Both hands 2










ん〜肩が痛い…腰も…



硬い床の上で眠ってしまっていて目が覚めた途端、体中が痛い…



もっそりと起きだし時計を見るとまだ6時前



客室はシーンとしていてまだ大半の人は夢の中



そーっと抜け出し自販機でコーヒーを買ってデッキへと出る



人影のないデッキには海を割って進むフェリーのエンジン音と波の音だけ



う〜んと大きく伸びをして空に向かって両手をつき出す



本日も快晴



やわらかなブルーの空と見渡す限りの大海原



きもちいい〜



デッキに置かれていたイスに腰を下ろしコーヒーを飲みながらぼんやりと海を眺めていると



浮かんでくるのは司の顔だけで



考えているのは司の事だけ



時間的にまだNYには着いてないかなぁ〜とか



声が聞きたいなぁ〜とか



司も同じ事考えてくれてるのかなぁ〜とか



最近の私の悩みは全て司がらみで



どれも一人じゃ答えの出ないことばかり



八方塞で逃げ出すことなんて出来ない



まぁ〜逃げるつもりなんてないけど



せいぜい現実逃避が関の山…







結局、パパ達の新しい勤め先の社員寮についたのはその日の夜遅くになってから





社員寮も大半の人が休みを利用しての里帰りや旅行で残っていたのは数人だけ



その日は軽く挨拶を済ませただけでバタン・キュー



久し振りにパパとママに挟まれてお布団で寝る



なんかちょっと幸せ





翌日からは荷物を片付けるけど元々大した荷物なんて無いから



3人で取り掛かると半日で終わっちゃう



午後からは社員寮の仕事を始めたパパ達は何かと忙しそうだけど



私はまるっきりする事がない!



部屋で1人で居ても仕方がないと思い、近所のスーパーへと



散策がてらに夕飯のお買い物



初めての街に少しドキドキしながら駅前のスーパーを目指す



ゆっくりと歩きながら新しい風景を目に焼き付けるけど…だけど…寒い!



東京とは全く違う温度に南の島に行くはずだったから咄嗟に掴んだバッグの中身は全て夏物



寒いじゃないのよ!



なんて声に出してみたところで答えてくれる人は誰も居ない



スーパーの袋をぶら下げながら帰りは少し回り道



石造りの小さな橋…真中あたりで気がついた



幅は狭いけど川が流れていて、その両岸には七部咲きの桜並木が



川面を駆け抜ける風に揺れている



その光景にしばらく見惚れていた



聞こえてくるのは風に揺れる桜の花びらの音だけ



サワサワと私の耳を撫でていく





この桜、司にも見せてあげたいなぁ〜



なんて思いながら少し名残惜しいけど、また明日



お気に入りの散歩道が見つかったことの心のほんわかと



共に家路につく



あの桜並木を見つけてから3日、毎日通っている



1日1日と満開に近づいてくる桜を眺めながら



夕飯の献立を考えたり



時間に追われる事なくこんなにの〜んびり出来るのもいいもんだなぁ〜



なんて思ったり



すっかり浮上した心はスキップとまではいかないけれど



優しい気持ちで明日もお天気だったら少し足を伸ばして札幌に出てみよう



なんて考えている



せっかく来たんだから少しぐらい観光してみたい



明日は時計台に行って



大通公園に行って



クラーク博士の丘にのぼって…



クスッ…なんだか楽しい



私ってやっぱり単純なのかな?





今日は帰り道いつも曲がる角を2つ通り過ぎて寄り道



携帯電話を取りに行く



いつから電源が切れていたのか分らないけど今朝、気づいた時には



バッテリーが切れていた



充電器持ってきてないから近くでみつけた携帯SHOPで充電のお願い



携帯を受け取って買ってきた物を冷蔵庫へしまって



ほっと一息



マグカップ片手に携帯を開いて



目がテン…



なに?コレ??



着信20件

メールボックスは満杯

留守電メッセージなんて…



着信履歴はほとんどが司で1件だけ美作さん



メールだって司の名前がズラーッとその所々に美作さん、西門さん…花沢類まで…





何?何が起こってるの?



ためしに留守電を再生



司の声で



『つくし、何処だ?連絡しろ!』



な〜んだ、声は普通じゃん!



なんて少し安心しながら次を再生



『つくし!なにやってんだよ!電話しろ!』



ん?少し怒ってきちゃった…?



『つくし!何処だ?!なんで連絡してこねぇーんだよ!
 さっさと電話してこい!』



アレ…?



『つくし!俺だ、司だ。なぁ、何処にいんだよ?
 教えてくれ!!』



『つくし、頼むから帰ってきてくれ!
 俺が悪かったから。頼む!つくし。
 何時でもいいから電話してくれ!』



だんだんと緊迫してくる司の声、声、声…



アチャ…私、またやっちゃったの?



思わず携帯とにらめっこ



誰もいない部屋でアハハハとほっぺをポリポリ…



って、笑ってるばやいじゃない!



もしかして、ものすごーくやばい状況じゃないの?



いや…もしかしなくても…やばい…確実に



心に冷や汗…得意技の必殺、現実逃避も逃げ切れなくて一瞬で断念



諦めて次を再生



今度は美作さんの声で



『牧野!何処にいるんだ?早く帰ってこい!
 イヤ、早く帰ってきてくれ、頼む!俺達じゃもうダメだ!!』



何がダメなの・・?



考えたくないなぁ〜



どうしよう・・って、さっさと電話すればいいだけじゃない!



それで状況を説明して、今札幌にいる事を伝えればいいだけじゃない!



どうしたの?つくし!!がんばるのよ!!



自分にエールを送ってみるけど・・・



ボタンを押す指が微かに震えるのはなぜ?



ん〜〜〜



どうせすぐに東京に帰るんだからバッテリー切れを言い訳に



見なかった事に、聞かなかった事にしちゃおっかなぁ〜



なんておバカな発想、ブンブンと頭を振って



浮かんでは消え、浮かんでは・・・・





勝手に勘違いして、勝手に緊迫しちゃってるのは向こうなんだから



私は悪くないわよね?



なんて考えてもみるけど前科があるから半分は私も悪いかも・・・





とにかくこの状況を打破するには電話あるのみ・・・



大きく深呼吸



思いっきり息を吸い込んだ瞬間、携帯が鳴って



息を吐き出すのを忘れたまま電話に出ると聞こえてきたのは



美作さんの叫び声!!



「もしもし・・・?」



『牧野か?!』



「う、うん・・どうしたの?」



『どうしたのじゃねぇーよ!
 お前、今どこに居るんだよ?!』



「うん、あの・・札幌なんだけど・・
 ねぇ、そっちどうなってんの?」



『どうなってんのって・・お前はなんで札幌なんているんだよ?!
 さっさと帰ってこい!』



「うん・・帰るけど・・」



『けど、じゃねぇーよ!お前、まさか帰ってこないつもりじゃねぇーよな?』



「帰るわよ!で、司は?」



『今、一緒に居る・・・』



そこまで言ったところで電話の向こうからは



『ウワッーー司!止めろ!!』



・・・って・・・



「ちょ、ちょっと美作さん!何やってんのよ?!」



電話の向こうにいるはずの美作さんに叫ぶけど・・・



聞こえてきたのはガンガンと何かを破壊しているような音



「おーーい!美作さんーー!」



再度、呼びかける



今度は花沢類の声



『もしもし、牧野?』



「は、花沢類?どうなってんの?」



『牧野がいなくなったから司が暴れてる。
 今、司が牧野の部屋のドア壊してるところ。』



へっ・・・?ドア壊してる・・?



なに呑気に言ってんのよ!花沢類!!



「呑気に言ってないで止めてよ!!」



『ん〜止めてるよ、あきらと総二郎が。』



そう言ってるわりには電話の向こうからは叫び声と破壊音



「もしもし?花沢類?
 司に代わって、お願い早く!!」



『うん、分った。ちょっと待ってね。』



どこまでも呑気でマイペースな花沢類・・・



向こうでは花沢類が司を呼んでいる声がしている



破壊音が止んだと同時に今度は司の怒鳴り声



『つくし!何やってんだよ?!今どこだ?!』



「司?今何処だ!じゃないわよ!!あんたこそ何やってんのよ!?
 ドアどうしたのよ!?」



『あっー?どうもしてねぇーよ!』



ウソつくな!!壊しただろう!?



『オイ!つくし、聞いてんのか?お前、どこに居るんだ?』



「札幌だけど」



『札幌?何でそんなとこにいんだよ!』



「なんだっていいでしょ。とにかく2、3日したら帰るから
 それ以上、ドア壊さないで大人しく待ってて!」



『2、3日って・・待てるわけねぇーだろうが!
 今すぐ帰って来い!!』



「バカね、帰れるわけないでしょ。今ゴールデンウィークなのよ。
 飛行機だって列車だってどれも満杯でチケット取れないのよ!」



『・・分った。俺が迎えに行く。』



「来なくていいよ。又、仕事が入ったらどうすんのよ!
 あなた東京にいないと大変でしょ?」



『仕事は大丈夫だ!お前は余計な心配しなくていいから、
 それより早く住所教えろ!』



大丈夫だって・・何を根拠に・・?



今までだって大丈夫だったためしがないでしょ?



咽喉まで出かかった言葉をグッと飲み込み



「いいから、私もう少しパパ達と一緒にいるから。
 美作さん達だって忙しいんだからあんまり迷惑かけちゃだめだよ。」





「あっ・・それからドア直しといてよ!」



電話の向こうの司に言ったつもりだったのに・・



聞こえてきたのは今度は西門さんの声



『牧野、バカな事言ってねぇーで早く帰ってこい!
 俺らの迷惑考えてんだったら頼むから1秒でも早く帰ってきてくれ!
 俺ら3人ともここ2日ほとんど寝てねぇーんだぞ!
 いいから早く住所教えろ!!』



「えっ・・?寝てない・・の?」



西門さんがもの凄い早口で説明してくれたのは・・・



ほぼとんぼ返りで日本に戻ってきた司は帰国後、私のアパートに直行したが

その時、私はすでに札幌で・・・

いくら待っても帰ってこないし、携帯にもいっこうに出ない私に不安になった司が

F3を呼び出したのが午前3時、屋敷に戻ったもののお腹をすかせたライオンみたいに

イライラと歩き回る司を宥めつつ目を離すとすぐに国家権力使って探そうとするので

交代で見張っていたらしい。



司は仕事が忙しくロクにデートも出来ないし

今回だって直前で旅行が中止になってしまったから

私がとうとう愛想をつかせて何処かに行ってしまったと思ったらしい・・・



「で?司はどうしたの?」



話しをしている西門さんの向こうでは今まで騒がしかったのが

ウソのように静かになっている



『ジェット用意させてる。あきらなんてボロボロで座りこんじまってるぞ!
 類は・・っと、立ったまま寝てやがる ハァ〜』



「ご、ごめんね・・」



『悪いと思ってんなら、さっさと住所教えろ!』



「えっ・・あっ・・うん、ちょっと待ってね。」



西門さんの話を聞いてさすがにこれ以上は・・と思い



ここの住所を教えた



『・・分った。司がすぐに行くと思うから、いいか、そこから動くなよ!』



「う、うん・・」



嵐のような電話を終えて時計を見ると午後1時過ぎ



お昼ごはんだってまだ食べてない・・・



だけど、ほんの少し前までのフワフワ心が今度はソワソワ・・落ち着かない・・





用もないのにあっちこっち行ったり来たり・・



えーと、えっーと・・



来るって言ったってまだ時間はある



とりあえずお昼ごはん食べて落ち着こう!!



お昼ごはん食べてパパ達の夕飯の下ごしらえも済ませて



荷物をまとめていると司が来ることを知ったパパとママが慌てて着替えはじめた



ハァ〜



パパなんていっちょうらんのスーツ



ママなんて着物引っ張りだしてきちゃった・・・



なに考えてんだろう?うちの親は・・・



クラクラする頭とソワソワする心・・もう飛んでいっちゃいそう・・



落ち着かない気分を持て余しているとチャイムが鳴った



出ようとする私を押し退けて玄関へと飛んでいくママ



すぐに玄関からはママの普段よりも2オクターブぐらい高い声が響いてきた



”まぁあ、まぁ道明寺様。何もないところですが

 さ、さぁ、どうぞ、どうぞ”



なんて・・・ウキウキしちゃって



まるでママの恋人みたい・・



だけどリビングに入ってきた司の顔を見たとたん



パパもママもどうでもよくなっちゃって



存在すら忘れちゃって・・・



顔がにやけるのを止められない・・



私の顔を見た司は一言



「帰るぞ!」



だって・・・



そしてパパとママに向き直って



「お義父さん、お義母さん、突然お邪魔して申し訳ありません。
 つくしは連れて帰りますので。」






だって・・・



司は昔っから何故か家の親には愛想がいい



まぁ〜 家の両親は司を崇拝しちゃってるから愛想が良かろうと悪かろうと



大して問題じゃないんだけど



それにしたって・・・



司の言葉を聞いたパパとママは手を取り合って小躍りしちゃってるし、

ママなんて最上級の笑顔で



「どうぞ、どうぞ何処えでも連れてって、煮るなり焼くなり好きにして
 いただいて結構ですので。」



・・って





娘をなんだと思ってんのよ!!





一言ぐらい文句言ってやろうと振り向むこうとしたけど



さっさとママに背中を押されリビングから玄関へと追いやられてしまった。



「ちょ、ちょっとママ!!」





「はい、はい元気でね。
 また休みになったら遊びにいらっしゃい。
 じゃぁね。」






しっかり靴をはく時間さえ与えられず部屋から追い出された



なんなのよーー!



「なにアレ?」





「ハハハッ、お前のお袋さん相変わらずおもしれーな。」





「全然おもしろくないわよ!」



「まぁ、そんな怒んなよ。
 ほら、帰るぞ!」






そう言って笑いながら差し出された手を握る・・けど



「そうだ!あんた、ドアどうしたのよ?」





「あーあ、大丈夫だ。ちゃんと新しいのに変えさせといた」



サラッと言うな!



「ハァ〜」



聞こえるようにわざと大げさなタメ息



「なんだよ!お前が黙っていなくなるから悪いんだろーが!」



「なによ!あたしのせいだって言うわけ?」



「そうだよ!」



「あたしのどこは悪いのよ!
 早とちりしたあんたが悪いんでしょ!?」





「んだと!」



あ〜あ、やっぱり喧嘩が始まっちゃう・・



あーだ、こーだと言い合いしながら寮を出て目の前に止まっていたのはリムジン



何処に行ってもコレなのね?



ある意味、感心しちゃう



運転手さんが開けてくれたドアから司が私の背中を押して中へと促す



「あっ!」



「今度は何だよ?!」



「ねぇ、司!
 司に見せたい物があったの。」



「何だよ?」



「いいから着いて来て」



そう言ってさっさと歩き出す



「オイ!待てよ!」



すぐに追いついてきた彼と手を繋ぎながら歩く



私が彼に見せたかったものは・・・



あの桜並木・・・



「ねぇ、ここ。
 綺麗でしょ?」



「ああ、コレがどうしたんだ?」



もぅ〜感動の無い・・・



「だから綺麗でしょ?ねぇ、ちゃんと見てる?」



「見てるよ!」



「この桜ね、ここに着た次の日に散歩の途中で見つけたの。
 綺麗だから司と一緒に見たいなって思ってたの。」



「ふ〜ん・・俺はお前の方が綺麗だと思うけどな」



そう言って繋いでいた手に少し力が込められた





「//////」





「なに真っ赤になってんだよ!?バーカ!」



バカと言われたことにムカついて睨みつけるけど真っ赤な顔のままで



睨みつけたって全然効果なし



ニヤニヤした顔で正面の桜を見ている司を見上げる













満開の桜、風にあおられた花びらがヒラヒラ





司の肩に辿り着いた1枚の花びら





その花びらを手にとる





ねぇ司、桜の花びらってハートの形に似てると思わない?





ピンクの花びらが私にはピンクのハートに見えるの





ねぇ司、知ってる?





私の心ってこんな形なの





ピンクの桜の花びらいっぱい





もう何年も舞い続ける心の中の桜吹雪





咲き続け・ちり続け・舞い続けるピンクのハートが





風にあおられて辿り着く先はあなた





ねぇ司、気づいてる?





1枚2枚とあなたの元へと辿り着いたピンクのハートは





もうあなたの大っきな身体全体を埋め尽くしてるって





私の中の桜は色褪せることなく、枯れることなく





あなたに積もり続けるから・・





だから私の心が迷わないように風を送りつづけてよ





これが私の密かな願い・・・





〜fin〜







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<あとがき・言い訳・・>

まず・・ごめんなさい〜
先に謝っておきます・・
恐ろしく駄文のうえに自分でも何を書いてるのか
分らなくなってきてしまい、ものすごく尻すぼみ・・

何故タイトルがBoth hands(両手)←意味はあってると思います。
なのか?
今となっては私にも分りません・・
なんせこのお話し私にしては驚異的な速さで完成(?)
したお話しなんです。
ほぼ2日で完成・・勢いだけです・・ハイ・・
ゴールデンウィークというキーワードだけで書き始めてしまったので
下調べなんて皆無です。
多分北海道ではまだ桜咲いてないと思います。
その他、沢山の突っ込みどころはありますが、目をつぶってやってください。

最後になりましたが駄文にお付き合いくださりありがとうございました。

kirakira

























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