妻は足元の犬を抱き上げ膝の上に乗せると頭を撫でてやっているが




犬の方は妻の手から逃れるようにテーブルの方を向くと




妻が食べていた皿の上にあった肉の匂いを嗅ぎ





パクリと一口食べてしまった・・








あっさり妻の悩みは解決・・?










「あっ!チャッピー!ダメでしょ!?」






ダメでしょなんて言われても止まりません!って感じで






妻が皿を持ち上げた頃には肉は完食






残ったのは付け合せの野菜のみ・・






犬の目の前から皿が消えると今度は俺の皿に狙いを定め







妻の膝の上からテーブルに飛び乗ると






俺の皿に残っていた肉も全て食べてしまった







「全部・・食べちゃったね・・」







豪快な喰いっぷりに唖然とする俺と妻・・







犬は肉を食って満足したのかテーブルから飛び降りると





自分のベッドへ戻り水を少し飲むと毛づくろいを始めている・・









「ねぇ、司?
 もしかしてチャッピーってドッグフード食べた事無かったのかな?」







飼われてた犬でそんな奴いんのか?








「たまたまだろ?
 あいつも腹が減って限界だっただけじゃねぇーのか?」







「そうかな・・?」







「そうなんだよ!とにかく喰ったんだからもういいだろ!?
 それより俺らの晩飯どうすんだよ?肉全部あいつに喰われたぞ!」









「そうだね・・う〜ん・・何か作ろっか?
 冷蔵庫に何が残ってたっけ?」










最後はお得意の独り言を呟きながらキッチンへ消えて行った妻だったが





すぐに俺を呼ぶ声が聞こえキッチンへと入って行くと




冷蔵庫に顔を突っ込んだままで妻が・・







「ヤバイ!何にも入ってない・・」






「なんも無いって事ねぇーだろ?!」







「だって・・チャッピーの事が気になってて全然お買い物に行ってなかったから・・
 う〜ん・・冷凍庫にピザが一枚だけ残ってる・・」






晩飯にピザってなんだよ・・







「ごめんね・・お買い物行くのすっかり忘れてた・・
 ドッグフードだったら売るほどあるんだけど・・」







ドッグフードなんていらねぇーよ!








妻の後ろから冷蔵庫を覗き込むけど・・




マジでなんも入ってねぇ・・




牛乳に水にビールぐらいで





冷凍庫にはピザと妻のアイスがキンキンに凍らされてるだけ・・








「ピザでいいから早く食わせろ!」






「分かった。チンするからちょっと待っててね。」







キッチンで立ったままビール片手に妻と一枚のピザを分け合った夕食





キッチンで立ったままも



ビール片手にも




誰とか一枚のピザを分け合う事も




それのどれもが妻と結婚しなければ多分、一生経験する事のなかった事





きっと昔の俺ならたとえ妻がなんと言おうとも絶対に





こんな所で立ったままメシを食ったりしなかったと思う







今の状況ならきっと外に食べに行くか





屋敷かメープルに電話して何か持って来させていただろう






そして妻にもそれを強要していたと思う






だけど今の俺はそれはしない





俺を道明寺司としてではなく





一人の男としてしか見ない妻はスタイルなんて気にしない






俺と一緒ならどんな状況でも幸せだと笑う妻





たった一枚のピザに缶ビールだって






二人が一緒なら世界一のディナーに変身する事を教えてくれる






今は多少、滅茶苦茶でも妻の作り出す世界の住人でいられる事を誇りに思える






俺ってすげぇーだろ?












犬が来て1ヶ月





犬が俺達の肉を食ってしまってから妻は





毎日、犬の食事を作っている







飼い主探しの方はチラシを見て自分の犬じゃないかとの



問い合わせが2件ほどあったがどれも空振りで





この1週間ほどは全く掛かってきていない






なんとな〜く犬のいる生活に慣れ始め




なんとな〜くもう飼い主は現れねぇーんじゃないかと




思い始めていた夏真っ只中の午後





今年の夏も俺の仕事の都合でバカンスは無し




俺は連日、思うように運ばない提携話しにイライラを募らせていた















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