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Both hands



明日っから世間ではゴールデンウィークらしい



まぁ〜私もそうなんだけど…




大学を卒業後、OL生活3年目




4年後迎えに来ますと言った彼は本当に私が大学4回生の時に帰ってきた




それ以降、日本で仕事をしている彼との付き合いは



離れていた時間も足すともうすぐ両手いっぱいになる




だけどこの4年…



まともにデート出来たのなんて両手で足りちゃうぐらい忙しくて、


直接、彼の顔を見るよりもTVや雑誌で見るほうが多いってありさま



デートにしたって約束はしても3回に1回はドタキャンで


後の2回は確実にデート中に



電話が入ってまともに食事さえできない




そのたびに”埋め合わせは絶対するから”と言われるけど


もう期待してない



司が忙しいのは分っているし、


司の代わりなんていないのは会社の人だって同じ




仕事に対して責任感の出てきた彼だが


もしも私が”行かないで”なんて言ったら



本当に行かないで私と一緒に居てくれる…




それが分っているから口が裂けても言えない言葉…




淋しい気持ちをグッと堪えて笑顔でおくり出す




だけど、そんな想いも今日は報われるのかなぁ〜?



1ヶ月前、彼から掛かってきた電話は4月29日〜5月8日まで


要はゴールデンウィークに休みが取れそうなのでお前も予定を入れるなよ



南の島にでも行こうぜ!って…



そんな急に言わないでよ!私だって忙しいんだから!!


なんて口では憎まれ口叩いて素直じゃないあたしだけど


顔はきっと誰にも見せられないくらいニヤけてたと思う…




それから1ヶ月、なんとか仕事を片付けて、


課長の嫌味も聞こえないフリで定時でオフィスを飛び出した



自分でも押さえきれないくらい心がフワフワしてる


にやけそうになる口元を真一文字に結んでも目尻が下がってきちゃう



大急ぎでいったんアパートへと戻り、



荷物を持って部屋を出ると計ったように迎えの車




司じゃないことに少し落胆しながらも


SPさんにがっしりと両脇を固められて馬鹿でかいリムジンへ…



着いた先は道明寺家



勢ぞろいのお出迎えに俯きながらも心はスキップ


司は一足先に戻っているらしく書斎にいるとタマさんが教えてくれた



まだ仕事なのかな〜?



ここにきて一抹の不安が心をよぎる



司の書斎に顔だけ出すと真剣な顔で


書類に目を通している彼の横顔が目に入った



邪魔しちゃ悪いと思ってそーっとドアを閉めようとした時、



彼が私に気づいた



「ごめん。邪魔しちゃったね。」



「いや、大丈夫だ。
 けどもう少し掛かるからタマとお茶でもしてろ。」




「うん、分った。」




音をたてないようにドアを閉め、リビングへと向かう




この大きなお屋敷で迷子にならないで


リビングまで行けるようになったのはつい最近の事…




未だ全体像は掴んでいない…



迷わずリビングに入っていくとタマさんがお茶の用意をしてくれていた



タマさんと会うのも久しぶり




話したいことが沢山ある




司の事、会社の事…




私、一人で言いたい事を話していてタマさんは呆れたように…


でもちゃんと聞いてくれている



30分ほど一人でしゃべり続けていると



仕事を終えた司がリビングへと入ってきた



入ってくるなりの第一声は”ハラ減った。メシ食うぞ!”って




後についてダイニングへと移動しフルコースの豪華なディナーが始まる




「メシ食ったら、すぐに出発するぞ!」



「はぁ??今夜から出かけるの?」




「ああ、明日の朝、目が覚めたら南の島だかんな!」




「わ、わかった…」



食事も終えて、後は出発するだけ




自家用機が用意されていて…って



こんな時間に近所迷惑じゃないの??



後は乗り込むだけだっていうその時に…



慌てた様子の秘書さんが飛び込んできた



分ってしまった



秘書さんの顔を見た途端…わかってしまった




司は秘書さんを無視して私の手を掴み強引に



自家用機に乗り込もうとしているが




秘書さんとバッチリ目が合ってしまった私は…



やっぱりそうはいかない




「ちょ、ちょっと待って!司!
 秘書さんが呼んでるよ!」




「いいんだよ!ほっとけ!
 行くぞ!」




「ちょっと、ダメだよ。
 ちゃんと用件聞いて。」




私の言葉と秘書さんの慌てた顔に観念したのか
司がしぶしぶ屋敷へと引き返した




そして…




やっぱり…




屋敷に残ったのは私一人…




私達が乗るはずだった自家用機は司と秘書さんを乗せて


NYへと旅立って行った




ハァ〜


ハァ〜


ハァ〜



三連発でタメ息…



ハハハハハッ…



もう笑っちゃう



すぐに帰ってくるから待ってろよ!


と言い残して司は行ったけど…





すぐっていつよ!



何日よ!




フワフワ心が今度はカタカタ音を立てている


カタカタ…


ガタガタ…


カラカラ…



カラカラ…??



カラカラ…ハムスターの滑車みたい



あ〜ダメダメ!


思考が現実逃避し始めている



ブンブンと大きく頭を振って現実の世界へ



タマさんが心配そうにこちらを見ている


そんなタマさんに空元気の精一杯の笑顔で道明寺家を後にする



電車で帰ると言う私に夜道は物騒だからと


タマさんに無理やり車に押し込まれた。





ハァ〜・・・疲れた〜




アパートの自分の部屋に戻ってきた途端どっと疲れが出てきて、



着替えもせずに座り込んでボーっとしていた




あ〜あ、やっぱり思ったとおりになっちゃったじゃない!!



これは予想した最悪の展開・・・



どうしよう〜10日間も連続して休み・・



テーブルに突っ伏して考えるけど・・・



大して物の無い部屋で大掃除してついでに模様替えしたって


2日あれば終わっちゃう



う゛ーーーー



窓を開けておもいっきり叫びたい気分



だけどこんな時間に・・いや・・時間は関係なくて



叫んでるところなんて人に見られたら恥ずかしいし



何より近所迷惑・・・・



どんな時だって私は常識人



どんなに俺様な恋人がいたってそこんところは変化なし・・・




テーブルに顎を乗せたままでカクカク・・・



頭の中に響いてくるのは顎の骨の鳴る音だけ・・・



カクカクカクがバカバカバカに聞こえてきちゃう・・・



むなしい・・・




どっぷりと沈み込んでしまった心は今のところ浮上するきっかけなんてなくて・・・




ぼんやりと時計の針が進むのを眺めていたら・・・




RRRRRRR  RRRRRRRR・・・・




ふいに鳴った携帯電話に慌ててバッグの中をガサゴソ・・・




飛び込んできたのは弟の進の慌てた声・・・





「ちょ、ちょっと、進!どういうことよ〜!?」



電話を切りバッグを掴み部屋を飛び出す、



大通りまで出てタクシーを捕まえる




タクシーの中であがった息を整えながら、


ついついいつものクセで独り言・・・




バックミラー越しに運転手さんと目があって、愛想笑いでごまかす・・・




もう〜 信じらんない!!なんなのよ〜!?





パパとママがいきなり引っ越すって?




それも北海道って・・・



どうなってんのよ!!




俺様な非常識と能天気なパパとママの非常識




対極だけどどちらも理解が難しい・・・



フェリー乗り場でなんとかパパとママに追いついて


勢いで一緒にフェリーに乗っちゃったけど・・・



よかったのかなぁ〜?



まぁ〜乗っちゃったものは仕方が無い!




開き直って北海道へ・・・



どうせ休みだし・・





それにやっぱり心配だし、



今年就職したばかりの進はゴールデンウィークも



休みが取れず付いていけないらしい




誰かが付いてないとこの二人・・心配・・




フェリーに乗り込んで雑魚寝のB寝台の片隅で


親子三人なんとかスペースを確保する。




さすがに大型連休!



フェリーも一杯・・



よくチケット取れたわよね?




どこまでも能天気なパパとママ・・・



ママが作ってきたお弁当を広げながら



今さらながら突然の引越しのわけを聞く




私が大学に入学した頃からパパとママは



社員寮で住み込みの管理人をしていて家計も安定しいる



なんでも今回、札幌にある社員寮の管理人さんが病気の為、



急に辞められたのでそこの管理人にとパパとママに話しが回ってきたらしい




急な話しだったので都合のつく人がおらず、



会社側は特別ボーナス付きでパパとママに頼んだらしい




パパとママに頼むなんて・・大丈夫?その会社・・?




なんだか今いち信用できないけど、



現金な家の両親が特別ボーナスという言葉に飛びついたのは


言うまでもない・・・





かくして1週間足らずで転勤が決まり



娘と息子に何も言わずに札幌に行こうとしていたらしい




今日だってたまたま進が会社帰りに実家に立ち寄ったから引越しが分ったけど



家の親、本当に黙って出発するつもりだったのだろうか・・?




”どうして何も言ってこないのよ!”



の私の問いにはママが一言・・・



”忘れてたのよ〜〜”だって・・・



呆れて声も出ない私にむかってママは



”あんた、道明寺様はどうしたのよ?”だって・・・




どうもしないわよ!!!



あ〜嫌な事思い出しちゃったじゃない!



本当なら今ごろ飛行機の中だったのに・・・



実際はフェリーの中・・・



行き先は南の島のはずだったのに・・・



向かってるのは北の大地・・・




説明するのも面倒くさくて腹立ちまぎれにおにぎりにかぶりついた



そんな私にママが険しい顔で詰め寄ってくる



「あんた、まさか道明寺様と別れたとか言わないわよね?!」



「別れてないわよ!!」



「だったらいいけど。絶対にどんな事があっても逃がしちゃだめよ!
 玉の輿なんだから!!」




ハァ〜出た・・ママの口ぐせ、玉の輿・・



もう何百回・・いや何千回と聞いたこの言葉



だけど私が司と付き合ってるのは彼がお金持ちだからじゃない!!



綺麗なドレスが着たいわけじゃない!



高価な宝石が欲しいわけじゃない!



南の島の豪華なリゾートに行きたいわけでもない!!



私は・・普通のデートがしたいだけ



ただ一緒にいたいだけ・・・



休みの日には二人でショッピングに行ったり


夜更かしして映画を見たり


お日様の下、手を繋いで散歩したり



そんな何でもない事に憧れているだけ・・・



だけどそんな何でもない事が私と彼には一番難しい



あ〜もう!鼻の奥がつーんとしてきちゃったじゃない!



寝よ!



こんな時は寝るに限る



ぐっすり寝て、明日になれば八方塞の私の心にも少しは光が見えてくるかもしれない




何も言わずママに背を向けてゴロンとねっころがると



背中越しに聞こえてきたのはママの大きなため息とフェリーの汽笛










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