牧野が司に連れ去られて早１年半




総二郎は夏に茶会でＮＹに行った時に牧野と会ったらしいけど




俺も類も結婚式以来、電話で話しをするだけで顔を合わせてはいない





時折ＮＹから海を越えて聞こえてくる道明寺司夫婦の噂には





変な物が混ざってはいたが意外にも悪い噂は聞こえてきていない





変な噂にしたって何千キロと離れた海の向こうから伝え聞く話しなのだから





尾ひれ背びれが付いているだろうから気にはしていなかった





今日、この日までは…







日本時間１１月２日午前６時




俺の新しい一日が始まる





シャワーを浴び渇いた喉を潤す為に




備え付けの冷蔵庫から水を取り出しＴＶの電源を入れた





一日の内で俺がＴＶを点けるのは朝のこの時間の２０分程だけだ





ニュースや流行、芸能に至るまでなんでもアリの番組の内容を



見ているわけではなくただの時計代わりだ






ＴＶの中から聞こえてくる女性キャスターの声を聞き流しながら



身仕度を整えるのが日課となっている





それでも時折、耳に届くニュースに身仕度を整える手が止まる時もある





朝の番組内で毎日届けられるＮＹからの電波






ダウ平均株価に政治動向などたった５分にも満たない中継時間の中で




最も時間を割かれるのはＮＹの日常の話題






ＮＹで流行っている芝居や最近話題のバーや




新しいビジネスなど多岐に渡るＮＹの日常を紹介するコーナーがある






ＮＹ―親友夫婦が住む街





ＴＶ画面に映し出されるのは見慣れたＮＹの街並みだけど



あの二人が暮す街から届けられる情報に自然と手が止まり視線が画面へと移動する






今日のＮＹからの情報はもちろん夕べ開催されたハロウィンのパレード







時差の関係で日本とは一日遅れのハロウィンに仮装して街へ繰り出すＮＹっ子達





老いも若きも入り乱れてのバカ騒ぎの光景が映し出されている





そんなバカ騒ぎのど真ん中にヤギを連れた大男のバニーガールと





鴨を肩に乗せた小さなパイレーツの姿を見つけてしまった・・








ちょうど手にしていた水の入ったペットボトルを足の上に落としてしまい




その衝撃で我に返った・・





リモコンを手に取りボリュームをあげ画面に近付き




バニーガールとパイレーツを凝視する






リポーターの影になっていて顔ははっきりと見えなかったがちっちゃいパイレーツが



ＴＶカメラに気付いて笑いながらカメラに手を振った





牧野だ・・




って事は・・




手を繋いでる大男のバニーガールが司か？




慌てて携帯を手に取り類へとダイヤルする





この時間、ＴＶっ子の類なら見ている可能性大だ！





案の定、普段からは考えられない早業で出た類





“もしもし、あきら？”





「ああ、見てるか？」




“うん、見てるよ。司と牧野元気そうだね…プックックックククッ…”





それだけ言うと笑いのスイッチが入ってしまった類





右耳で類の笑い声を聞きながら







視線はＴＶの中のパイレーツとバニーを追っていた






それにしてもすげぇな…





あいつなんて格好してんだよ…？！




ってか…司が自分から率先してバニーガールの格好なんてするわけねぇから





牧野にさせられてんだろうけど…




司…





お前…すっかり飼い慣らされてんな…




司の相手なんて世界中探したって牧野しかいねぇと思ってたけど





実際はその逆で牧野の相手を出来るのが司だけだったのかもしれないな…





リポーターの後ろを通り過ぎて行くパイレーツとバニーガール





長い付き合いの俺達だっていくら牧野にお願いされたとしても





あの司が女装してハロウィンのパレードに参加するなんて想像出来なかったけど





なんかちょっとムカつくのはＴＶの中のパイレーツとバニーガールが楽しそうで…





幸せそうなのがムカつく！






しかしよ司…バレてねぇと思ってるんだろうけどバレバレだぞ！





今はもうＣＭに変わってしまったＴＶ画面と





相変わらず笑いっぱなしの類と






遠い海の向こうから聞こえて来た噂が真実だって事に気付いた俺




ひとしきり笑い転げていた類は





“あ〜あ〜面白かったね。俺、疲れちゃったから寝るね。おやすみ”





幾つだよお前は…





社会人だろ！





いろいろ言いたい事はあるけどヤメた





「お休み」





類との電話を終えた俺はその後すぐに秘書に連絡を入れた














                                                     
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