道明寺グループにとってこの提携話しは



何としても成功させなければならない




最優先事項でかなりの時間と労力を費やしていたが



契約には至っていない




そんな中、オフィスで仕事中に



相手企業のキース会長から連絡が入った




「司様、キース会長からお電話が入っておりますが。」



いつもなら内線で済ませる電話の取次ぎを


何故かわざわざじかに知らせにきた秘書





「なにか問題でもあんのか?」




「い、いいえ・・キース会長から直々のお電話なのですが・・

 用件が奥様が保護されておられます犬に関してのようなのですが・・

 いかがいたしましょうか。」




犬?



どういった流れかは分からないが


とにかく会長からの電話に出てみるしかない・・




「俺が出る。」



「お願い致します。」




キース会長からの電話に出ると挨拶もそこそこに切り出されたのが


妻が拾ってきた犬についてで



どうも会長宅で飼われていた犬が2ヶ月ほど前に散歩の途中



いきなり鳴った雷に驚いて逃げ出してしまい




それ以来、行方不明になっているらしい


会長夫人が可愛がっていた犬で必死で行方を探していた



見つからず諦めかけていた頃に偶然、妻が配ったチラシを見た



会長の友人からの知らせで連絡をしたと言っていた



逃げ出したのは2ヶ月前




妻が犬を連れて帰ってきたのは1ヶ月前




だけど・・



妻が犬を見つけたのはセントラルパーク近くの歩道で




NY郊外に建つ会長宅からは直線距離でも30キロ以上離れている



小型犬で色は白で年齢は8歳のオス



首輪は茶色




確かに特徴は一致しているが




犬が1ヶ月でそれほどの距離を移動するか疑問だった




だけど会長の方もかなり切羽詰っているようで




犬が行方不明になってから会長夫人は心労で体調を崩し





藁にもすがる思いでとにかく犬を確認させて欲しいとの申し出を受け



俺は妻に犬を連れてくるように連絡を取った




突然の連絡に妻は驚いていたが



すぐに犬を連れてくると返事をし電話を切った



会長からの電話の30分後、



まず会長が驚いた事に夫人を伴って俺のオフィスへとやって来た




そしてその20分後には妻も犬を連れて到着した



妻が犬を連れてオフィスへ入ってきた瞬間


妻の腕から飛び降り会長夫人の元へと走り出した犬は


感涙しながら犬へと腕を伸ばした夫人の胸元へ飛び込んだ・・


犬は間違いなくキース会長宅で飼われていた犬で


名前はジャッキー


なんとな〜くこの犬がチャッピーと呼ばれて


妻に付いてきた理由が分かったような気がする



犬はチャッピーとジャッキーを聞き間違えたのだろう・・


まぁ、とにかく犬は飼い主と2ヶ月の時間を経て再会を果たし


何度も何度も俺と妻に感謝の言葉を伝えるとキース会長夫妻は



犬を大切に胸に抱き帰って行った




あっけない別れだった・・・



「大丈夫か?」



キース会長夫妻の乗った車を見送った後、隣に立つ妻に声を掛けた




「うん・・いきなりでびっくりしたけど・・

 チャッピーが飼い主さんの所に戻れて良かったって思ってるよ。」





「そうか。」




「うん、それじゃあ私も帰るね。

 今夜も遅くなりそう?」






「ああ、今夜も遅くなりそうだから待ってなくていいぞ。

 先に寝てろよ。」




「分かった。仕事頑張ってね。」





散歩しながらゆっくり帰るという妻にSPをつけ



見送ったのが午後3時




仕事を終え部屋に戻ったのは日付が変わった午前0時過ぎ




リビングにはまだ灯りが付いていて



妻はソファーで眠っていた






スーツの上着を脱ぎソファーの背凭れに無造作に投げかけると




ネクタイを緩めながら眠っている妻の隣に腰を下ろした





俺が腰を下ろしソファーが沈み込んだ衝撃で妻が目を覚ました




"う〜ん・・"と声を上げるとゆっくりと目を開いた妻は



まだ半分以上寝ぼけたまま微笑むと


俺に向かって腕を伸ばしてくる





大人しく妻が伸ばした腕に納まってやると



満足そうに大きく息を吐き出した妻が



俺の髪に指を挿し入れ耳元で"おかえりなさい"と囁いた




寝起きの少し掠れた声が疲れた身体に心地よく響く





「ただいま。」




「今、何時?」





「12時を少し過ぎたぐらいだ。」



「夕飯は?」




「オフィスで軽く食べた。」





「お腹すいてない?」





「ああ、大丈夫だ。

 寝るんだったらちゃんとベッドで寝ろよ。」






「う・・ん・・司はまだ寝ないの?」






「いいや、俺もシャワー浴びてすぐ寝る。」





「・・分かった・・」





そう言って俺から身体を離すとソファーから立ち上がり



少しふらつきながら寝室へ向かう妻の背中を追いかけた






バスルームから出てくると妻はすでにベッドの中で夢の中




気持ち良さそうに眠る妻の横に潜り込むと




背中から包み込むように抱きしめ俺も眠りについた・・・















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