店に残ったのはあきら一人だけだった







俺は牧野と少し話がしたかったのでカウンターへと

移動して牧野達のテーブルの様子を窺っていた






雰囲気からマットが相当イラだっているのが分かる





しばらく四人で話をしていたがマットが一人席を

立つと店を出て行ってしまった





その後、牧野とエドにマーガレットの三人で話をしていたが、

エドがマーガレットを促し席を立ちさりげなくエスコートして

店を後にした





俺は牧野の所へ移動しようと彼女に視線を向けると

ちょうど顔を上げたところだった牧野と目が合った





牧野は俺がまだ店に残っていた事に驚いた様子だったが、

すぐに柔らかい笑顔に変わっている





その笑顔に引き寄せられる様に俺は牧野の前に腰を下した





「よお!もう話はついたのか?」






「うん、一応ね。ごめんね、いろいろ迷惑かけて。」






「いいよ。何回も謝るな。お前は何も悪くないんだから。
 それにな俺は全然迷惑だなんて思ってないよ。
 お前と一緒にいるといろんな事が起こっておもしろい。」






「もう!私は全然おもしろくないわよ!」





少し頬を膨らませながら怒っている彼女は

あの頃の少女のままのような気がして嬉しかった

けど、その顔もすぐに真顔に戻り今度は一転して真剣な

顔付きでまっすぐ俺の目を見つめている





「ごめんね・・」






「いいよ。気にしてないって言っただろ。」





牧野は俺の言葉に少し微笑みながら






「違うよ。この“ごめんね”は8年分のごめんなさいなの。」






「ああ、それも気にしてない。俺は・・俺だけじゃなくて
 滋も桜子も一緒だ。みんなお前を信じてた。
 ちゃんと生きてるって信じてたからな。
 まぁ〜 お前の人生には相変わらず驚かされるけどな!」





微笑みを今度ははにかみに変えながら





「うん。私も驚いてる・・」






「ああ、話はだいたい総二郎から聞いた。
 大変だったな・・助けてやれなくて悪かったな。」







「そんな・・謝らんないでよ。
 何も知らせなかったのは私なんだから。
 ありがとう美作さん。」






大きな瞳を潤ませながら俺を見て微笑んでいる

その昔と変わらない強い意志を宿した大きな瞳に

吸い込まれそうになる俺がいる・・





・・ったく!

俺まで・・

何考えてんだよ!





何となくこの雰囲気に耐えられそうになくて

・・俺だけなのだが


話題を変えた・・






「マットは彼女と話はついたのか?」






俺の問いかけに綺麗な指先を顎の辺りに置いて

考えるように少し首をかしげている







「う〜ん、どうなんだろう?微妙な所かな・・
 とにかく彼女は黙ってメキシコまで来ちゃってるし、
 ホテルも確保出来てないらしくて、エドが手配してくれてる。
 マットの気持ちは変わらないと思うから後は彼女自身の問題だと思う。
 とりあえずは彼女のご両親も安心なさってるんじゃないかな?」





「そうか。」





「・・・あのね、私・・彼女の気持ちなんとなく分かるんだ・・」





そう言った牧野の表情は少し寂しそうに思えた






「んっ?」







「・・ただ会いたいって気持ちだけで・・
 好きな人を追いかけて何処までだって行けちゃう気持ち・・」







目線を手元のグラスに落としたままで

彼女の瞳には遠い昔・・

司を追いかけてN.Yまで行った自分の姿が

映っているのかもしれない・・







「・・・そうか。
 俺は彼女がどんな気持ちで此処まで来たのか分からないけど、
 ここにお前が居てくれてよかったんじゃないか?
 彼女、お前に出会えてよかったと俺は思うよ。
 マットとの事は上手く行かないかもしれないけど・・
 少なくとも思いを理解してくれている人がいるんだからな。」







そう言うのが精一杯だった


だけど俺が今話した言葉は本心から出た言葉だった





二人の間に沈黙が下りてくる・・






その沈黙が息苦しくて牧野の顔を見つめていると、

顔を上げた彼女と目が合った





途端、牧野の顔が真っ赤になる






「もう!そんな顔で見ないでよ。」







真っ赤になった牧野を見てるとからかいたく

なってしまう・・






「あっ!お前、今、俺の顔見てテレただろう?
 まぁ〜気持ちは分かるけどな〜俺っていい男だから!
 なっ?そうだろう?」






「バ、バカ!違うわよ、ちょっとビックリしただけよ!!」






「いいから、いいから、分かってるから!」





自分がからかわれているのに気付いたのか牧野は






「プッ!変わんないね、美作さんも?」






そう言って・・

ホラ、また・・

嬉しそうなあの笑顔・・





牧野の変わらない笑顔につられて



「お前もだろ?」





「本当?私も変わらない?」





「ああ、相変わらず胸ねぇーし!」





今度は俺の言葉に真っ赤になって慌てて両手で胸を隠している・・

「バ、バカ!スケベ!」






「クッ、クックックッ・・
 やっぱりお前変わんねぇーな?!おもしれー!!」




「もう!私で遊ばないでよね!」





しばらくは昔に戻ったように二人・・

取り留めのない会話をしていたが、2杯目のグラスが

空になったところで牧野が席を立った





「私、そろそろホテルに戻るけど、美作さんどうする?」





「俺はもう少し飲んでるよ。」






「そう。じゃぁ、明日ね。
 おやすみなさい。」





「ああ、気をつけてな。」










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