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総二郎はこの日バーで一人飲んでいた






カウンターの上に置いてある携帯が不意に振動を始めた・・






携帯を手にとりディスプレイに表示されている






着信相手を確認すると見覚えの無い番号が並んでいる









無視してしまおうかとも思ったが、




この携帯の番号を知っている人間は限られている






手の中で振動し続ける携帯の通話ボタンを押すと電話口から聞こえてきたのは





思いがけず懐かしい声・・・!











「・・に、西門さん?」








「・・・牧野!・・牧野か?」








「・・・うん。」









「お前、元気なのか?」









「・・うん、あのね・・」








牧野の様子がおかしい








「どうしたんだ?何かあったのか?」









「・・あのね、今、進から連絡があって、パパとママが
 事故にあって、病院に運ばれたって・・」










「・・・えっ!?」








「進が今一人なの、一人で病院に居るの、
 詳しい状況が何も分からなくて・・・お願い、西門さん!」









牧野の声は最後には叫び声に近くなっている








「分かった、俺がすぐに行ってやるから落ち着け!」








「お願い・・西門さん・・」









「分かったから、泣くな!
 で、どこの病院なんだ?」









「・・都内の○△×病院」











「分かった、俺が進に付いててやるから安心しろ!
 いいな!親父さん達だってきっと大した事ないはずだから!」









「・・うん・・ありがとう・・・」








「ところでお前は今、何処にいるんだ?」







「ニューヨーク。今、空港に向ってる。」









ニューヨーク・・!








あいつ・・ニューヨークにいたのか・・・











「わ、わかった、とにかく気をつけて帰ってこいよ。
 待ってるから。」










「ありがとう、西門さん。」









牧野との電話はそこで終わった







時計を見ると午後10時過ぎ








俺は急いで店を出ると大通りでタクシーを拾い病院へと向かう







車を呼んでいる時間がもったいなかった




一刻も早く病院へ・・・







病院へ着いた俺は夜間受付で牧野の両親の名前を告ると





受付の守衛が牧野の両親は確かにここに運ばれてきていると教えてくれた







だが、牧野両親は現在、手術中とのことだった








とりあえずエレベーターで手術室のあるフロアーに向かう







人気の無い廊下を歩き手術室の手前までくると、





ベンチにかすかに見覚えのある人影が目に入った










「進!」










俺の声にベンチに座っていた人影が跳ねた






駆け寄ると少し大人っぽくなった牧野の弟









「進!大丈夫か?」








「・・・に、にしかど・・さん?
 ど、どうして・・ここに?」











「姉ちゃんから電話貰ったんだ。
 お前が心配だから様子見てきてくれって。」












「姉ちゃんが・・・?」










「ああ、姉ちゃん、すぐに帰ってくるって言ってたぞ。
 親父さん達の状態はどうなんだ?」












「分からないんです。僕が来た時はもう手術室に入ってて、
 誰に聞いても何も教えてくれないんです!」








「そうか・・・大丈夫だ。
 親父さん達はすぐに出てくるよ。」











「・・はい・・」










「俺、取りあえず姉ちゃんに電話してくるけど、
 お前一人で大丈夫か?」










「・・はい、大丈夫です。
 あの・・西門さんはずっと姉ちゃんと連絡取ってたんですか?」










「いいや、2年半ぶりに話した。」









「そうですか・・・」









「じゃぁ、俺は電話してくるから。」









「はい。」











一旦、病院の外へ出てから先程、牧野が掛けてきた時に表示されていた





ナンバーにリダイヤルしてみると






牧野はすぐに電話に出た










「西門さん?」









「ああ、今病院に着いた。」








「パパとママは?」









「今、手術中で進も詳しい事は分からないって。」








「手術中なの・・?」








「ああ・・とにかく今はまだ分からないから、お前は一刻も早く帰って来い。
 いいな、進には俺がついてるから、しっかりしろよ!」








「・・分かった・・ありがとう・・」









「それじゃぁな、一旦切るぞ!」








「・・うん・・」









電話を切って再び進の所へ戻ると警官が来ていた








警察の説明した事故の概要は、







夫婦で仕事帰りに先頭で信号待ちしていた交差点で




居眠り運転のトラックに追突され、





そのはずみで牧野の両親の乗っていた車が




交差点の中央付近まで弾き出されてしまい、




そこへ運悪く横から来た乗用車に激突され車は大破した。





両親共に病院に運ばれた時点でかなりの重傷だったらしい











警察の説明を進はうつむき唇をかみ締めじっと聞いていた








説明を終えると警官はすぐに引き上げていった








俺は長い時間、ずっと進の膝で握り締められていた







手を握っていることしか出来なかった










時折、手術室のドアが開き人が出入りを繰り返して








いるがその誰に聞いても”今、処置中です。”としか返ってこなかった・・

















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