Myself / Himself-5

あの日も私は確かにここに座って空を切り取っていた・・・ 「こんなとこで何やってんだよ?」 いきなり下から声がしたと思ったら 道明寺が寒そうに手をポケットに突っ込んでジャングルジムに座る私を見上げていた・・・ 「あんたこそこんな所で何やってんのよ?」 「少しぐらい俺の質問にまともに答えろよ!」 「あんたこそ私の質問に答えなさいよ。」 ハァ〜と大げさな溜息をついた道明寺がジャングルジムに登ってきた 「そこの部屋に住んでたことがあるの。」 「あん?どの部屋だ?」 「そこ!目の前の洗濯物が干してある窓の部屋よ。」 「ふ〜ん、相変わらず貧乏っちい部屋に住んでたんだな。」 「大きなお世話よ!」 横に座る道明寺に視線だけを動かし睨みつける 「で?なんで昔、住んでた部屋なんか眺めてんだよ?」 「あんたがあんな物引っ張り出してくるからよ。」 「あんな物って・・写真の事か?」 「そうよ。」 「お前、あの写真の男とどういう関係だったんだよ?」 「一緒に住んでたのよ、あの部屋で。」 「はぁ〜?同棲してたってか?」 「そうよ。」 「そんな話し聞いてねぇーぞ!」 「当たり前でしょ?話してないもの。」 「じゃあ今、話せよ!」 「どうして?どうしてそんなに私の過去にばかりこだわるの?」 「こだわるのは当たり前だろうーが!  俺が居なかったこの10年間でお前がどんな奴と付き合ってきたのか  気になるのは自然の事じゃねぇーのかよ!?」 「話したくないって言ったら?」 「俺に知られちゃまずい事でもあんのかよ?  お前が話さねぇーんだったら徹底的に調べるからな!」 「プライバシーの侵害。」 「うるせぇーよ!グダグダ言ってねぇーでさっさと話せよ!  その男の事!」 「あの部屋で一年ほど同棲してた。以上よ。」 「その男に未練あんのか?」 あっ!それ!夕べも同じ事聞いた!! 「お前、その男とやり直したとか思ってんのか?」 「やり直す事なんて不可能よ。」 「どうして?」 「彼はもうこの世には居ないんだから・・」 「死んだのか?」 「うん・・」 「どうして?」 どうして・・? どうやって彼が死んだのかは知っている・・ だけどどうして彼が死ななければいけなかったのか・・ それは分からないまま・・ 彼と最後に会ったのはインドへと出発する彼を見送りに行った成田空港 嬉しそうに振り返り手を振っていた彼を今でも鮮明に覚えている・・ 彼がインドへと旅立って季節が三つほど過ぎた頃 日本ではお正月気分が終わり私の大学生活も後は卒業式を残すだけとなっていた1月の中旬 夜中、BGMがわりにつけていたテレビから流れてきたニュース・・ ネパールの山岳地帯で日本の山岳カメラマンがチャーターした車が崖下に転落し 多数の死傷者が出たとのニュースが流れた 何気なく聞いていたニュースの中に聞き覚えのある名前を見つけ テレビのボリュームを上げた ニュースのキャスターが読み上げた名前の中に彼の名前があった・・・ 信じられなかった・・ ただ呆然とテレビを眺めていた・・ 夢であって欲しいと思った 悪い夢を見ているんだと思った だけど翌朝、彼の友人からかかってきた電話で現実だという事を思い知らされた・・ 事故はネパールのかなり奥地で起こったため 遺体を首都のカトマンズに移送するのに手間取り 彼の遺体をはじめその事故で亡くなった人は全てカトマンズで火葬され 彼は長野から事故の連絡を受け駆けつけたご両親に抱かれて日本へと戻ってきた 長野の彼の実家で執り行われたお葬式に私も出席した 自分の目で確かめたかった・・ 彼がもうこの世にはいないという事を・・ もう私は本当に一人なんだという事を確かめたかった・・ また一人になってしまった・・ また一人取り残されてしまった・・ お葬式から帰宅した私の元へ彼から季節はずれのクリスマスカードが届いていた・・・ それ以降、私は誰とも本気で向き合っていない・・・ 「その男の事、本気だったのかよ?」 「大げさに結婚だとか考えてたわけじゃないけど好きだったわよ。」 「なんかムカつくな・・」 「どうして?」 「お前は俺のもんだからだよ!」 「私を物扱いしないでよね!  そういうあんたこそどうなのよ?」 「なにが?」 「この10年間、真剣にお付き合いした人いるんでしょ?」 「いねぇーよ!そんな奴!」 「嘘つき。」 「う、嘘なんてついてねぇーよ!?」 「じゃあどうして今どもったのよ?  あんた、私が何も知らないと思ってるみたいだけどF3にいろいろ聞いてるのよ。」 「クソー!あいつら!今度会ったらぶん殴ってやる!!」 「怒ることないでしょ。  別になんとも思ってないんだから。」 「それがムカつくんだよ!  お前、俺がどんな女と付き合ってたとか全く気になんねぇーのか?!」 「あんたと付き合える女の人ってどんな人なんだろうって興味はあるけど?」 「興味かよ・・そんなんじゃなくて嫉妬とかねぇーのかよ!?」 「無い。」 「即答すんな!俺は今、すっげぇー嫉妬してんだよ!  お前と同棲してた男・・ぶっ殺してやりてぇーぐらい妬いてんだよ!  まぁ・・もう死んでるからそれも出来ねぇーけど。」 「あんた・・それ笑えない・・」 「分かってるよ!俺だってお前を笑わせようと思って言ってんじゃねぇーよ!」 「怒鳴らないでよ!」 「怒鳴ってねぇーよ!!」 「ねぇ?どんな気持ちだった?」 「何が?」 「記憶が戻った時・・一番最初に何を思ったの?」 「お前に会いたいって思った・・」 「それだけ?」 「それから・・やっと夢の謎が解けたって思った。」 「夢の謎?」 「ずっと夢見てたんだよ。  夢の中に女が出てきて顔とかよく見えねぇーけど泣きながら  俺を呼んでんだよ・・それがお前だったって気付いた・・  だから今でもお前が俺の事忘れてなくて会いたがってるって思ったんだよ!」 「都合のいい夢ね。」 「待ってたんだろ?俺を?  だからこのネックレスだってずーっと大事に持ってたんだろ?」 「ネックレス?」 彼の手の中にはあの土星のネックレスが入ったケースが握られていた・・ 「あんたねぇ・・人の部屋を家捜しするの止めてよね!」 「俺の部屋でもあんだよ!」 「それはあんたの事、待ってたから持ってたわけじゃないわよ。」 「嘘つけ!だったらなんであんな大事に仕舞ってあったんだよ?」 「お金に困ったら質屋にでも持って行こうと思って取っておいただけよ。」 「可愛くねぇ女!」 「だったらとっととNYへ帰ったら?」 「俺がNYへ帰る時はお前も一緒だぞ!  首に縄つけてでも連れて行くからな!!」 「クスッ・・そんな事しなくても行ってあげるわよ。」 「・・えっ?!」 いきなりの展開に隣で道明寺が固まったまま私を凝視している 「プッ!へんな顔。」 「笑うな!で、マジか?」 「マジよ。NYへ一緒に行ってあげる。  だけど条件がある。」 「なんだ?」 「家具は私に選ばせて。」 「そんな事かよ。家具ぐらいお前にも選ばせてやるよ!」 「あんたやっぱり日本語が不自由だわ・・  私は"にも"じゃなくて私"に"って言ったのよ!」 「一緒に選べばいいじゃねぇーかよ?!」 「ヤーダ!」 「強情な女だな!」 「いいでしょ?NYへ行って一緒に暮してあげるって言ってんだから  それぐらい譲歩しなさいよ!」 「お前・・なんで急にNYへ行くのOKしたんだよ?」 「あんたはどうしてなの?」 「ん?」 「どうしていきなり現れてプロポーズしたわけ?」 「それは愛してるからだよ!  俺にはお前しか居ないからに決まってんだろーが!」 「ふん〜ん・・あんたは恋愛=結婚なんだ・・」 「お前は違うのかよ!?」 「違わなくないよ・・」 「訳分かんねぇーよ!回りくどい言い方すんな!!」 「私も結婚は心から愛してる人とじゃないとしない。  だからあんたと結婚はしない。」 「それって・・俺を愛してねぇーって事か?」 「そうよ。別に嫌いってわけじゃないけどあんた程の気持ちは無いもの。」 「じゃあどうして一緒にNYへ行くって言い出したんだよ?」 「どうしてだろうね?・・しいて言えば日本で目標って言うか働き甲斐みたいなのが  無くなっちゃったから・・かな?」 「どういう事だよ?」 「どっかの大金持ちのバカ男がいきなり社員食堂に花束持って現れたお陰で  部長には敬語使われるし、年に一度、顔を見ればいいところだった社長には料亭で接待されるし  周りの私に対する目があからさまで会社で居心地悪いし・・おまけにそのバカ男が私が後29年  コツコツ働いて返済しようと思ってたローンを勝手に払っちゃうし・・」 「お前、ちょっと待て!  なんかすっげぇー嫌味言われてるみてぇーだけど、  全部俺が悪いって言いてぇーのか?」 「あっ!通じた?良かった。」 「お前・・本当に分かってねぇーんだな?」 「私は十分すぎるぐらい分かってるけど?」 「分かってねぇーよ!お前の今の状態の方が異常なんだよ!」 「どこが異常なわけ?」 「俺とお前が離れてるって状況がそもそも異常だろーが!」 「やっぱあんた頭おかしいわ・・10年も離れてたのにいきなり現れたと思ったら  プロポーズするし人のローンを払って・・そんでもって私を異常だって言うんだもん・・」 「お前、さっきからローン、ローンってこだわってるけどそんなに自分で払いたかったのかよ?」 「当たり前でしょ!私の目標だったんだから!」 「ちっちぇー目標だな!」 「大きなお世話よ!  あんたみたいに無駄遣いばっかりしてる奴には分かんないわよ!」 「無駄遣いなんてしてねぇーぜ!」 「してるわよ!無駄遣いばっかりじゃないの!あんたが買ってきたあのソファーだって  100万超えてるしダイニングのテーブルセットの椅子が一脚で30万ってどんな金銭感覚してんのよ!?」 「普通だろ?むしろ安いぐれーだと思うけど?」 「高いわよ!ほんとあんたって無駄遣いばっかり!  そんなに無駄遣いしたいんだったら私がしてあげるわよ!!」 「お前が無駄遣い?やれるもんならやってみろよ!」 「自由の女神買ってやる!」 「あんな古くて汚ねぇーもん買うぐらいなら新しいもん造らせればいいだろ?  どうせならアレの2倍ぐらいの大きさで瞳のとこに宝石でも埋め込むか?」 「宇宙旅行してやる!」 「スペースシャトル買ってやるよ!」 「浮気したら殺してやる!」 「浮気なんかするかよ!俺はお前以外の女なんて興味ねぇーんだよ!」 「フカヒレ食べたい!」 「ジェット飛ばして香港でも行くか?」 「香港中のフカヒレ食べつくしてやる!」 「お前こそ他の男に色目なんて使うんじゃねぇーぞ!  浮ついた事したら監禁するからな!!」 「バレるようなヘマしないわよ!」 「その減らず口縫い付けてやろうか?」 「ボタンも付けられないのにあんたには無理よ。」 「可愛くねぇー女!」 「可愛い女が好みならキティでも飼えば?」 「向こうで犬でも飼うか?」 「生き物はあんた一人で十分よ。」 「犯すぞ!」 「で?いつNYへ帰るわけ?」 「このまま香港経由でNYへ直行だ!」 「荷造りも何にもしてないわよ!?」 「向こうで全部買い揃えればいいだろ?」 「勝手な事ばっかり言わないでよ!」 「お前、無駄遣いすんだろ?」 「カブト虫!!」 「なんだ?カブト虫って?」 「知らないほうがいいわよ。」          〜 Fin 〜
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