"余計な事しゃべるんじゃないわよ!"


とマットに言い残しつくしが電話に出るためその場から離れた





マットと桜子がなにやらヒソヒソ話をしている横では


あきらが呆れた顔をしている






視線だけで"どうしたんだ?"



と問いかけるとあきらがつくしの大声の理由を教えてくれた







「桜子・・お前、そんな事、聞いてどうすんだよ?」





「どうもしませんよ。」






シラっとした顔で・・



凄い事聞いてんだぞ・・





桜子はマットに"あの人はどうですか?"なんて聞いてやがる・・




二人の視線の先に見えるのは・・





以前、つくしが付き合ってた男





マットは平然とした顔で


"あ〜あ〜あれは完璧やってる"


なんて答えてやがるし・・





そしてそのまま俺に向かって・・





"そうだろう?"



なんて聞いてきやがる・・





「俺に聞くな!」




マットから目を逸らし持っていたグラスに口をつける




類たちの痛いほどの視線を感じる・・・




勘弁してほしい・・・





居心地の悪さを感じながらもつくしが


付き合ってた奴が居るほうへと視線を向けると





電話を終え戻ってきたつくしがその男へと声を掛けているのが見えた




親しげに男と会話しているつくしにまた一人、男が近寄ってきた




名前はカイル






学生時代、特につくしと仲が良かった男だ





今度は桜子が何か言う前にマットが





「あれも間違いなくやってるぞ!
 そうだろう、総二郎?」






だから俺に聞くなって・・






お前の言葉にいちいち反応する奴がここに何人居ると思ってんだよ!




だけど・・





どうやらマットはつくしと仲の良かった男は



全部デキてると思っているらしいが



自分を基準に考えるなよな!




それにカイルとつくしなんて有り得ねぇーって言うか・・・



不可能なんだよ!




まぁ・・お前は知らねぇーみたいだけど・・






「あいつは違うぞ。」





「何でそう言い切れるんだよ?」




「お前こそ、何でやったって思うんだよ?」





「普通、そう思うだろ?
 あいつらマイアミでずっと同じ部屋に泊まってたじゃねぇーかよ?!」




あ〜あ〜そう言えば・・



そんな事もあったなぁ〜・・





マットの言うマイアミとは大学3年目の冬休みに2週間の予定で




マットとつくしとカイルと俺の四人でマイアミに旅行した事があった




当初はつくしとカイルが二人で行く約束をしていたのだが





それを聞きつけたマットが自分も行くと言い出し


俺もそれに巻き込まれていた



マイアミに行った理由はカイルはマイアミ出身で




カイルからマイアミには沢山の遊園地があって




そのどれも規模が大きく中には



世界的に有名なジェットコースターがある遊園地もあると



聞いたつくしが行きたいと言い出したからだった




2週間、レンタカーを借りてガイドブックと地図を片手に遊園地のハシゴ・・




あの時、一体何台のジェットコースターに乗ったんだ?




その時、泊まったホテルでは大抵が俺とマット、


つくしとカイルという部屋割りになっていた




だからマットはその時の事を言っているのだろうが・・・





同じ部屋に泊まった男女は絶対にヤッてるって・・・




こいつの短絡思考が羨ましい・・・





「あ〜・・けど有り得ねぇーよ!」





少しうんざりしながらも言葉を返す俺にマットが食い下がってくる





「だったら賭けるか?」




「いいぜ。何賭けるんだ?」





「そーだな・・」





そう言いながらマットがポケットから取り出した物は





「コレでどうだ?」





奴がポケットから無造作に取り出したのは車のキー





「車種は?」





「コルベットのニューモデル。」




俺の勝ちだな!





「なら俺はコレだ!」




「なんのキーだよ?」





「ケイマン。」





マットが賭けたのはシボレー・コルベット




俺が賭けたのはポルシェ・ケイマンS





「OK!
 けど、どうやって確かめるんだ?」





「そんなもん本人に聞きゃーいいだろうが!」



簡単に言うなよ・・


相手はつくしだぞ!




「お前・・ぶっ飛ばされんのがオチだぞ!」





「なんだよ?ビビッてんのか?
 それともケイマンが惜しくなったか?」






「そんなんじゃねぇーよ!
 それに負けんのはお前の方なんだよ!」






「俺の勘は外れたことねぇーんだよ!
 とにかくあいつを呼んで来いよ!」





「お前が言い出したんだからお前が行って来いよ!」




「俺はダメだ!あきら、行って来い!」




マットがいきなり横で成り行きを見守っていたあきらに声をかけた





行って来いと言われたあきらはあからさまに嫌な顔をしているが



他のメンバーの視線に観念したのか少し両手を上げて降参した



あきらがつくしを連れて戻ってくる・・





全員の視線がつくしに集まっていて妙な空気が漂っている




そんな空気につくしも少し目を泳がせながら





「なによ?」





そのもっともな問いかけにマットはニヤリとするとつくしの肩に腕を回した





「なぁ、ケイト?正直に答えろよ。」





「なにを?」




マットは肩に置いていた腕を外しつくしを自分と向かえ合わせにして


逃げられないように両肩に手を置いてから





「総二郎と賭けしてんだからちゃんと答えろよ。
 いいな?」





「賭け?なんの賭けよ?」





「お前、カイルとやったよな?」





マットの言葉を聞いた途端、つくしの左眉だけがピクリと動いた





当然マットに蹴りの一発でも入るものだと思っていた・・




マットもそのつもりで身構えてきたのに・・




つくしの次の行動は意外だった





イジワルそうにニヤリと笑みを零すと





「で?どっちがどっちに賭けてるわけ?」




「お前、それ聞いて答え変えるつもりだろう?」




「そんな事しないわよ。それに答えは決まってるもの。
 総二郎はどっちに賭けたの?」





「俺はやってない方。」




「何を賭けてるわけ?」




「俺はケイマンでマットはコルベット。」





車のキーを目の高さまで持ち上げながら答えると





「そう、じゃあマットはさっさとそのキーを総二郎に渡して。
 お終いよ!」





「嘘つくんじゃねぇーよ!
 お前、マイアミで絶対やっただろ?!」






「マイアミ・・?あ〜あ〜・・ハハハハ・・」






「何がおかしいんだよ!?ちゃんと答えろよ!」





いきなり笑い出したつくしにマットが大声を出している





「ハハハハ・・だってあんた・・本当に何も知らなかったんだね?」




「何をだよ!?」





「教えてほしい?」





「さっさと答えろ!」





「じゃあ、まずそのキーをさっさと総二郎に渡して。」






そう言うが早いかつくしはマットの手にあったキーを俺によこした




「答えは簡単よ。私とカイルとじゃ不可能なの。
 だってカイルはゲイなんだもん、女には興味ないのよ!」





『ブッーーー!!』





マットが飲んでいたワインを吹き出した・・






「ちょっと!汚いわよ!
 ねぇ、本当に気がついてなかったの?」





「あ、ああ・・」






「ちなみにカイルが好きだったのはあんたよ。
 マイアミではあんたを守ってやったつもりだんだけど、
 こんな誤解されてるんだったら助けずにさっさと
 新しい世界に放り込んでやるんだった。」




マットは完全にフリーズしたまま・・





固まってしまっているマットの脛につくしの蹴りがヒットした





「イッテッーー!」





蹴られた痛みで我に返ったマットにつくしはまたもやニヤリと笑みを零すと





「ちなみに総二郎は知ってたわよ。
 ・・って言うかみん〜な知ってるの、知らなかったのはあんただけね!」




そう言うとつくしは振り返り大きな声で談笑している友人を呼んだ





「ジョージ、リチャード、レイチェル、ジーナにマイケルと・・
 総二郎も!あんた達の負けよ!」






「ん?オイ!ケイト、何が負けなんだよ?!」




「賭けてたのよ。」





「な、なにを・・?」




「あんたが気付いてるかどうか。」




「い、いつから・・?」





「ん〜・・5年ぐらい前からかな?」




つくしがマットにそう答えていると


名前を呼ばれたメンバーが続々と集まってくる



それぞれが口々にマットに向かってタメ息を付きながら




"マジかよ?"とか"信じられない・・"



と言いながらつくしにお金を渡している




集まったのは全部で600ドル




1人100ドルづつ賭けてたのか?





600ドルを手にしたつくしはその半分をカイルに渡している




半分の300ドルを手にしたカイルがメイドからワイングラスを




2つ受け取ると一つをつくしに手渡しまず2人で乾杯すると



マットのグラスにも軽くグラスを当てている






「マット、婚約おめでとう。
 車を取られたんだってね?いいディーラー紹介しようか?」





「お、おう!サンキュー。
 ディーラはいい・・それよりあ、あんま近寄んな!」




『バコッ!』





「イテェーな!なんで殴んだよ!?」




「あんたが失礼な事言うからでしょ!」




「大丈夫だよ、ケイト。」





「ダメよ!こいつを甘やかしちゃ!」





「ハハハ・・ケイトは相変わらずマットには厳しいね。」





楽しそうに声を上げ笑いながらカイルは


つくしとマットの顔を交互に眺めている





「ところでマット?婚約者は紹介してくれないの?」




「お、おう!紹介する、ちょっと待ってろ!」





マットがつくし達の元から離れたのを合図に俺もカイルに声を掛けた




カイルと合うのは約2年ぶり




当然、類やあきら達は初対面だから紹介していると


マットが滋を連れて戻ってきた




みんなにワインを勧めらるまま飲んでいたらしい滋は


すっかり出来上がっていて・・



普段のハイテンションからさらにワンランクアップした


テンションでカイルとすぐに打ち解けている




しばらくはメンバーが入れ替わり立ち代りで楽しい時間が続いていた



桜子は先ほどから目がランランと輝いていて鼻息も荒い・・




そんな勢いだと逆に男が逃げるぞ!





類はいつもの無表情・・




まぁ〜起きてるだけマシだな・・





あきらも普段と変わらない




次々と声を掛けてくるつくしの友人達と笑顔で会話している




司は・・っと




言うまでもねぇーよな・・




視線はずーっとつくしを追いかけていて


つくしに近寄ってくる奴を睨んでやがる・・



オイ!司・・その目・・マジで怖ぇーぞ!





目だけで人殺しそうだわ・・










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