12月24日、この日が何の日だか知らない人はいないだろう



仏教徒だから関係ないと言う人だって今日が

クリスマスイブだということぐらいは知っているはず





1ヶ月程前から少しずつ華やいでいく街中のイルミネーション





ショーウィンドウはクリスマスバージョンに変わり

街中にはツリーが溢れている





街中を歩くカップルもどこか浮き足立っていて一年で一度、

最大のイベントを楽しもうとする人々で溢れかえっている





そんな中で俺は悲しいかな・・・




デートの予定は全く無し・・・






まぁ・・年上の大人の女性が好みの俺にとっては

クリスマスだとかバレンタインだとかのイベントは

不向きではあるのだけれど・・・





例年なら予定のあるふりをして朝早くから出かけていたのに・・・






今年は逃げ遅れてしまった・・・





大学4回生になって本格的に仕事を始め、

本文である学業と仕事の両立で忙しい毎日を送っている





本来なら大学が冬休みのこの時期は仕事に専念できて

少しは楽なはずなのに・・




夏休み以降ほとんど大学に行けなかったせいで

必要最低限の単位を取り損ねてしまった






だから大学が休みに入っても仕事と単位取得のための

レポート書きに追われていてすっかり寝過ごしてしまった・・・




しまった!!と思ったが時すでに遅し





俺の枕元で涙ながらに訴えるお袋の声で目が覚めた





「あきらく〜ん〜クリスマスイブなのにパパったらお仕事が忙しくて
 帰って来れないって〜〜」





涙声に飛び起きると同時に飛びついてきたお袋を

思わず条件反射で受け止めてしまった・・・





相変わらずの少女趣味でヒラヒラのフリルとレースが命の

お袋は俺に抱きついたまま本当に悲しそうに泣いている・・・






勘弁してほしい・・・





両親の仲がいいと言う事は子供にとっては喜ばしい事なのだろうが

21にもなる息子を巻き込むのはいい加減止めてほしい・・・





ハァ〜





「親父は仕事で帰ってこれないんだろ?お袋の事が嫌いだからってわけじゃないんだから、
 今年は許してやれよ。来年はお袋が会いに行けばいいだろ?」



取りあえず頭を撫でながら言い聞かせるように言葉を繋ぐと

お袋は俺の胸に埋めていた顔を勢いよくあげた





「そうよね!帰ってこれないんだったらママが会いに行けばいいのよね!
 あきら君ってやっぱり天才ね!ねぇ、あきら君、ママ、元気出てきちゃったから
 今日はみんなでお買い物に出かけましょ!!」






「はぁ〜?」






「ダメ?」





すっかり回復しているお袋に上目遣いでダメ〜なんて

聞かれて思わず仰け反る・・






「あきら君、今年は何にも予定はないんでしょ?」





「い、いや・・ないことも・・ない!」





「じゃあ、いいでしょ?久しぶりにみんなでお出かけしましょ!」





あ〜ママ楽しみ!!




なんて胸元で両手を合わせ俺の話しなど全く無視して

部屋から出て行ってしまった・・・




残された俺は・・・サイアクだーー!!



俺、今年一年すっげぇがんばったよな?





サンタさんはがんばった子にはご褒美のプレゼントを

くれるんじゃなかったのか?






俺のクリスマス・・罰ゲームじゃねぇーかよ!!






ため息と共にベッドから這い出てシャワーを

浴びてちゃんと身支度を整えてしまう俺・・・





きっと何言っても聞いてはくれないだろうから・・・

覚悟を決めて部屋を出る





そーっと廊下に出ていつ何処から飛び出してくるか

分からない妹達に備える






この屋敷で俺が心底安らげる時間なんて無いに等しい・・・





案の定と言うか・・予定通り飛び出してきた双子を

両方いっぺんに抱き上げてダイニングまで運ぶが・・・




お、重い・・さすがに小学生になった双子を二人同時に抱き上げるのは辛い・・・




こ、腰にくる・・・この歳でギックリなんていったらシャレにならない




グッと気合を入れなおし足を進める





ダイニングではすっかり機嫌の治ったお袋が朝食の準備をしていた





以前はうさぎだったのだがいつの間にか

くまさんに変わっているダイニング・・・





いや・・くまの前はきりんだったか・・?




それにきりんの前はぞうだった・・ような・・・?





そんな細かい事はどうでもいいのだが・・





このお袋自慢のダイニングセットを初めて見る奴はたいてい動きが止まる




止まらなかったのは今ん所、牧野と滋だけだ・・・




あの二人はもともと普通じゃねぇーけど・・・




超貧乏人の牧野と超大金持ちのお嬢様の滋




全く接点の無い二人の気が合うわけがなんとなく分かったような気がする





かわいい〜〜を連発しながら隅々まで撫で回している牧野と滋の反応に



気をよくしたおふくろはそれ以降、

どんどん加速しているような気もする・・・






ハァ〜〜〜






気付かれないように小さく溜息をついてからくまの形のイスに

腰を下ろして朝食を摂る





目の前ではお袋達が何処へ買い物に出かけようか?

何が欲しいかしきりに話しているが・・・



何処でもいいから早く行って早く帰ってきたい・・・




そう願いながら朝食を口に運んでいた



食べ終わる頃にはどうやら行き先も決まったらしい





最近出来たビル一つ丸ごとショッピングセンターや映画館などが

入っている複合型施設


5階あたりまで吹き抜けになっていて

その真ん中にものすごくでっかいツリーが飾られていて話題になっていた


そんな場所へフリフリのフリルでお人形さんみたいな格好した

お袋と妹達の後をついて歩く


想像しただけでも眩暈がしてくる・・・






到着したショッピングセンターはクリスマスを楽しむ

家族連れやらカップルなんかでにぎわっていた


昼食を挟んでかれこれ4時間


上へ下へとありとあらゆる店のハシゴ


昼食と言っても食べたのは双子達の希望で

生クリームに苺やらフルーツがたっぷり乗っかったワッフルだったけど・・


普段から家で嫌ってくらい甘い物食ってて

なんで外までこんなもん食べなくちゃいけないんだ?


このまま行くとぎっくり腰になるのが先か

糖尿病になるのが先か・・だよな・・


どっちも勘弁してほしい・・・・



ハァ〜うんざりしている俺に全く気付くことなく

お袋と双子は買い物を続けている

今度はクリスタル製品を扱っているショップに入って行った

お袋達を見届けて俺は店の前に置いてあった木製のベンチに腰を下ろした


ベンチに座りながらぼんやりと店内を動きまわるお袋達を目で追っていると


聞きなれた声で名前を呼ばれた



「美作さん?」




俺の名前を呼ぶ声に反応して右横を見上げると

ツリーをバックに見慣れた姿



「牧野!どうしたんだ?こんなとこで?」



「美作さんこそどうしたの?
 こんな所で一人?」



「そんなわけねぇーだろ?
 お袋と双子の買い物に付き合わされてんだよ!」



お袋達のいる店へ軽く視線を流しながら答える



「そうだったんだ、クリスマスイブにお買い物に付き合ってあげるなんて
 優しいお兄ぃちゃまだね〜!?」



「お前、軽〜く嫌味に聞こえるぞ!
 それにお兄ぃちゃまって言うなって言ってんだろ!!」




牧野は・・いや正確にはこいつだけじゃねぇーけど

以前、家に遊びに来た時に俺がお兄ぃちゃまって呼ばれている事を

知って、それ以来事あるごとに俺をお兄ぃちゃま呼ばわりしてくる・・



俺の事をお兄ぃちゃまと呼んだ彼女はクスリと笑いを零すと


「隣、座ってもいい?」




「ああ。」



返事を返すと少し間を空けて俺の隣に腰を下ろした彼女



「お前こそどうしたんだよ?一人か?」




「うん、今はね。」



「司とデートか?」




「うん、約束の時間までまだ少しあるんだけど、
 クリスマスプレゼント買いたいなぁ〜って思って早めに出てきたの。」



「ふ〜ん、それで?
 何か買ったのか?」



「ううん、まだ何も・・ココって司が好きな洋服のショップが入ってるから
 と思って覗いてみたんだけど・・ダメ!高くて全然手が出ない!!
 あいつっていっつもあんな高い洋服着てんだね・・もったいない!」


なんて笑顔で話す牧野に思わず引き込まれそうになる・・



牧野の瞳の中に俺が映っている



それだけで何故か自然と心が落ち着いてくる


今朝から何処かささくれ立っていた気持ちが


すーっと穏やかになっていくのを感じている




いつだろう・・こんな気持ちに気付いたのは・・・



きっちりと掛けたはずのブレーキが

牧野のこんな笑顔を見たときは外れそうになる・・



だけど、大丈夫だ!



何があっても絶対に外したりはしない


牧野がこんなに綺麗に笑うのは司が居るから



牧野を笑顔に出来るのはこの世でたった一人


司だけなのだから



だから絶対に外したりしない心のブレーキ


彼女の笑顔を失くしたくないから・・・







「あ〜あ〜」


「どうしたんだ?」


「う〜ん・・いろいろ歩き回ったけど結局
 いいのが見つかんなかったなぁ〜って思って・・」



「まだ時間あるんだろ?
 もう少しがんばってみろよ!」



珍しく弱気な事を言っている彼女を励ます



「う〜ん・・時間はあるんだけど・・もう足が限界で・・
 あ〜あ、ブーツなんて履いてこなきゃよかった!!
 もう脱げないくらい足がパンパン!!」



足を少し前に出してトントンと叩きながら話しをしている牧野




「じゃあ、今年は彼氏へのクリスマスプレゼントは無しか?」




俺の言葉に彼女の手が止まった・・・



「・・やっぱ、まずいよね・・?」



「ああ、まずいな!
 相手はあの司だぞ!!」



「そーだよね・・どうしよう?」




考え込んでしまった彼女の足元に目をやる


膝下ぐらいまでの丈の黒のブーツ


確かにきつそうだけど・・



「お前、そのブーツ自分で買ったのか?」



「当たり前でしょ!バーゲンだったけど一応、デパートで買ったのよ!」




「ふ〜ん、じゃぁ安物なんじゃなぇーのか?
 そんなん履いてるから足が痛くなるんだよ!」




「あのね・・確かに美作さん達からしてみれば安物かもしれないけど
 一人暮らしの大学生にとってはこれが限界なのよ!!」



「でも足、痛いんだろ?」
「それに合わない靴ばっか履いてると足に悪いぞ!
 外反母趾になったら大変だぞ!」



「・・・・・・」




俺の言葉に牧野は何も答えずキョトンとしている




「なんだよ?!」




「だって・・美作さんよく知ってるね?
 外反母趾なんて・・ねぇ、漢字で書ける?」





「当たり前だろうーが!外反母趾ぐらい漢字で書けるよ!
 お前、俺をバカにしてんのか?!」



「バ、バカになんてしてないけど・・でも司は絶対に知らないよ!
 外反母趾なんて!それに漢字だって絶対に書けない!」




「あんなバカと一緒にすんな!」



"そーだよね!アハハ・・・"・・と言って肩を竦ませている牧野




最近の牧野との会話の中に当たり前のように司が出てくる



司がNYへ行っている間には無かったことだ・・・


俺達も淋しい思いをしている彼女に気を使ってあまり司の名前は

出さなかったし、彼女も自分から司の名前を口にはしなかった



牧野の中で司が側に居る今の状況が当たり前になってきている



今はすぐに見つけられる彼女の中の親友の姿・・・




だけど司へのクリスマスプレゼントが無いのはマズイぞ牧野!!


司は牧野からのプレゼントだったらきっとどんな物でも喜ぶんだろうけど

何も無いって分かったらきっと不貞腐れるぞ!!


今や道明寺財閥の跡取りとして頭角を現している司だけど

まだまだ根っこはガキのまま変わっていない



しゃぁーねぇーな!!俺が一肌脱いでやるか!!




お袋達のいるショップの隣は有名なブランドショップが入っている


ベンチから立ち上がり牧野を腕を掴んだ


「牧野!来い!」








「えっ!?・・あっ!ちょ、ちょっと美作さん!
 なんなのよ〜!!」





いきなり腕を掴まれてビックリしてる牧野にかまわずに彼女を引っ張ってブランドショップへと入って行く





「ちょ、ちょっと美作さん!待って!たんま!
 私、こんな高いお店入いれないよ!!」





「大丈夫だから!ホラ!早く来いよ!」





店の入り口付近でしり込みしている牧野を少し強引に店内に引き入れた




応対に出てきた店員にブーツを見せてくれるよう頼む




牧野は険しい表情で俺と店員のやり取りを聞いている





「ねぇ・・美作さん・・」




何か言いかけた牧野を制して




「いいから、俺に任せとけ!
 お前、足、痛いんだろ?座ってろよ!」





戸惑っている牧野を強引に近くにあったソファーに座らせて

視線を再び店員に戻した





店員が勧めてくる何種類かのブーツの中で今、牧野が履いている物と

形もよく似ていて色も同じ黒だがヒールが少し低いブーツを手に取った




素材は上質の皮で手触りもいい




これなら足の痛みも少しはマシになるだろう




ソファーに座り落ち着かない様子ので店内を見回している牧野に声を掛ける






「牧野!お前、足のサイズ幾つだ?」







「えっ・・23.5だけど・・どうして?」





「いいから。」




店員にサイズを伝えるとちょうど俺が手にしていた物が23.5センチだった





「牧野!ちょっとコレ履いてみろよ!」






「・・えっ・・いい!こんな高いお店で買い物なんて私、お金持ってないもん!!」





「いいから!金の事は心配しなくていいから一回、これ履いてみろよ!」





「で、でも・・・」






「さっさとしないと無理やり履かせるぞ!!」






「ヤ、ヤダ!!」






「だったらホラ!!」





そう言って彼女の目の前にブーツを置いた




牧野は少しだけ考えてからやっとブーツを手に取る






「そう言えばお前、さっき脱げないとか言ってたな?
 手伝ってよろうか?」





「い、いい!大丈夫!!脱げるから近寄んないで!!」






自分の履いているブーツをかなりの力を入れて引き抜くと俺の選んだブーツに足を入れている





「どうだ?」







「凄い!やっぱ高い物は全然違うね・・」





「こっちの方が楽だろう?」





「うん・・」






「こっちに鏡があるから見てみろよ。」






鏡の前に立った彼女の後ろに立つ






「サイズはどうだ?」






「うん・・ちょうどいいけど・・」






「じゃぁコレにするか?」







「はぁ?」






「お前コレ気に入っただろ?」






「何言ってんの?私、こんな高い物買えるだけのお金持ってないよ。」






「ハァ〜そんな事今さら教えてもらわなくても昔っから知ってるよ!
 これは俺からのクリスマスプレゼントだよ。」







「そんな・・こんな高い物貰えないよ!!」






「何で?」







「だって・・貰う理由が無いって・・言うか・・」







「理由か?理由ならあるぞ!」






「ど、どんな・・?」






「お前が前のブーツを履いたままだと足が痛くて司へのクリスマスプレゼントが探せないだろ。
 そしたらお前からのプレゼントを貰えなかった司の機嫌が悪くなる。」






「それが理由になるの?」







「なる!司の機嫌が悪くなると俺達が迷惑する!」





「そんな・・事ないと思うんだけど・・」






「あるんだよ!
 いいから黙って俺からのクリスマスプレゼント受け取っとけ!」




牧野は納得しきれていないようだったが



俺だってはなっから彼女が素直に俺からのプレゼントを受け取るわけないと思っているから



彼女とのそれ以上の会話を止めてさっさと支払いを済ませ


元のブーツの入った紙袋を彼女に手渡した






「あ、ありがと・・」





「どういたしまして。」
「これで足も大丈夫だろ?」





「うん、快適!さっきまでの痛みが嘘みたい。」






「だったらさっさと彼氏へのプレゼント探しに行って来いよ!
 俺もそろそろお袋達の所へ戻らないとヤバイし。」




「うん、美作さん本当にありがとう。
 じゃぁ、私行くね。」





「おう!気をつけてな!司にヨロシク!」





軽やかに歩き出す彼女を見送る




彼女の足には俺がプレゼントしたブーツ・・




貰う理由が無いって・・・言ったよな・・




あの時、咄嗟に司を引き合いに出したけど




本当の理由は違う




本当の理由は・・俺がお前にプレゼントしたかったから




あの時、そう言ったらお前、絶対受け取らなかっただろう?




お前、昔、司に言ったよな?




自分で稼いだ事も無いガキだって




あの頃は俺だってそうだった




でも今は違う





自分で働いて稼いだ金で好きな女にプレゼントを贈る




簡単な事のようだけど




簡単じゃないんだ





なんせ俺が好きなのはお前だからな・・・





クリスマスにサンタが俺にくれた贈り物は好きな女にクリスマスプレゼントを渡せるチャンス





回りくどくてややこしいけど





俺にとっては最高のクリスマスプレゼント





メリークリスマス!牧野!!









      〜 Fin 〜





【アトガキ】
 え〜ふとした気まぐれで大昔のクリスマス話しを引っ張り出してきました・・
 とっくにクリスマス過ぎてますが(汗
 大昔のお話しですが・・
 以前のサイトからお越しいただいている方には
 懐かしいかなぁ〜と思いUpする事にしました^^
 ちなみに↓のアトガキもそのまんまにしてあります(笑
 お楽しみいただけたのであれば幸いです
 
 
         2013/12/30 KiraKira






【アトガキ】
 クリスマスSS第2弾のあきら君話しでした。
 ヤマなしオチなし挙句の果てに司君は名前だけちょこっと出ただけ・・
 これのどこがつかつくなんだ!!とお思いの皆さん・・
 ごめんなさい〜・・m(_ _)m
 でも司君への愛情はたっぷりと込めたつもりです!!
 あきら君の視点からのつかつくいかがでしたでしょうか?
 少しでもクリスマス気分を味わっていただければ幸いです。
 え〜管理人、次のお話しに取り掛かります・・


          2005/12/21 KiraKira









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