俺の妻は変わっている



部屋に芝生を敷いたり鴨をペットにしたり



いろいろ俺には考えつかないことやらかしてくれる


それは看病の仕方も例外じゃない


男として夫として体調を崩すのにもタイミングというものが重要だ



何事に於いてもタイミングというものを外してしまうと大変な事態を巻き起こすことになる



そして見事にそのタイミングを外してしまった俺はNYがもっとも賑やかになる



日に風邪をひき熱を出し寝込んでしまった…



10月31日…この日はNYのみならずアメリカ中が熱狂するお祭りハロウィンの日だ



ここNYでは一日中老いも若きも男も女も…



それこそペットの犬猫までが仮装し街へ繰り出すお祭りの日だ…



そんな楽しそうな馬鹿騒ぎを妻が見逃すはずもなくかなり前からパレードに


一緒に行く約束をさせられていた…










その日は祭日でアメリカ中の会社や学校は全て休み



だが結婚するまで俺はこの日に休暇を取った事は無かったしもちろんハロウィン

にもパレードにも興味は無かった



結婚して一年、今年の夏は忙しくて休みが取れずどこにも

連れてってやれなかった罪滅ぼしにハロウィンの今日は一日彼女に付き合う約束だったのに…





道明寺司!一生の不覚!!



こんな日に限って風邪をひいてしまった……



夕べ帰宅したのは日付が変わる直前だった


少し身体にダルさは感じてはいたがそれほど深刻には感じていなかった


帰宅して妻が用意してくれた軽めの食事を済ませると

久しぶりに妻とのんびりとした甘〜い夜を過ごし



朝はいつもより遅めに起床


目が醒め意識が戻った瞬間、自分の身体の異変に気がついた







頭が痛い


そして喉も…



それでもベッドから起き上がろうとしたがクラリと眩暈を感じて

再びベッドへ倒れ込んでしまった



ヤバイ!


マジでヤバイ!







よりによってなんで今日なんだよ!



しばらくベッドの上でジッとしていたが良くなるような感じじゃなくて

段々と熱が上っていく感覚がしてきた



ブルッと悪寒が走り布団に包まっていると妻が寝室へと入ってきた



「つ〜か〜さ〜!起きてぇ〜〜〜!」



「・・あ、ああ・・」



「どうしたの?起きないの?」



ベッドサイドに立った妻が俺を見下ろしている



「・・あ、ああ・・なんかダルいんだ」



「ん?」



ダルいと訴えた俺に怪訝な表情を浮かべた妻はおもむろに

自分のおでこを俺のおでこに押し付けてきた



「ん〜・・ちょっと熱いね・・熱あるのかも?
 ちょっと待ってて体温計持ってくるから。」







すぐに体温計を持って戻ってきた妻は遠慮なしに俺の口に体温計を突っ込むと

腕組みをして仁王立ちで体温計を咥えている俺を見下ろしている







ピィピィピィと電子音が鳴って俺の口から取り出される体温計




「37.6℃。熱あるね・・寒気する?」





「ああ・・少しゾクゾクする・・」





「じゃあまだ熱上りきってないね・・ちょっと待っててね!」






"ちょっと待っててね!"と再び寝室から出て行ってしまった妻は10分程で戻ってきたけど・・・






な、なんて格好してんだよ・・・





"はい!これ掛けてると暖かいわよ。"




と言いながらブランケットを俺に掛けてくれた妻・・





「それからお屋敷に電話してドクターさんに来てもらえるように
 お願いしたからすぐに来てくださると思うわ。」





なんて言っている妻の格好は何故かナース姿だった・・・







「お前・・なんでそんな格好してんだよ?」





至極まともな質問だと思ったんだけどよ・・




「何?なにか変?」





なんか変かって聞かれれば・・




お前の全てが変だ!!






「・・い、いいや・・別に変じゃねぇーけど・・
 なんでそんな格好してんのかなぁと思ってよ。」







「だって今日はハロウィンでしょ?それに看病って言ったら看護婦さんでしょ?」







「そうだけど・・そんなコスチューム何処から持ってきたんだよ?!」







妻が着ているのはピンクの超ミニのナース服でちゃんとナースキャップもついている






「これねこの前、西門さんがお土産だって言ってくれたの。
 司が喜ぶから着てやれって。」







総二郎!GoodJob!!











「どう?似合ってる?」





「ああ・・似合ってるよ・・」







似合ってるから俺が元気な時に着てくれよ・・





「ほんと?嬉しいぃ〜!司も嬉しい?」





「ああ・・嬉しいよ・・」







俺はオウムか・・?





「それともう一つ、いい事教えたげる!
 今日の下着は黒のTバックなの!!」





「マジか・・?」





「うん!マジだよ!」







「な、なんでTバックなんて履いてんだよ?」







なんていいながらもそーっと手をベッドの端に腰掛ける妻の太腿へ這わせる・・









払いのけられるんじゃないかと恐る恐る妻の表情を伺いながら

手を伸ばすけど意外にも怒られなかった・・





だけど・・・



世の中・・というか・・



妻はそんなに甘くはなかった・・・







「ハロウィンでバニーちゃんになろうと思ってたからTバックなの。
 あっ!お触りは3回までだからね!」





なんだよ・・?



そのルール・・





「今ので1回ね。残りは2回だからね!」





「好きに触らせろよ!」





「ダ〜メ!病人なんだから大人しくしてなさい!」





「病人なんだから優しくしろよ!」





「優しくしてるじゃない!我が儘言わないの!」





今日ぐらい我が儘言わせろよ!と思うが・・





益々、上昇する熱に反論する気力を削がれてしまう・・






そしてそれよりも気になる事がある!





「なぁ?お前、バニーガールの格好でハロウィンのパレードに出るつもりだったのかよ?」




「うん!司の衣装もちゃんと用意してあったんだよ。」




やっぱり・・



俺も仮装させられる予定だったんだな・・





「一応、参考までに俺はどんな格好させられる予定だったのか教えてくれよ。」





「パイレーツの格好だよ!
 アイパッチも付いてて本格的なやつなんだから!
 あっ!肩に乗せるオウムもちゃんと用意してあるの!見る?」





肩にオウム・・・





「いや・・いいよ・・」





妻には悪いけど・・





熱が出てよかったかも・・





ハロウィンのパレードがダメになって妻には少しだけ…





本当に少しだけ悪いと思うけど海賊アイパッチ肩にオウムが免れて



安堵の息を吐き出すとその仕草を誤解したのか妻は





「どうしたの?溜め息なんてついて?そんなにパレードに行きたかったの?」







んなわけねぇだろーが!





思わず口をついて出そうになる言葉をグッと飲み込む




「残念だけどハロウィンのパレードなら来年もあるしそんなにガッカリしないで!」




自分の都合のいいように物事を解釈出来る天才の妻は

俺の態度を誤解したまま俺を置き去りにして暴走し始まる







「ねぇ?」






「なんだ?」





「そんなにパレードが楽しみだったんなら言ってくれればよかったのに!」





どうしてそういう結論に達するのか?




きっと俺にとっては永遠の謎だろうけど…





とにかく妻は誤解している





なにも言葉を返さない俺を大して気にする風でもなく手持ち無沙汰なのか




綺麗に整えられた指先で俺の髪を弄びながら言葉を続けるている





「バニーちゃんは美作さんのお土産だって言って西門さんがくれてたからあんまり悩まなかったんだけどね。
司の衣裳は何にしようか迷っちゃって何軒もオモチャ屋さん梯子しちゃった!」






バニーガールはあきらの土産かよ…




総二郎といいあきらといい…




あいつら俺の事をなんだと思ってんだ?





まぁ…嫌いじゃねぇけどよ…




「で?なんで俺は海賊なんだよ?」




「だって…この前、司が連れてってくれた映画に海賊が出てたでしょ?
 あの映画面白かったし司が海賊の格好したら似合うだろうなぁって思ったから」






そ、そうか…





「ごめんな…こんな日に風邪なんかひいて…」





せっかくの楽しみを台無しにしてしまい最近では

素直に口をついて出るようになった謝罪の言葉を声に出したのに

何故か妻の眉間には深〜い深〜い皺が刻み込まれている





「なんだよ?」



「なんだよって…司こそどうしたのよ?」





「なにがだよ?!」



「だって…ごめんなとかって…熱でおかしくなっちゃった?」




どこまでも失礼な妻だ…



「んなわけねぇだろ!
 俺様が素直に謝ってやってんだからお前も素直に謝罪を受け入れろ!」




「クスッ…そうだね人間素直が一番なんだからちゃんと受け入れないとね!
 ちゃんと謝ってくれてありがとねご主人様」




卑怯者!



なんでこのタイミングでご主人様とか言うんだよ!?



「なぁ、キスしろよ…」





「風邪がうつるからやだ!」





速攻で拒否すんな!





「なぁ〜ちょっとだけならいいだろ?」



「ダ〜メ!病人なんだから盛ってないでおとなしくしてなさい!」



クソー!

ご主人様を犬みたいに言いやがって!


こうなったら実力行使してやる!











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