その日三人でカンクンから車で3時間程の距離にある世界遺産にも
登録されているチチェン・イツァー遺跡へと出かけていた




総二郎は遺跡の見学など行かずにプールサイドで一日のんびりと過ごしたかったのだが、
じっとしている事を知らないつくしのおかげで朝早くから道連れにされていた・・




炎天下の中、一日中ひっぱり回されホテルに
帰りついたのは夜8時過ぎ・・・




自分達で車を運転して行かなければよかった・・



おかげで帰りはつくしの運転する車に初めて乗るはめにはってしまい、
数時間生きた心地がしなかった・・・



それもこれも類のせいだ!




昨夜、三人で夕食を食べている時につくしがホテルのロビーで
見つけた遺跡のパンフレットにすっかり心を奪われてしまい、
行きたいと言い始めた




俺はそんな所へ行きたくないと主張したが、行きたいと言うつくしに
類があっさりOKしてしまい一人でホテルに居てもと思い
しぶしぶ付き合ったのだが、やっぱり行かなければよかった・・・




自分で運転して行きたいと言い始めたつくしの為に
ライズ会長は真っ赤なBMWを用意していた


レンタカーだと思っていたがどうやら違うらしい、
会長はわざわざつくしの為にNYでいつも
運転しなれている車を買ってしまったのだ・・


当然SPは別の車で着いてきている・・
前後をSPの乗る車にはさまれながら、行きは俺が運転し、
助手席にはつくしが乗り後部座席では類が夢の中だった


チチェン・イツァー遺跡とはユカタン半島でも
最大の観光ポイントの一つで、
ジャングルの中に点在するマヤ文明の遺跡群の事だ
遺跡は3キロ四方の広い範囲に数百もの建造物が点在していて、
その中で修復されて一般に公開されているのは30基ほどだが、
遺跡の中を旧国道が走っていて南部の旧チチェンと北部の新チチェンに
分かれており炎天下の中を歩きまわらなければならない


旧チチェンと新チチェンはそれぞれ栄えた年代が異なり、
旧チチェンは6世紀頃からの古典的なマヤの建造物群で新チチェンは10世紀の
トルテカ族の侵入以後のものでトルテカ系民族とマヤ古来の文明が混ざり合った
トルテカ・マヤ様式の建造物群が残されている


その中でも見所は旧チチェンのカラコルをはじめ、高僧の墳墓、尼僧院などで、
新チチェンにはククルカン(羽毛の蛇)の神殿とも呼ばれているエル・カスティージョ、
戦士の神殿、ジャガーの神殿などがある




チチェン・イツァーの遺跡群を見て回るには最低でも丸一日掛かってしまう



ジャングルの中と言っても日差しを遮る物の無い中を
一日中連れまわされ俺も類もクタクタだった




帰りは俺達以上に歩き回っていたくせに全然疲れていない
つくしが運転すると言い始め
これも又、類があっさりとOKを出してしまい、
疲れて反論する気力も無かった俺は勢いに負けて
助手席に乗ることになってしまった





車が動き出してすぐ、激しく後悔したのは言うまでもない・・・





2時間ずっーとつくしの運転にドキドキしながら
教習所の教官のようにつくしの横で神経を集中させていた





余計疲れた・・これなら無理にでも自分が運転すればよかった・・・





俺が横でずっとつくしの運転にあれやこれや指示を出していたので、
ホテルに帰りついた頃にはつくしの機嫌はかなり悪くなっていたが、
今はつくしの機嫌よりも自分の命の方が大切だ





類は帰りもずっと寝ていた・・



信じらんねぇー よく寝てられるよな!




どういう神経してんだ?






ホテルに帰り着いて類は眠いの一言でさっさと部屋へと戻っていった


残されたのは俺とつくしの二人




「どうする?」



「う〜ん、とりあえず咽渇いちゃった。」




「メシ食いに行く前に一杯飲むか?」



「うん。」





二人でロビーにあるバーに入り、カウンターに並んで飲み始める





注文したワインが出てきて、総二郎と軽く乾杯を
してグラスに口をつけていると彼が私を見ているのに気付いた



「何よ?」




「ん・・お前、ちょっと・・」





そう言うと彼は私の着ているTシャツの首元を引っ張ってきた




「ちょ、ちょっと、総二郎 何すんのよ!バカ!スケベ!」




「ちげーよ バカ!何勘違いしてんだよ。」




「じゃぁ 何よ!」




「日焼けだよ!日焼け。」




「えっ!そんなに焼けてる?」





慌てて自分でも確認してみると



う゛〜・・・



結構焼けてる・・・




「だから言っただろ!ちゃんと日焼け止め塗れって。」




「塗ってたよ。」



「あーあ、シミになるな!お前ももう歳なんだから
ちょっとは気をつけろよな!」



「・・歳って言うのは余計でしょ・・失礼ね!」



「失礼じゃねぇよ。
明日、エステ行ってこいよ!」



「えーー 明日はイルカと一緒に泳ぎに行くの。」




「バカか?イルカよりシミだよ。シミ!
いいか明後日は結婚式なんだぞ、明日は大人しくエステに行って来い。」



「え〜〜っ〜」




「エ〜じゃねぇよ!」
「それにな、俺は今日一日お前に付き合って疲れたの。
だから明日はプールサイドで一日ゆっくりするんだよ。」




「・・じゃぁ 買い物付き合ってよ。」



「ヤダね。ゆっくりするって言っただろ。
俺の話聞いてんのか?」




「いいもん、じゃぁ類に頼むから。」



「ムリだな。類は明日は一日ベッドから出てこねぇ!」



「うっ・・・・」



「諦めて明日はエステに行って大人しくしていろ!
それになたまの休みなんだからちょっとはのんびり出来ないのか?」




「たまの休みだから目一杯遊びたいんでしょ!」
「ねぇ 総二郎、お願い。」



ウ゛ッ・・・
こいつ、今、自分がどんな顔してるか分かってんのか?




上目使いで大きな瞳を少し潤ませて俺の顔を見上げている・・・




俺はこいつのこの顔に弱いんだよ!
自分でもなんで?って思う。
俺はこんなキャラじゃなかったハズなのに・・・




「・・・わ、分かったよ。少しだけだぞ。」




「やったー!」




満面の笑みを俺に向けている・・




俺が買い物に付き合ってやるって言ったのがそんなにうれしかったのか、
笑顔のままで指折り数えてお土産を買って帰る人を数えている




そんな彼女の笑顔を見ている俺も自然に笑顔になっていたらしい




ふいに彼女と目が合った・・



俺の顔を見ている彼女の顔にも笑顔・・・・



「なんだ?」


「うん、総二郎の笑顔っていいよね。」



そう言ってもう一度俺に微笑んだ



ウッ・・・




つくしの笑顔に思わず理性がぶっ飛びそうになる・・




ダメだ・・今ここでキスなんてしたら、こいつの事だから意識しまくって後がやりにくくて仕方がない・・
それにこいつの心の中にいるのは俺じゃない、類でもない・・司一人なのだから。
それが分かっているから手を出せない・・



わずかに残っている理性を総動員してなんとか自分を押しとどめる。



彼女の横顔を見ながら激しい衝動と戦っていると俺の視線に気付いたつくしがこちらを見た



思いっきり至近距離でしかも真正面でバッチリと目が合ってしまった



つくしはじーっと俺を見つめている、その瞳にまるで考えを見透かされているようで、
動揺して自分の視線が泳いでいるのが分かる・・




「どうしたの?」



恥ずかしい・・・



自分の動揺をごまかす為に軽くつくしの口唇に自分の口唇を軽く重ねた



結局、俺は衝動に勝てなかった・・・



「//////」



ふいうちのキスにつくしは顔だけじゃなく耳まで真っ赤にして口を押えて固まっている




俺は・・・俺だってすっげぇー照れてるよ・・



照れ隠しのためにわざと軽い口調で



「何、キスぐらいで真っ赤になってんだよ!」



「☆■//な、なんなのよ!!」
「そ、総二郎だって真っ赤じゃない!人の事言えないでしょ!バカ!」



からかうような俺の口調に怒って彼女は前を向いてしまった



「お、おれが・・そんなわけないだろう!」



そうは言ったけど・・・俺も今、真っ赤だろう・・


自分でも分かる・・顔がやけに熱い・・



気まずさから俺も前を向いて再びグラスに口をつけた・・

















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