実力行使してやる!







そう意気込んだわいいけど熱のせいか身体がいう事を聞いてくれない…





妻を引き寄せようと伸ばした腕は虚しく空を切り



妻の太股辺りに軽く触れただけでベッドへと落ちてしまった…







「今ので2回目ね!残り1回だからね!」





マ、マジかよ…







「い、今のはちょっと当たっただけだろ!カウントすんなよ!」







「ダ〜メ!ルールは守らないと!」





それはお前だけのルールだろ?







「俺様にはそんなルール適用外なんだよ!」







抗議の声を上げるがタイミングよく鳴った





来客を知らせるチャイムにかき消されてしまった…









「あっ!?ドクターさんが来た!良かったね司!」







よくねぇーよ!





クソー!医者の野郎!





邪魔しやがって!







クビにしてやる!!












しばらくして妻に案内されて寝室へと入ってきたのは



ドラキュラの格好をした医者だった…





医者までも仮装したまま往診させてしまうハロウィン恐るべし!





ドラキュラドクターの診断は単なる風邪





でっけぇ注射を遠慮なくズブリと腕に突き立ててドラキュラは去って行った





再び寝室には俺と妻だけ





妻がベッドの端に腰掛け俺の髪を優しく撫でながら







「大したこと無くて良かったね。注射も打ってもらったし後は
 安静にしてれば大丈夫だってドクターもおっしゃってたから大人しく寝ててね」





「なぁ…」







「どうしたの?どこか痛いの?」





ちげぇーよ…!





触らせろって言いたいんだよ…





クソー…薬のせいかゆっくりと意識が眠りの淵へと引き摺られ上手く話せない…





妻に髪を撫でられる心地良さも手伝って



俺の意識は瞬く間に夢の世界へ旅立ってしまった…







こうして俺のハロウィンの一日は終わりを告げた…





はずだった……










愛する妻がいつも側に居てくれる幸せ





側に居てくれるだけじゃなくて体調を崩した時には看病だってしてくれる





俺の人生の中では今まで無かった事だ…



ガキの頃、どれほど恋しくても決して手に入らなかった温もりが今はすぐ側にある



だから風邪で体調が悪くて最悪な状況さえも幸せを感じてられてしまう



眠っている俺の髪を優しく撫でてくれている妻の手の温もりを感じている




すっげぇ気持ちいい〜



髪を撫でている手がゆっくりと俺の頬へと移動する…



すべるように移動する指先がくすぐったい




何度も頬を撫でる指先…




くすぐったいだろ…!



やめろよ…




だけど…やめないでくれよ…




妻の手がゆっくりと移動する




み、耳はダメだ…!




おぉっ…!





つーっと耳に感じる生暖かい感触…




うおっ!!





生暖かくて柔らかい物がお、俺様の弱点である耳を攻める…!




いつに無く積極的な妻の挑発的な行為に心も身体も一杯一杯で爆発寸前!




も、もうダメだ!




挑発したのは妻の方なんだからな!




後で文句言ったって聞かねぇからな!









感じるだけじゃなく妻の姿をこの目に写したくてゆっくりと目を開けた…




ん…?!



ん?!


んー!!






「ウオォッーーー!!!!」








耳を劈く自身の雄叫びに重なるメリーさんの嘶き…







『メェ〜〜〜』






俺の叫び声を聞き妻が寝室に飛び込んで来た




「どうしたの?大きな声出して?」




ど、どうしたのって…




ずっと妻の手だと思ってたのがヤギだったなんて…




俺は今、ヤギに耳攻められてたのか?




ウオッー!!




気持ち悪ぃ…




恐ろしい現実に行き着き慌てて舐められた痕を何度もこすった





「どうしたのよ?怖い夢でも見たの?」




怖い夢…?




あぁ…ある意味すっげぇ悪夢だ…!




だけどまさかヤギに耳舐められてるのをお前と勘違いして欲情したなんて



恥ずかしくて言えるはずもなく






「…い、いや…なんでもない…

目が覚めたらいきなりヤギが目に入ってびっくりしただけだ…」




「そう。ならいいんだけど。それよりまだ起きないの?」




「ん?まだ起きないのって…俺、風邪ひいてんだぞ」




「司?風邪ひいてるの?」




なに言ってんだ?




「ボケてんじゃねぇよ!ドラキュラの格好した医者が往診に来たしお前もナース

姿で看病…って…なんで着替えてんだよ?!」




妻の今の格好は定番のジーンズスタイル…








「ねぇ?さっきからなに寝ぼけた事ばっかり言ってんの?熱でもあるの?」




だから風邪ひいて熱があるって言ってんだろ!




「寝ぼけてんのはお前の方だろ?!」




「どうして私が寝ぼけなきゃいけないのよ!

さっさとシャワーでも浴びて目覚ましてきてよ!今日は忙しいんだから!」




ん?




なんかさっきから話しが噛み合っていない…





「なぁ…今日は何日だ?」





閉め切られていたカーテンを開けようとしている妻の背中に問い掛けると



カーテンを勢いよく開く音に重なり聞こえてきた現実…







「今日は10月31日のハロウィンの日よ!」






マ、マジかよ……?





「………」




なにも答えない俺を訝しく思ったのか…妻は振り返り





「どうしたの?本当に大丈夫?さっきからドラキュラだとかナースだとか?
 いくらハロウィンだからって変だよ?」





今日がハロウィン…





ハロウィンは終わって無かったのか?





…って事は…






「ねぇってば!」






あまりのショックに固まる俺






「…あ、あぁ…」






今までの幸せは全部俺の夢なのか?




「大丈夫?」




「…ああ…大丈夫だ」




「そっ!じゃあさっさとシャワー浴びて来て!
 私は朝食の準備してくるから、あっ!今日は抹茶とマダムの水浴びもお願いね!」





言いたい事だけ言うとさっさと寝室を出て行く妻





バスルームの前ではすでにスタンバイOKの鴨ヒナ達…




そして取り残された俺は一人ベッドの上で頭を抱えていた…






『メェ〜〜〜』





うるせぇんだよ!





あっち行けよ!




そんな離れた目で俺様を見んな!











4羽のヒナと共にシャワーを浴びてダイニングへと入って行くと



これって何人分なんだ?ってぐらいの量の朝食が準備されていた





俺は妻になにも不満などない




俺の最愛の妻は何においても完璧なんだ



欲しくて欲しくて堪らなくて…




やっと手に入れた妻なのだから妻の全てに満足している




だけど俺の妻は加減というものを知らない





「ちょっと多すぎねぇか?」





朝10時いつもより3時間ほど遅い朝食が俺に突き付ける現実は



やっぱりあの出来事は夢でもう一度ハロウィンのやり直し…





「今日は忙しいからもう夜まで食べられないかもしれないから
 しっかり食べておいてね!」





食い溜めしとけってか?




妻の作る物は基本的に和食で野菜が多く使われていてヘルシーだが俺が



この歳になるまで食べた事のない物も多くて慣れるまで苦労した物もある…




まぁ今でも納豆だけは喰えないけど



そうこうしている間にも目の前に座る妻は“いただきます〜♪”と



胸の前で軽く両手を合わせると箸を持った



モグモグとよく動く口だな…




草食動物のようなその口元に思わず見とれていると




「どうしたの?食べないの?」




「ああ…いや、食うよ」




「もしかして美味しくないの?」




ウオッ!まて!




泣くな!





「いいや、美味しいよ!だからいちいち泣くなよな!
 最近お前の涙腺おかしいんじゃねぇか?」





「そうかも…ダメだね最近すぐに涙が出てきちゃう…幸せだからかな…?」




「お前…今幸せなのか?」




「うん…すっごく幸せなの。幸せすぎて壊れちゃいそうだよ!」



…すでに十分壊れてるとは思うけど…




「そうか…良かったな」



「うん。司のお陰だよ。ありがと」



「おう!」







もう何度だってハロウィンやり直してやるよ!



















                      
                               
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