1ヶ月なんてあっと言う間・・
あいつが食堂に現れてからもう1ヶ月が過ぎてしまった
今日はあいつが指定した返事の期限日・・ホワイトデー

17歳のあの頃は一日が長くて
一年が長くて
三年が嫌になるくらい長く感じられていたのに・・

今はたった1ヶ月をもの凄く早く感じている
この1ヶ月であたし自身なにが変わったのだろうか?
たった1ヶ月であたしの人生はどう変化するのだろうか?


だけど未来を決めるのは自分自身
そう信じて生きてきたんだから
これからだってそうやって生きていく!
10年後の自分ために











1ヶ月前と同じ時間に同じ場所
ただあの日と違う事はギャラリーが多いって事

社内中の噂になってたからかもしれないけど
いつもはゆったりとしている社員食堂に人が溢れかえっている
それに私の隣には美作さんと花沢類が座っていて
目の前には西門さんが座っている

この三人・・別に私が呼んだわけじゃあない
なんか面白そうだからって勝手に集まってきちゃっただけ・・
私としてはこの三人が現れると話しがややこしくなるだけだから
帰って欲しいと思ってるのに・・・
新しいおもちゃを買ってもらった子供のように瞳をキラキラさせて座っている・・

それにさっきから西門さんがこちらに熱い視線を送ってきている女性社員に
ニッコリ微笑み返したりするもんだから社員食堂のあちらこちらから
悲鳴のような歓声があがってうっとおしいぃーつっの!!

「もう!西門さんなにやってんのよ!
 それになんでみんな来るのよ?!」
「まぁそう熱くなんなよ。
 俺らはお前にプレゼント持ってきてやっただけなんだから。」
「プレゼント?」
「そうだ、今日はホワイトデーだろ?
 だからお前にいいもん持ってきてやったんだよ!」
「私、バレンタインデーに何も渡してないわよ。」
「ああ、今さらお前からのチョコなんて期待なんかしてねぇーよ!
 俺らの誕生日もクリスマスも軽〜く無視するお前に何か貰おうなんて思ってねぇーから
 心配すんな!」

嫌味を言いに来たのか?
そりゃ〜誕生日だってクリスマスだってバレンタインだって
何も渡してないけど・・
こんな嫌がらせされるほどの事じゃないと思うんだけど・・?

「それって嫌味?」
「いいや、俺らがお前に嫌味なんて言うはずねぇーだろ?!
 いくらお前に冷たい態度取られても俺らは仲間だからな!」
「やっぱり嫌味じゃないのよ!
 それに誕生日にプレゼント渡さなかっただけで冷たいなんて言わないでよね!」
「お前からのプレゼントなんて期待してねぇーって言ってんだろ?
 携帯の番号が変わったのに教えて貰えなくても引越したのに
 引越し先教えて貰えなくても俺らはお前の仲間だからな!」
「・・携帯って・・5年も前の話しをいつまでも嫌味ったらしく言わないでよ!!」
「まだ5年しか経ってないんだなぁ〜あれから!」

しみじみ言わないでよ!!
携帯の番号変えたのだって今まで使ってたのが壊れちゃって
新規で契約した方が安いから番号が変わっただけでしょ!
古い携帯に入ってたデータがダメになっちゃったから
みんなの番号が分からなくなってしまって
連絡したくても出来なかったのよ!
それに連絡の取れなかった期間って言ってもたった1週間ほどじゃない!!
それを何かあるごとに5年も前の事を嫌味ったらしく持ち出さないでよね!!

「用が無いんなら帰ってよ!」
「まぁまぁそんな怒るなよ!プレゼント持ってきてやったってのは本当なんだから!
 ほら!コレやるよ!」

そう言って私の目の前に差し出されたのは綺麗にラッピングされた包み紙・・
ありがとうと言って受け取ったんだけど・・・
まさか本当にプレゼントがあると思ってなかったからちょっとびっくり・・・
なんか本当に自分が冷たい人間に思えてきちゃうじゃない・・


「お前、そんな顔してたらブスが余計ブスに見えるぞ!」
「大きなお世話よ!ほっといてよ!」
「本当にほっといていいのか?」
「どういう意味よ?!」
「お前、これから司のプロポーズの返事しなきゃいけないんだぞ!?
 一人じゃ淋しいだろ?」

淋しくなんかないわよ!!
さも私の為みたいな事言ってるけど
あんた達の魂胆は分かってるんだからね!!

「淋しくなんかないわよ!子供じゃないんだから一人で大丈夫よ!」
「ねぇ、牧野?答えは出てるの?」
「・・えっ?」
「司からのプロポーズの答えは出たの?」
「・・プロポーズの答えは・・出てる・・けど・・」
「けど?」
「・・確かめたい事があるの・・」
「確かめたい事?」
「うん・・確かめたい事・・って言うか聞いてみたい事・・かな・・?」
「そう、じゃぁ本人が来たみたいだからちゃんと聞いてみれば。」

そう言った花沢類の視線の先には道明寺が居た・・・
無言のまま私の目の前に座った道明寺だったけど
さすがにF3が一緒にいるのには驚いている様子で
三人に鋭い視線を送っている

「よお!司!久しぶりだな!」
「おめぇーらここで何やってんだぁ?!」
「俺らはお前と牧野を見届けにきてやったんだよ。」
「そんなもん必要ねぇよ!」
「まぁそう言うなよ!お前と牧野がどんな答えを出そうと
 俺らが証人になってやるから!」
「答えは一つしかねぇーんだから証人なんて必要ねぇーんだよ!」

そう言うと道明寺はいきなり私に視線を向けてきた
真っ直ぐに見つめられる瞳・・

「答え聞かせろよ。」

シンプルすぎる言葉・・
答えは一つしかないって今言ったとこじゃない・・

「矛盾してる。」
「はぁ?何がだよ?!」
「あんた、今、答えは一つしかないって言ったのに、
 私に答え聞かせろなんて矛盾してるって言ってんのよ。」
「矛盾なんてしてねぇーよ!俺が受け入れる答えはYesだけだ!
 それをお前の口から聞きてぇーだけだよ!」
「Yesだけって・・・」
「当たりめぇーだろーが!Yes以外の答えなんてありえねぇーんだよ!」

どこまで自分勝手な男なのだろうか・・?
本気で呆れてしまう・・


「さっさと聞かせろよ!」
「私の・・私の答えは・・」
「早く言えよ!」

私の答えはNoよ!
たったそれだけの言葉を言えば終わるのに・・
どうして言葉が先に進まないのだろう・・?

「・・私の答えを言う前に聞きたい事がある。」
「何を聞きてぇーんだよ!?」
「・・あんた・・もしもって・・考えた事ある?」
「なんだそれ?」

本当に不思議そうな表情で問い直してくる道明寺

「だから!もしもあの時って考えた事ある?って聞いてんのよ!」
「だからそれってどういう意味だって聞いてんだよ!」
「・・もしもあの時・・赤札なんて貼らなければ・・とかって考えた事ないの?」
「ねぇ!」

射抜くような鋭い視線と共に返ってきたのは簡潔すぎる一言だけ・・

「本当に?」
「そんなもんねぇーよ!お前はあんのかよ!?
 お前は俺と出会ったこと後悔してんのか?!」
「・・えっ!?・・こ、後悔なんてしてないけど・・」
「だったらもしもなんて関係ねぇーだろーが!
 あの時もしもあーしてたらなんて後んなって考えたところで何もかわんねぇーだろ!!」

後悔なんてしてない・・
ましてや彼と出会い恋をした事を後悔したことなんて一度も無い・・

ただいくつもの・・もしもの中で・・

彼がNYへ行ってしまってしばらくしてから美作さんに聞いた言葉・・
"あの時、司は道明寺を出るつもりだったんだ"


もしもあの時・・彼がその言葉のままに行動していたら?
10年後の今、私達は一緒に居られたのだろうか?


・・それは・・多分無理だ・・


幼かった私達はきっと互いの手を離してしまっていただろう・・
10年後の今、こうして目の前に互いの姿を確認する事は出来なかっただろう・・・


「俺は記憶の事も含めて何一つ後悔なんてしてねぇーぞ!」
「・・記憶の事も・・?」
「ああ、10年もお前を一人にした事は悪いと思ってるけど俺達にはこの時間が必要だったんだよ。」

もしかして・・
同じ事を考えてる・・?

「どういう事?」
「高等部卒業してすぐにNYへ行って大学に通いながら仕事を始めたけど・・
 18のガキが何か出きるほど甘い世界じゃなかったって事だよ!
 あのままお前と付き合いながらNYで大学と仕事なんて絶対に続けらんなかった・・
 俺はきっとお前の手を離してたと思う。好きだの嫌いだのって感情に囚われる事なく
 大学と仕事に専念できたから今の俺がある。」


声を荒げる事なく冷静に自分を分析している彼・・
目の前に居るのはあの頃の道明寺じゃない・・
私の知らない彼が居る・・
あらためて10年という時間を感じてしまう・・

「今の俺はあの頃の俺じゃない!
 ババァだって俺には逆らえないんだよ!」
「ねぇ・・あの頃のあんたじゃないって言うのは分かるけど・・
 10年も離れてて私が結婚してるとかって考えなかったの?」

私の問いかけに彼はニヤリと口角だけを上げて笑っている・・
その顔は私のよく知っている彼で・・

「そんな事ありえねぇーんだよ!」

自信満々に否定されるのも何だか複雑・・

「どうしてよ?」
「この世に俺様以上の男なんていねぇーからだよ!」

あっ!カブト虫が復活した!!

もう私の頭ん中は混乱している
目の前に居るのは道明寺なんだけど道明寺じゃなくて
だけどやっぱり道明寺で・・

たたみ掛けてくる言葉はどんどん私の思考を混乱させる・・

「何があってもお前は俺が守る。
 それだけの力は十分持ってるから。」

守ってもらおうなんて思っていない・・・
だけど昔っから自信過剰な男だったけど
この10年でそれに見合うだけの実力を付けている彼が羨ましい
時間は誰の元にも平等に流れているのに
今の私は彼を守れるのだろうか?

「あんたは私と一緒で幸せになれるの?」
「俺はお前じゃないと幸せになれねぇーんだよ!
 いい加減気付け!」

彼と結婚すれば10年後の私はきっと幸せに過ごしているだろう・・
そして私が一緒に居る事が10年後の彼の幸せに繋がっている・・
だけど答えは変わらない


「そろそろ答え聞かせろよ!」

目を閉じて大きく深呼吸してから目の前の彼を見据える

「今の私はあんたを愛してない・・だから今すぐあんたと結婚はしない。」
「Yesしか受け入れねぇーって言っただろ!」
「私の話しはまだ終わってないのよ、最後まで聞きなさいよ!
 今すぐって言ったでしょ。」
「回りくどい言い方してねぇーではっきり言えよ!」
「今すぐ結婚はしないけど・・あんたの側に居る。」
「それって付き合うって事か?なんでそんな事する必要あんだよ!
 さっさと結婚しちまえばすむ話しだろーが!!」
「あんたの側に居てその自分勝手な性格を叩きなおしてあげるって言ってんのよ!」
「お前は相変わらず素直じゃねぇーな!?」

ハァ〜・・って大きな溜息・・
あんたに溜息なんてつかれたくないわよ!

「ハァ〜分かったよ、とにかくお前は俺と一緒に居るんだな?!」
「付き合ってみるってだけよ!ダメだったらすぐに別れるから!」
「やっぱお前バカだな!?」
「あんたに言われたくないわよ!
 いい?ダメだったらすぐに別れるからね!」
「お前が俺と別れられるわけねぇーんだよ!」
「別れられるわよ!」
「無理だね!」


いつまでもここで言い合ってても平行線で疲れるだけだから
ここら辺で終わらせてみんなにはお引取り頂こう

「何でもいいわよ!とにかく話しはこれで終わりでしょ?
 だったら四人ともさっさと帰ってよ!」
「ハァ!?お前なに言ってんだ?」
「何って?帰れって言ってんのよ!」
「やっぱお前バカだ!」

なんなのよーー!!
さっきから何回もバカバカって!!

「さっきから何なのよ!?もう話しは済んだでしょ!?」
「話しは済んだけど俺様が帰るって事はお前も一緒って事なんだぞ!!」
「なんで私があんたと一緒に行かなくちゃいけないのよ?」
「お前、それマジで言ってんのか?」

だからなんなのよーー!!

「マジよ!」
「お前、俺が今、NYに住んでるって事分かってるよな?」
「分かってるけど?」
「お前は俺と付き合ってみるって言ったよな?」
「言ったけど・・それとNYがどういう関係があんのよ?」
「お前、俺と遠距離で付き合うつもりだったのか?」
「あんたはNYで仕事でしょ?私は日本で仕事だから・・
 そう言う事になるんじゃないの?」

私がそう言い終えた瞬間、社員食堂に響き渡ったあいつの怒鳴り声・・

「ふざけんなぁーーー!!」

別にふざけてなんかないんだけど・・
あいつの怒鳴り声に驚いてしまって声が出ない・・
隣では美作さんも道明寺の怒鳴り声に身体がビクンと反応している・・

「なんなのよ!いきなり大きな声出さないでよ!!」
「うるせぇー!俺はこれ以上、お前と離れるつもりはねぇーからな!
 お前も一緒にNYへ連れて帰る!!」
「・・はぁ?なんで私がNYへ行かなきゃいけないのよ?!
 私は行かないからね!!」
「うるせぇー!甘い顔してたらつけあがるんじゃねぇーぞ!!」

なんつー脅しよ!!

「返事も1ヶ月待ってやってその上、また一から始めてやろうって言ってんだぞ!
 俺様がこんだけ譲歩してやってんだ!お前がNYへ来い!!」

無茶苦茶だと思わない?

「仕事があんのよ!?行けるわけないでしょ!!」
「仕事なんか何とでもなる!お前が一緒じゃなかったら俺はNYへ帰んないからな!!
 いいのかそれでも!?」

やっぱり脅しだわ・・

「バカな事ばっかり言ってないでさっさとNYへ帰りなさいよ。」
「お前も一緒じゃねぇーとかえんねぇー!
 いいのか?俺様がNYへかえんねぇーと道明寺は一日で何億って損害なんだぜ!」

それは私のせいなのか・・?

「だったらさっさと帰りなさいよーー!!」

いい加減にして欲しい・・・
んだけど・・
そう思っていたのはどうやら私だけじゃないらしい・・
ずっと黙って私と道明寺の話しを聞いていた西門さんが口を開いた

「牧野、観念して一緒にNYへ行ってやれよ!」
「嫌よ!」

そりゃ〜私だってこの歳でNYと東京の遠距離恋愛なんて
どうかしてると思うわよ・・
だけどこのままなし崩しに道明寺の言いなりになって
NYへ行くのは絶対にヤダ!

「牧野?俺達って友達だよね?」

今度は花沢類・・
質問の意図が分からないけど・・

「・・そーだけど・・?」
「だったら俺らを助けると思って司とNYへ行ってよ。」

何を言い出すんだ・・花沢類!

「私がNYへ行く事がどうしてみんなを助ける事になるわけ?」
「俺達、椿さんに頼まれたんだ。司がNYに帰ってこない事で
 道明寺は毎日、損害が膨らんでいて仕事が回らないから
 一度、帰ってくるように言ってくれって。頼まれたんだけど・・
 俺達じゃ無理なんだよね。」
「そーだぞ!牧野!司がこっちに帰ってきちまってるからみんな迷惑してんだ!」
「俺んとこも類んとこも損害を被ってんだぞ!」
「俺だってNYでの道明寺主催の茶会が急にキャンセルになって大損害だ!」
「いいのか?みんなに迷惑かけて!」

なんかすっごく勝手言い分よね・・
ぜ〜んぶ私のせいにされてる・・
んだけど・・
きっと彼が日本にいる事であっちの人達が迷惑しているって事は事実だろうし
F3にしたって多分、損害を被っているというのもウソじゃないんだろう・・
けど・・それって私の責任なの?

だけど・・はからずしも話しの当事者になってしまった以上は
私の決断が与える影響は大きいのかも・・
あ〜あ〜なんか全然納得出来ないんだけど・・・


「ハァ〜分かったわよ!行くわよ!行けばいいんでしょ!」
「最初っから素直にそう言えばいいんだよ!」

もうこの男は!
一発殴ってもいいわよね?
だけどその前にはっきりしておかなければいけない事がある

「あんたと一緒にNYへ行ってあげる!だけど条件がある!
 私は向こうで仕事を探してちゃんと自立して生活するから
 間違っても養ってやるとか言わないで!」
「働くのは認めてやる、だけど俺の秘書として働け!住む所は俺と一緒だ!」
「それだけはヤダ!」
「牧野!いいじゃねぇーかよ?どうせ司の根性叩き直すんだろ?
 だったら近いほうがやりやすいぞ!」

そんな理由?

「そーしろよ!NYは家賃も高いし物価も高いから司んとこで働いて
 給料分捕って生活費はぜん〜ぶ司に出させてやれよ!お前、一年も働けば結構な額の貯金が出来るぞ!!」
「そーだ!そうしろ!」
「牧野、貯金好きだもんね。」
「決まりだな!」

決まってない!
ほらね!やっぱりこの三人が口を出すとロクな事がないでしょ!
あっという間にNYが行きが決まっちゃって
おまけに私がこのカブト虫男の秘書?
秘書なんて出来るわけないでしょ!

「秘書なんてやった事ないから出来ないわよ!」
「大丈夫だ!俺様には優秀な秘書が何人もついてるからお前は俺の側に居るだけでいい!」
「それって秘書の仕事なの?」
「なんでもいいんだよ!お前と話してたらいつまで経っても
 なーんにも決まんねぇーじゃねぇかよ!ジェット待たしてあんだからさっさと行くぞ!!」
「ヤダ!そんな条件飲めない!!」
「立て!」
「ヤダ!」
「担ぐぞ!」

か、担ぐ・・??
ヤダ!!
この状況で担ぎ上げられるのなんて絶対にヤダ!
そう思ったら条件反射で思わず立ち上がってしまった・・

途端、前から伸びてきた腕につかまれ強い力で引っ張られる・・

「ちょ、ちょっと痛い!離してよ!」
「うるせぇーんだよ!さっさと来い!」
「引っ張らないでよ!自分で歩けるわよ!!」

引っ張られて足がもつれそうになるのを何とか堪えて
一歩踏み出すと後ろから美作さんの声が

「牧野!忘れ物だ!」

そう言って彼の手から綺麗に円を描いて私の胸元へ
辿り着いたのはさっきプレゼントだと言って三人から渡された包み

「あっ!それNYに着いてから開けろよ!」
「・・う、うん・・分かった・・ギャーー!!」

振りかえり美作さんと話しをしていると急に身体が宙に浮いて
天と地が逆さまになってお腹に感じる圧迫感・・

・・って!!

「ちょ、ちょっと降ろしなさいよ!!」
「うるせぇーな!落とすぞ!!」

落とす?!
床は固いコンクリート・・
落ちたら絶対に怪我する!
そう思った途端、働く防衛本能・・
私はカブト虫男に担がれたまま社内を移動して
会社の前に止まっていたバカでかい車にほおり込まれ
ニヤついた顔の男に散々、文句を言うんだけど軽〜く無視されて
そのまま道明寺家に待機していた自家用ジェットに
これまたほおり込まれ息つく暇なしに日本を出国してしまった・・

その頃、社員食堂で私達の一部始終を見届けたF3達が
"やっぱ俺の言った通りになっただろ?"
"俺のってみんな同じ意見だったじゃねぇーかよ!"
"これで俺達は一応、姉ちゃんに頼まれた事は果たしたって事だよな?"
"そーだな!猛獣は猛獣使いに任せとけば安心だ!"
"やっぱ牧野にあれ渡しといてよかったな!"
"きっとあっちに行ったらさっそく必要になるかもね。"
なんて訳の分からない会話が交わされたいたなんて知る由もなく

私は離陸した飛行機の中で隣に座るカブト虫男を睨み続けていた

「オイ!それ・・」
「それって?これ?」

彼の視線は私の手の中にある物に向いている

「そーだよ!それ何なんだ?」
「これF3がプレゼントだって言ってくれたの。」
「何が入ってんだよ!?」
「知らないわよ!NYへ着いてから開けろって言ってたし。」
「開けてみろよ!」
「嫌よ!あっちに着いてからって約束だもん。」
「いいから!開けて中身見せろ!!」
「嫌だって言ってんでしょ!ちょ、ちょっと!何すんのよ!
 私が貰ったんだから返してよ!!」

私の手から強引に包みを奪うとなんの躊躇もなく開けてしまった道明寺は
その中身を確認すると不思議そうな表情を浮かべている・・

「お前、犬なんか飼ってたか?」
「はぁ?飼ってないけど?」
「だよな・・だったらこれどういう事だ?
 あいつらなんでお前にこんなもんプレゼントすんだ?」
「知らないわよ!・・って何が入ってたのよ!?
 見せなさいよね!」

そう言って彼の手から包みを奪い取り中身を確認してみる・・
なにこれ?

これって・・アレよね?
・・って・・

「なにこれ?・・って・・」

綺麗にラッピングされた包装紙の中に入っていたのは首輪・・
首輪・・?
これって犬用の首輪?
黒い皮で鉄のイボイボがついていて・・なんか昔、漫画で見た犬って
こんな首輪してなかったっけ・・?
だけど・・どういう意味なんだろう?
私、今まで犬なんて飼ったことないし・・首輪なんて・・
・・って!

あっ!!
もしかしてこれって猛獣用?
って事・・?
もしかしてあの三人・・こうなる事を見越してこんな物わざわざ用意してたってわけ?
初めてかもしれない・・
あの三人に貰ったものでこんなにも有意義な物って!
でも笑っちゃう!!

「プッ!」
「てめぇー!なに笑ってんだよ!?」
「プッ!・・笑ってない・・」
「笑ってんだろーが!ウソつくな!」

額に青筋を浮かべながら私の手にある物を奪い取ろうとする道明寺
あれ?まだなにか入ってる?
そう思って手を突っ込んで引っ張り出してみると
"猛獣注意!"と書かれたプレートと懐かしい赤札だった・・

「プッ!!ちょ、ちょっと!私のだから取らないでよ!」
「てめぇー!これなんに使うつもりなんだよ!?」

プレートを睨みつけながら凄む道明寺・・
首輪に"猛獣注意"のプレートに赤札とくれば使い道は一つしかないでしょ!

「決まってんでしょ!こうすんのよ!!
 向こうへ行ったら私があんたのそのバカで自分勝手な性格を
 叩きなおしてあげるから覚悟しときなさいよ!」

そう言って彼の額に貼った赤札
ピシッと彼の鼻先を指で指しながらの言葉

目の前の道明寺は私の突然の行動に驚いていたけど
すぐにその顔が笑顔に変わった

「宣戦布告だな!お前こそそのセリフ忘れんなよ!」

鼻先に突きつけられている私の手を掴むと
満面の笑みを浮かべて私を見つめた道明寺は
あの頃の・・
私が一番好きな彼の笑顔だった・・

今はまだこの答えが正しいのかどうかは分からないけど
自分で出した答え
自分で決めた未来
10年後も20年後もきっと私は今日のこの答えを後悔する事は無いだろう




      〜 fin 〜











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