披露宴が行われている中庭に向かって歩き始めてしまった
司の背中を慌てて追いかけるんだけど
披露宴会場とカフェは目と鼻の先にあって追いついた頃には
ほら、もう・・会場の入り口・・



必死で止める私の声なんて無視して司は会場入り口に居た従業員さんに
二言三言声を掛けると私の手を引っ張り中へと入ってしまった・・・



ギャ〜〜〜
ちょっと待ってぇ〜〜
声にならない悲鳴が私の体中に響いている
自分の悲鳴に耳を塞ぎたくなる



目の前の会場では当然、突然現れた司と私に驚いていて
今まで目の前のひな壇に座る二人に向けられていた視線が
いっせいにこちらへ集中する
思わず司につながれている手に力がこもる




会場内では見知った顔がチラホラ
って言っても重役の人たちなんかは株主総会なんかで
遠くから見てるだけなんだけど・・



あっ!私に敬語使い始めちゃった部長だわ・・
あっ!私を料亭に接待しちゃった社長さんだわ・・
って事はあの人が社長の奥様なのね?
綺麗な人・・
なんて思いながらも私の身体は司によって
どんどんと会場の中心へと進んでいく


スピーチの真っ最中だった社長が慌てた様子で私達の所までやって来て
その手もみせんばかりの勢いに私は思わず司の後ろへと隠れた・・・



「これは、これは!道明寺様に奥様まで!
 この度はご結婚おめでとうございます。」




社長さんの言葉を合図に周りからもいっせいにおめでとうございますの
声・声・声・声と同時に頭を下げられる・・・


もう逃げたい・・・
いや!逃げよう!
この際、司なんてどうでもいいから
私、一人でここから走って逃げよう!!


そう決心して逃げるタイミングを窺っているとちょうど社長さんから
握手を求められて司が私から手を離した
今だ!って思ったんだけどね・・
ダメ・・逃げられない・・・


びっちり周りを取り囲まれちゃってて
円の中心に入り込んじゃっててムリ!
どんどん人だかりが大きくなってくるし
次々と声を掛けられちゃうし・・



口々におめでとうございますって・・
こっちが言いに来た言葉を先に言われちゃって
顔には物凄い愛想笑いが張り付いたまま
キョロキョロと視線が定まっていなかった私は
とうとう目が合ってしまった・・・


ひな壇に座る二人とバッチリ目が合っちゃって
いや・・別に目が合ってもいいんだけどね
何故かちょっとバツの悪さを感じてしまう・・


でもそれは向こうも同じのようで山岡君の目は
思いっきり見開いちゃってるし永井美奈子の方は
愛想笑いの私とは対象的で新婦には似合わない不快感が現れていた
そして目の前では司が社長さんに是非、スピーチをお願いします
なんて頼まれちゃっててそれを笑顔を受けちゃってるじゃない!!



ちょ、ちょっと待ってぇ〜〜〜!
マイクの前へ行こうとする司のスーツの裾を慌てて掴んだんだけど
それぐらいで止まってくれるはずもなく
私の願いも虚しく裾を持ったまま私を引き摺り
あっさりとマイクの前まで到着・・



司会の人に
"道明寺グループ副社長であられます道明寺司様と奥様より
 新郎新婦様へのお祝いのお言葉を頂戴したいと思います"
なんて紹介されちゃって・・


もう絶対絶命!
穴があったら入りたい・・・
どこかに無いかしら?
いや!もう自分で掘るから誰かスコップ貸してぇ〜〜〜






マイクを手にした司のスピーチが始まった


『隆志さん、美奈子さん、そしてご両家の皆様おめでとうございます。
 本日は道明寺グループの当ホテルをご利用いただきありがとうございます。
 この喜ばしい瞬間のお手伝いをさせていただける事を従業員一同大変誇りに感じております。』



何を言うんだろうとドキドキしてたんだけど意外にも(失礼かしら?)
まともな滑り出しに少しホッとして強張っていた肩から力を抜いたんだけどね・・


やっぱり道明寺司は道明寺司で
俺様は俺様だった・・・




『現在、私達夫婦はNYに居を構えておりますが、仕事の都合上、
  妻のつくしを伴いまして帰国しておりましたところ本日、
  偶然にもこちらでお二人の披露宴が執り行われていると聞き及びまして、
  実は以前より妻のつくしからは新郎の山岡さんとは同期入社という事で
 大変お世話になっていたと聞いておりましたので・・』



ウソです!
ウソなんです!
そんな事、ひとっ言も言った覚えはありません!!




『ですので夫として是非、一度お目にかかり
  お礼を申し上げたいと思っておりました。』



なに?
この妙に謙ったスピーチは・・・?
でもって本題はここからだったのよね・・




『それと同時に妻からは山岡さんは大変優秀な方だとも
  聞いておりましたので是非、御社と当社との間で進行しております
  共同事業の責任者として現地で陣頭指揮を執っていただきたいと
  考えております。もちろん御社には御社のお考えがあると思いますが、
  いかがでしょうか、上田社長。』


スピーチの中で突然、自分の名前を呼ばれた社長さんは
慌てながらも"ハイ!是非、こちらこそ宜しくお願い致します!"
なんてほとんど勢いだけで返事しちゃってお辞儀までしちゃってるけど・・
本当に大丈夫なの?




だけど初耳だわ・・
道明寺との共同事業なんて本当にそれが決まったんだったら
私が勤めてた会社にしても一大事業でその責任者なんていったら
大抜擢じゃない!
とも思うんだけど・・
現地って一体何処よ?


赴任先も何処だか分からないまま新婚早々に転勤が決定してしまった山岡君
目を白黒させてるけど誰もそんな彼を気に掛けている様子はなく
周りからは"おぉぉぉ〜"なんてどよめきと共に拍手まで
しちゃってる人もいたりして



私自身もいいのかしら?なんて思うけど口を挟めるような雰囲気じゃないし
新婦のお父様でもある重役さんは
"隆志君、がんばってくれたまえ!"
なんて言っちゃってるし・・


山岡君としてはもう"頑張ります"としか言いようのない状況に
なってしまっている
そんな彼の頑張りますとの言葉に司が返した言葉は


『期待していますよ。』


だけだった



『それでは私達はこの後の予定がありますので、この辺で。』


なんて涼しい顔で締めくくっちゃって



横でポケーっと突っ立ったままだった私の腕を掴むとあっさりと会場を後にした











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