視線は彼女に固定したままでゆっくりと

プールサイドへと出るガラス戸を押した




青白くユラユラと揺らめく水面に仰向けに浮かんでいるのは牧野




プールサイドに肘をつきながらのマットと話しをしている




革靴のまま、足元が濡れるのも気にせずにプールへと近づき声を掛けた





「何やってんだ?お前ら・・」




「あっ!美作さん!」




「あっ!じゃねぇーよ!
 こんな時間に洋服着たまま水泳か?」





「そんなわけないじゃん!
 このバカに無理やりプールに引きずり込まれちゃったの!」





「ウソつくな!先にお前が俺を突き落としたんだろーが!」





「ウソなんてついてないもん!
 私がプールに落ちたのはあんたが引っ張り込んだからなんだから!」
「ねぇ、美作さん?お願いがあるんだけど。」





「なんだ?」





「出たいんだけど洋服が纏わり付いちゃってて上手く登れないの。
 だから手貸してもらえる?」





「ああ、いいよ。」





「ありがとう。」






牧野を引き上げるためプールサイドにしゃがみ込み



プールの中の牧野に右手を差し出すと



牧野は左手をプールサイドにかけながら右手で俺の右手首を掴んだ




俺の手首に回される白く細い綺麗な指先




俺の手も牧野の手首を掴む



軽〜く一周してしまう細く華奢な手首は少し力を

入れただけで簡単に折れてしまいそうだ




グッと力を入れて彼女を引き上げようとしたその時


横からもう一本の手が伸びてきて俺の腕を掴んだ・・





掴まれた瞬間、ものすごい力で前へと引っ張られる・・





一瞬、牧野を掴んでいた右手に力が入ったが


"キャッ!"という彼女の短い悲鳴と"ウォッ!"という俺の声が


重なったと同時に俺の身体は水中に投げ出されていた




ゲッ!!




頭から水中に放り出された俺は思いっきり鼻から水が入ってしまい


咽返りながら水面に顔を出すと




そんな俺を見て腕を引っ張った張本人が大笑いしてやがる・・




「なにすんだよ!!」




笑っているマットに向かって声を荒げた俺の後ろから


もう一つゲラゲラと楽しそうな笑い声が聞こえてきた




信じらんねぇ・・




服着たまんまだぜ




それにパンツのポケットには財布と携帯が入ったまんまだ・・




神経質な俺からすればこの状況は許されねぇー展開なんだけど・・




これがマットだけなら目の前のこのバカ男をぶん殴ってやるんだけど



牧野が一緒に居るだけで・・


なんかあいつが笑っているだけで・・


この有り得ない状況もなかなかのもんだって思えるんだ・・




ヤベ・・なんか楽しい・・




怒っていたはずなんだけどそんな事、もうどうでもよくて・・



さっき牧野がしていたように仰向けでプールに浮かんでみる



浮力に身体を任せ水面をユラユラと漂う・・



真上には闇夜にぽっかりと満月が浮かんでいた・・・









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