車がお屋敷に近付き何処に向かっているのか分かって焦る私に桜子は




「先輩!逃げないでくださいね。
 大丈夫ですよ、道明寺さんの帰国は明日の予定ですから。」



「だ、だったら何の用で行くのよ!?」




「椿お姉さんにご招待されてるからです。」





「椿お姉さんに・・・?」





「そうです。絶対に先輩を連れて来てくださいって言われてるんですから、
 逃げないでくださいね!」







「に、逃げないけど・・それならそう言っといてくれればいいじゃない!
 私にだって心の準備ってものがあるんだから!」







「先輩に心の準備させたら色々考えて結局逃げるでしょ?」







「逃げないわよ!」





「なんでもいいですけど、着きましたよ。
 さっさと降りてください。」







桜子の言うとおり車はすでに玄関口に到着していて


恭しく開けられたドアから足を踏み出すと同時にお屋敷のドアが開いて


飛び出してきた黒い塊に力一杯抱きしめられブンブン振り回され


脳みそがシェイクされ意識が朦朧とし始めた頃、懐かしい声が響いてきた





「お嬢様、それぐらいにしておきませんとつくしが死んでしまいますよ。」






タマ先輩の声・・・




「あら?!ごめんなさい、つくしちゃん大丈夫?!」





大丈夫?って言いながらまた揺さぶられる・・・





「だ、大丈夫です・・椿お姉さん・・お、お久しぶりです。
 ご無沙汰していて申し訳ありません。」





やっと椿お姉さんの手から解放されてなんとか言葉を返す



真正面から椿お姉さんを捉えるとお姉さんの瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる





「そんな事いいのよ。あのバカが悪いんですもの!
 だけどまたこうしてつくしちゃんと会えたから嬉しいわ。
 桜子ちゃん、つくしちゃんを連れて来てくれてありがとう。」





後はもう・・椿お姉さんの独壇場で・・


勧められるままにワインを飲み


道明寺家のシェフさんが腕をフルった美味しいお料理を食べ


あろう事か酔い潰れてしまい目を覚ました時は既に朝だった・・・







ゆっくりと意識が覚醒し自分が何処に居るのかを思い出し


慌ててベッドから飛び起きた




あちゃ・・もしかして・・私、またやっちゃった・・・?







洋服は皺になるから脱がせてくれたのだろう・・



きちんとハンガーに掛けられている・・




ベッドから降り軽くシャワーを浴び洋服に袖を通し


姿見の前で自分の姿を確認してからそーっとドアを開け廊下に出た





シーンと静まり返っている廊下に一歩、足を踏み出す・・



全く人の気配を感じない廊下をメイドさんの姿を探して



微かな記憶を頼りに歩く




とにかく誰か探して桜子が何処に居るのか聞かない事には始まらない・・





ハァ〜・・





知らず知らずのうちに私の口から零れ落ちたタメ息




豪華なお屋敷・・・




無駄に長い廊下なんてここ数年ですっかり見慣れてるんだけど




ここは独特な雰囲気というか空気が漂っている





NYの実家もマットの実家もこのお屋敷より大きいけれど



明るい空気に包まれていて時間を問わず絶えず人の気配はするし



だけどここは全く人の気配はしないしこの長い廊下だって



美術館みたいに高価な絵画や壷が飾られていて隙が無い・・・




余談になるんだけどマットは自分のお屋敷の廊下をまともに歩いたことが無い・・



理由は長いから・・・


それだけ・・・




エントランスから自分の部屋までが遠いからってマットは



いつも徒歩以外の移動手段を使って移動している





大学生の頃はスケボー使ってたし・・



これが一番多かったんだけどね・・




それに自転車を使ってるのを見た事もあるし



一度なんてお屋敷の廊下をバイクで走ったことがあって



バランスを崩して転倒しマットのお父様が大切にしていた時計を壊してしまい



大問題に発展してとうとうお屋敷を追い出されてちゃって



彼の遅い自立生活が始まったって経緯があるのよね・・・




まぁ、マットのおバカさんな行動・言動の数々はさておき




話しを元に戻して




私の今状況を打破しないと・・・



ピンと張り詰めた空気が漂う道明寺家の長〜い廊下を



歩いてるんだけど・・・




あっ!確かあの角を曲がれば階段があって



その階段を折りきってすぐの扉がリビングルームだったはず!!




何となくだけど見覚えのある所まで来て少し足取りが軽くなる



ちゃんと前は見えていたつもりだったんだけど




全く気付いていなかった・・・



角を曲がった瞬間、思いっ切り何かとぶつかった・・・












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