俺は総二郎の後を追ってプールサイドへと出た




遮る物の無い、午後の陽射しはさすがにキツイ





総二郎はプールサイドに並べられたデッキチェアーの一つに

腕を頭の下に入れ寝そべっていた





「よお!」





軽く声を掛けて奴の隣のデッキチェアーに腰を下ろす






「ああ・・」





総二郎は不機嫌そうに視線を少し向けただけ






「お前、いつから牧野と一緒なんだ?!」







「そんな顔で睨むなよ!ちゃんと話すよ。」






総二郎はデッキチェアーの上で上体を起こし膝を立てて

腕を膝の上に置き、視線は遠くに向けたままで話始めた






今までの不機嫌さがウソみたいにゆっくりと時間を遡る事を

楽しむように目を細めている





長い付き合いの総二郎にこんな表情が出来るなんて

俺はこの時初めて知った







「司がNYに行った日、あいつも日本を離れただろ?」







「ああ。」







「俺、知ってたんだ。
 あいつが留学する事。」







「お前、連絡とってたのか?」






「いいや。前の日に優紀ちゃんから電話があって教えてくれたんだ。
 けど、あいつは一人で行くから見送りはいらないって言ってるって、
 だから優紀ちゃんも行かないって言ってた。
 優紀ちゃんは類に伝えてくれて言ったんだ。
 最後に類に会わせてやってくれって・・・」








「・・お前、類に言ったのか?」







「いいや・・言えなかった・・類には言わないで、
  俺が行ったんだよ・・見送りに・・便名も行き先も聞いてなかった・・
  ただ夕方の便だって事だけ聞いてたから行っても会えるかどうか
  分からなかった。」





「・・で、会えたのか?」






「ああ、会えた。」






「お前、どうして自分で見送りに行ったんだよ?」







「俺、ずっとあいつの事見てきただろ?
  それまで俺が付き合ってた女達とは全然違うタイプで
  最初は変な女だって思ってた。
  でもあの人嫌いの類がつくしにはよく話すし笑うようになった。
  そんで司だよ。喧嘩にしか興味の無かったあいつが
  必死になって追いかけた・・気が付けばあいつが俺達と一緒に
  いるのが当たり前になってて、司と類の側であいつが笑ってるのが
  普通になってた。」









「そうだな・・あいつの影響力はすごいからな。」







「けど司の記憶が無くなってからのあいつは無理して笑うようになってて、
  特に司があの海とか言う女と付き合いはじめてからは
  笑わなくなってただろ?俺は司みたいに全てをぶつける事も
  類みたいに側で見守る事も出来ねぇーから・・
  俺に出来る事をつくしにしようと思ってな・・
  俺に出来る事って言ったらあいつが自分らしく生きる為に行くんなら、
  笑って背中を押してやる事ぐらいだからあいつの後ろ姿を
  ちゃんと見送ってやる事だと思って。
  あいつ、ちゃんと前向いて行ったぜ!」









「・・そうか。で、あいつ何処に行ったんだ?」








「イギリス、ホームステイしながらロンドンの高校を卒業して、
  そのままロンドンの大学に進んだ。2回生の時にNYの大学に移った。」








「・・NY?ちょ、ちょっと待て、あいつ今何処にいるんだ?!」








「NYだ。つくしはずっとNYで生活してるし、進もNYにいる。」









「姉弟でNYにいたのか・・・」








「5年前、つくしの両親が交通事故で亡くなったんだ。」










「一度に二人共か・・?」








「ああ、夫婦で仕事帰りに運転していた車に居眠り運転のトラックが
  突っ込んだ・・俺、見送りに行った空港であいつに携帯の番号を
 渡してあったんだ・・何かあったら掛けて来いって言ってあった。
 両親が事故に合った時、あいつはNYだったら東京には進しか居なくて、
 病院に行って欲しいって連絡があったんだよ。」








「ずっと連絡取り合ってたのか?」









「いいや、あいつが日本を離れてから初めて掛かってきた電話だった・・
 つくしはNYでライズコーポレーションの会長の屋敷に
 ホームステイしてたらしくて、日本に会長婦人も一緒に付いてきてた。」









「ライズコーポレーション・・ってアメリカでも
 一・二を争う大企業じゃねぇか・・なんだってあいつそんな所で
 ホームステイなんかしてたんだ?」








「つくしが司を追いかけてNYに行った事があっただろ?覚えてるだろ?」








「ああ、類が迎えに行ったやつだろ?」








「そうだ、その時に知り合ってたらしい・・
 ライズCo.と司んとこの破綻しかけてた提携話を
 まとめるきっかけになったのがつくしがライズ会長に
 言った言葉だったらしい。その時の事が縁でホームステイさせて
 もらう事になったって言ってた。まぁ、その当時つくしが住んでた
 地域は結構治安の悪い地域だったらしくて、心配した会長がつくしを
 自分の屋敷に連れて帰ったんだ。」








「そして両親が亡くなった後、姉弟だけになったあいつらを引き取った。」








「ひ、引き取ったって・・じゃぁ今、あいつはライズ家の娘なのか?」






「ああ、名前はケイト・ライズ、
 進はサム・ライズに変わってる。」





「・・じゃぁ 総二郎!も、もしかして・・さっきのエドとマットって・・!?」






「お前、気付くのおせえーよ!あの二人はペリー財閥の人間だよ!
 兄貴のエドはペリー財閥の次期総裁でマットはその弟だ!」





「・・あいつがペリー財閥の総裁・・名前は聞いた事あったけど・・
 顔は知らなかった・・さっき紹介された時、まさかとは思ったけど・・
 ハァ〜 なんだ?この展開は・・・話がすごすぎてよく分かんねぇよ・・」





「ハハハハッ・・そうだろ!その場に居た俺だって最初はかなり戸惑ったんだからな。
 だってあいつがいきなりアメリカトップクラスの企業の令嬢になったんだぜ!」





「そ、そうだな・・やっぱあいつの人生には驚かされるな・・」





「でも、中身は全然変わってねぇーぞ!
 まぁ、多少は大人しくなったけどな。」





「でも、あいつとマットってパートナーだって言ってたよな?」




「ああ、二人で会社やってる。」





「どうしてだ?二人共そんな必要ないだろう?」





「ああ、でも二人共、親のバックアップなんか必要ないくらいがんばってるぜ。」





「なぁ〜 総二郎、あいつがスゲーのは分かったけど、
 どうして二人で仕事してんだ?」





「あいつらは大学の同級生だったんだ。同じ学部で同じ講座を取ってた。
 卒業前にマットの方から誘って、それぞれの親から資金援助を受けて会社
 を興したんだ、でもいくら親子だって言ってもビジネスだからって、
 あいつら三年で借りた金を全部返しちまいやがった。
 まぁ〜多少の親の七光りはあったけど、それだけでどうにかなるもんでもねぇだろ?」





「・・あ、ああ・・なぁ・・もしかして・・進がライズコーポレーション継ぐのか・・?」






「今んところ最有力候補だな。」






「・・・そ、そうか・・・」





「ハハハハッ!あきら、お前今すっげぇー顔してるぞ!」





「・・あ、ああ・・もう何が何だか分かんねぇーよ!
 でも、類はいつから一緒なんだ?
 5年前って言ったらあいつはパリに留学してただろ?」







「類とは今年の夏につくしがNYで偶然再会したんだよ!
 レストランでランチ食べてたらいきなり類が現れたってすげぇー驚いてたぜ。」





「そうか・・なぁ、総二郎、お前あいつに惚れてるのか?」






「ああ、惚れてるぜ・・類もな・・」






「そうか・・分かった。」





「そう言うお前はどうなんだ?」





「俺か・・?お、俺は大丈夫だ。」








「大丈夫?どう言う意味だよ?」






「俺はあいつとどうこうなろうなんて思ってねぇーって事だよ!」






「それは、俺だって同じだ。多分、類も同じだと思うぜ。」






「・・そうか、分かった・・」





「なんだよ?何か言いたい事あるんだったらハッキリ言えよ!」





「・・ああ、司だよ・・」






俺の口から司の名前が出たとたん総二郎の表情が険しくなった





「司がどうしたんだ?」






「ああ・・牧野ってまだ司の事好きなのか?」





「なんだソレ?どういう事だよ?」





「さっき司が変な事言ってたんだ。」






「つくしの事をか?」






「ああ、あいつもつくしの事が気になってるみたいだぞ・・」






「・・今さらか?」





「そうだ、だから今さら何も考えるなって言っておいたけど、
 あいつすっげぇー顔で睨んでたな・・どうなんだ?今さらなのか?」







「さぁな?それは本人に聞かなきゃ分かんねぇけど。
 俺はあいつが付き合ってた男二人程知ってるぜ。
 まぁ〜、どちらもあんま長続きはしなかったけどな。
 それに仕事を始めてからは仕事が恋人って感じだな!」






ビーチへと続く通路からマットがこちらへ歩いてくるのが見えた







「あいつはどうなんだ?」





あきらが目線だけをマットに向けている




「あぁ〜、あいつは全然違う。あの二人は性別越えちまってる!」






そんな会話を交わしているとマットが俺達の元へとたどり着いた









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