しばらくは黙ったままで中庭を歩いてたんだけど
ホテルの建物が近づいてきたところで司がいきなり立ち止まり
少しだけ後ろを歩いていた私へと振り返った


「どうだ?惚れ直しただろ?」
「はぁ?」
「俺様は格好良かっただろ?」


どーした?道明寺司!?


「どこが?」


えっ!?ここって青筋立つところ?


「てめぇー!今の俺様のスピーチちゃんと聞いてたのか?」
「あっ!?それは意外とちゃんとしてたね。」
「一言余計なんだよ!
 それに俺様はいつもちゃんとしてんだよ!」
「どこが?」
「おめぇーはさっきから喧嘩売ってんのか?
 お前のために俺様があんな庶民ヤローの結婚式でスピーチまでしてやったんだぞ!」



あ〜あ〜頭上から降り注ぐ言葉がウザイぞぉ〜〜
それに庶民って・・大概の人が庶民なのよ!


「恩着せがましい言い方しないでよ!
 私はスピーチしてくれなんて頼んでないでしょ?!」
「頼んでねぇーけど、お前の顔にはちゃんと
 "司、お願い!私の敵を取ってぇ〜"って書いてあったんだよ!」
「眼科行け!」
「てめぇーご主人様に向かってその口の聞き方はなんだ?
 もっと敬え!尊敬しろ!!」
「はい、はい、尊敬してます!
 敬ってますよぉ〜ご主人様。」


「そうやって俺様を馬鹿にしてられんのも今だけだぞ!
 謝るんだったら今のうちだからな!
 後で泣いて謝ったって許してやんねぇーぞ!!」
「どうして私があんたに泣きながら謝らなきゃなんないのよ?!」
「お前は気になんねぇーのかよ?」
「なにが?」

「共同事業の赴任先だよ!」
「あっ!それは気になる!何処なの?教えて!」
「教えて欲しいんだったら先に俺様に謝罪しろ!
 私が悪かったです、二度とご主人様に逆らいませんって
 泣きながら謝れ!」


もう真剣に相手するのやめよう・・
呆れちゃって言葉を返すのが面倒くさくて一人でホテルの中へと歩き始めた


後ろからはオイ!とか言ってる声が聞こえるけど無視!!
ズンズンと一人で先に歩いてたんだけど後ろから司が発した言葉に
思わず立ち止まり振り返ってしまった・・・




「シベリアだよ!」



ん?
シベリア・・?
ロシア・・?
シベリア鉄道・・?


振り返り見上げた司の顔にはちょっとイジワルな微笑みが浮かんでいる・・




「シベリアってロシアのシベリア?」
「それ以外にシベリアってあんのかよ?」
「ん?いや・・無いと思うけど・・そのシベリアで何するのよ?」
「タングステンがあるんだよ!」
「へぇ〜そんな話しがあったんだ・・知らなかった。」




「お前が会社辞めてから本格的に動き始めたプロジェクトだから
 知らなくて当然なんだよ!まぁ下準備は2年ほど前から始まってたけどな。」
「そうだったの・・ねぇ、でもそれって大抜擢って事よね?
 そんなプロジェクトの現地責任者なんて言ったら栄転って事じゃないの?
 それの何処が敵を取るって事になるわけ?」
「お前アホか?」
「あんたにだけは言われたくないわよ!」


「お前、シベリアがどんなとこか知ってんのかよ?」
「シベリアについて知ってる事って・・
 あんまりよく知らないけど・・」
「やっぱお前は素人だな!」



あんたは何のプロなんだ?
突っ込みたいけどいちいち止めた・・



"シベリアってのはな"で始まったご主人様によるありがた〜い説明によると



まず第一に思った事は今までシベリアって地名に接した事はあったけど
漠然したイメージでただロシアの一部分ぐらいの知識しかなかったけど・・
これが意外と広い地域の総称で地図上で見ると
シベリアって呼ばれる地域はロシアの東部分ほぼ全域を指している


現在のロシアは首都のモスクワを管轄している
中央連邦管区と北西連邦管区、南部連邦管区、沿ヴォルガ連邦管区、
ウラル連邦管区、シベリア連邦管区、そしてサハリンなどを管轄している
極東連邦管区の7つの連邦で成り立っている
その中でシベリア連邦管区と極東連邦管区がシベリア地方と呼ばれている


そんなシベリア地方で今回、山岡君が赴任する先は
極東連邦管区にあるチュクチ自治管区らしい
チュクチ自治管区はロシアの最東端でユーラシア大陸の最東端でもある
管区内を経度180度線が通っているので東半球と西半球またがっている
東はベーリング海峡に面していてその向こうには
アメリカのアラスカ州がある


この地域は他の地域交通の便が悪いため地域内に
原子力発電所を建設し電力をまかなっている
そしてこの地域は天然資源の宝庫で
タングステン、石油、石炭、天然ガス、金などが眠っている

その中で今回、道明寺が採掘するのはタングステン・・
タングステンとはスウェーデン語で「重い石」という意味で
そのとおり硬く重い金属らしい
詳しくは分からないんだけどタングステンって言うのは
世界的に非常に貴重な金属の一つで
現在の産出量は中国が一位で次でロシア、カナダなどらしい


なによりこの地域を有名にしたのは豊富な天然資源だけではなく
イギリスのフットボールチームをその有り余る財力で買取り
有力選手を破格の年棒で集めリーグ優勝させてしまった
ロシアの大富豪が知事を勤める州だと言ったほうが分かりやすいかもしれない・・


山岡君の赴任先はユーラシア大陸の東端のまだ東のほうらしく
一番近い集落まで車で半日ほどかかる恐ろしく何もない場所らしい・・



「お前、知ってるか?
 あそこら辺はパンドラ地帯って言って
 過去には-70℃越えた場所があるらしいぞ!」




-70℃・・・?
それは大変だけど・・
それ以上になんだ?そのちょこっと楽しそうな地帯は・・?




「なに?パンドラ地帯って?」
「お前はそんな事も知らねぇーのかよ?
 学校で何を習ってきたんだ?
 本当に東大出たんか?」



"パンドラ地帯ってのはなぁ〜"
なんて日本で一番の大学を小バカにしながら
宇宙一日本語の不自由な大バカの説明によると
どうやらパンドラ地帯とはツンドラ地帯の事らしい・・
もう、本当にバカ!



でもね東大出身をバカにしたから訂正してやんない!
ずーっと一生、パンドラ地帯だって思ってろ!
そんでもってそれを何処かで使ってバカにされろ!
ザマーみろ!
泣いて謝るんだったら教えてあげてもいいけどね




「おっ!それからなんか近くにはアモーレトラっつー虎が出るらしいぞ!」




アムールトラだな・・
パンドラといいアモーレといいおしかったなぁ〜
もう少しだったのに・・








               ←BACK/NEXT→





inserted by FC2 system