もう何度だってハロウィンやり直してやるよ!







俺はすぐにその言葉を撤回する事となる…






食事を終えるとすぐ





食後の珈琲さえゆっくりと飲む時間も与えて貰えず




追い立てらるように部屋を後にした






俺の運転で行き先はまず近所にある子供の保護施設






ここにボランティアで妻が焼いたクッキーを届けた後は屋敷へ向かう






結婚してからはほとんど立ち寄る事のない屋敷だったが



それは俺だけで実は妻は結構頻繁に屋敷へと足を向けている





現在は親父とお袋だけしか住んでいない屋敷で妻は特に何か用があって



出向いているわけではなくただフラリと訪れてはメイド達とお茶して帰ってくるらしい





だから屋敷のメイド達とは仲が良くて今日だって



ハロウィンだから自分が焼いたクッキーをメイド達に届けに行くだけだ








ハロウィンの今日はNYのあっちこっちで交通規制されているせいで



普段の倍近い時間が掛かってやっと屋敷に到着






クッキーを渡し代わりにメイドの手作りのジャック・オ・ランタンを貰い



大喜びしている妻と共に再び部屋へと戻って来た







いよいよ…





これからがハロウィン本番だ!





俺の悪夢が始まった…





ハロウィンのパレード本番は夜だ





ダウンタウンから23丁目のストリートを仮装して練り歩くだけ





だけどただそれだけの為にニューヨークっ子は有り得ない程のパワーを使う



そしてすっかりニューヨークっ子になってしまっている妻も



その有り余るパワーを使い俺をハロウィンマジックへと巻き込んで行く…






部屋へ戻るとさっそく妻はパレードに着て行く衣裳を準備している







妻がクローゼットの奥から出してきたのは悪夢の再来…




夢で見たまんまのパイレーツとバニーガールだった







マジで正夢?





「なぁ?俺も着んのか?」






「当たり前でしょ!お祭りなんだから楽しまなきゃ!」





そう言った妻の瞳がキラキラ輝いている…











「ねぇ?メイクは私がしてあげるかけどムダ毛はどうする?剃る?」







はぁ?




「海賊なのになんでメイクやらムダ毛の処理が必要なんだよ?」







「司はパイレーツじゃないよ!?」







ん?





ちょ、ちょっと待て!?






2つしかない選択肢の中で早々と1つ消えたぞ…!







「パイレーツがよかったの?」







「…い、いいや…そうじゃねぇけど…」







どっちかって言えばどっちもイヤだ!






だけど…







「なぁ?…まさかとは思うけど…もしかして今お前が手に持ってるのが俺のか?」







「そうだよ!可愛いでしょ!?ピンクのバニーちゃんだよ!」





すっきりくっきり笑顔で言い切った妻






俺の衣裳がバニーガールだって判明してから






たっぷり5分程固まっていた俺の様子に妻は気付くはずもなく





楽しそうに鼻歌なんか唄いながら衣裳のチェックをしている





どうする?




俺?





いや…悩む必要なんてねぇ!





逃げるきゃねぇだろ!?





妻の視線が衣裳に向いている間に座っていたソファからそーっと腰を上げ





音を立てないように気付かれないように一歩を踏み出したはずだった…





ガシリと足に感じる掴まれた感触に視線を向けると





俺の足首辺りを掴んでいる妻の手が目に入った





「どこ行くのよ?」






「あっ…いや…ちょっと仕事思い出した」






我ながらヘタな嘘だと思うけど咄嗟にこれしか思い浮かばなかった…





案の定こんなヘタな嘘が通用するわけもなく











妻が足首を掴んでいる手を後ろへと引っ張った拍子に



前のめりに倒れ込んでしまった俺







慌てて体勢を整えようとする俺にすかさず馬乗りになる妻…





イザという時に発揮されるバカ力であっさりと組み伏せられてしまった…





ここまではいいんだ力だけなら男である俺の方が断然強いんだから





形勢を逆転させる事なんて簡単なのだけど…






だけど問題はこの後なんだ…





ひねれば水が出る蛇口のように






最近では自由自在に操ることができる涙腺を使ってくる…






卑怯だ!






この場合、俺は悪くないと思うんだけど…







どっちかって言うと俺が強く出ていいと思うんだけど…






何故か俺は昔っから妻の涙には弱い






妻の涙を見ると無条件に俺が悪いんだって思えてくる…





これもある意味しっかりと刷り込みがされているんだと俺は思っている




今だって狙ってるとしか思えねぇけど条件反射で動きの止まってしまう俺がいる…







「司約束してくれたわよね?」








「…あ、あぁ…した…けど…そんなもん着る約束はしてねぇーぞ?!」









「司は私に嘘ついたの?」







いや…嘘はついてねぇと思ってるけど…






「司は結婚する時に言ってくれたわよね?」







「…お、俺…お前に何言った?」







「ひどーぃ!覚えてないの?私は司が言ってくれた言葉が

嬉しくて今でも毎晩思い出すのにぃ〜!」









いや…俺…お前にそんな大袈裟な事言ったか?







毎晩思い出してくれてるのは嬉しいし常々、





妻の幸せが俺の幸せだとも思っているけど



やっぱりどう考えても結婚する時に言った言葉が




バニーガールには結び付かねぇよ…






「お、俺…お前になんて言ったっけ?」





「10年も寂しい思いさせたからこれからはお前の望みは

なんだって叶えてやるって言ったのよ!忘れたの?!」





「い、いいや…忘れてはねぇけどよ…」






「俺様に不可能な事なんてこの世に存在しないとも言ったわよね?!」






あ〜…言ったな…




「確かに言ったけど…だからって

…もっとなんか金で解決出来る事にしてくれよ…」






「お金なんてどうだっていいのよ!

私は司とお金なんかじゃ買えない二人だけの思い出を沢山作りたいの!」





その意見には賛成だぞ!




だけどこんな思い出作りはしたくねぇんだよ!






「思い出が作りたいんだったらベッド行くか?

そのほうがよっぽどいい思い出が作れるぞ!」





マジでいいアイデアだと思ったんだぞ!





だけど妻には思いっきり不評を買ってしまった…







妻は馬乗りになっていた俺の上から降りると







「司は私に嘘ついてたんだね…もういいよ…」






そう言い残し寝室へと入ってしまった…





やばい…




マジで妻を怒らせちまったかも…?




慌てて後を追いかけ寝室へと入って行ったけどそこに妻の姿はなく





部屋続きになっているウォークインクローゼットへのドアが開いていた





中を覗くと妻は奥にしまってあったトランクを引っ張り出し





自分の洋服を詰め込んでいる







「何やってんだよ?!」





「日本に帰る!」





「ちょ、ちょっと待てよ!

なんでこんな事ぐらいで日本に帰んなきゃなんねぇんだよ?!」






「司はこんな事ぐらいって思ってるんだ?」






「い、いいや…そうじゃねぇよ!」






「そうなんでしょ!?それに司はずっと私に嘘ついてたんでしょ!?」





「はぁ〜…嘘なんてついてねぇだろ!

だからいい加減泣くのやめてくれよ」







「悲しいんだもん!止まるわけないでしょ!」






あ〜あ〜!





もう頭かきむしりたい衝動に駆られるのをなんとか押さえ込み







「あ〜あ〜!もう分かったよ!

バニーガールになればいいんだろ!?なってやるよ!」








俺様の究極の選択だったのに…






「もういいよ。イヤイヤされても楽しくないし…

司が言ってくれた言葉鵜呑みにした私が悪いんだし

司なら私の気持ち分かってくれると思ってたけど…

私…司に甘えすぎてたみたいだね…ごめんね…」






俺の究極の選択だったのに…





それをあっさりと…





ほらな…





やっぱこうなるだろ…







なんか俺様が悪いみてぇな展開になっているだろ!





未だ泣きながらトランクに洋服を詰め込んでいる妻の腕を掴み引き寄せると





素直に身体を預けてきてくれる






「ごめんな…嘘ついてたつもりはねぇんだよ…

だから日本に帰るなんて冗談でも言うなよ」








「…うん…私も言い過ぎた…ごめんなさい」







「じゃあ仲直りな?」







「うん」







「それじゃ仕度するか!行くんだろ?パレード?」







「いいの?」






「おぅ!俺様に不可能な事はねぇからな!何回も聞くな!決心が鈍る!」






「ありがと!司!」




「そのかわり絶対に俺だって分からないように仕上げろよ!」





「うん、任せといて!すごく綺麗なバニーガールにしてあげる!」






本当に嬉しそうに妻が笑うからこの笑顔が見れただけで



もう何も怖いものは無いって思えてくる










な・・・やっぱり妻は卑怯だろ…?


















                      
                               
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