CGI







秋と言うにはまだ少し早い気もするけど、夏の焼け付くような太陽がやっとおさまり
その代わりにやってきた朝夕の涼しさが季節がゆっくりとだけど
確実に移り変わっている事を教えてくれている



木々が立ち並ぶ英徳大学のキャンパスに吹き抜ける風が
ここが東京だという事を忘れさせてくれる



広大なキャンパスを通り抜けてガラス戸を開けお目当ての人物を探すと・・・


『いた!』


テーブル一杯に教科書や資料を広げて
その上に両腕を前に伸ばして突っ伏している


なるべく音を立てずに近づくとそーっと椅子をひいた


だけど・・ほんの少しガタッと音がした瞬間
突っ伏していた人物が顔を上げた


「先輩!こんな所で何やってるんですか?」


「レポート書いてんのよ!
 何か用なの?」



「失礼ですよ!用がなきゃ来ちゃいけないんですか?
 それに先輩だってレポート書いてるようには見えませんでしたけど?」



「いいでしょ!ほっといてよ!」



「で、どうしたんですか?
 また道明寺さんと喧嘩したんですか?」



またの所を強調して言うと先輩がこちらをジロリと睨んでいる



私・・もう誰だか分かってると思うけど



三条桜子は現在、英徳大学の2回生
牧野先輩は同じく、英徳大学の3回生で
F4は共に4回生




高等部を卒業後NYへ行ってしまった道明寺さんは
アメリカの大学を3年で卒業してしまい
すぐに日本に戻り英徳大学に編入した



とは言っても仕事が忙しくほとんど大学には顔を出していないけど・・
F3の皆さんも同じような状況で大学で顔を見かける事はほとんどない
ある意味平和な大学生活を送っている・・



但し・・先輩は全く状況が違う・・



日本に戻ってきた途端に始まった異常な程の束縛と呆れるほどのヤキモチのおかげで
今では先輩の口からは溜息しか出てこない様子・・



どうして日本に戻った途端なのかって?


知りたいですか?



答えは簡単!



NYへ行く時、道明寺さんはF3の皆さんに先輩のガードという名の
監視(?)をお願いしていたらしいんですけど・・



道明寺さんが居なくなってやっと平和を取りも戻せたF3が
NYに居る道明寺さんに煩わされたくなくて先輩の事を
かな〜〜り甘〜く報告していたらしく日本に戻ってその事を知った
道明寺さんがF3に対して大爆発を起こしたんです・・




道明寺さんがNYへ行ってしまったすぐ後に美作さんが

”牧野!残り少ないまともな人間生活、悔いの残らないよう満喫しろよ!!”

と訳の分からない言葉をキョトンとする先輩に言っていた事がある・・


ちなみにこの言葉、F3の皆さんは決して親切心から言ったわけじゃなくて
2人の不毛な争いに巻き込まれる事なく平穏な大学生活を送りたい一心なのだから・・



要はNYの道明寺さんと先輩の仲が上手くいっている限り周りの人間は平和に過ごせる
と言う事なのだが・・



そのお陰で道明寺さんの帰国後、先輩の生活は一変してしまった・・


まず拉致られるようにして始まった同棲生活に毎日数十通のメールと所在確認の電話


さすがにSPまでは付いていないけど・・
(道明寺さんは付けると主張したらしいけどさすがにキレた先輩に
 いい加減にしないと別れると脅かされて泣く泣く諦めたらしい・・)



「で、今度は何が原因なんですか?」


諦めたように話し始める先輩は本当に深い深い溜息を一つついてから
話を始めた



「ハァ〜〜・・夕べね、久しぶりに司と外で食事したのよ・・」



「食事に行って喧嘩したんですか?」


「違う、食事は美味しかったし食事中は何の問題も無かったのよ!」


「だったらどうしたんですか?」



「食事の後、店を出て少し散歩しようって事になったの・・
 まぁ・・散歩は私が言い出したんだけどね・・司は面倒くさがってたけど・・
 とにかく散歩してたのよ!そしたら途中で司が喉が渇いたって言うから
 近くにあったコーヒーショップに入ったの。遅い時間だったのに中は結構込んでて
 私がレジに並んで司はテーブルで待ってたのよ。」


「それがどうして喧嘩になるんですか?」


「レジで私の前に並んでた男の人がお尻のポケットから財布を取り出した時に
 何かを落としたのよ、その人落とした事に気付いてなくて私が拾って
 それを渡してあげたの!そしたらそれを見てた司がいきなり怒り始めちゃって・・」




「それで喧嘩になったんですか?」



「そうよ!あのバカ!ワザと落としただろうとか・・
 渡す時にワザと手に触れただろとか・・
 言いがかりも甚だしいわよ!!ワザとのわけないでしょ!
 それなのに何言っても聞かなくておまけにその人殴ったのよ!
 信じられる?殴ったのよ!」



「殴ったんですか?」




「そうよ!」



「で、その後どうしたんですか?」



「怒った司に無理やり店から連れ出されて・・
 抵抗したら担がれたのよ!分かる?私、表参道をあのバカに担がれて運ばれたのよ荷物みたいに!
 もう恥ずかしくてあの辺り歩けないわよ!!」



「それで朝まで寝かせて貰えなくて不機嫌なんですね?」



私の言葉に先輩の右眉がピクリと反応した


分かりやすい人だ・・


「さ、桜子・・あ、あんた何言ってんのよ!」



「先輩、キスマーク付いてますよ。」


「えっ!うそ!?」


慌てて首筋を押さえている・・


「冗談ですよ。」


「あんたねぇ〜!!」



「先輩が分かり易すぎるんですよ。」


「うるさいわよ!」


「じゃぁ、気晴らしにショッピングにでも行きませんか?」


「あんたとショッピングに行っても全然気晴らしになんないわよ!」


「先輩、言ってくれますね?」



「何よ!本当の事でしょ?
 それに私はバイトがあるのよ、忙しいの!」



「先輩、まだバイトしてるんですか?
 もう生活の心配しなくていいんだから辞めたらいいじゃないですか?」



「いいでしょ!ほっといてよ!
 それに生活の心配しなくていいからバイトしたいのよ!」



「言ってる事おかしいですよ?」




「どこがよ?
 全然、おかしくないわよ!
 今までは生活の為に仕方なくバイトしてたのよ、
 でも今は自分の為にバイトが出来るの!
 それに・・やっぱり変でしょ?
 結婚してるわけじゃないのに養ってもらうのって・・」



「いいじゃないですか?堂々と養ってもらえば、道明寺さんは先輩だから
 がんばれるんですよ。まぁ、素直に養ってもらえない所が先輩らしいですけどね。」



「可愛くないって言いたいんでしょ?」



「そんな事ありませんよ。
 確かに可愛くないですけど、先輩らしいですから。」



「あんたねぇ・・さっきから言いたい事言ってくれるじゃない!」



「いいじゃないですか。
 それよりショッピング行きましょうよ?
 私、今度の合コンに着て行く洋服を買いたいんですけど、
 付き合ってくれますよね?何なら先輩も行きます?合コン。」



合コンと聞いて間髪いれずに思いっきり首をブンブンと振っている・・


「冗談じゃないわよ!行くわけないでしょ!!」



「分かってますよ。
 本気にしないでください!」



「あのねぇ〜・・」



先輩が何かを言いかけた時携帯が鳴った・・



「鳴ってますよ。愛しのダーリンからじゃないんですか?
 出なくていいんですか?」



「分かってるわよ!出るわよ!」



乱暴に携帯を手に取ると不機嫌な声で話しを始めている

電話口から漏れ聞こえてくるのはやっぱり道明寺さんの声



『テメー、今何処にいんだよ!!』



「大学に決まってんでしょ!うるさいわね!何か用なの?」



『さっき何で電話に出なかった!?』



「講義中で電源切ってたの!
 用がないなら切るわよ!」




『あっ!オイ!まだ切るな!
 お前大学の何処にいんだよ?!』


「カフェよ!」



先輩の電話を聞くともなしに聞きながら怒鳴り声をあげながらもどこか楽しそうな
先輩の表情を眺めていると後ろで悲鳴に似た声が上がった・・




驚いて振り返ると・・そこには携帯で話しをしながらカフェに向かって
歩いてくる道明寺さんの姿が・・




先輩も気付いた様子で携帯を切ると大きく溜息・・



ガラス戸を開けて黄色い声に迎えられながらも視界には先輩しか入っていない様子の道明寺さんは
真っ直ぐに私達の座るテーブルに来ると私など存在しないかのように先輩の隣に座った・・



「道明寺さん、こんにちは。」




「おう!」


私の方を見ようともしない・・
まぁ、返事が返ってきただけでもまだマシなほうだ・・



最近の道明寺さんは本当に先輩しか見えていないんじゃないかと思う時がある・・
F3の皆さんの存在にも気付かない事があるくらいなのだから・・
なんて考えているとさっそく始まってしまったいつものやり取り・・



「ちょっと!くっつかないでよ!
 離れて!!」



「ヤダね!お前もいい加減慣れろよな!」



「慣れるわけないでしょ!
 もう人前で顔近づけてこないで!!」



腰に腕を回し絶対に逃がさない道明寺さんと思いっきり身体を仰け反らせて抵抗している先輩・・



毎回、毎回・・全く進歩の無い人たちだ!



だけどこの二人のイチャイチャぶりを真正面から見ているのは私の精神衛生上好ましくない
ので不本意だけど先輩に助け舟を出してあげますよ



「道明寺さん、お仕事いいんですか?」



「そ、そうよ!あんた仕事はどうしたのよ?
 忙しいから今日は遅くなるって言ってたじゃない!」



「予定が変わったんだよ!
 今日の仕事は全部すんだ!」



「本当なんでしょうね?
 まさかまた秘書さん脅して無理やり予定変更させたんじゃないわよね?」



「そんな事するわけねぇーだろーが!!
 とにかく俺は仕事終わったんだから帰るぞ!」



「私まだレポート残ってるから帰れなわよ!」



「そんなもん家に帰ってからすりゃーいいだろうーが!」



「ダメ!それにこの後、桜子と買い物に行く約束してるの。
 そ、そうよね?桜子?」



「ええ、先輩と一緒に合コンに来ていく洋服を買いに行く予定になってるんですよ。」



ニッコリと微笑みつきで返すと固まってしまった先輩と青筋が立つ道明寺さん



いいですよね?
私は嘘は言ってませんもの




「テメー!いい度胸してんじゃねぇーかよ!
 俺様と付き合っておきながら合コンに行くってか?!」




「ちょ、ちょっと誤解しないでよ!合コンに行くのは桜子だけで、
 私は買い物に付き合うだけよ!桜子!あんたも誤解するような言い方しないでよ!」



「うるせぇー!誤魔化されねぇーぞ!
 ったく!お前は油断も隙もねぇー!!」


「だから!違うって言ってるでしょ!」


「うるせぇー!とにかく帰るぞ!!」


そう言うが早いか道明寺さんは軽々と先輩を担ぎ上げてしまった


『ギャー!!』



という色気の欠片もない叫び声を残してカフェから出て行く・・これは正確な表現じゃないわね
カフェから運び出されていく先輩の後姿にエールを送る





だけど先輩気付いてます?

あの道明寺さんをたった3年で卒業させちゃうアメリカの大学も凄いですけど
いくらスキップという制度があるからと言っても英徳時代にはまともに学校に
来たことのなかった道明寺さんが3年で卒業しちゃったんですよ!
それもこれもぜ〜んぶ先輩と一緒に居たいがために・・

それに道明寺さんが帰ってきてからの先輩はなんだかんだ言いながらでも
幸せそうでいつも笑ってるって・・気付いてないでしょ?

気付いてませんよね?
先輩って相変わらず鈍いですから!
だけど教えてなんてあげませんよ
いい加減自分で気付いてくださいね

時々ヒントはあげますから









〜Fin〜















☆お★ま★け☆




「おい!今、司が牧野担いで歩いてったけど何かあったのか?」



「私は何も知りませんけど。」




「お前また何か言ったのか?」



「またって失礼ですね。私は何も言ってませんよ。
 あっ、これ先輩の荷物なんでけど忘れ物なんで後で届けておいてくださいね。」



それだけ言うとニッコリと微笑んで席を立つ



「あっ!オイ!桜子!」




西門さんの声を背中に受けながら
再びガラス戸を開けて一歩外へと出ると足元を一陣の風が駆け抜けていく




肩にかけていたバッグから携帯電話を取り出して



『滋さん?合コンがあるんですけど。
 行きませんか?』

















【ヒトリゴト】

サイトオープン1ヶ月記念のSSです。
いかがでしたでしょうか?
相変わらずの駄文で申し訳ありません。
それにこのお話しタイトルが無い・・
思いつかなかったんです・・
なので皆さんでお好きなタイトルをつけちゃってください。
そしてこのお話し毎日沢山の方にご訪問いただいている
お礼の意味を込めてフリーにします。
もしこんなお話しでもいるという方がいらっしゃいましたら
ご自由にお持ち帰りください。

但し、背景に使っている素材は素材屋さんからの
借り物なので持って帰らないでくださいね。
それからお持ち帰りになられた方は
持って帰ったよと一言いただけると嬉しいです。

後は煮るなり焼くなり好きにしてやってください。



                   2005.09.07 KiraKira









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