※このお話しは2007クリスマスのお話しの続きです♪














「ざけんな〜!道明寺〜〜!!」





吹き抜けの天井に木霊した絶叫






周囲の人々が皆なに事かと足を止めてこっちを見てるけどそんなの関係ない!




叫ばずにはいられないこの気持ち






なに見てんのよ〜!!










『Bitter Sweet』















何が悲しくて土曜日の尚且つバレンタインデーの朝っぱらから






男とわざわざ紅茶を飲むためだけにこんな所まで来なくちゃいけないんだよ?!







俺は今日は久々に丸一日オフの貴重な休日のはずだったんだぞ!







去年の夏から頭痛のタネだったお袋が



双子を連れて親父の居るロンドンへ行ってくれたお陰げで



クリスマスに双子達の為にサンタクロース役をさせられる事も無く



バレンタインデーに無理やりチョコを食べさせられる事も無く





誰にも邪魔されない伸び伸びとシングルライフを謳歌していたはずなのに








なんでよりによって普段寝てばっかのあいつに叩き起こされなきゃいけないんだ!?






朝っぱらから枕元に立ち笑顔で





“おはよあきら。紅茶飲みに行こ”



とほざいた類





寝言は寝てる時だけにしろよな!






わざわざ紅茶なんて飲みに行きたくないし




第一紅茶なんて飲みたくない!






それなのに・・・




類に付き合ってわざわざこんな所まで紅茶を飲みに来てしまっている俺






こんな所っていうのは美作が経営する複合型の商業ビルで




わざわざここまで紅茶を飲みに来たのは






先月ここに類が個人で経営する紅茶の専門店がオープンしたから











類は週末のバレンタインデーという




混み合う日にわざわざ自分の店に紅茶を飲みに来て






俺が道連れにされていた







どうして類が紅茶の専門店なんてのを始めたかって?






それもこれも全て紅茶好きの牧野の為








牧野がいつでも好きな時に世界中の紅茶を飲めるように




わざわざ牧野の勤め先に近いこの場所を選び




全て類のポケットマネーで採算度外視の経営をしている







司の破壊力満点の牧野に対する愛情も俺には理解不能だけど




類の屈折しまくりの愛情も理解不能






ただ類にだけは逆らわない方が身のためだとは思う






だから気乗りしないまま類に付き合って紅茶を飲みに出て来ているけど・・・






週末でバレンタインデーという事もあって



やけにカップルが目につく中




野郎と二人でお茶してる俺ってどうよ?







別にわざわざこんな誤解されるような日にデートする程バカじゃないけど




俺だってそれなりに相手はいる






社会人になって責任あるポストに付き



毎日気の抜けない日々を過ごしているけど



それなりに公私共に充実してんだよ!






それなのにたまの休日に気安く俺を誘うんじゃねぇ!








隣りでのんびりとデンマーク王室御用達だという




一杯三千円する紅茶を優雅に楽しんでいる類








類が休日にわざわざここまで紅茶を飲みに来ただけじゃないと感じているけど




元来分かりにくい奴だから




その真意は分からないまま






取りあえず大人しくお茶には付き合っているけど






まさかマジでお茶しに来ただけか?








会話を交わすわけでも無く



ただただ男二人で静かにお茶してるだけ・・・




はっきり言って全然楽しくない!






類はそんな事気にする奴じゃないから




二人ぼんやりと買い物客を眺めていた






時計は11時を指す頃




ここに座って1時間程になる




そろそろマジで帰りたくなってきた・・・







「なぁ類?そろそろ帰ろうぜ!」







横でぼんやりしている類にそう声を掛けた






「そうだね。
 そろそろだね」






類の返した言葉が気になる





「何がそろそろなんだよ?」





「ん?ナイショ」





「何がナイショなんだよ?!
 お前なに企んでんだよ?!教えろよ!」







「あきらには教えない」






ムカつく野郎だ・・・



やっぱり何か企んでやがった




おかしいと思ってたんだ





休日のバレンタインデーの朝っぱらからこんな所まで紅茶を飲みに来るなんて








「なんで俺には教えないんだよ?!いい加減にしろよな類!」







「まだ俺の勘が当たってるか分からないから教えられないだけだよ」







多分当たってると思うけど・・・








そう言うと類はコートを手に立ち上がりさっさと店を出て行ってしまった




慌てて類の後を追いかける俺







5階部分までが吹き抜けになっているビルで



壁に張り付くようにエスカレーターが備え付けられている







先に店を出てしまった類の後を追って




俺も下へと降りるエスカレーターに乗る




3階の店から1階へと降りるエスカレーターに乗り込んだ辺りで





吹き抜けに木霊した女の絶叫








“ざけんな〜!道明寺〜!!”







なんか今・・・すっげぇ嫌な名前が聞こえたような気がするぞ・・・







そう思って前を降りる類の後ろ姿を見ると


肩が上下に揺れている





今のは聞き間違いでも空耳でもないんだな・・・





覚悟を決めて絶叫の出所を探すと・・・






居た・・・






ビルをエントランス部分には買い物客が休憩出来るようにと幾つかベンチが置かれている






そのベンチの辺りで女が一人で携帯を握りしめていた






ついうっかり女だ・・・







去年の年末に元カレと食事に行き酔っ払った勢いで一夜を共にしてしまった挙げ句







どういうつもりだったんだと問い詰められ




ついうっかりなんて





ついうっかり本心を吐露して





司を天国から地獄へと突き落とした女がいた







なんであいつがここに居るんだ?とか





どうしてここに俺が居合わせてしまっているのか?なんて




聞かなくても分かる・・・






類だ!






類の奴・・・ここに牧野が居てこうなる事を予想して朝っぱら俺を誘ったんだな?!






ざけんな!類!








今、ついうっかり女がどういう状況なのかなんて説明されなくても容易に想像が付く







先を行く類がゆっくりと背後から牧野に近付き




後ろから声も掛けずにいきなり抱きついた






類が抱きついた瞬間




再び木霊した絶叫





何やってんだよ・・・







絶叫の後、振り向き類を確認して腰が抜けそうになっている牧野を優しく抱き留めながら




牧野以外には見せないスペシャルな笑顔を浮かべている類






二人はそのままの体勢で二言三言言葉を交わすと



牧野がこちらを見た








俺は盛大に零れ落ちるため息を隠す事無く



二人へと近付く







本当は近付きたくなんて無い




出来れば何も見なかった事にして




このまま帰ってしまいたい









ため息を一つ吐き出し




笑顔を向ける牧野から視線を外さないまま二人へと近付く







「よお!」






「美作さんも散歩してたの?」








散歩なんてしてねぇーよ!



類と一緒にすんな!






第一、屋敷からここまで歩いてこられる距離じゃねぇーだろ!






いろいろ言いたい事が洪水のように沸き上がってくるけど




チラリと視界に入った類の表情が




余計な事は言うなと言っているから




沸き上がるいろんな感情を胸の奥深くにしまい込みながら







「まぁそんなとこだ。
 お前は何やってんだ?一人か?」







敢えて先程の絶叫には触れないで話しを振ってみる







「聞いて美作さん!花沢類も!今日、ここで道明寺と待ち合わせしてたんだけど
 さっきメールが来て仕事が入ったから行けなくなったってドタキャンされたのよ!
 あいつから誘ってきたのにドタキャンなんて信じられない!」










一気に畳み掛けるように話した牧野は



俺達に話す事によってまた怒りが再燃してきたみたいで





「ぶっ殺す!道明寺〜!」





司をぶっ殺すのは勝手にしてくれればいいけどいちいち叫ぶなよ・・・




一緒に居る俺まで注目浴びて恥ずかしいだろ!








「可哀相な牧野。
 そんな悲しい顔しないで」









類が牧野の頭を優しく撫でながら慰めてるけど




こいつのこの顔のどこが悲しそうなんだ?





どっちかって言うと怒りがMAXって顔じゃねぇーか!








「司もドタキャンしたくてしてるんじゃないだろ?
 仕事なら仕方ねぇじゃねぇかよ!
 お前だってそれぐらい分かるだろ?」









こんな時やっぱり司のフォローに回ってしまう俺・・・






あれ?







司のフォローをしながらなんとなくだけど




この展開ってどっかで聞いたな?と思った・・・






あれ?どこだ?








あ!総二郎だ!





あの時の総二郎の余計な入知恵だ!






思い出した・・・







年が明けて経済界の新春パーティーで俺に類と司の三人が顔を合わせ




パーティーの後、メープルのラウンジに場所を移し茶会で京都に行っていた総二郎も合流して




久々にF4が揃い飲んだ席で





牧野の気持ちが分からないと零した司




そんな悩めるバカ男に総二郎が意地っ張り女から本心を聞き出す方法を教えてやるよ!と




余計な事を吹き込んでいた







まさか司が総二郎の入知恵そのままに実行するなんて思ってなかったから




その時は適当に突っ込み入れながら聞き流してたのに






確か類はあの時、いつものように寝てなかったか?





寝たフリしながらちゃんと聞いてたんだな・・・





だから司がドタキャンする事を見越して朝っぱらから




こんなとこまでわざわざ紅茶を飲みに来たんだな・・・








俺を三角関係に巻き込みやがって!





気安く誘うんじゃねぇ!!








実は二人が付き合うきっかけになったクリスマスの夜も



司はわざと遅刻して待ち合わせ場所に姿を現している







これは絶対に牧野には内緒だけど






クリスマスの夜、司は類を介して連絡してきた牧野の本気度を確かめる為に






寒空の下自分を待つ牧野を完全に景色に同化し様子を伺っていたらしい・・・









クリスマスの夜はついうっかり一線を越えてしまったあの夜を






やり直すデートをしたらしいけど食事しただけで何も無し







その後もついうっかり女の方から電話が掛かってくる事も無くて





大の男が一人悶々と思い悩む日々が続いている








考えるより行動してしまう本来の司らしくないけれど






牧野を忘れ一人にしてしまった時間が司を臆病にしている








昔っから牧野に関しては忍耐強い奴だけど





そんな事までしてもまだ不安を感じてしまう程






司は自信を失くしてしまっている








その事を司から聞いた総二郎が牧野の本心を聞き出す為の駄目押しだと言って



デートをドタキャンしろと吹き込んでいた






司が総二郎の入知恵通りに行動するなんて思ってもみなかったから




ドタキャンの何が駄目押しになるんだよ!と




心の中で密かに突っ込みを入れていただけで口には出していない





なのに・・・





その通りにしてんじゃねぇーよ!








総二郎曰、まずデートを急な仕事が入ったから






今日は行けないとドタキャンして牧野を怒らせる






人間は怒りに支配されている時が一番本心が露呈しやすいから・・・







って完全に総二郎の持論だけど・・・






女っていうのはドタキャンされてすぐは怒りはするけれど



やがてバレンタインデーなんてイベントの日に




一人ぼっちで居る事が淋しくなるはずだから





そこを狙って夜に花束でも持って部屋に行けば





幾ら意地っ張りの牧野でも感激して司の胸に飛び込んでくるはず・・・





あの時、総二郎の持論を聞きながら余りの馬鹿らしさに僻々していた








相手はあの牧野だぞ!?





高等部の頃よりは幾らか成長したとはいえ



駆け引きが通じるような相手じゃないし





第一そんな手で堕ちる女なんていんのかよ?!





下手な小細工しないでとっとと当たって砕け散ってしまえ!




気は進まないけど破片ぐらい拾ってやるよ!








総二郎も面白がって司をからかっているだけだと思っていたのに




がっつり乗っかりやがって!







って・・・今、此処に居るって事は俺も乗っかってるってことか?







帰りたい・・・




今すぐ此処から立ち去りたい・・・







クソッ!類の奴!




シレッとした顔で俺を巻き込みやがって!




どういうつもりだよ!







類はどうしてわざわざ俺を叩き起こしてまで連れて来たんだ?






ハァッ!?







「どうしたの?美作さん?」







嫌な事を思い出し思わず顔に出てしまったところを牧野に見られてしまった







「エッ・・・あっ・・・いや、何でもない」







嫌な事・・・




それはクリスマスの夜




司は待ち合わせ場所で物影から牧野を見ていたと言っていた・・・






まさか・・・?






まさか・・・だよな?







今もどこからか監視されてる?






そういえばさっきから背中に殺気を感じる・・・






俺も意外と単純なのかもしれないけど




監視されている・・・




そう思えてならない







何処だ?



奴は何処に隠れて成り行きを見守ってるんだ?






  右か?


  左か?



  後ろか?


  前か?


  下か?




いや・・下って事はねぇーな・・・





って事は・・



  上か?!







思わず吹き抜けになっているビル内を見上げ周囲を見渡した





なんだかスナイパーに狙われている気分だ・・・







「さっきから怪しいよ美作さん!?大丈夫?」







「あぁ・・・なんでもない」








牧野にはそう答えながらも周囲を見渡していた






奴が何処に潜んでいるにしろ




近くでこちらの様子を窺っている事は間違いないだろう







「牧野?司との約束が無くなったから今日は暇でしょ?
 俺とデートしない?」









「確かに道明寺との予定は無くなっちゃったけど・・・
 は、花沢類とデート?!」






「そう、俺は今日休みだから」









「ダ、ダメだ!類!お前は俺と行く所があるだろ?!
 牧野!お前は自分の家に帰ってろ!今日は一歩も家から出るな!」








ダメだ!



類とデートなんて絶対にダメだ!






「どうしたの?やっぱり変だよ美作さん!?」






急に慌てだした俺に怪しむような視線を向けてくる牧野







「別に変じゃねぇーよ!
 とにかく類は俺と行く所があるから」







「別に無いよ」







類・・・ここはあるって言っとけよ!





紅茶に付き合ってやっただろ?!






「いや!ある!類が忘れてるだけだ!」






この先の展開は分かってるんだぞ!








何処かで見ている司が乱入してくる前に



類は牧野をここから連れ出して





暴れる司を俺に押し付けようって算段だろうけどそうはさせるか!




俺が血を見るのは明らかで・・・



なんで関係ない俺が一番の貧乏くじ引かされなきゃいけねぇんだよ!




そんな展開は絶対阻止してやれからな!



朝っぱらから俺を連れて来た事を後悔しろ類!






「無い」






ソッコーで簡潔に否定してんじゃねぇーよ!






「ある!」






「ちょ、ちょっと・・・二人共どうなってるの?」







「牧野は心配しなくていいから。
 あきらの事は気にしないで」






お前はちょっと気にしろよ!






「でも・・・美作さんは花沢類と用があるって・・・」







「俺は無いから。
 行こ、牧野」








そう言い終える前に類は牧野の手を取り


出口へと向かって歩き始めてしまった







「えっ・・・あっ!花沢類!ちょっと待っ・・・」






牧野は類に手を引っ張られ歩き出しながらこちらを振り返った







「オイ!類!待てよ!」








司!どっかで見てんだろ!?



早く出て来いよ!



牧野が類に掠われちまうぞ!






呼び止める声を無視して尚も歩を進める類を止める為に






類が掴んでいるのとは逆の方の牧野の腕に手を掛けた





思いがけず一人の女を二人の男が取り合っているような体勢





「ちょ、ちょっと美作さん!痛いって!花沢類も待って!」







牧野が痛いと言った事で類は立ち止まり


繋いでいた手を離しこちらを振り返った



振り返った類のその顔は怒っているように見えた・・・





実際、怒ってるんだけど



何故かその怒りは俺に対しての物じゃないように感じる






あ〜類は司に対して怒ってるんだ・・・



そう感じた・・・



類のこの怒りは理解出来る




俺だって総二郎のくだらない小細工なんかに乗っからないで




さっさと当たって砕けちまえ!と思っているから





だけど・・・




司がこの場所に居るって容易に想像が付く状況で



俺を一人置いて行こうとすんな!



やっぱ類にもムカつく!






「あっ!!み、美作さん!う、後ろ!!あぶ・・・!!!」







「ぐぇ〜〜!!!○◇■×□☆!!」








牧野の後ろ!と言う声が聞こえた瞬間



背中に物凄い衝撃を感じて体が・・・





俺の体が・・・





お、俺の体が〜〜





逆くの字に折れ曲がったぞ!!





せ、背骨がいったか?!






後ろからの衝撃に逆くの字に曲がった俺の体は





その反動で前へと倒れ込み



潰されたカエルみたいに冷たい床に突っ伏してしまった・・・





ヤベェ・・マジすっげぇ格好悪ぃ・・・






「道明寺!!」






司かよ・・・






まぁ・・・前置き無しにいきなり背後から飛び蹴りしてくる奴なんて





お前ぐらいだろうけど・・・






何で俺なんだよ?!




この場合、類だろ?!







「ちょっと!あんたいきなり何やってんのよ!?」







「うるせぇ!尻軽女は黙ってろ!」









「し、尻軽女ですって!?
 私のどこが尻軽なのよ!」








「全部がだよ!俺とのデートがキャンセルになった途端
 嬉しそうに類と手繋いで行こうとしてただろーが!」










頭上から聞こえる二人の怒鳴り合い








「よぉ!大丈夫か?あきら」








床に突っ伏したままの俺に声を掛けてきたのは総二郎だった・・・







お前も居たのかよ・・・







総二郎に手を借りてやっと立ち上がれた俺







マジで腰痛てぇ〜







「お前も居たんなら早く声掛けろよ!」









「悪ぃ悪ぃ!」








悪ぃなんて口では謝っているけど




顔は完全に笑っている総二郎









「お前は何時からここに居たんだよ?!」







「司が牧野にドタキャンの電話する前からここの5階に居たぞ」








「だったら早く声掛けろよ!」








「声掛けたら俺等がここに居るのが牧野にバレるだろ!
 そもそもお前と類がここに居るのが予想外なんだよ。
 お前らこそ何やってたんだ?」










「何やってんだって・・・俺は今朝、類に紅茶飲みに行こうって叩き起こされて
 無理やり連れて来られたんだよ!お前こそ司と一緒になって何やってんだよ!?」








「俺も来たくて来たんじゃねぇよ!
 司に無理やり連れて来られたんだよ!」






お前もかよ・・・





「最初っから見てたんだったらもっと早く声掛けろよ!」






せめて司に飛び蹴りされる前に声出せよ!








「だからさっきも言っただろ!?お前らの登場は予想外だったって!
 お前らが現れなかったら牧野に声掛ける事無く
 この場から立ち去るつもりだったんだよ!」









「で、どうせその後は牧野の尾行するつもりだったんだろ!?」







「司はそのつもりだったんじゃねぇか?!」









他人事みたいな顔して言ってんじゃねぇーよ!






元はと言えばお前が余計な事を吹き込んだせいだろーが!












「ちょっと!あたしの事を尻軽だなんて言う前に
 何であんたがここにいんのよ!?仕事はどうしたのよ!?」






「うるせぇ!俺様とのデートがダメになった途端、
 他の男とイチャついてたくせにエラソーに言うな!」







「偉そうなのはあんたの方でしょうが!
 ちゃんとあたしの質問に答えなさいよ!
 仕事だってドタキャンしたくせに西門さんとここで何やってたのよ!?」





「仕事だ!」






「嘘つき!」







「だから仕事だって言ってんだろ!
 お前は俺様の言葉が信じられないのかよ!?」










「普段着で首には双眼鏡掛けてるバカの何を信じられるって言うのよ!
 嘘つくにしてももっとマシな嘘つきなさいよね!」







「普段着で双眼鏡を使う仕事なんだよ!」







バレバレの嘘を勢いで押し通そうと必死の司だけど




そんなんで押し切れるほど甘くねぇーだろ・・・





さっさと謝っちまえばいいものを・・・






素直に謝れない司







「どんな仕事よ?!」






「仕事の内容は道明寺のトップシークレットだ!
 いくらお前でも話せない!」







総二郎のバカな入れ知恵がどんどんデカイ嘘に発展していく・・・






「普段着で双眼鏡が必要なトップシークレットって何よ!?」








「トップシークレットなんだから簡単に話せるわけねぇーだろ!?
 俺達は今、身分を隠して隠密行動中なんだよ!
 嘘だと思うならあきらにも確かめてみろよ!」






隠密行動なんて言葉知ってたのは褒めてやるけど・・・




お、俺かよ!?






牧野・・・お前もこれが茶番だってとっくに気付いてんだろ!?




そんな攻めるような視線向けてくんなよ!






俺に振った司も目力が凄い・・・





ダチ相手に本気で威嚇してんじゃねぇーよ!







あ〜分かったよ!




乗っかればいいんだな!






俺はとりあえずお前との友情を取るけど



後はどうなっても知らねぇからな!



責任は取れよ!!






普段着に双眼鏡・・・






この二つのアイテムを使って牧野を納得させられる




上手いトップシークレットなんてあんのか?





あるわけねぇよな・・・





なんて思いながら俺の口をついて出た嘘は・・・






「牧野!その・・・あれだ!
 トップシークレットだから詳しくは話せないけど
 最近このビルの周辺で見た事無い鳥を見たって目撃情報があって・・・
 俺達はそれを調査してるん・・・だよな?!司?!」








「お・・・おぉ!そうだ!あきらの言うとおりだ!」







我ながら人生で最低最悪の嘘だって思うけど




司は否定しなかった・・・








「その鳥を探す為に双眼鏡?
 あんたは野鳥の会か!?」






「野鳥じゃねぇ!誰も見た事ねぇ鳥だ!」







牧野の突っ込みもどうかと思うけど



全く意味が通じてない司もどうだ?






「プッ!クククッ・・・」








突っ込みにボケで返す荒業に




とうとう類が噴き出した・・・







「類!何がおかしいんだよ!?」








笑い出した類に司は怒っているけど




ツボに入ってしまっている類には届いていない・・・








何がおかしいかって・・・





この状況で聞くまでもねぇーだろ!?








もう何もかもがおかし過ぎて突っ込む気にもなれない・・・











総二郎は我関せずといった態度を取りながらも




口元は笑いを堪えきれていない








「何が野鳥よ!もし美作さんの言った事が本当だとしても
 そんな事わざわざあんた達がしなきゃいけない事なわけ?!」











「だからトップシークレットだって言っただろ!?
 この事を知ってるのはごく一部の人間だけだし
 いくらJr.だつってもこういう細かい事からやっていかねぇーとダメなんだよ!
 分かったか!尻軽女!」








司・・・最後の一言は完全に余計だぞ!








ほら見ろ!牧野の眼光がまた一段と鋭さを増しただろーが!




これ以上怒らせてどうすんだよ!









「ま、牧野!そういう事だ!
 悪かったな司がお前とデートの約束してるなんて知らなくて!」









わざとデートって言葉を強調してみる・・・








牧野の眼光は鋭いままで司を睨んでいる





司も牧野を睨みつけてるから二人の間にはバチバチと火花が飛んでいる








「つ、司!後は俺達だけでやっとくから牧野とデートして来いよ!
 牧野!巻き込んで悪かったな!そういう事だから司とのデート楽しんで来てくれ!」








もうなんでもよかった・・・







さっさとこの場から逃げ出したい気分だったけど





俺一人ここから逃げる事は出来ないから



諸悪の根源にさっさと退場してもらう








「ほら!二人共なにやってんだよ!?
 ボサッとしてねぇーでさっさとバレンタインデートしてこいよ!」







司が首に掛けたままの双眼鏡を取りあげ


二人の背中を強引に前へと押し出す






「お、おぉ!分かった、じゃあ後は頼んだぞ!
 牧野!行くぞ!来い!」








「ちょ、ちょっと!痛い!引っ張んないでよ!!」








ハァ〜〜






司に無理やり引っ張られギャーギャー言いながらビルから出て行く牧野







やっと行ってくれた・・・












「あぁ〜やっと行ったな!?」









ひたすら笑いを堪えてるだけだった総二郎が




後ろから俺の肩に腕を回しながら声を掛けてくる










「やっと行ったなって・・・お前もちょっとぐらい協力しろよ!
 元はと言えばお前が司にくだらない入れ知恵したからこうなったんだろ!?」








「まぁまぁそうカリカリすんなって!
 とりあえず上手く行ったんだからOKでしょ!?」








何がOKなんだよ!








「あいつらもやっと行った事だし腹減ったな!
飯でも食いに行こうぜ!類?お前も行くだろ?」






「俺、フルーツグラタンが食べたい」







俺はそんなもん食べたくない!








「あきら?俺と牧野のデートの邪魔したんだから付き合ってよね」







一難去ってまた一難・・・



今度はこっちかよ・・・







静かに密かに臍を曲げていた類は



俺達の返事を待たずさっさと歩き出している








「まぁ、とにかく何か食いに行こうぜ!」










肩に腕を回したまま類の後を追うように歩き始めた総二郎に



引きずられるように歩き始めた俺







ハァ〜





こいつらの居ない星に移住したい・・・














何が鳥を探してたよ!




嘘つくんだったらもっとマシなのつきなさいよね!



くっだらないのよ!





「何でそんな端っこ座ってんだよ!?
 もっとこっち来いよ!」







道明寺のバカでかいリムジンの中




嘘つきバカ男から離れて座る私を



引き寄せようと腕を伸ばしてくる道明寺




その手を払いのけながら





「五月蝿いわね!こっち来ないでよ!」







「まだ怒ってんのかよ!?
 デート出来てんだからもういいだろ!?」






「よくないわよ!嘘つきバカ男!」





「俺様が嘘つきバカ男ならお前は尻軽バカ女じゃねぇーかよ!ドブス!
 いい加減にしねぇと温厚な俺様も切れるぞ!」





もう本当にあったまにきた!!!







「こっちはとっくに切れてんのよ!」









本当に頭にきたから横に置いてあったバッグの中から



バカ男に渡そうと一応用意しておいたチョコの箱を取り出し




走行中のリムジンの窓を少しだけ下げ



チョコの箱を窓の外へと出した






「おまっ!?それ何だ?!」







「あんたに渡そうと思ってたバレンタインのチョコよ!」







「俺へのチョコ?」







「そうよ!愛情をた〜っぷり込めておいてあげたけどもう必要ないから捨てるのよ!」







「なっ!?馬鹿野郎!それ俺んだろ?!勝手な事すんじゃねぇーよ!」








「まだ渡してないから私の物よ!
 自分の物をどうしようと私の勝手でしょ!」







「俺様の物だ!寄こせ!」






「欲しいんだったら認める?さっきのは全部嘘だったって認めて謝る?
 ちゃんと心から謝罪するんだったら考えてあげてもいいわよ」







「う、嘘じゃねぇしお前だって類と行こうとしてたんだから
 俺様だけが謝る必要ねぇだろ・・」








どうあっても認める気はないわけね!





だったらこっちにだって考えがあるのよ!バカ男!







窓の外に出したままのチョコをそのまま放り投げてやる!






走るリムジンから放り投げられたチョコの箱は


勢いよく車道の端っこをコロコロと転がっていく






「おまっ!何やってんだよ!?」








道明寺は慌てて窓を全開にして


転がるチョコの行方を追い掛けているけど





勢いのついたチョコの箱は進行方向とは逆にコロコロと転がり転がり




どんどんリムジンから遠ざかって行く







道明寺は車内電話を手に取り


ドライバーさんにリムジンを停車させると



自らドアを開けチョコを追い掛けて行ってしまった






ざまぁみろ!






開けっ放しのドアを閉めて車内電話を手に取る





「行っちゃって下さい」








そう告げると一瞬の沈黙の後、


ドライバーさんの戸惑ったような声が聞こえてきた







『・・・えっ・・・ですが・・・司様がまだ・・・』





「大丈夫です!後の責任は私が取りますから!
 さっさと車出しちゃって下さい!」










『・・・か、畏まりました。
 で、では発車致します』








チョコを追い掛けているバカ男は





まだ車が走り始めている事に気付いていない





やっとチョコに追い付き箱を拾い上げ汚れを手で払っている





あっ!?顔を上げて今気付いたみたい





走り出しているリムジンを見て一瞬ポカ〜ンとバカ顔してる





「オイ!止まれ!」







ハハハ!あの道明寺がリムジン追い掛けて車道を走ってる〜!





全開のままの窓から少しだけ身を乗り出し


走ってくる道明寺に声を掛ける






「ねぇ?これからどこに行く予定だったの〜?!」






「はぁ?!そんな事どうだっていいだろ!?
 早く車止めろ!!」





「いいから答えなさいよ〜!」






「メ、メープルだよ!
 答えたんだからさっさと止めろ!」







「じゃあ先に行ってるから!
 あんたは頑張って走って来て〜!」






「テメェ!ふざけんな〜!ぶっ殺すぞ!!」







ぶっ殺すぞ〜!なんて怒ってるけど

リムジン追い掛けて走ってる道明寺なんて全然迫力不足







バッグから携帯を取り出し

間抜け顔で追い掛けてくる道明寺をパチリと写真に収める







「メープルで待っててあげるからズルしないで走って来てね〜!
 ズルしたらこの写真みんなに送りつけるからね!」







道明寺はまだなんか怒鳴ってるけど


窓を閉めちゃえば声も届かない






ざまぁみろ!







メープルまでは3キロ程



頑張って走って来てね!





そしたら今日の嘘を少しだけ忘れたげる










〜Fin〜










<あとがき>
以前のあとがきを↓にそのまま残してあります。

ホワイトデーのお話しへはこちらからどうぞ♪





           2018/02/14    KiraKira






『あとがき』
まずはくだらないお話しに最後までお付き合いいただきありがとうございました。
昨年のクリスマス企画に続き今回は柊音子さんにも加わっていただき
バレンタイン企画を開催する事が出来ました。
いつもの事なのですがどうも私には甘〜いお話しは無理なようです・・(涙
今回こそは企画のたびに毎回思うのですが妄想すればするほどに
横道に逸れ最終的にはおバカな展開に終始してしまいます・・(汗

今回もまさにそれでおバカな展開で中途半端な結末になってしまいましたが
甘いのは他のメンバーにお任せして^^;

少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。


                2009/02/14 KiraKira













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