粉雪が舞うホワイトクリスマス





雪にイルミネーション





最高のシチュエーションに最高級のシャンパンと食事





目の前に座るのは綺麗にドレスアップした女





ウィットの効いた大人の会話






俺の周りに存在している物





俺が自分で作り上げた居心地のいい世界






表現するなら虚構と虚飾




原色で彩られた世界をいかに上手く泳ぐかだけに神経を使い





一番、居心地がよくて






一番、嫌いな俺の世界







最高のシチュエーションも最高級のシャンパンと食事も




ドレスアップした女もウィットの効いた会話も




一日に何度も繰り返していれば




なんの感慨も湧いてこない






心が・・・





感情が・・・





動くことのないまま





時間だけが過ぎていくクリスマスイブ






約束だけを律儀にこなしていく







今日、何度目かのメリークリスマス





ピンク色のシャンパンの注がれたグラスを軽くぶつけ合い





見え見えのリアクションを取る女にプレゼントを渡す





レストランで食事してプレゼントを渡して





女の自尊心を満足させてタクシーに乗せる






そして本日4人目の女と待ち合わせ






いつもより気合の入ったメイクと衣装




ねっとりとからみつくように腕を回されて




周りから送られてくる嫉妬と羨望の眼差しにうっとりとしている





女にとっては俺もアクセサリーの一つにすぎない




だからギブアンドテイクでクリスマスイブを楽しむ





今日、最後の女をメープルの最上階にあるラウンジへと連れて来た





最高のシチュエーションの仕上げは圧倒されるような東京の夜景




クリスマスに向けてリニューアルされたラウンジはカップルで賑わっていた






カウンターに座ると目の前には大きな一枚ガラスの窓があって

その向こうに東京の夜景が広がっている





クリスマス用にアレンジされたカクテルで乾杯すると女が

俺の腕に自分の腕をからめてしな垂れかかってくる・・・






次に女が何を言うのか




次に女がどんな仕草を見せるのか




手に取るように分かる





マニュアル通りのその反応に




心の中で笑いが零れる




ラクでいい



ラクがいい



マニュアル通りの女にマニュアル通りに接する俺





上辺だけの応対に満足気な笑みを浮かべている女






心など必要ない





女もそんな物は求めていないのだから





神経を使う事なく自然と身についている一連の動作を繰り返すだけ





俺の住む世界だ・・・





だけど・・この世界に居心地の悪さを感じ始めたのは

いつの頃からだろう・・?






ずっと築き上げてきた俺の世界が幻なんだと気付いたのは

いつの頃だろう・・?





もう何年も前、空から降ってきた変な女の子の背中に

最初に羽を見つけたのは誰にも心を開くことの

なかった親友






そして悪魔の化身のようなもう一人の親友が女神だと表現した女の子





天使だの女神だのお伽話の世界の物であって現実に信じているわけじゃない





だけどマニュアルもなにもかも俺の手にしていた物全てが

彼女には通用しない





強引に心に分け入ってくることなく気付けばそこに居た






まっすぐに見つめ返すその瞳を直視出来なくて逸らした俺と

その瞳に捕らわれてしまった親友






金も地位も名誉も肩書きも全てを手にしていた俺達が

何も持っていない彼女と出会った事で始まった奇跡






その奇跡は今でも続いている







彼女と出会い、彼女を愛する事でめでたく人間社会に復帰した二人の親友


ただ側に居て見守る事で心を表現した親友と


嘘偽りない心をさらけ出す事で彼女を手に入れた親友





そのどちらも恐ろしく勇気のいる行為




そして瞳を逸らしたまま今も気付いている事に

気付かないフリをし続けている俺と

ブレーキを踏み続けているもう一人の親友





女の会話に適当に相槌を打ちながら考え続けていた彼女の事






今頃、きっと彼女はただ一人の相手と過ごしていることだろう・・






珍しく感傷的な気分になるのはクリスマスだからか・・?







色とりどりの電飾で飾られた世界を真っ白な粉雪が少しずつ覆っていく











そうだ・・粉雪・・・










やっと見つけた彼女を表現する言葉





粉雪みたいな女の子・・・今は女か・・






儚げで清らかで穢れを知らない真っ白な結晶





音も無くいつの間にか俺の心に降り積もったパウダースノー





手に触れるとすぐに消えてしまう




だから手が出せない





触れられないから気付かないフリをしていた





気付かないフリをしていればここに留まっていられたから・・・





ハハハ・・粉雪か・・




今度、あいつに会ったら言ってやろう!






"粉雪みたいな女だって"





あいつどんな顔するかな?






きっと眉間に皺を寄せて訳分かんないって表情で俺を見るんだろうな・・





だけど伝わらなくても構わない






もう気付いていないフリなんて出来ないのだから





降り積もる真っ白なパウダースノーに俺は一歩脚を踏み入れてしまった





一歩、一歩、俺の後ろにはっきりと残る足跡・・・





神様もサンタも信じちゃいないけど





一歩踏み出した足はもう後戻りなんて出来ない俺のリアル



手元で遊ばせていたグラスに残る酒を一気に飲み干すと



纏わり付いてくる女の腕を外して何も言わずに席を立った




隣に座っていた女が驚いて声を上げているけど構わない







メープルを出るとまだ空からは粉雪が落ちてくる







車は使わずに雪の降る街へと歩き出す






今年のクリスマスプレゼントは






気付いている事を認める勇気






聖なる夜に一歩前に踏み出す勇気







振り返るとそこにはもう俺には必要の無い世界が

色を失って横たわっていた







そして目の前には新しい世界・・・








新しい世界にメリークリスマス!!














          〜 Fin 〜











【アトガキ】
 え〜ふとした気まぐれで大昔のクリスマス話しを引っ張り出してきました・・
 とっくにクリスマス過ぎてますが(汗
 大昔のお話しですが・・
 以前のサイトからお越しいただいている方には
 懐かしいかなぁ〜と思いUpする事にしました^^
 ちなみに↓のアトガキもそのまんまにしてあります(笑
 お楽しみいただけたのであれば幸いです
 
 
         2013/12/30 KiraKira








【アトガキ】
 クリスマスSS第三弾、総二郎君編でした。
 会話一切無しで・・最後まで何が言いたいんだか・・??
 本当にごめんなさい・・m(_ _)m
 え〜クリスマスSS残り後1本です。
 よろしければ最後までお付き合いくださいませ。<(_ _)>

            2005/12/22 KiraKira






inserted by FC2 system