NYに到着したのは土曜日の午前10時過ぎ

空港まで出迎えに来ていた総二郎の運転する牧野の車で
牧野の部屋へと向かう




総二郎は牧野の部屋に泊まっているし
桜子も牧野の部屋に泊まる予定になっているらしい
そしてもちろん類も牧野の部屋に泊まっている




マンハッタンの高級アパートが建ち並ぶ一角のその中でも
恐らくランク的にはトップクラスであろうアパートのペントハウス・・




自家用ジェットに高級アパートのペントハウス・・


高校生だった頃の牧野との差が激しすぎて軽くパニック状態の俺・・





今やあいつはアメリカを代表する企業の会長令嬢なのだから


これぐらいは当たり前なのだろうけど・・


一体、何部屋あるんだ?





最上階に着くと桜子は自分の部屋が決まっているようでさっさと
ドアの向こうに消えてしまった



取りあえず総二郎の後ろについてリビングへと入った俺に




「つくしが空いてる部屋好きに使っていいって言ってたけど、どうする?」






「あ、ああ・・一応、メープルに部屋取ってあるけどお前らも居るし、
 こっち泊めてもらうわ。」





「そうか、鍵のかかってない部屋だったらどの部屋でもいいと思うぞ。
 それからここは昼間はライズ家から家政婦が来てるけど住み込みはいねぇーから
 最低限、自分の事は自分でしろよ!」





「最低限自分の事ってどういう事だ?」





「コーヒーが飲みたければ自分で淹れろって事だよ。」





「了解。」






鍵のかかっていなかった部屋を自分の部屋に決め
シャワーを浴び着替えを済ませてリビングへ戻ると
総二郎と桜子がコーヒーを飲んでいた




俺も自分でコーヒーを淹れて総二郎の向かいに腰を下ろした




「牧野と滋はどうしたんだ?」




「つくしは大学ん時の友達と出かけたけど滋はまだ見てねぇーぞ。」




「桜子?お前、本当に滋からなんも聞いてねぇーのか?」





「聞いてませんよ。私がどれだけ聞いても教えてくれませんでしたから。」





疑われた桜子は心外だというように少し語気を強めている





「でもおかしいですね。
 滋さんは先週からこっちに来てるはずなんですけど?」




怪しい・・

マジで怪しい・・・

あの牧野べったりの滋がNYに居ながらここには泊まっていないなんて・・

滋の奴、どこに泊まって一体なにやってんだ?




総二郎と桜子も同じ考えなのか・・




「滋さんは一体なんの用があって私達をNYに呼んだんでしょうね?」




「さっぱり検討つかねぇーけど・・
 そう言えばもう一人・・類はどうしたんだ?寝てんのか?」





「類は仕事行ってる。」




時計はまだ12時前

滋との約束は夜の7時、ミッドタウン58ストリートに
あるレストランで待ち合わせになっている




「お前らこの後、どうするんだ?」




俺の問いかけに桜子は






「私は久しぶりなんで買い物にでも行こうかと思ってますけど。
 一緒に行きますか?」




「いや・・いい!俺は仕事を片付けるから。」





「じゃあ桜子、俺が付き合ってやるよ。」





総二郎だった・・





総二郎は本当に変わったと思う
昔なら女の買い物になんて絶対に付き合うなんて事は無かったのに・・
ましてや自分から付き合ってやるよなんて言ったりする奴じゃなかったのに・・




総二郎のこの小さな変化も牧野の影響なのだろうか・・?







総二郎と桜子が出かけた後、俺は部屋に戻りパソコンを取り出し
仕事を片付け始めた



それ程時間は掛からないと思っていたが思いのほか手こずり
やっと一段落ついた時は時計の針は夕方5時を指していた



パソコンの画面を閉じ、両手を組んで上へと軽く伸びをしていると
今まで静かだった室内に微かに物音が聞こえてきた




コーヒーカップを持って部屋を出るとちょうどネクタイを緩めながら
歩いてくる類と会った





「よお!」





「あきら、一人?」




「ああ、総二郎は桜子の買い物に付き合ってる。」




「そう。」




類は短く返事を返すと俺の隣の部屋に消えた





そうか・・隣は類か・・
なんて思いながらリビングの扉を開けた





しばらくリビングのソファーでのんびりしていると総二郎と桜子が買い物から帰って来た




もちろん大量の荷物とともに・・





昼前から多少やつれた感のある総二郎はソファーにどっかりと座り込むと大きく息を吐き出した





俺はそんな総二郎を横目に少しだけ笑みを浮かべ
"お疲れ"と話し掛けると総二郎は首だけを俺の方へと向け
"マジで疲れた・・"と一言だけ返すと目を閉じてしまった




目を閉じたままの総二郎が





「疲れたけど・・まだメインイベントは済んでねぇんだよな・・」




「そーだな。」




「なぁ、あいつの用件って何だと思う?」





総二郎も滋の用件がかなり気になっている様子だ





「分かんねぇーけど、とにかく滋の思いつく事は俺達の想像の範疇を越えてるからな。」




「ああ・・」





総二郎はもうそれ以上、話す気力も残っていないようだ




リビングにはゆっくりと沈黙が下りてくるが
そうのんびりもしていられない・・




「そろそろ出る用意しねぇーとな。」



「そーだな。」




「牧野はどうするんだ?」




「つくしは直接、レストランに行くって連絡があった。」




「そっか。
 じゃあ、そろそろ着替えるとしますか。」










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