Let's  Cooking 





「あ〜あ〜・・・」




公園のブランコに腰掛けながら空を見上げてため息が一つ



昨日まではいいお天気で少し色を濃くした高い空が



季節がまた一つ確実に移り変わっている事を教えてくれているようで嬉しかったのに・・




今日はどんよりと黒い雲が下がっていて今にも雨粒が落ちてきそうな雰囲気・・



そんな空がまるで私の心を表しているようで雨粒より先に涙が零れ落ちそうになる・・




私の今の立場は大学の4回生



就職活動の真っ最中・・・





予想以上に厳しい世間の荒波に呑み込まれ同級生達が続々と



就職先が決まっていく中・・私だけが未だ卒業後の進路に光が見えてこない・・



英徳ではなく外部の大学に国立大学に進んだ私は今年4回生・・


当然、周りのみんなと同じように就職活動をスタートさせた




ずらりと貼り出された求人の中から何十社も履歴書を送り

その中から数社、面接までこぎつけたけど今のところ全てアウト・・





最初の頃はまだまだ何とかなるって思ってたけど・・

さすがにここまでくると落ち込む・・・




何がいけないんだろう・・?



特に選り好みしているわけじゃないのに・・



もう、働けるんだったら何処だってどんな仕事だっていいとさえ思ってるのに・・・




上手くいかない人生に焦りと苛立ちが勝ってしまって・・とうとう夕べやっちゃった・・・













半年程前、NYから戻った司と現在一緒に暮らしている



簡単な人生なんてないのに・・



ついつい考えちゃう・・悪いクセ・・



忙しいけれどイキイキと仕事をしている司や他の仲間達を見ていると



居場所が用意されている人生がうらやましく思えてくる




彼らには彼らの大変さがある




近くで見てきてそれは充分すぎるほど分かっているのに・・・



上手くいかない就職活動についつい卑屈になってしまう



2週間ほど前に会った花沢類に言われた言葉・・





”なんか世界中の不幸を一人で背負ってる感じ”




まさにそんな感じ・・言い当てられて




”ハハハ・・”って乾いた笑いで誤魔化しただけ・・





あ〜あ・・本当にもう嫌になる!




夕べの自分を思い出してまた自己嫌悪・・・




夕べは司と大喧嘩・・!




ううん・・夕べのは喧嘩なんかじゃない!





私が一方的に八つ当たりしただけ




落ち込みモードの私を元気づけようとしてくれた司に思いっきり八つ当たり・・





大学にバイトに就職活動に家事にと一杯一杯になっている私の気分転換にと

夕べ彼は外へ食事に行こうと誘ってくれたけど・・

疲れていた私は出かけたくなかった






「たまには外で上手いもんで喰おうぜ!」



と言った彼の言葉に切れて私が言った言葉は・・




「何よ!あんたは私が作った物は不味いって言いたいわけ!?」





「誰もそんな事言ってねぇーだろ!」






「言ってるじゃナイ!そんなに私の作ったごはん食べるの嫌なら
 一人で食べてくればいいでしょ!?」





・・・もう・・・サイテイ・・・・サイアク・・・!




分かってるんだけど一度箍が外れてしまった私の口はもう止まることを知らない・・




洪水のように溢れ出す言葉に自分で溺れた・・・




もう興奮しすぎちゃって自分でも何言ってんだかわかんなくなっていたところを


ふわりと抱きしめられて背中をゆっくりと撫でられて




「分かったから、落ち着け。」




って優しく言われてやっと止まった・・・





ハァ〜・・自己嫌悪・・





抱きしめられて、取り乱した気まずさから素直に言葉が出てこない





”ごめんなさい”って一言言えばいいだけなのに・・言えないまま





”離してよ!”って無理やり彼の身体を押しのけ自分の部屋に駆け込みカギまで掛けてしまった・・





もう・・自分でもなんて可愛げのない女なんだって思う・・




こんなんじゃ嫌われても仕方ない・・





今朝、起きた時には司はすでに仕事に出かけていて居なかった





だから司の顔を見ていない・・





夕べ、あれだけ言っておいて





でも彼の顔が見たいなんて・・





勝手な奴だ・・





ハァ〜・・出てくるのはため息ばかり





でもこんなところでブランコ漕ぎならため息ばっかりついてたって



何にも解決しないんだから・・





ヨシ!




気合を入れてブランコから飛び降りる




着地成功!!




今日は美味しい物作って彼の帰りを待とう



そしてちゃんとごめんなさいって言おう




少しだけ軽くなった心と足で公園の出口へと向かう





帰り道、あまり行かない近くの高級スーパーによって食材を買い込んで家路へと着いた













マンションのエントランスには受付があり住人以外の出入りに


厳しいチェックがある




受付のおじさんに軽く挨拶をしてエレベーターへ





エレベーターもカギがないと動かない仕組みになっていてセキュリティー万全のマンション





この辺りは高さ制限がある地域だから周りに高い建物はない




このマンションだって5階建て




住んでいるのはそこの5階、ワンフロアーに一室しかない




キーを挿しこみドアを開けると玄関には沢山の靴・・・




「・・・へっ?」




靴を脱いで長い廊下を歩き恐る恐るリビングのドアを開けてみるけど・・




中には誰も居ない・・・




でも声がする・・!




声が聞こえてきた方向にはキッチン・・・?





キッチンから何やらガヤガヤと話し声が聞こえてくる





そーっと近づいて聞き耳を立てていると





中から美作さんが怒っている声・・・?







「オイ!類!にんじんで遊ぶな!」
「司!フライパンが焦げてるぞ!!」





・・・って・・・何やってんの・・?





「総二郎!電話ばっかしてないで手伝え!!」





何なの・・一体・・?





次は桜子の声・・





「滋さん!そんなにお砂糖入れないで下さい!」





そして最後は司の声・・






「ウォッ!あちぃ!!」





続いてなにやら物が壊れる音・・・?






慌ててキッチンに飛び込んだ・・






「ちょ、ちょっと!何やってんの?!」




いっせいに私に集まる視線





「よお!お帰り!」





・・って・・何なのよ〜





広いキッチンにはそれぞれエプロンをしたいつもの仲間達が・・




キッチンの入り口で唖然と立ち尽くす私に美作さんが





「もうすぐ出来るからお前はあっちでお茶でも飲んで待ってろよ。」






「で、出来るって・・何が?」





「晩飯に決まってんだろ!
 ホラ!邪魔だからあっち行って大人しく座ってろ!」





「ちょ、ちょっと、どういう事なのよ?説明してよ!」




「つくし!いいから、いいから!
 ホラ!あっちでお茶でもしよ!」




そう言った滋さんに背中を押されて強引にキッチンから追い出されてしまった・・




取りあえず滋さんの勢いに押されキッチンからリビングへ来たけど・・




本当に何がどうなってるわけ・・?




どうしてみんな此処で料理なんてしてるわけ・・?





滋さんに腕を引っ張られてソファーに着地・・





「・・ね、ねぇ・・滋さん!どうなってんの?」






「みんなでつくしにご飯作ってるだけだよ!」






「・・だから・・どうして・・?」






「今朝ね、司から電話が掛かってきたんだぁ〜!
 つくしが落ち込んでるから全員集合!って」





はぁ・・?





「つくし?夕べ、司と喧嘩したんでしょ?」





「し、したけど・・けど・・夕べのは喧嘩じゃなくて、
 私が一方的に八つ当たりしただけだよ・・」






「うん、それも聞いたよ!
 司、言ってたよ。」






「なんて・・?」





「司が帰ってきて一緒に暮らし始めたでしょ。
 大学に就職活動にバイトに家事までやっててまた無理してるのが
 分かるのに自分も仕事が忙しくてゆっくり話しする時間も無いって。」
「だから夕べ、ディナーに誘ったんだけど、
 つくし、興奮しちゃって最後は何言ってんのか分からないほど
 喚きちらしたって言ってたよ。司はね、自分と一緒に居ることが
 つくしの負担になってるんじゃないかって思ってるみたいだよ。」





「・・あいつ・・そんな事言ってたんだ・・?」




「言ってた。
 ねぇ、つくし?」






「・・なに・・?」






「愛されてるね。」







「・・そーだね・・」






「つくしも司の事、愛してるでしょ?」






「・・・うん。」






「だったらたまには言ってあげたら?
 司に愛してるって!」





「・・・・えっ!?」





「だっていいじゃない?
 私なんて毎日言ってるよ!」






「・・滋さん・・毎日、美作さんに言ってるの・・?」








「言ってるよ!
 それにあきら君だってちゃんと言ってくれるよ!」







「・・そ、そーなんだ・・」





毎日・・なんて多分、無理だと思うけど・・





滋さんの言うとおりちゃんと気持ちを言葉にして伝える事は




大切なことだと思う





普段の私はどうしても照れが先に出てしまい





言葉にする前にあれこれ色々と考えすぎて





結局、声にならない本心・・・





だから溜め込みすぎて夕べみたいに司が目を丸くするぐらいに






大爆発を起こしてしまうんだ・・・






心の中の靄を洗い流すように涙が溢れ出てくる・・






そんな私の背中を滋さんが優しく撫でてくれる・・






「つくし、苦しかったらちゃんと苦しいって司に言わなきゃ。」






「・・そーだね・・ありがとう、滋さん。」






「どういたしまして!」














涙も少し落ち着いてくるとやっぱり頭をもたげてくるのは一番最初の疑問・・?




私が落ち込んでるからってどうしてみんなで料理なんてしてるわけ・・?





「ねぇ、滋さん?
 どうしてみんなでご飯作ってるの?」




「司が言い出したんだ!
 みんなでつくしに美味しい物作って食べさせてやるぞ!って」





「・・・・へっ!?」





「だっていつもつくしがご飯作ってくれるでしょ?
 普段、ニッシーなんかは貧乏食だぁ〜とか不味い〜とか
 言ってるけど、みんなつくしの作ってくれるご飯美味しいって思ってるんだよ!」
「だから、つくしが落ち込んでる今回は私達が美味しい物を作って
 つくしにご馳走しようと思って!」






滋さんの説明でどうしてみんながお料理なんてしてるのかは分かったけど・・





でも・・きっと今キッチンを占領している全員が料理の経験なんて無いはず・・



美味しい物・・って・・言うより・・





食べれる物・・出てくるんだろうか・・・?





それを考えるとブルリと武者震いが出てくるけど





食べれる食べれないよりもとにかく嬉しい・・





すっごく嬉しい!!




ヤバイくらいに嬉しくて涙出てきちゃう!!





そして滋さんの止めの一言!



「私と桜子でね、今日、つくしママのところに行って、
 つくしの大好きな物の作り方教えてもらってきたんだ!
 もうすぐ出来るからね!!」




「・・私の実家に行ったの・・?」




「うん、ママさんパート休んで私と桜子にきんぴらごぼうの作り方教えてくれたんだよ。」






「ありがと。」





「こちらこそありがとうだよ!
 私、小さい頃から料理なんてした事ないしキッチンだって使った事なかったから
 何にも作れないでしょ?でも今日、つくしのお陰でつくしママのきんぴらごぼうと
 お芋の煮っ転がしは作れるようになったんだもん!」






「そっか・・じゃぁ、私も手伝う!」






「えっ!?いいの、いいの!
 もうすぐ出来ると思うからつくしはゆっくり座ってて!」







滋さんはソファーから立ち上がろうとした私の両肩を押さえてもう一度座るように促すと


「紅茶淹れてきてあげるね!待ってて!」




「うん、あっ、ありがとう。」





滋さんが淹れてきてくれた紅茶を飲みながら・・リビングのソファーで
ソワソワしながらかれこれ30分





やっとキッチンから美作さんが出てきた




「牧野、出来たからこっちに座ってろ!」




とダイニングの方へ私を誘導する・・




そして・・・




続々と運ばれてくるお料理・・





ダイニングに所狭しと並べられたお皿には・・




和洋折衷の食べ物がきれいに盛り付けられていた






全員で席について始まるディナー





みんなの視線を受けながら一口・・お肉を口に運ぶ・・






「どうだ?美味いか?」






「・・・う、うん!美味い!・・よ・・」




「オイ!なんか微妙だなぁ?」





「そ、そんな事ないよ!美味しいって!」




「そうか!じゃぁ、次はコレだ!」





次々と目の前に差し出されるお皿・・




コレ喰え!攻撃!!





味を聞かれるけど、嬉しくて・・涙があふれ出てきそうで・・




涙を堪えるのに必死で・・正直、味なんて分かんない!!




「おっ、お前、なに泣いてんだよ!?
 泣くぐらいまじぃ〜のか?」




「バカ!違うわよ!
 泣いちゃうぐらい美味しいのよ!」






少し焼きすぎて固くなったお肉も茹ですぎのパスタも


煮崩れしているお芋も甘すぎるごぼうも


紅葉の形に綺麗にカットされたにんじんも



お味噌を入れすぎてしょっぱいお味噌汁も



そのどれもが世界で一番美味しくて



世界で一番豪華なディナー




どの味も忘れないようにゆっくりとかみ締め


心に刻み込む







ごめんなさい・・も



ありがとう・・も




愛してる・・も





今なら素直に言えるような気がする









だから竜巻が通り過ぎて行ったみたいなキッチンの後片付けもヨロシクネ!




















【ヒトリゴト】
久しぶりの短編でした・・が・・いかがでしたでしょうか?
駄文に変わりはありませんが・・


このお話しを書き始めたきっかけは本当にちょっとした思いつきです。

「司君って料理なんてするのかな?」
「いや、彼はするしない以前に出来ないだろう。」
「じゃぁ一人じゃ無理でも他のメンバーが一緒なら?」
「出来るか?出来ないか?」
「なんとか出来るんじゃないか?」

という結論に達しこのお話しが完成しました。

どうって事のない内容ですが、最後まで読んでいただきありがとうございます。

お目汚しスミマセン(汗)



                 2005/10/27 KiraKira


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