ!?




目、目が合ったぞ・・?





NY午後10時30分──マンハッタン島のウエストサイドのアパートのペントハウスのリビングで

俺とヒナの睨めっこ




つぶらと言えば聞こえはいいがギョロリとした



まだ少し眠そうな4つの瞳に見つめられ




視線が逸らせないまま・・・




一体どれぐらいの時間だったのだろうか・・・?



10分・・?



いやそれほど経っていない・・




せいぜい1〜2分だと思うけど・・・



時間が止まったように見つめあう俺と類鴨ヒナ



こんな時ってど、どうしたらいいんだ?




俺がヒナとの果てしない攻防を続けていると突然、背後から叫び声が響いた




「ギャーーーー!!!司〜〜〜!!!!」




すんげぇ声・・・



今、俺の寿命は確実に三年は縮まったぞ!!



「ウォッ!な、なんだよ!!」




振り向くと素っ裸の妻が立っていた・・・




「お、おまっ!なんで素っ裸なんだよ?!」





俺の言葉に下を向き自分の姿を確認した後で叫び声を上げている・・・




「ん?ぎゃ〜〜〜!!!スケベ〜!変態〜!!」



俺はスケベでも変態でもねぇーぞ!!




この場合どっちかってぇーとスケベで変態なのはおめぇーの方だろーが!!




慌ててバスタオルを体に巻きつけ俺の隣にしゃがみ込み類鴨ヒナを覗き込んだ妻は


類鴨ヒナから目線を俺へと移した・・




「な、なんだよ?」




「司?目合った?目合ったんでしょ?」




「なんだよ?」




「だから!ヒナと目が合ったでしょ?って聞いてるのよ!!」






「あ、合ったけど・・それがどうかしたのか?」



「信じらんない!!
 私がヒナちゃん達のママになろうと思ってたのにぃ〜!!!
 どうして司なのよ〜!!」





なんだよ?



ヒナちゃん達のママって・・



「ヒナのママは類だろ?」





「そうだけど・・鳥ってね生まれてから一番最初に
 目にした物を親だって思う性質があるのよ!
 刷り込みっていうんだけど・・司知らなかったの?」




刷り込み・・?




「俺がそんな事知ってるわけねぇーだろ!」




ん?



ちょっと待て!!



一番最初に見た物・・?





この場合・・俺?





俺が類鴨ヒナのママって事か・・?






マ、マジかよ・・・















                               

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