火葬場からパパとママと抱いて戻ると 最初に追突したトラックの会社の社長が弁護士さんを伴って訪れた 初対面でいきなり弁護士さんを連れ謝罪の言葉もそこそこに 彼らが切り出したのは賠償と自分達の保身の為の言い訳ばかり・・・・ 謝罪なんていらないから・・・ パパとママを返して! 叫びだしそうになるのをなんとか堪えている・・ 腹が立つほど冷静に話す弁護士さんにイライラが募る 西門さんが一緒にいてくれてよかった 私だけだったらきっと対処できなかった 言い訳ばかりを繰り返す社長を西門さんが 私のかわりに怒鳴って追い返してくれた 西門さんに怒鳴られてびっくりした顔で社長は弁護士さんと共に 今日のところはこの辺で・・と言って引き上げて行った 西門さんに怒鳴られた彼らの顔は引きつっていたように見えた・・ 「悪りぃ、牧野。」 「ううん、ありがとう。」 その後は西門さんが紹介してくれた弁護士さんが全ての交渉を引き受けてくれた あっという間に2ヶ月が過ぎた・・・ この2ヶ月間、西門さんは時間の許すかぎり私達と一緒に過ごしてくれている ずっと食欲のない私を彼が心配してくれているのは分かっていた 「よお!」 「いらっしゃい。」 「ほら、これ。」 そう言って私に差し出したのは最近はやりのケーキ屋さんのケーキ 西門さんとケーキ・・・ 意外な組み合わせに笑みが零れる 「ありがとう。」 インスタントだけどコーヒーを淹れ二人でケーキを食べ始める 進はまだ学校から帰ってきていない 一口食べてみる 「う〜ん。おいしい。」 彼も私に付き合ってケーキを食べている 甘いものなんて苦手なのに食欲の無い私に合わせて無理してくれているのが分かる・・ 「ねぇ?これって西門さんが買ってきてくれたの?」 「当たり前だろ。この店、滋が上手いって言ってたんだ。」 「そうなの。ありがとう。」 「おう。どういたしまして。」 しばらく二人で他愛ない話をしていたが 「お前、これからどうするんだ?」 「う〜ん、日本に帰ってくるしかないかなぁって思ってる。」 「大学どうするんだ?」 「残念だけど諦めるしかないわよね。  進を一人にするわけいかないし。」 「そうだけど、賠償金もあるし何とかなるだろう。」 「そうだね・・お金の心配は無くなったけど・・なんだか使う気にならなくて・・・」 「そうか・・でも進は大学どうするんだ?」 「う〜ん、まだ話してないけど、今回の事が無かったら  国立を受験するつもりだったみたいだけど、でもね・・・  あの子も受験勉強どころじゃないと思うの。」 「そうだな。なぁ・・進もアメリカに連れて行くっていうのはムリなのか?」 「・・どうだろう?  ムリじゃないとは思うんだけど・・・」 「そうすればお前も大学辞めなくても済むだろう?」 「・・そうだね。」 そんな会話をしている時、私の携帯が鳴った 相手はライズ会長の奥様からだった 奥様は私に付き添ってしばらく日本に 滞在してくださっていたが やはりいつまでも日本に居るわけにもいかず 2週間でアメリカに戻られていた 「Hello!」 「Hello!つくし?」 「はい、そうです。  奥様、先日はありがとうございました。」 「いいのよ、困った時はお互い様でしょ。  ところでつくし、私ね今日本にいるのよ。  進君も一緒にディナーにご招待しようと思って連絡したんだけど。  時間あるかしら?それからもしよければ西門さんもご一緒に、どう?」 「あっ・・・はい。私と進は大丈夫です。  今、西門さんと一緒なんで聞いてみますね。」 電話口を手で軽く押さえながら牧野が俺に 「ねぇ、奥様が今、日本にいらしててディナーご一緒しませんか?って。」 「俺はOK。」 「そう、じゃぁそう伝えるね。」 奥様とリッツのロビーで7時に待ち合わせの約束をして電話を終えた 「ライズ婦人、日本に来てたんだな。」 「今日、着いたんだって。」 「そうか。」 「7時だったらまだ時間あるわね。進ももう帰ってくる頃だし。  何、着て行こうかな〜」 やっと少し笑顔が戻ってきたな。 いい傾向だ 俺は何度かあきら達に連絡をしようと思ったが 類は今、パリの大学へ留学しているし あきらも父親の会社で仕事を手伝い始めていてそれぞれ忙しい身だった それに牧野自身が誰にも会いたくないと言っていたので誰にも連絡していない 司の記憶はまだ戻っていない 結局、海とか言う女とは司がNYに行って半年ももたなかったらしい 今の司は心に拭いきれないモヤモヤを抱えながらその正体には気付いていない 以前は女なんてと言っていたあいつも結構遊んでいるらしい 牧野は司の事は何も言わない けど、まだ司への想いが変わっていないことは分かる 楽しそうにタンスを開けているつくしを総二郎は笑顔で見つめていた 進が学校から帰ってきたが つくしはまだタンスの前で洋服を選んでいる そんなつくしの後ろ姿を見ながら総二郎は立ち上がり つくしの後ろから腕を伸ばしタンスを閉めた 「ちょ、ちょっと西門さん!どうして閉めちゃうのよ!」 「出かけるぞ!」 「だから、今着ていく洋服選んでるんでしょ。」 「そのままでいいから、行くぞ!  進、お前もついて来い!」 そう言って彼は私の腕を引っ張って部屋を出た そのまま車に乗り込みドライバーさんに行き先を告げる 私は全くわけが分からず彼の端正な横顔を眺めていただけだった 彼が私と進を連れてきたのは誰でも知っている 有名ブランドショップだった 店に入るとVIPルームに通される 「好きなの選んでこい!」 「・・・へっ!?」 「早くしろよ、時間ないぞ。  進、お前はこっちだ。」 それだけ言うと西門さんは進むを連れて男性用ブースへと消えて行ってしまった 一人取り残されてしまった私・・ どうしよう・・・? 好きなの選べって言われても分かんないよ・・・!? どうしたらいいのか分からずに途方に暮れていると お店の人が声を掛けてくれた 彼女のアドバイスを聞きながら何とかワンピースを選び その他にもミュールにアクセサリーにバッグまで・・・ どうすんのよ!?こんなに沢山・・・ 選んだワンピースに着替え、ヘアーメイクもしてもらい 試着室を出ると西門さんも進もスーツに着替えて待っていた 「プッ・・・!」 進のスーツ姿・・・七五三みたいで笑っちゃう 西門さんが私の前に立ち上から下までを眺めている・・・ 「まぁ〜胸はないけど、こんなもんだろう。」 胸はないけどこんなもんだろう・・・? 彼の言葉が頭の中でリフレインしている・・・ 確かに胸は無いけど・・そんなにはっきり言う必要ないでしょ! ムカついた! 一発ケリを入れてやる!! 「いてぇーな!  お前、すぐに手や足が出るそのクセ直したほうがいいぞ。  それがなけりゃぁ、まぁお嬢様に見えなくもない!」 「もう一発殴られたい?」 「そんな怒るなよ!そろそろ行かないと遅刻するぞ!」 「えっ!」 そう言われて慌てて時計を見ると6時になろうとしている。 「うそ!もうこんな時間、急がなきゃ!  奥様をお待たせするわけにはいかないもの!」 待ち合わせのロビーに10分程前に到着した ←BACK/NEXT→
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