早朝、自家用機で日本に着いた





出迎えに出てきたメイドの前を無言で通り過ぎ


静まり返っている長い廊下を歩いていると



角から飛び出してきた何かとぶつかった







咄嗟にぶつかって来た何かを掴んだけど・・






なんでこいつが此処にいるんだ・・?






俯いていた顔を少しずつ上に上げた彼女・・





俺と目が合うと思いっきり目を見開き



陸に上った魚のように口をパクパクさせている・・・






俺の方もどうしてこいつがここにいるのか分からないまま



取りあえず何とか搾り出した言葉が"大丈夫か?"だった





腕を掴んでいる事も忘れたままのたどたどしい会話




動揺すると早口で一気に捲くし立てるクセをそのままに


牧野が説明してくれたここに居る理由







ずっと会いたいと思っていた




ずっと彼女と話しがしたいと思っていた





そのチャンスが思いがけず今、目の前にある





咄嗟に俺の口から出た言葉は




"お前、腹減ってないか?"




断られても逃がすつもりはなかったけれど




上手い具合にあいつの腹時計が反応してくれて




こんな所も変わってなくて思わず笑みが零れる







先にダイニングに行くように言い残し部屋へと




向かう俺の足取りは先ほどまでとは打って変わって軽かった






着替えを済ませダイニングへ入っていくと牧野は席についていたが




メイドの動きを目で追いながらブツブツと独り言を言っていたが



俺が入ってきたことに気付くと椅子に座りなおしている





俺が席につくとすぐに朝食が運ばれてきて



次々と目の前に置かれる朝食に目が泳いでいる彼女に



心の中で笑みを零す




"桜子は夕べ帰ったみたいだぞ"




と伝えると腹を決めたのか目の前のパンを頬張る彼女





動揺して早口で話す彼女も無意識で思っている事が声に出ている彼女も





そのどれもが俺の知っている牧野つくしで





今ではこの想いをストレートに言葉にして伝えることは出来ないけれど




時間は確実に流れているのに変わっていない彼女が嬉しくて




会話の内容はどうでもいいようなたわいの無いものばかりだったけど





時間が経つにつれて彼女の緊張が解れてくるのが分かって





久しぶりに楽しい時間だった







食後のコーヒーも済んでこの楽しいひと時ももうすぐ終わる・・





カップを置いた彼女が




"ご馳走様、美味しかった。私、そろそろ帰るね。"





と告げ席を立ちかけた





俺は咄嗟にそんな彼女を呼び止める





最後にどうしても聞きたいことがあったから





NYで行われた滋の結婚式で耳にした噂






ペリー財閥のエドが近いうちに総裁の座に就きそれと



同時に結婚が発表される




その結婚相手がライズ家の娘である牧野





まだ噂好きな連中の想像の域を出ていない話しだけど




有り得ない話しじゃない





ペリー家とライズ家





この二つの結びつきが強い事はNYでも周知の事実なのだから







「なぁ・・お前・・結婚すんのか・・?」






俺の言葉に動きを止め怪訝な表情を浮かべた彼女は


少しだけ考えるような仕草を見せた後






「多分・・すると思うけど・・それがどうかしたの?」




「そうか・・いや・・いいんだ・・」






少しずつ言葉を切りながらだけど淀みなくそう言った彼女は





「それじゃあ、私はそろそろ行くわね。
 椿お姉さんによろしく伝えておいてね。」




それだけ言い残すとダイニングから出て行ってしまった




パタリとドアが閉まる音が広いダイニングに響く




たった今、彼女が出て行ったドアを見つめたままで動けない





自分で投げかけた言葉なのに・・・




彼女の答えにショックを受けている俺




分かっていたはずなのに・・



彼女と俺はもう何も関係ないんだと





彼女は俺のものじゃないって事は理解しているつもりだったのに・・・






納得していなかった









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