マットと滋さんの婚約パーティーの最中にお父様から電話が入った


用件は明日、屋敷に来て欲しいとの事だった・・


珍しい・・


前日の夜になってからの急な呼び出しなんて働き始めてからは初めての事だ




朝、10時少し前に屋敷に到着した



出迎えに出てきてくれたメイドさんと挨拶を交わしエントランスから長い廊下を抜けて



吹き抜けのリビングへと入って行くとお父様とお母様が迎えてくださった





「おはようございます。」



「「おはよう、ケイト。」」





お父様からは屋敷に呼ばれただけで用件は聞いていない




「ケイト、こちらに座りなさい。」


「はい。」



言われた通りソファーに腰を落とす



メイドさんが持ってきてくれた紅茶を受け取り一口だけ口をつけると



「ケイト、朝食は?」


「食べてきました。」


「そうか。」




何だかお父様の様子がいつもと違う・・



いつもは穏やかなのに今日は厳しい表情をされている




屋敷の中でそれも休日にお母様と一緒に過ごしている時にお父様が仕事で見せるような


厳しい表情をしている所なんて見た事が無かった



「お父様、何かありました?」


「ケイト。」



「はい。」



「実は君にペリー家から縁組の申し込みがあったんだ。」



「・・えっ!?・・あ、あの・・ペリー家って・・」



「エド君だよ。
 彼のたっての希望らしい。」





「で、でも・・私は・・」



突然の事に全くどうしていいのか分からず放心状態の私にお母様はお父様とは


対照的に満面の笑みで




「ケイトは急なお話しだと思ってるでしょうけど、エドはずーっと前からあなたに好意を寄せていたのよ。
 私もサマンサもエドとケイトならお似合いだって話してたからとっても嬉しいのよ。」



どうやらお母様の頭の中ではすっかり私とエドという絵が出来上がっているらしい・・


そしてサマンサとはエドとマットのお母様・・も・・



「ケイト?返事は急がないから一度、ゆっくり考えてみなさい。」


「・・・はい、分かりました。」





短く返事を返すとお父様は満足されたように頷いていて


お母様はと言うと・・・



お母様の頭の中では私はすでにウエディングドレスなんか着てるんじゃないかしら・・?



結局、そのままお屋敷でお父様方とランチを食べ


お屋敷の自分の部屋のベッドに寝転がりずーっと考え込んでいた




エドとの結婚



考えてもみなかった・・



相手がエドだからというわけじゃなくて


結婚という事自体を真剣に考えた事がなかった



いつかは誰かと結婚するんだろなぁ〜って漠然とした思いはあったけど



それにライズ家の娘になった以上は結婚だって自由じゃない事だって覚悟の上だったんだけど・・




あまりに急な話しで感情が追いつかない



お父様はゆっくり考えてみなさいとおっしゃったけど何をどう考えればいんだろう・・?



エドの事は嫌いじゃない


むしろ好きかもしれない



彼の私に対する態度は常に優しく紳士的だ



彼と結婚した私はきっと幸せになれるだろう



だけど私は彼を幸せにしてあげる事が出来るのだろうか・・?





















桜子から聞いていたレストランには少し遅れて到着した





テーブルには既に固定になりつつあるメンバーが揃っていて食事も始まっていた




いつもの調子で席には着いたんだけど・・





やっぱり何処か違っていたらしい・・・





マットの会話も上の空で彼の言葉が私の中を素通りしていた




マットに大きな声出されてやっと気が付いたんだけど・・・




ちょっと待って!





もし私がエドと結婚したらマットが義理の弟・・?






そ、それってどうなんだろう?





だけど今は会話がなんとなく億劫で・・





思わず強い口調でマットの言葉を遮ってしまった・・






マットは気にしてない様子なんだけど・・




日本での結婚式の話しをしていると携帯が鳴った





周りに断り電話に出ると飛び込んできたにはエドの声だった







いつも穏やかな口調の彼とは様子が違い少し慌てたような口調で




話したいことがあるからと呼び出された





みんなと食事中だと伝えたんだけど彼は翌日からヨーロッパへ出張らしく

1ヶ月以上NYを留守にするのでどうしても今夜会いたいと押し切られてしまった






今、レストラン近くを走っているので迎えに行くと言われ私はレストランを後にした




ちょうどレストランから出るとエドの車が滑り込んできた






ゆっくりと話しがしたいからと彼に案内されたのはあるレストランの個室





眼下に広がるのはNYの夜景




何度も目にしている見慣れた景色なんだけど





今夜の私はその圧倒されるような光景もまともに目に入ってこない





落ち着かない・・・





その原因は今朝、結婚話しが出たエドが目の前に居るって事と・・・




なにより私は今まで彼と二人っきりになった事が無いから・・・





ワインが運ばれてきて軽く乾杯をするとエドが話し始めた






「話しは聞いてくれたと思うけど、驚かせて悪かったね。」







「う、ううん・・大丈夫よ。」






「そうか、良かった。今日、母から僕と君の縁組をライズ家に正式に申し込んだって聞いて気になってたんだ。」






「えっ?私はこの縁組はあなたが望んでるって聞いたんだけど・・違ったの?」






「それは間違いじゃないよ。だけど僕は親同士が話し合って決める結婚じゃなくて
 本人同士の意志で君を結婚したいんだ。だから君には僕自身の口から気持ちを伝えたかったんだ。」






「そうだったの・・」






「母には先走らないでくれって言っておいたんだけどね。
 不愉快な思いをさせて済まないと思ってる。」





「そんな・・私、不愉快だなんて思ってないから。
 急な話しだったから驚いたけどあなたの気持ちはすっごく嬉しい、
 だけど今すぐには返事出来ない・・」



「分かってるよ。僕は君をずっと見てきたんだ。
 君の事はちゃんと分かってるつもりだから。今はマットと滋さんの結婚の事で
 君にも仕事のしわ寄せが来てるのは分かってるから落ち着いたらゆっくり考えて
 返事をしてくれて構わないよ。大丈夫、僕は急いでないから、一生の事だからゆっくり考えて欲しい。」



「ありがとう。」



食事の間中、エドは慎重に言葉を選んで話してくれているのがよく分かる


その心遣いが凄く嬉しい


その夜のエドは終始、紳士的な態度を崩さず食事を終えると


そのまま自宅アパートまで送ってくれた








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