こいつが俺の秘書になって2年




・・ったく・・牧野が秘書になったこの2年間は





プロジェクトと同時進行で五代の後処理で




俺は殺されるんじゃないかと思った事がしばしば




まぁ、俺だけじゃなく牧野にしても同じような状態だったし



あきらに類も普段の業務に加えての作業だったので



牧野の部屋のリビングで気が付けば朝という日もあった






そして今日、あいつは俺の秘書になって



初めてパーティーに出席している



メープルの取締役をしていた頃は毎晩のように



パートナーを変えて出席していたパーティも




俺の秘書になってからは常に俺の後ろに立ち




決して公の場所に顔を出す事はしなかった





世間では俺がこいつを隠しているなんて思われているようだがそれは大間違いだ!






俺は何度もこいつにパートナーとして出席するよう求めたのに






その度に拒否され、



そればかりかパーティごとにどこそこの令嬢だとか女優だとかを





連れて来てはその女をエスコートしてパーティーに出ろと



俺様に命令しやがる!!





冗談じゃねぇーぞ!!





人の気も知らねぇーで





何で俺様が見ず知らずの女連れて



パーティになんて出席しなきゃいけねぇーんだ!?






一度だけどうしても納得できなくて・・こいつを試したことがある・・







「おい!お前は毎回俺にパートナーだって言っていろんな女連れてくるけど、
 もし俺がその女と何かあったらどうすんだよ?」






「何かって?何があるわけ?」






「何かって・・そりゃー一応、男と女なんだから・・何があるか分かんねぇーだろ?」






ヤキモチを妬かせてやろうと思って言った俺の言葉にも



あいつは表情を変えることなくサラリと切りかえしてきやがった!






「そうね、男と女なんだから何があるか分からないわね。
 今度からパーティーの前にお部屋を用意しておきますわね。」






なんてバッサリと切り込まれ・・萎える・・





何がって・・?





とにかく全部が萎える・・・





男として俺は一体こいつにどんな風に思われるのか全く分からない・・







最初の頃はまだ楽しかった・・







こいつが自分から秘書として雇ってくれと言って来た時は



悪い冗談かとも思ったけど





エドのプロポーズを断ったのも仕事を辞めたのも



メープルの取締役の仕事を引き受けたのも






その全てがこの俺様に惚れてるからで




もしかしたらこいつが手に入るんじゃないかと期待もあったけど・・




そんな淡い期待はすぐに破られた






この2年間、仕事のみでプライベートな接触は一切無し





あいつは徹底的に秘書という役割に徹し





俺はただひたすらあいつの言うとおりに仕事をこなしてきただけだ





プライベートで二人っきりで食事なんてのも




もちろんねぇ・・・






なのに今夜、あいつは2年ぶりにパーティーに出席している





それも親父に送られたドレスを着てやがる!





いつの間に送ってきたんだよ・・?






・・たく親父の野郎も油断も隙もありゃしねぇー!






真っ黒なシルク素材で背中と肩がむき出しのそのドレスは




色の白いあいつによく似合っていて




さっきからあきら、類、総二郎と立て続けに踊っている牧野に




会場中の野郎どもが鼻の下をだらしなく伸ばして見惚れてやがる!





俺はその光景を少し離れた会場の隅から眺めていた





手にしているワイングラスに口をつけながら


左手でそっとタキシードのポケットを探る





中にはメープルのインペリアルスィートのカードキーが入ってる





今夜こそ襲ってやる!





そのためにパーティーが始まる前に部屋を取っておいた





パーティーが終わったら無理矢理にでも部屋に連れ込んで





2年間も俺様を弄んだ代償をきっちりと払わせてやる!!





にこやかに親父と踊っている牧野の姿を眺めながら






俺の頭の中では何も身に纏っていない牧野が俺の腕の中にいる・・





熱い吐息と潤んだ瞳、


吸い付くような木目の細かい滑らかな素肌に俺の名を呼ぶ甘い声・・






「司、気持ち悪い。」





暴走し始める妄想をストップさせたのは親友の声・・






ブッッ!





口に含んでいたワインが噴出しそうになる・・






「・・る、類!」





「何かいい事あったの?」





「なんもねぇーよ!」





俺の心の中のあられもない姿の牧野まで見透かされているようで



思わず類から目を逸らす・・






「プッ!」





俺の顔を見て噴出す失礼な親友





「何笑ってんだよ!あっち行けよ!」




シシっと追い払うように手を払うけど類は楽しそうに笑うだけで


俺の前から立ち去ろうとはしない




なんのツボに入ってんのか分かんねぇーけど



俺の脳内は今、最強に忙しいんだよ!



邪魔すんじゃねぇーよ!




類が立ち去る様子が無いので俺が移動しようとすると


背中から類の声が追いかけてきた




「こんな所で呑気にワインなんて飲んでていいの?
 牧野取られちゃうよ。今夜は狙ってる奴多いよ。
 そういう俺も狙ってる内の一人なんだけどね。」







楽しそうに聞き捨てならないセリフを投げかけてきた類に振り返り



一睨みするとホールの中央で髭野郎と優雅に踊っている



牧野目掛けて一直線に歩みを進めると髭野郎から牧野を引き離す







「キャッ!」







と小さく声を上げ戸惑った表情を浮かべる牧野の腕を無言で掴むと



そのままホールを横切り会場を出た






「ちょ!ちょっと!なんなのよ!?」





「うるせぇー!男とイチャイチャしやがって!」





「踊ってただけでしょ?痛いんだから手離してよ!」





「ゴチャゴチャうるせぇーんだよ!
 黙ってついて来い!」




















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