「夕飯の準備をしてるから一時間後に大広間に集合ね〜!」








それぞれに部屋へと向かいかける俺達の後ろから追い掛けてきた滋の声





その声に軽く片手を上げただけで答え部屋へと向かった







この別荘に来たのは初めてだけど




外観も中も純和風の造りで




襖を開けると自分ちでは有り得ない畳の部屋が姿を現した








部屋の奥にはよく手入れされた日本庭園が広がっていて






ライトで庭の木々が幻想的に浮かび上がっている





静寂が俺を包み込み





一瞬だけここに居るのが自分だけだと錯覚しそうになる







まぁ自分の意志じゃないにしても



此処まで来てしまったのだから



今更ジタバタしても仕方がない





露天風呂もあることだし



どうせこの先はまたあいつらに振り回されるのだから



今のうちにゆっくりと温泉にでも浸かろうと




浴衣に着替え部屋を出た






露天風呂にはすでに総二郎と類が入っていて




俺が入り始めてすぐに一目で不機嫌だと分かる司が入ってきた





のんびりと露天風呂で・・





と言いたいところだが・・






不機嫌な猛獣にはそのつもりはないらしく





機嫌の悪さそのままにさっそく類に言い掛かりをつけ始めた





「類!なんでお前がつくしと一緒に居たんだよ!?」






俺も一緒に居たんだけどな・・




猛獣の眼中に俺は入ってねぇんだな・・









「そんなに牧野と一緒にお風呂に入りたかったの?」






「うるせぇよ!俺様の質問に答えろ!!」









怒鳴り声を上げながら水面を手で跳ね上げる猛獣







こっちにお湯掛けんな!




バカ男!!







お湯を掛けられても軽く笑みを浮かべ余裕の類と




隣の女風呂から聞こえてくる女達の楽しそうな声に






イライラを募らせる猛獣








以前にこの別荘に来た時の事が



余程トラウマなのか類に詰め寄り



俺らからすれば言い掛かりとしか思えない



言葉を類に畳み掛けている猛獣は





"今度は俺様が助けるからな!"



とか・・





"二度とつくしに触るな!"




だとか・・





余裕の無い言葉を連発してやがる・・









俺達からすれば猛獣の心配なんて



今更の事ばかりなのに






牧野にとって唯一の男になった今でも





類に対してのライバル心と言うか・・





異常なまでの警戒心を捨てきれていない





類にしても今更の事だろ?






猛獣が記憶を失っていた10年間で




時間は腐るほどあったのに





牧野に手を出さなかった






それが親友の妻になった途端にって・・







有り得ないだろ?









"司〜そろそろ上がるよ〜!"







不機嫌な司にいい加減ウンザリとし始めた頃




タイミングよく隣の女湯から聞こえてきた牧野の声







その声を聞いた途端、今までの不機嫌さが嘘のように



嬉しそうな表情に変わった猛獣





牧野が自分だけに声を掛けたのが嬉しいんだな・・







まったく分かりやすい男だ・・













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