12月、街をクリスマスのイルミネーションが彩り、

光に誘われるように人々の心もどことなく浮き足だっている



今日はクリスマスイブ





陽が暮れるとぐんぐんと下がりはじめる気温と

重く垂れこめた曇り空には星の瞬きは期待できず



その代わりに地上のイルミネーションが星の代わりになっている



昼間のように明るい街中を渋滞中の車の中からぼんやりと眺めていた






信号で止まった車内から見えるのはビルの前の広場に

置かれている大きなクリスマスツリー




空に向かって伸びるようなそのツリーの下に見慣れた後姿を見つけた




彼女の姿ならどんな人ごみの中からだって見つけられる自信がある




大学を卒業して働き始めて4年






社会人になり彼女の顔からは幼さが消えて背中の

真ん中あたりまで伸びた艶のある黒髪には軽くウェーブが掛かっている



昔の彼女からはちょっと想像出来ないけれど

ファーの付いた真っ白なカシミヤのコートを着て

足元は黒皮のロングブーツに手にしているのはブランド物のバッグ



そのどれもが司からのプレゼントなのだろう・・・




この前、仲間達で集まった時、彼女は呆れながら



"あいつ、私の部屋の広さ分かってるくせに
 大量に洋服だとかアクセサリーを買ってくるから困る!"


って言ってたっけ・・




NYの大学を主席で卒業してすぐに日本に戻ってきた司と

日本でずっと帰りを待っていた牧野は

現在、喧嘩をしながらも順調(?)に付き合っている





その牧野が今、クリスマスツリーを見上げるように立っている







司と待ち合わせでもしているのだろうか?




車内から見えている牧野の後姿が何となく淋しそうに見えて


止まったままだった車から自分でドアを開けて飛び出していた




後ろでは慌てた運転手が何やら叫んでいるけど気にならない





俺の視界にはもう彼女しか入っていなくて・・・




イルミネーションの中、浮かび上がる彼女しか目に入らない・・・




ツリーを見上げるように立っている彼女の背中に声を掛ける・・



「牧野。」




驚いて振り向いた彼女の顔が俺の姿を確認してすぐに笑顔に変わった



「花沢類!どうしたの?」



「牧野こそどうしたの?
 こんな所で?一人なの?司は?」



たたみかけるような質問攻めに彼女はクスッと笑いを零しながら



「さっきまで道明寺と一緒だったんだけど、仕事が入って行っちゃったの。」


日本に帰ってきたからも相変わらず忙しい司は
最近では牧野とデートもままならないと零していた・・



何となく彼女の後姿が淋しそうに見えたのはこのせいだったんだ・・・




「そう。じゃあ、今、ヒマ?」




「えっ・・?ヒマ・・かって聞かれると何も予定は無いけど・・
 どうして?」




「ヒマなら俺とデートしない?」





「デ、デート?!」



大きな瞳と目一杯見開いて俺を見つめている・・


そんなに驚かなくてもいいんじゃない・・?




「そっ!デート!いいでしょ?
 ここ寒いから早く行こ!」


断られる前に・・



逃げられる前に・・・


答えを聞く前に・・・・


少し強引に彼女の手を掴んで歩き始めた



「牧野?晩ごはん食べた?」




「・・ま、まだ・・だけど・・・」



「じゃぁ、何か食べに行こ!」



「う、うん・・だ、だけど・・あの・・花沢類・・?」



「なに?」




「あ、あの・・手・・手放してほしいんだけど・・」



「ダメ!」




「ダ、ダメって・・どうして?」




「寒いから。こうしてると暖かいでしょ?」



「そ、そうだけど・・でも・・は、恥ずかしいから・・放してほしいんだけど・・」




「大丈夫、俺は恥ずかしくないよ。」


牧野の言う天使の微笑みつきでそう言ってまだ何処か恥ずかしそうにしてる

彼女の手を繋いだままポケットに突っ込んでしまった


彼女ももうそれ以上何も言わないで大人しく俺について来ている


肩を並べて歩くクリスマスイブの夜の街


時折吹く凍えそうな風も牧野となら全然寒さなんて感じない



ゆっくりと彼女の歩幅に合わせて歩く幸せ


こんな事で幸せを感じるなんておかしいかもしれないけど


学生の頃、感じていたような想いとは少し形を変えているけど


とにかく幸せだと感じている今、この瞬間を楽しみたい


司には悪いけどね







俺が彼女を連れてきたのは大通りから一本入った

裏通りにあるこじんまりとしたレストラン



あんまり高い店に行くと相変わらず貧乏性の彼女が気後れしてしまうし

この店のオーナーシェフは昔、花沢の屋敷でシェフをしていた事があって

味も確かだし顔なじみだから多少の融通もきく





フランスの民家のような内装で料理も形式ばったフルコースではなく

何処か懐かしい家庭料理で何より牧野の大好きなデザートが絶品だった





きっと牧野は気に入るだろうと






予想通り、気取らない店の雰囲気と美味しい料理に牧野はご満悦だった


食事を終えて暖かかった店内から一気に20度近い温度差のある外へ出る


ワインを飲んでほんのりと熱を帯びていた頬が外気にあたって

一気に冷やされる


再び、牧野の手を取って歩き始めた時、牧野の携帯が鳴った



繋いでいた手を放し自分のコートのポケットに手を突っ込んだ彼女は


ごめんねと断って電話に出た



俺は放されてしまった手をポケットに突っ込んだまま


目の前で電話に出ている牧野を眺めていた




電話の相手は・・・言わなくても分かっている



少し慌てたような牧野の声と電話口から漏れ聞こえてくる


機嫌の悪るそうな声・・・



司と話しをしている牧野が少しバツの悪そうな表情で俺を見上げている



どうせ司の事だろうから今何処にいるんだ!とか

今一人なのか!だとか聞いてるんだろうけど・・



俺は電話の向こうの司に聞こえないように声には出さずに

口だけを動かして



「どうしたの?」




電話口を手で押さえ耳元から電話を離した牧野が困ったような顔で

「今、何処にいるんだって言われたんだけど・・
 ココってどこら辺になるの?」


「司?」



「あっ、うん。」



「そっ、じゃぁちょっと代わって。」



「えっ!?あっ!!ちょっと待って!!」


牧野の手に握られていた携帯電話を奪い取った



「もしもし、司?」





「ハァ〜!!テメェー誰だ!?」



相変わらずの司の声に思わず笑いが込み上げてくる・・



「テメェーー!何、笑ってんだよ!!
 オイ!お前、誰だ!俺の女に手出すんじゃねぇー!!殺すぞ!!」



「プックククク・・・司、相変わらずだね。」



「ハァ〜〜!!・・って類か?」


電話の向こうの親友はやっと20年来の付き合いの俺に気がついたらしい・・


けど・・・



「オイ!なんで類がつくしと一緒にいんだよ!?」




「偶然会ってね。牧野も一人だって言うからクリスマスイブに
 一緒に食事しただけだよ。」


ワザとクリスマスイブという言葉を強調して言うと



「類!今、何処に居るんだ?
 今からそこに行って一発ぶん殴ってやるから待ってろ!!」




「いいけど、寒いから5分しか待たないよ。
 だから5分で来てね。じゃないと牧野貰っちゃうよ。」



そう言ってここの住所を伝えて電話を切った



電話の向こうの司はまだ何か怒鳴ってたけど気にしない・・


携帯電話を牧野に返し不安そうな瞳で俺を見つめている彼女に笑顔を向ける



「ねぇ、花沢類!道明寺は何て言ってたの?」



「5分でくるから待ってろ、だって。」



「そ、そう・・」



「どうしたの?」



「えっ・・あっ・・道明寺が言ってたのってそれだけ?
 なんか怒鳴ってたみたいだったんだけど・・」




「大丈夫、怒ってなんてなかったよ。
 牧野の電話に男が出たからびっくりしただけで、
 俺だって分かったらすぐにおさまったから。」



治まってなどないんだけど・・


牧野が不安そうな顔をしてるから安心させようと少し嘘をついた



あと5分・・・



カウントダウンはもう始まっている・・・



5分で来いって言ったのは冗談のつもりだったけど

きっと司なら本当に5分で来てしまうだろう・・・



俺に残された時間はほんのわずか・・・


だけどそんな事は最初っから分かっていたこと



そう・・ずっと昔から・・


司が日本に帰ってきた頃から・・・


いや・・違う・・・


牧野の側でずっと海の向こうの司だけを一途に想い続ける

彼女を見ていた時から・・・


分かっていた事・・


だからタイムリミットまで後4分30秒・・・


クリスマスの夜に起こったちょっとした奇跡


サンタクロースからのプレゼントは牧野と過ごす時間



きっと司は今頃、額に青筋を何本も浮かべながら運転手さんを

怒鳴りつけているだろう・・


そんな司の姿が目に浮かぶ・・・


「花沢類?何がおかしいの?」



「ん?なんでもないよ。」

「ねぇ、牧野?」



「なに?」

司が来ると聞いたからだろうか彼女の視線が大通りの方へ向けられていて

心なしかソワソワしている


ねぇ、まだ後4分もあるんだよ・・


だから後4分は俺との時間なんだ


「ねぇ、クリスマスプレゼントちょうだい。」



「はぁ?・・えっ・・な、何がいい?
 今、すぐには無理だけど・・」



「大丈夫、今すぐ出来ることだから。」


「な、なに?」



「手。
 手繋いでくれればいいよ。」



「それがクリスマスプレゼントなの?」



「そう。ねぇ、寒いから早く。」




そう言ってさっきと同じように彼女の手を掴んでコートのポケットに

しまい込んだ



「暖かいでしょ?」



「・・う、うん・・」


不思議そうな表情をしている牧野に微笑むと

彼女の顔がさっきよりも赤くなったような気がする


そっと時計を見ると後2分・・・



寒そうに肩をすくめていた彼女が急に空を見上げた


「あっ!雪!!」


彼女の声に空を見上げると真っ黒な空から落ちてくる真っ白な粉雪



牧野が手袋をしたままで手のひらを前に差し出すと


ゆっくりと音もなく俺たちの元へ辿り着いた雪


あっという間に溶けてなくなってしまう雪を

大事そうに眺めている牧野の頭に積もり始めた雪をそっと払いのける



音の消えた街角から靴音が響いてきたのはタイムリミット10秒前・・・







近づいてくる足音にポケットの中で握ったままだった彼女の手から

そっと力を抜いた・・・


ポケットに突っ込んだままの自分の左手に神経を集中する・・・



ゆっくりと引き出される彼女の右手・・・



指先が少し触れたのを最後に急に広くなったポケット・・・




彼女の瞳はまっすぐ前・・・


足音が響いてくる方向へ向けられている・・・



少しずつ大きくなってくる足音と姿





ロングコートの裾を翻してハァハァと荒い息づかいまで聞こえてきそうで

 


思わず笑いが込み上げてくる




暗がりでもはっきりと表情が読み取れる所まで近付いてきた司は

牧野の姿を確認すると安心したのか少し穏やかな目つき変わったけど・・


隣に立つ俺と目が合った瞬間・・元の鋭い目つきに戻って

スピードを緩める事無く走りこんできた司に・・



飛び蹴りされた・・・・




そりゃぁ〜ちょっとからかったけど・・・



ほんのちょこっとだけだし普段は牧野を独り占めしてるんだから

少しぐらい大目に見てくれてもいいと思うんだけど・・・


司は牧野の事となると相変わらずというか・・・


普段から単純な性格が余計に単純になって行動に現れるから

いつも以上に分かりやすい



勢いよく俺にとび蹴りしてきた司を寸でのところで回避すると

慌てた牧野が持っていたバッグで司の頭を思いっきり殴った・・



スコーンーーー!!


といい音が雪空に響き渡る



「ちょっと!!道明寺、いきなり何してんのよ!?」




「うるせぇーー!何で殴んだよ!!」



「あんたが花沢類に飛び掛るからでしょ!!バカ!!」




「あぁーーー!!バカだと!?
 俺様の何処がバカなんだよ!?」



「何処がって・・・いちいち数え上げてたらきりが無いから全部よ!!」





やっぱり始まってしまった二人のいつもの儀式



罵り合いながら愛を深めていく・・


周りからしたらはた迷惑なカップルだけど

やっぱり牧野には司が似合ってる

そして司には牧野が合っている


司の怒りの矛先が再び俺に向く前にここから消えるとしよう


儀式を進行中の二人にそっと背を向けて一人、

両手をポケットに突っ込んだまま歩き始める


空からはまだ粉雪が舞い降りている




今年一年、がんばったご褒美としてサンタからのプレゼントは

聖なる夜に牧野と過ごす時間



背中から牧野が呼ぶ声が聞こえてきた



「はーなーざーわーるーいー!!」


振り返るとそこには手を空に高く掲げて大きく振っている彼女



「はなざわーるいー!メリークリスマス!!」




メリークリスマス!牧野!











       〜 Fin 〜










【アトガキ】
 え〜ふとした気まぐれで大昔のクリスマス話しを引っ張り出してきました・・
 とっくにクリスマス過ぎてますが(汗
 大昔のお話しですが・・
 以前のサイトからお越しいただいている方には
 懐かしいかなぁ〜と思いUpする事にしました^^
 ちなみに↓のアトガキもそのまんまにしてあります(笑
 お楽しみいただけたのであれば幸いです
 
 
         2013/12/30 KiraKira











アトガキ
 まずクリスマスSS第一弾(?)の類君話しでした。
 類君ファンの皆さんごめんなさい。m(_ _)m
 素敵な類君話しが数多くあるなかで無謀にも挑戦した
 類君話し・・私が書くとこうなってしまいます・・><
 駄文を最後まで読んでいただいてありがとうございました。<(_ _)>
 少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。
 

            2005/12/20 KiraKira












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