この一週間程起こされなくても目が覚める


自分で言うのもなんだけど俺は寝起きが悪い

それも半端なく悪い


その俺が起こされる前に目が覚めるなんて生まれてこのかたなかった事だ


結婚してからは毎朝妻がその独特の方法で起こしてくれている



まぁその方法っていうのは全てに於いて完璧な俺様だから



成立する起こし方で一般人にはオススメしない



そして類鴨ヒナが生まれてからは妻とヒナの強力タッグを組み朝から俺様に襲い




…じゃなくて…



起こしにくる!



初めてあの強力タッグに起こされた朝は



あまりのショックにその日は一日立ち直れなかった…



キングサイズのベッドで俯せでまくらに顔を押しつけるようにして寝るのが

クセの俺様をまず強引に仰向けにし腹の上に馬乗りになる妻…


まぁここまでされてて起きねぇ俺も俺かもしんねぇけど…


ヒナが生まれる前はグウで額を思いっきり殴られてた…


ゴ〜ンと頭の中に響き渡る音が殴られた衝撃だと理解するころ



容赦なく襲ってくる第二波…



そして俺の目が覚めたのを確認してから襲ってくる第三波…


最後の一発は余計だろう・・・


そう思って文句の一つでも言おうものなら


容赦なく馬乗りのまま次の一波が襲ってくる・・・










毎朝、最低でも3回殴られてた朝の行事だったけど



ヒナが生まれてからはこの恒例の行事に変化が起きた!



まず馬乗りになられるのは変わりないのだが殴られるかわりに



ヒナを顔の上に乗っけられた…




最初はなんだか分からなかった…




毎朝のように上に乗られたなって事は分かっていたが



いつものような衝撃がいつまで待っても襲ってこない…




そのかわりに顔の上になんだか柔らかい感触が…





寝ぼけたままだったが何となくそれだけは分かった…


ゆっくりと目を開くとまず飛び込んできたのは



黄色くてほんわりとしたヒナのちいさなお尻だった…





そしてびっくりして思わず声が出た拍子に開いた口にヒナが落下…



俺様の口の中にヒナが飛び込んできた…




この衝撃が分かるか?





ありえねぇ…





あまりのショックにパニックになりもがく俺に妻はケラケラ笑いながら




俺様の口からヒナを救出!




笑顔で軽〜く




"おはよ!朝ご飯出来てるから早くシャワー浴びてきて!"と告げると


やっと俺の腹の上から降り部屋を出て行った…


残されたのは俺とヒナ達…





小さな体で俺様の後ろを付いて来たヒナ達は俺様がシャワーを浴びている間、


小さな桶にはられた水で気持ち良さそうに水浴びしてやがる…



そして朝食を食べる俺様の足元でヒナ達も朝食を…




うんざりするほどヒナ達に付き纏われているがまだまだこれで終わりじゃない…



朝の最後はバスケットに入れられたヒナ達を手渡され部屋から追い出される…




ありえねぇ…全部がありえねぇんだよ!




元々変わった女だって事は百も承知の上で惚れたんだけど




離れていた10年で予想以上にパワーアップしていて




次の行動が全く予測不能でコントロール不可能!



振り回されぱなしの俺…




だけどそんな俺も嫌いじゃあない…




むしろ彼女の作り出す世界はどこか優しくて楽しくて



ハチャメチャだけど他の誰も体験出来ない生活を楽しく感じている…










起こされる前に目が覚め事に…



ヒナ達に付き纏われる事に…



慣れてきた頃…




仕事から戻った部屋に妻の姿が見当たらない…



その姿を探すとバルコニーへと続くリビングのドアが少し開いていた…


妻の姿を探してバルコニーへと続くドアを押し開くと



鴨小屋の中で何かを覗き込んでいる妻の姿が目に入った…



なにやってんだ…?


しゃがみ込んでいる妻に近付き後ろから声を掛ける…


「オイ!そんなとこで何やってんだよ?」



「ギャッ!」



いきなり声かけたのは俺だけど…

そんなマジで驚く事ねぇだろ…


「色気のねぇ声だなぁ…」



「…もう!脅かさないでよ!びっくりするでしょ!」



「お前がこんなとこにいるからだろ!それより何やってんだよ?」


「あのね…変なのよ…」


「なにが?」



「今度は道明寺が卵産んだの…」



「はぁ?!」






「だから今度はあんたが卵産んじゃったのよ…どうしてだろう…?」



どうしてだろうって…



別にそんな真剣に悩む事か?


「オスだと思ってけどこいつもメスだったって事なんじゃねぇの?」


それしか考えらんねぇだろ…!


だけど何故か真剣に悩んでいる妻に声を掛ける…



「なんでもいいから腹減ってんだよ!飯の用意してくれよ!」


「…ん?今何時?」



「10時過ぎてるよ!」


「ウソ〜!信じらんない!観たいドラマがあったのに〜!終わってる〜!」


ドラマなんてどーでもいいんだよ!


「それより俺様の飯は?!」


「あっ!ごめん…忘れてた」


「マジかよ…?」


「うん…マジ…ごめん!今すぐ作るからちょっと待ってて!」


ハァ〜……


「今からじゃ時間かかるだろ!いいよ、メープルからなんか持ってこさせようぜ!」



「…ごめん…よろしくお願いします…」


「中華でいいか?」


「うん…春巻きとビーフンと杏仁豆腐お願いします…」



しっかりと自分の食べたい物をリクエストした妻は何故か放心したように


リビングのソファに座り込んむとその瞳に涙を浮かべ始めた…



ハァ〜今度はなんなんだよ……



「どうしたんだよ?」



妻の隣りに腰を下ろし背中を軽く撫でてやると堰を切ったように零れ落ちる涙…


なんなんだよ…?


「黙って泣いてたら分かんねぇだろ!なんか言えよ」


「…だって…司が帰って来たのにご飯も作ってなくて…ごめんなさい…」


「そんな事気にしなくていいんだよ!泣くほどの事じゃねぇだろ!」


「…それに…」


「なんだ?」



「…道明寺まで卵産んじゃったの…」



それこそ泣くほどの事かよ・・?



「なんで鴨の俺が卵産んだからって泣くんだよ?」


「だって・・ヒナちゃん達のパパだって思ってたのに・・
 これでヒナちゃん達のパパが誰なのか分からなくなっちゃった・・」



ヒナの父親がそんなに重要だとは思えねぇーけど・・






思いがけず新たな卵の誕生にこれからどうなるんだ・・?





新たに卵が2個出現し妻は再び鴨三昧の毎日を過ごしている。



類鴨ヒナの父親だと思っていた俺鴨が卵を産んだことにより


父親探しが振り出しに戻り妻は毎日、穴が開きそうな程、


鴨のあきらと総二郎を見つめているが答えは出ない…


俺は別にでなくていいと思っているが妻はどうしても気になるらしい…


だけどそんな中で一つ問題が起こった



どうやら俺鴨が卵をちゃんと抱かないらしく…


妻曰く鴨の俺様は落ち着きが無くて常に部屋中をウロウロと歩き回り


挙げ句の果てに自分で産んだ卵を巣の外に追い出してしまったらしく


仕方がないので卵を妻が救出し自ら温めている



卵を体に着け常に持ち運ぶわけにはいかないのでバスケットの中で


ブランケットに包まれ保温されている卵



温度調節が難しいようだがその大変な作業も妻にかかってはなんだか楽しそうだ




何もない所から無理やりにでも楽しみを見つけられる才能…



これを言うと妻は、「貧乏人で悪かったわね!」と



怒るが友人も仕事も何もないNYで頼れるのは俺一人という状況の中でも



めげる事無く人生を楽しめる妻は凄いと思う!


時々、凄すぎて理解に苦しむがとにかく妻の機嫌が良くて楽しそうなのが一番だ!


そして俺も平和だ!








平和が一番だ!



世の中も家庭も



最近つくづくそう思う



この歳になるまで俺様が世界の中心だった



誰に我が儘だと言われようと


誰に横暴だと言われようとそんな周りの言葉など


この俺様にとっては取るに足らない些細な事でどーでもよかった



だけど記憶を取り戻したあの日から俺の平和だった世界が一変した


人生を楽しむとい事に長けている妻は毎日


周りの人間を巻き込み道明寺グループで一大ムーブメントを巻き起こしている


社内での俺のイメージ



今までそんなもん気にした事なんてねぇけど


まぁ全てに於いて完璧な俺様だから


社内でも世間でも家柄や財力に完璧なルックスに加えクールに仕事をこなすいい男!



世界中探してもこんないい男は二人といねぇってぐらい


いい男だってのーが世間一般の俺様に対する評価だと思っている




だけど今ではそのクールなイメージは跡形無く消え去り


妻と鴨に振り回される普通のダンナに成り下がってしまっている…



その大きな要因の一つが最近、


週に何度かオフィスにランチの弁当を届けてくれる妻にある!



弁当を届けてくれるのはいいんだ…


彼女が俺の為に作ってくれる料理は好きだ!


だけどなんで毎回、鴨を連れてくるんだ?


まぁ今でも毎朝ヒナをバスケットに入れて出勤してる俺も俺だけどよ…


大名行列のように毎回ぞろぞろと鴨の一群を引き連れてくる意味が分かんねぇ…


目を引く事このうえないその光景は今や道明寺で働く者全てが知っている


4羽の大きな鴨と最近生まれたばかりの父親不明の2羽のヒナを


従えた妻の快進撃はまだまだ続く…ようだ





ほら・・今日もそろそろ奴らがやってくる時間だ・・



おっと!忘れてた!


俺鴨ヒナの名前は抹茶とマダムに決まったらしい


結局、父親があきらなのか総二郎なのか判断できなかった妻は


あきらと総二郎の双方の特徴というか・・


二人から連想される言葉を選んだらしいが・・


抹茶とマダムって・・


微妙じゃね?


すっかり妻を親だと思っている二羽はどこに行くにも妻の後ろをついて歩いている


時折、振り向きヒナが付いてきている事を確認すると満足気に

にんまりと笑う妻の笑顔に身震いする俺・・



ほら・・今日もそろそろ奴らがやってくる時間だ・・





俺の弁当を運んでくる一群は妻と鴨のF4にフルーツとグラタン、そして抹茶とマダム…



『メェ〜〜〜!』



おっと!こいつを忘れてた…




何故か先週から我が家に居候しているヤギのメリーさん…



ん?


ヤギのメリーさん?


メリーさんって羊じゃね?







                               

                              〜Fin〜






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