彼女の後ろについてリビングに入るとバスローブ姿の総二郎が座っていた・・・




「ただいま〜。ねぇ 花沢 類 連れてきたよ。」






総二郎と目が合ったけど・・




総二郎は僕が牧野と一緒にいる事を驚いていない・・






「よお!類、久しぶりだな!」






「・・・・・」






僕が黙ったままでいるのでまだ何も話していない事に気付いたみたいだ・・・





「おい、つくし!類に何んにも言わないで連れてきたのか?」







総二郎も・・・牧野の事、つくしって呼んだ!








「うん、まだ何んにも話してないよ。」






「お前なぁ〜 ちょっとぐらい説明しといてやれよ!
 類、びっくりしてるだろ!?」





「だって・・何から話したらいいのか分かんなかったし。
 話はじめたら長くなりそうだったから、とにかく連れてきちゃった。」




「連れてきちゃった・・って、お前なぁ〜・・ハァ〜」




「ため息つく事ないでしょ!」





「とにかく・・類、そんなとこ突っ立ってないで座れよ。」





「私、着替えてくるから、花沢類、座ってて。」






牧野がリビングから出て行ってしまい、僕は総二郎と二人っきり





向き合う形でソファーに座り余裕でワインを飲んでいる総二郎を睨んでいた





「そんなに睨むなよ!」





「どういう事?総二郎、牧野と付き合ってんの?」




「付き合ってねぇよ!」




「じゃぁ どうして総二郎がここにいるわけ?
 説明して。」





「分かってるよ。説明するから、とにかく睨むのやめろよな!」





「さっきも言ったけど、俺とあいつは付き合ってるわけじゃないし、
 別にやましい関係でもない。俺がここに居るのは最近NYに来たら
 ここに泊まってる単なるルームメイトだな。」






「それは分かったけど。どうして総二郎が牧野と一緒なの?
 いつから二人は会ってるわけ?」





「5年になる。」





「僕みたいにこっちで偶然会ったとか?」





「いいや、日本だ。」





「類、あいつ名前変わってるだろ。」





「うん、ケイト・ライズって・・・」





「そうだ。お前、ライズコーポレーションって知ってるだろ?
 あいつと進は会長のライズ氏と養子縁組したんだ。
 つくしの今の名前がケイト・ライズで進はサム・ライズって名乗ってる。」
「それが5年前の話だ。」





「どうして二人とも養子縁組なんか・・」






「5年前、牧野の両親が交通事故で亡くなったんだ。」






「・・そんな・・事があったの・・」





ちょうどその時、着替えを済ませた牧野がリビングに入ってきて当たり前のように総二郎の隣に座った





「どこまで話した?」





「まだ、ほとんど話してない。お前の両親の事ぐらいだな。」





「そう。じゃぁ続きは私が話すわね。」





牧野が僕に教えてくれた彼女の8年間・・・





その大部分に総二郎がいた・・





「・・・というわけなの、で、今日レストランで花沢類と会ったの。」





話を聞きながら彼女の事をじっと見ていたが、ムリしている様子は見えない



時折総二郎に確認するような仕草を見せながら話している彼女の顔にはあの頃
僕が好きだった笑顔が戻っている





彼女が笑顔を取り戻す事が出来たのは総二郎のおかげなのだろうか?





そう考えると少し胸が苦しいけど・・



でもまたあの笑顔を見れてうれしく思う気持ちがあるのも事実・・・




「ねぇ 牧野、今幸せ?」




僕の問いかけにまっすぐ僕の目を見て答える彼女の
顔に傾いてきた日差しが反射してものすごくキレイに見えた




「うん、幸せだよ。」



「そっか、よかった。」



「ありがとう、花沢類。」



久しぶりに彼女の笑顔を見れた

でも・・どうしても気に入らない事がある・・



僕は目線を総二郎に戻す



「だからって、どうして総二郎と牧野が一緒に住んでるわけ?」



総二郎はもう睨んでいる僕の事など気にしていない様子で


「さぁな〜 どうしてだ?」



なんて、呑気に牧野に聞いている




聞かれた牧野の方も



「さぁ〜 どうしてだろう?
 分かんないけど、いつの間にかいるよね?」




「そうだな〜」



目の前の二人はそんな事大した問題じゃないという様子で話している


なんだか、だんだん腹が立ってきた



「そう。もういいよ。
 ねぇ 牧野、僕も今日からここに泊まるから。よろしくね。」



「・・へっ!?・・ど、どうして、そうなるの?」




焦って聞き返してくる彼女の相変わらずの鈍感ぶりにも腹が立つ



「ダメなの?」



「えっ・・ダメなの・・って・・そういう問題じゃないでしょ?」





「どういう問題なの?総二郎は良くて僕はどうしてダメなの?」




「ダ、ダメ・・じゃないけど・・花沢類にはちゃんと部屋があるじゃない?」




「いいよ、そんなの、それにここの方が会社にも近いしね。」




あっさりとそう言い終えると花沢類は携帯を取り出してどこかへ電話している



電話を切ると花沢類はあの微笑を私に向けながら




「これでOK。」





・・何がOK?なの・・・か・・さっぱり分からない・・




花沢類の行動を唖然と見ていると横で総二郎が笑っている




「クククク・・つくし、諦めろ。」




「な、何を諦めるのよ!?
 花沢類も何考えてんのよ!?」



私の抗議の声彼には全く届いていない・・



「ねぇ 牧野、部屋どこ?」



ハァ〜 もうこの人は・・・何言っても無駄なわけね・・




「廊下に出て手前の4つが空いてるから好きなの使って・・・」



「分かった。ありがとう。」


またあの笑顔で言われて・・・



「・・ど、どういたしまして・・」



・・ってどもってしまった・・


総二郎はまだニヤニヤしたまま花沢類を見ている



今度はそんな総二郎を無視したままで花沢類が上機嫌でワインを飲み始めた



私は・・


私は、お腹すいてきた・・




「ねぇ 私、お腹すいたんだけど。」




「もう、こんな時間か・・・」





時計は7:00を指している・・


マンハッタンにゆっくりと夜がやってくる


ビルの窓にも明かりが灯りはじめ、ニューヨークが昼間とは違うもう一つの
顔を見せ始める



「どうする?外に食いに出るか?」




「う〜ん、何だかめんどくさいな〜」
「ねぇ 家のシェフに何か作ってきてもらおっか?」




「俺はいいけど、類は?」




「僕もいいよ。」



「そう、じゃぁ 決まりね。電話してくる。」



私は実家に電話をしてシェフにディナーを持ってきてくれるように手配した





その夜、三人で食事をし、花沢類は宣言通り引っ越してきた・・




食事の最中に彼の荷物が届けられた・・・






結局、その日から私のアパートの合鍵を持つ人物が一人増えた




何なんだろう・・?


この展開は・・




いつの間にか私のアパートは合宿所の様相を呈してきている




総二郎と花沢類・・・

まさかこの二人と一つ屋根の下に暮らす事があるなんて夢にも思っていなかったけど


でも二人が一緒にいるのはイヤじゃない・・


むしろ嬉しいかも・・



こんなのもいいよね




三人での共同生活と言ってもそれぞれ仕事で忙しく

時間も不規則なのでゆっくりと三人揃って食事が出来たのは初日だけだったが、

時間を見つけてはなるべく早く帰宅した花沢類と私だったり総二郎だったり・・



一人っきりで食事を取る事はなかった



部屋に帰るとどちらかが居てくれる一人じゃないのも嬉しかったりする




その後も彼はNYに来た時は私のアパートに泊まっている



そんな日々の中、季節は私がNYに来て6度目の冬がやってこようとしている











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