テーブルに着く直前につくしが司に



"久しぶり"




と声を掛けたのだが・・・





司は目も合わせずに





"ああ"





と短く答えただけだった・・






約8年ぶりに言葉を交わした二人だった・・






たった一言の会話・・






つくしは一体どんな気持ちだったのだろうか・・?








俺達が牧野と一緒だった事に司がイラついているのが分かる






まぁ、暴言を吐かなかっただけましだろう





全員が席についてすぐマットが話し始めたので二人は



それ以上の言葉を交わす事は無かった・・








「おい!総二郎、紹介しろよ!」







「ああ、分かった。」








つくしの今の状況は本人が話すだろうから



俺からは説明はしなかった






一通りの紹介を終えた頃、料理が運ばれてきた






食事をしながら話をしているのは滋と桜子につくしと




何故か女たちの輪に入っているマット








マットは日本語が話せる・・というかペラペラだ!




普段の態度からは想像つかないがやはりこいつも根っからの




お坊ちゃまだという事が分かる・・





ガキの頃からの英才教育でマットは母国語である英語の他に



日本語・スペイン語・フランス語・ドイツ語と



見かけによらず語学の天才なのだ・・・




まぁ〜 その才能も一番発揮されるのは女を口説く時なのだが・・・






普段から口数の少ない類とエドは黙って四人の会話に耳を傾けている






司は興味なさそうにビールを飲んでいるだけだった







俺とあきらも特に会話は無く楽しそうに話している




女達の会話を聞いていた








しばらくは穏やかに話をしていたが、つくしとつくしの前に




座っているマットとの間でいつもの口ゲンカが始まった







きっかけはマットが滋と桜子を口説き始めた事だった・・



・・ったく、よく滋と桜子を口説こうなんて思うよな?




怖いもの知らずと言うか・・




何も知らないって言うのは怖い・・







「ちょっと、マット!私の友達に手出すんじゃないわよ!」







「うるせぇーよ!
 俺の“運命の女”かも知れねぇんだから邪魔すんな!」







「そんなわけないでしょ!
 バッカじゃないの?」






「滋さん、桜子、この男には気をつけてね!
 本能だけで動いてる野生動物だから!」







「・・お前なぁー!野生動物って何だよ!
 仮にも俺はパートナーなんだぞ、もう少し敬えよな!」






「だからいつも言ってるでしょ、パートナーだったら
 いつでも解消してあげるって。私があんたと一緒に
 居てあげてるのはあんたみたいなの一人にすると
 ロクな事がないからでしょ!
 言ってみれば慈善行為よね。社会の為よ。感謝しなさい!」







「しゃ、社会の為って・・・どういう意味だよ!
 お前こそいっつも何かある度にパートナー解消するって言ってるけど
 一度だってしたためしがねぇだろ!何だかんだ言ったってお前は俺から
 離れられないんだよ。いい加減認めろよ。
 俺とお前は一心同体なんだよ!」







「ちょ、ちょっと待った!一心同体ってどういう意味よ!
 何バカな事言ってんの?信じらんない!!」







一心同体と言う言葉に動揺したつくしを見てマットは



自分が優位に立てたと思ったのか口角だけを上げて笑っている




俺の前に座っているあきらが二人の口ゲンカに驚いている








「おい、総二郎、あれ何だ?」







そりゃーそうだ、あの二人の言い争いを初めて見る奴は



大抵驚いて同じ反応をする








「アレか?面白いだろ?いつもの事だ。あの二人があれやり始めると
 しばらく誰も口を挟めない。まぁ、その内終わるから見ててみろよ。」






二人はまだやっている・・







「だって本当の事だろ?パートナーなんだから。」







「だからバカだって言うのよ!百歩譲って一心って言うのは
 許してあげてもいいわよ、けどねどうしてあんたと私が同体なのよ!?」








「ふ〜ん、ケイトちゃんは同体ってところに引っ掛かったんだ?
 いいぜ、俺はいつだって相手してやるぜ。」






「だ、誰があんたなんかと・・・って・・バカ!
 いつもあんたが相手してる胸がデカイだけで頭ん中
 からっぽの女と一緒にしないでよね!」







「それは胸の無い女のひがみだろ。」





「本当ムカつく!あんたとは二度と口きかない!」








やっと終わったようだ・・



この二人の喧嘩は基本的に意味は無い・・



それどころか勝ち負けも無い・・



ようするにジャレ合っているだけなのだ・・







「先輩、終わりましたか?」






「・・あっ・・ごめん・・」






「いいですよ、面白かったですから。」






「うっ・・・桜子・・それって嫌味?」







「違いますよ、本当に面白かったんですよ。
 ねぇ 滋さん。」







「うん、面白かったよ〜、つくし〜」






滋が目をキラキラさせて二人を眺めている・・







「もう!滋さんまで・・」







今の今まで私と喧嘩をしていたマットが急にそわそわし始めた・・






理由は分かっている・・





今さっきレストランに入ってきた二人組み・・






ったく・・もう!





この男は・・油断も隙もない・・






でもこのまま目の前で心ここにあらずの状態で座ってられるのは目障りだ






「マット、行ってもいいわよ。」






「おう。じゃぁ、また後でな!」






そう言うなりそそくさとテラス席に座っている女性の元へと歩きだした







様子を見守っているとまんまと女性達の


テーブルに座る事に成功したマットが満面の笑みを浮かべながら



大げさな身振り手振りで話をしている







「あいつは病気だな?」






「そうね、でも最近特にヒドクなってない?」







「そうだな。こっちに来てからも休む暇なくやってるぞ。
 何かあったのか?」








その問いに答えたのはエドだった






「こないだマット、お見合いさせられたんだよ。」





「お見合い・・?」







「そう、先月パーティーがあっただろ?
 ケイトも招待されてたやつ。」







「あ〜あ、あのなんとかのチャリティーって言ってたやつ?」







「そうだよ、あの日マットは母に女性を紹介されたんだ。
 だまし討ちみたいにお見合いさせられてかなり頭に
 きたてみたいだったからね。それでじゃないかな?」






「ねぇ、もしかしてその人ってヘインズ家のお嬢様じゃない?」







「そうだけど。
 マーガレット・ヘインズって言って歳は22歳、
 まだ大学生だったと思うけど。ケイト知ってるの?」






「う、うん・・この前、オフィスに来てたと思うんだけど・?
 珍しくマットが女の人に本気で怒ってたから覚えてるんだけど・・」
「あの感じじゃぁ・・彼女の方がマットの事気に入ってる
 みたいだったけど・・?」








「そうみたいだよ。
 お見合いだって彼女の希望だったみたいだし。」







「ふ〜ん、だからなのね。
 あのバカ、追いかけられるのって嫌いだから。
 それで逃げ回ってたのね。これでここ2週間ほどのマットの
 行動の理由が分かったわ。」







「あいつ、付きまとわれてんのか?」







「う〜ん、詳しい事は聞いてないけど。
 ここ2週間ほどはあのバカ毎晩家に帰って来てたのよね。」







「毎晩・・?」







「そう、だからおかしいなぁ〜って思ってたけど、
 マットに聞いても何も答えないし。」
「でもね、さすがに朝起きたらマットが居るっていうのには慣れたけど、
 仕事から帰ったら居るっていうのには驚くわよ。」







「あいつ、全然自分の部屋に帰ってないのか?」






「多分ね。」





「どうしてだ?
 ストーカーでもされてんのか?」








「でも、オフィスにはちゃんと来てるからそれは無いんじゃない?」
「それに、ストーカーなんかされてるんだったら、
 うちには来ないでしょ?」







「ねぇ、つくし〜 マットってつくしの彼氏なの?」








「違うよ。」







「じゃぁ どうして一緒に住んでるの?」







「う〜ん、一緒に住んでるわけじゃないの。
「マットって同時進行してる女性がいたりするから
 夜中に急に自分の部屋に帰れなくなったりした時に
 私の部屋に泊まってるだけなの。
 私は夜中に寝てる所を起こされるがムカつくから
 合鍵渡してあるだけだよ。」








「ふ〜ん、そうなんだ。
 でも、つくしとマットって仲がいいんだね?」






「・・仲がいい・・?どうだろう・・?
 確かに学生の頃から一緒にいるけど・・
 よく分かんない・・」








「先輩はよく分からない人と一緒にいるんですか?」





「・・えっ・・あっ、でも悪い奴じゃないわよ。
 変な事もしないし。」







「なぁ牧野?お前今付き合ってる奴いるのか?」





「今はいないよ。」








「なぁつくし?お前に男が出来ないのは
 マットと一緒に居るからなんじゃないのか?」








「あっ、総二郎もそう思う?
 私も最近そうじゃないかなぁ〜って
 思い始めてたとこなの。やっぱりあいつだね私の足引っ張ってるのは。」








「鈍感なのは変わってないのか?」







「美作さんって相変わらず失礼よね!」








「お前が鈍感なのが悪いんだろ。」








「ウッ・・これでも大分マシになったと思ってるんだけど・・」







「先輩、全然変わってませんよ。」







「桜子・・あんたまで・・」






「で、先輩!食事も終わりましたけど、この後どうするんですか?」






「ん〜 総二郎と買い物に行く予定になってたけど。」





「じゃぁ 私達も買い物行く〜」
「つくし〜 一緒に行こう!」







「うん、いいよ。」






「じゃぁ 俺は行かなくていいだろ?
 お前ら三人で行ってこいよ。俺はプールサイドでのんびりしてるから。」








「ねぇ総二郎?あんな所でのんびりしてたら
 干からびておじいちゃんになっちゃうわよ!?」








「いいんだよ。いい加減、俺を解放してくれ!」






「何よその言い方!まるで私が振り回してるみたいじゃない!
 人聞きの悪い言い方しないでよね!」








「そうだろうが!昨日だって・・・あー!もう、いい!
 とにかくお前ら三人で行って来いよ!」








「・・・分かったわよ。」







食事も終わりエドが部屋で休むと言って席を立った、



それを合図に進とモニカも式の最終的な打ち合わせの為に行ってしまった





テーブルには懐かしいメンバーだけが残った




どうやら女達の午後からの予定が決まったらしい




とにかく俺は滋たちから解放されるわけだな





それにしてもさっきから隣に座っている司が


かなりイラ立っているのが分かる・・






だが、そんな事よりも今は久しぶりに会った牧野の方が気になる・・・






俺はずっと疑問に思っている事がある






「なぁ牧野?さっきからお前の事ケイトって呼んでるけどどうしてだ?」







「あ〜 そうだね。話せば長くなるけど・・・」








「いい加減にしろよな!お前ら一体いつまでこんな女と
 一緒に居るつもりなんだよ!長くなるんだったらお前らだけで話せ!」








司の言葉でその場の空気が一気に固まった





だがその空気を壊したのは牧野本人だった








「相変わらずなんだね?」
「ねぇ滋さん?買い物行くのに着替えるでしょ?
 私、着替えてくるからロビーで待っててくれる?」








「・・う、うん、分かった。」







「じゃぁ ロビーで。
 総二郎、後はお願いね!」






「・・ああ・・」







俺達が何か口を開く前に牧野は席を立ってしまった





牧野は総二郎と類が司とケンカするのを避けるために



ワザと軽い口調で言ったのだろう・・・







二人とも黙ってはいるが怒っているのは一目瞭然だから







類も牧野を追いかけるように何も言わずに席を立ってしまった




滋と桜子も着替えてくると言って部屋へと戻っていった





総二郎もプールサイドにいると一言残して行ってしまった・・





その場に残ったのは俺と司だけ・・







「あきら?あいつ何なんだ?」







「はぁ?何が?」





俺も司のさっきの発言にはハラが立っていた




ついついキツイ口調になってしまう・・







「あいつ、俺の何なんだ?」







こいつ、いきなり何言ってんだ・・?






「お前はどう思うんだよ?」






「分かんねぇよ!分かんねぇから聞いてんだろうが!」






「そうか・・でもお前が分かんねぇもん、俺に分かるわけねぇだろ?」





「お前ら、あの頃俺とあいつが付き合ってるって言ってたよな?」







「・・お、お前、今さら何言ってんだ?」







「どうなんだよ!?」









「だから何で今さらそんな事聞くんだって言ってんだよ!
 先に俺の質問に答えろよ!!」








「分かんねぇんだよ!けどあいつの顔見てたら何かイラつくんだよ!
 何だか分かんねぇけど、ずっと胸の奥にあったモヤモヤがあいつの
 顔見たとたんに甦ってきたんだよ!!」









・・司・・お前・・






「・・・そうか。けどなもう考えるな。
 今さら何も思い出すな。お前はそのままでいろ。
 それから見合いでも何でもしてさっさと結婚しろ!」






「何だよソレ!お前こそ俺の質問に答えろ!」






「答えただろ。今のが俺の答えだよ!
 とにかく今さらお前が何思い出したところで手遅れなんだよ!!」








苛立ち紛れにはき捨てるように言うと



カップに残っていた冷めたコーヒーを一気に飲み干し、



プールサイドに居ると言い残し俺も席を立った







なぁ司・・





今さらなんだよ・・・




もう、遅いんだ・・





もう8年も経ってるんだよ・・


















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