ハァ〜サイアクだ・・・





オフィスで一人書類に目を通していても思い返されるのは夕べから今朝にかけての光景





夕べ生まれたばかりの類鴨ヒナと目があってしまってあっけなく刷り込み完了



ついうっかり自然の摂理に飲み込まれ妻の機嫌はサイアク







2時間程ですっかり羽も乾き黄色と黒のフサフサの幼毛に覆われた



小さな物体の4つの目が期待と信頼の篭った疑いの無い眼差しを向けてくる



そして妻は目も合わせてくれない・・





すっかり機嫌を損ねてしまった妻は今朝は起こしてくんねぇーし




朝飯も作ってくんねぇーし・・





ピィーピィーピィーー





聞こえてくるのはヒナ鳥特有の甲高い泣き声・・





ハァ〜・・





「んだよ?咽でも渇いてんのか?」







俺のオフィスのデスクの上にいる二羽に話しかける





なんで俺のオフィスにこいつらがいるってか?



今朝、仕事に出かける準備をしている間中ずーっと



俺の後ろをついてくる類鴨ヒナ1号・2号



ついて来ているのは分かっていて敢えて無視していたが




玄関で靴を履いていると俺の靴紐に纏わり付き遊び始めた



うっとーしいから蹴っ飛ばしてやろうかと思った時、視界に入った妻の姿





機嫌が悪いのは分かっていたがこっちだってヒナに付き纏われて機嫌が悪かった





だからちょっとだけ・・



本当にちょっとだけ妻にヒナをなんとしろ!と怒鳴っちまったんだ・・



そしたら無言でヒナをスーツのポケットに放り込まれた・・



有り得ねぇ・・



ポケットの中でバタバタと動き回るヒナ




"ママはあんたなんだからちゃんと面倒見なさいよね!"



と言い切った妻の表情に戦意喪失





左右のポケットに1羽づつヒナを入れたまま出勤・・



何故か俺のデスクの上の小さなバスケットの中にいる2羽





ピィーピィーピィーピィー



うるせぇーんだよ!











ピィーピィーピィーピィー




ヒナの泣き声にうんざりしていたところへ妻から携帯が鳴った








「もしもし?」






『司〜?今、下にいるんだけど警備員さん達に入っちゃダメだって言われちゃったの〜

 降りてきてくれない?』








「入れるようにしてやるから上って来いよ!」





『ん〜いいよ!お昼一緒に食べようと思っただけだから。

 ねぇ、公園で一緒に食べない?お弁当作ってきたから!』







今朝はあんなに機嫌が悪かったのに打って変わってご機嫌の妻・・






何があったんだ?






「ああ、分かった。今から降りて行くからロビーで待ってろ!」





『うん、あっ!ヒナちゃん達も連れて来てね!』






「分かってるよ!」






上着を羽織りヒナを1羽づつ再びポケットへ放り込んでオフィスを出た





オフィスを出ると待機していたSPが自然と俺の周囲を固める



重役専用のエレベーターに乗り込みロビーへと下りる






時間は12時を少し過ぎたばかりロビーには



ランチに出かける社員が大勢行き来している





そんな中で普段ならSPを伴い歩く俺に注目が集まり



自然と目の前に道が出来るのに




今日、ロビーで注目を浴びその身体の輪周りに



微妙な空気の空間を作り出していたのは妻だった・・・






「あっ!司〜〜!こっちこっち!!」





呼ぶな!






俺の名前を大きな声で呼ぶな!






こっちこっちとか言うな!!




そんなでっけぇリアクションで呼ばなくても十分気づいてるっーんだよ!






ハァ〜・・出来れば・・






この状況では無理だろうけど・・・






出来れば他人のフリがしてぇ・・







これってスゲェー事だぞ!







普段、何があっても動じねぇこの俺様をここまで凹ませる事が出来るなんて



この広〜い宇宙中探したっておめぇぐらいだ!







目の前で大きく手を振っている妻の格好は



定番のTシャツにジーンズにスニーカーというスタイル




ここまでは見慣れた格好だからなんとも思わねぇーけど・・




妻の足元には3羽の鴨・・・




そして妻の肩に1羽の鴨が乗っている・・





足元にいる3羽は・・




寝てる・・これは類だな



毛づくろい・・これはあきらだ





そしてブロンド女の足元に擦り寄ってる・・・これが総二郎




だとすると・・・




肩に乗ってる最後のが俺かよ・・・?





「なんで鴨を肩に乗せてんだよ?!

 ・・って・・それよか・・なんで鴨連れてんだよ?!」







「ん?鴨君達とお散歩の途中だよ。
 この子は歩くのが嫌みたいで抱えてたんだけど
 いい加減重くなってきちゃったから肩に乗せてみたの。
 凄いよね!意外と落ちないの!流石、道明寺!運動神経は抜群だね!」






なに感心してのか分かんねぇーけど・・



俺じゃねぇーぞ!





鴨だぞ!





鴨の俺だぞ!!








「鴨のだろ?!俺とは関係ねぇーんだからややこしい言い方すんな!」







「関係なくないよ。
 だって司はヒナちゃん達のパパとママなんだから。」







「だからややこしい言い方すんなっつってんだろ!」





「なんでもいいけどあんたと居ると目立つ!
 さっきからすっごい注目浴びてるし!早く行こ!」





なんでもよくねぇーんだよ!



それになこの場合はお前だぞ!



間違いなく鴨を肩に乗せてるお前だぞ!!







手にしていた3本のリードをSPに手渡すとまだ肩に乗った1羽をそのままに

俺の手を引っ張り歩き始めた妻に引き摺られるように付いて行く





隣を歩く妻の機嫌は悪くない・・



むしろ良い方だ・・



この数時間で一体何があったのかは知らねぇーけど



とにかく恥ずかしい事より妻の機嫌がいいのが一番だ!











お昼を食べにやってきたのは妻のお気に入りのセントラルパーク





街のど真ん中にこんなに大きな公園があるなんて素敵!と



NYへと着いた翌日から毎日のように散歩に出かけている





その公園の芝生の上にシートを広げバッグから



妻が取り出したのは三段重ねの重箱







中に入っているのは最近ではすっかり食べなれた妻の手料理





卵焼きにウインナーにから揚げにプチトマトetc...





そして極めつけは妻お手製の爆弾おにぎり



何で爆弾かって?



それはとにかくデカイから・・・





その小っちぇ手でどうやったらそんなでっけぇのが出来るんだってぐらい大きくて



普通のおにぎりのゆうに3つ分が1つに集約されている






それにぐるりと海苔を巻いてあるから見た目が爆弾そっくり







「爆弾くれ!」





「シャケとこんぶどっちがいい?」





「こんぶ。」





"はい。"と手渡された爆弾・・・





その重さに手におにぎりが乗った瞬間、腕が下がる・・





妻の機嫌を警戒しつつしばらくは食事に専念








爆弾を2個喰わされて食事も終了





お茶を飲みながら重箱を片付けている妻を見ていた











「ねぇ、司?お願いがあるんだけど・・」





「なんだ?なんか欲しいもんでもあんのか?」





「違うよ。あのね・・ヒナちゃん達の名前なんだけど・・もう決めた?」







なんで俺がヒナの名前決めんだよ・・?





「いいや。」





「良かった〜!じゃあ、さぁ・・私が決めてもいい?」





「ああ、お前の鴨なんだからお前が決めればいいだろ。」





「確かに私の鴨だけどヒナちゃん達のママは花沢類だしパパは道明寺でしょ。」







「鴨のだろ!?」





「当たり前でしょ!」





何言ってんのよ!って顔すんな!




ややこしい言い方してんのはお前なんだぞ!!





「分かってるよ!だからお前が好きなのにすればいいだろ!」







「う〜ん・・そう思ってね・・いろいろ考えたんだけど・・
 決まらないのよね・・鴨ママの花沢類に聞いたってガァーとしか答えてくれないし、
 鴨パパの道明寺も同じでしょ・・だから思い切って人間の花沢類に電話してみたの。」







「類に何て聞いたんだよ?」







「花沢類の好きな物は何って聞いたのよ。」







「で?類は答えたんか?」






「ううん、なんか眠そうで私の好きなのでいいよって言うから
 決まらないから花沢類の好きな物の中から選ぼうと思って。
 なんでもいいから好きな物を言ってみてって聞いたの。」







「それで?」







"うん、これだよ!"と妻がバッグから出したメモに書かれていたのは・・







"牧野つくし"


"牧野と一緒に過ごす非常階段"


"牧野と一緒にする日向ぼっこ"


"牧野と一緒の散歩"


"牧野と一緒のお昼寝"


"牧野とのドライブ"


"牧野と飲む総二郎の抹茶ミルク"


"牧野が作ってくれたお弁当"









類のヤロー!



ぜってぇからかってやがんな!

今度あったらぜってぇぶっ殺す!!





「どれも名前にしたら長いでしょ?」





そういう問題かよ・・?!







睨みつける俺を軽く無視して妻は脳天気に話しを続けていく・・





「牧野つくしだったら私と同じだからややこしいし・・
 他のは長いしどうしようと思って・・?」





真剣に悩む事か・・?







「お前はもう牧野つくしじゃねぇーだろ!
 道明寺つくしだろーが!」





「だからね花沢類に私と一緒のこと以外で
 好きな食べ物とか無いって聞いたの。」





「オイ!無視してんじゃねぇーよ!」





「なにが?」





ハァ〜・・聞いてねぇーのかよ・・



もう早くこの話し終わらせてくれ・・





「で?決まったのか?」







「うん、最後にね花沢類が言ったのにしようと思ってる。」





「なんだよ?」





「フルーツグラタン!」







「はぁ?・・フルーツとグラタンって事か・・?」





フルーツのグラタン・・・





想像しただけで吐き気がする・・







「うん。ダメ?」





「いいや・・なんでもいいよ。」





「じゃあ、こっちの黄色方がフルーツちゃんで
 黒い子がグラタンちゃんで決まり〜!」





俺のスーツで遊ぶ2羽を捕まえて





"よろしくねフルーツちゃん、グラタンちゃん"




と挨拶をしている妻を眺めながら





この時、俺は一つの決心をしていた





それは・・・







類のヤロー!



今度、日本に帰ったときは絶対ぶん殴ってやる!!










                               

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